ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【地球連邦軍/訓練基地 ゲーツ・キャパ回想】
連邦は――変わった。
少なくとも、ゲーツ・キャパの目には、そう映っていた。
かつて、連邦軍にとって“強化人間”とは、使い捨ての兵器に過ぎなかった。
壊れたら交換。性能が落ちれば、廃棄。
命に価値などなく、感情は不良データとして処理された。
オーガスタ、ニュータイプ研究本部……
名だたる研究機関があったが、そのどこも例外ではなかった。
――敵のニュータイプ、赤い彗星の存在が彼らに火を点けるまでは。
ジオンのニュータイプ兵器の台頭に危機感を覚えた連邦軍は、
ジオンのニュータイプを殺せる兵器をよこせという指示のもと、各研究所は狂気じみた強化プログラムを競うように始めた。
オーガスタも、その一角にいた。
日々の“実験”は苛烈を極め、隣にいた仲間が翌日には死んでいるなど珍しくなかった。
そしてゲーツ自身も、“モルモット候補”として名簿に名前を載せられていた。
……だが、彼には出撃任務すら与えられなかった。
死ぬには惜しい、が、使うにはまだ微妙。
そんな宙ぶらりんな立ち位置で、“適性”を測られていた。
当時、唯一の例外が――ムラサメ博士が率いる、ムラサメ研究所だった。
「強化人間の“最高の形”とは何か」
博士は、そう問われるたび、こう答えたという。
『敵のニュータイプに勝ち、生き延びて、未来を守るものだ』
今思えば、それは単なる理想論ではなかったのかもしれない。
あの博士は、家族――娘を守るために、強くて壊れない存在を作ろうとしていたのだ。
その思想のもと、ムラサメ研究所では“量産”を捨て、“選抜”に全力を注いだ。
運用前提は「死なないこと」。
それゆえ、無駄な犠牲は限りなく抑えられていた。
……ただ、当時のゲーツにとって、そんな背景はどうでもよかった。
孤児として施設を転々とし、軍の研究機関に拾われ、
「ここにいれば飯が出る」――それだけが彼の基準だった。
それが、すべてを変えたのは――
ゼロ・ムラサメが、兵器ではなく“人間”として成果を挙げたからだ。
その功績を目の当たりにした、連邦最強の2人――
アムロ・レイとヤザン・ゲーブルが、上層部に掛け合った。
「強化人間もまた人間だ。扱いを改めろ」と。
その一言が、時代を変えた。
強化人間は“道具”ではなく、“兵士”へ――
そして、ついには“個人”として認められ始めた。
治療を受けたゲーツは、上官にこう言われた。
「君はもう自由だ。軍に残らず、他の道を選んでもいい」
だが、ゲーツにそれ以外の道など知らなかった。
無理に知ろうとも思わなかった。
「……軍学校に進みたいです」
それが、彼の選択だった。
その後、ネモの訓練課程に編入され、戦士としての技量を磨いた。
普通の整備班、普通の上官、普通の同僚――
それが、妙に落ち着いた。
模擬戦に汗を流し、夜は同期と共に酒場でくだらない話をして笑う日々。
ふとした時、「これが“人間としての生活”ってやつか」と思うこともあった。
悪くない。
そう思い始めた頃だった。
ある日、通信端末が鳴った。
画面に浮かぶのは、連邦軍上層部のエンブレム。
──「至急、ジャブローへ来てくれ」
その指令が、ゲーツ・キャパの運命を再び動かすことになるとは、
まだこの時の彼には、知る由もなかった。
【ジャブロー地下施設/第4格納区画 併設カフェテリア】
サイコミュ関連機材の整備帰り、コーヒーの香りが漂うテーブルに、ドゥー・ムラサメとフォウ・ムラサメが並んで腰掛けていた。対面に座るムラサメ博士が、苦笑混じりに話を切り出す。
「……さて、近々開戦する可能性がある。君たち二人に聞きたいんだが――やはり“サイコガンダムMk-II”には、乗りたくないか?」
その問いに、フォウはカップを傾けた後、静かに答えた。
「んー……嫌ってわけじゃないよ? ただ私は、Zガンダムのほうが性に合っててさ。あれ、フィン・ファンネルもアムロから任されてて。守りに専念することで、カミーユの隣に立てるんだって分かったから、今はそれでいいと思ってる」
ドゥーも軽く笑って続けた。
「僕も嫌いじゃないんだ、サイコガンダム。ただ――ゼロが近々アレックスを乗り換えるって聞いたから、ゼロが使ってたアレックスを継げるなら、そっちの方がいい。ゼロの戦い方を引き継げるのは僕だと思うしね」
ムラサメ博士は軽くため息をついた。目元には、微かに疲労の色が浮かぶ。
「……そうか。参ったな」
「サイコガンダムMk-IIのパイロット、選任で決めてくれって言われたんでしょ?」
「そうだ。Iフィールドとリフレクター・ビットとインコムを持つあの機体が、艦隊戦で前線の“盾”として機能すれば、戦略的に非常に価値がある。ジャブローには既に3機あるが、それらは戦況に応じて地上用に温存されている。今製造中の4号機には、宇宙戦仕様の“固定パイロット”が必要なんだ」
ドゥーはすぐに理解して頷いた。
「つまり……突撃型のエリシアやアスナは向いてない、ってことだね。盾役には不適任」
フォウは少し考え込んでから、ぱっと顔を上げた。
「じゃあさ、ゲーツは? あいつならいいんじゃない? 軍学校ももう卒業して、今はネモⅡのパイロットやってるって聞いたよ。異動させてもらえば?」
ドゥーが手を打った。
「おお、ゲーツがいた! ゲーツなら適性はあるし、強化人間だったけど軍隊生活にもちゃんと馴染んでる。硬派な奴だし、盾役もこなせそう。……博士、ジャブローに呼ぼうよ」
ムラサメ博士は、しばらく黙って二人を見ていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「……わかった。ゲーツ・キャパ、か。かつて“道具”として扱われた強化人間たちの中で、今も軍に残っている数少ない一人だ。彼に話を通してみよう」
「きっと彼なら、引き受けてくれると思うよ」
「……じゃあ、僕、招集命令の準備してくるね!」
【ジャブロー地下施設・ムラサメ博士の研究室】
金属製の扉が静かに開いた。中に入ると、ゲーツ・キャパは警戒心を滲ませながら歩を進めた。
(……まさか、今さら強化人間の再調整ってわけじゃないだろうな)
思案していると、不意に明るい声が響いた。
「おっ、久しぶり~ゲーツ!」
「お前か。俺を呼んだのは……ドゥー」
「と、私もだね」横からひょっこりと顔を出したのはフォウ。「あと、博士も。……君のこと、話してたよ」
ゲーツは眉をわずかに動かすと、部屋の空気を読み取るように二人を見た。
「ムラサメ研究所の“特別製”強化人間が揃って、わざわざオーガスタ出身の俺に何の用だ?」
「うん、そのへんなんだけどさ」ドゥーが屈託ない笑顔で言った。
「ゲーツさあ……“サイコガンダムMk-II”、乗ってみる気ない?」
「……は?」
ゲーツが完全に面食らった表情で固まった。その横で、フォウがくすっと笑いながら指を一本立てた。
「現在、絶賛・パイロット募集中なの」
「いや、だったらお前らが乗れば済む話だろ。サイコミュ兵器への適性は、研究所時代からお前らのほうが遥かに上だったはずだ」
「私はZガンダムに乗るって決まってるの。可変型だし、フィン・ファンネルも使えるし。守り専門として配置されてるからね」
「僕はアレックス。もうすぐゼロが新型に乗り換えるから、そのアレックスを引き継ぐことになってるんだ」
ゲーツは溜息混じりに肩をすくめた。
「つまり……優秀な強化人間連中が、思い思いに好きなMS選んで勝手に配置されて、面倒な枠が俺に回ってきたと」
そのとき、奥の扉が開き、ムラサメ博士が小さな男の子を背負って入ってきた。
「……まあ、彼女らが嫌がっているのは確かだが、君を“穴埋め”として呼んだわけではないよ」
そう言いながら、博士は肩越しに子供をあやし始める。どこから出したのか、ドゥーとフォウも同じようにガラガラを取り出して、自然にあやしはじめた。
ゲーツは目を細める。
(……ムラサメ研究所って、こんな託児所みたいな雰囲気だったか?)
「では……なぜ、俺が呼ばれたんです?」
ドゥーが真面目な表情になって言葉を返す。
「今回ね、“サイコガンダムMk-II”の役目って、敵陣に斬り込んでド派手に暴れることじゃないんだ。艦隊の“盾”になって動かない場所を防御したり、狙われた味方艦を守ったり、指示されたインコム位置に正確に展開して敵の砲撃を反射させたり。……要は、ちゃんと真面目に任務を遂行できる人が必要なんだ」
「……たしかに、強化人間として“人間”に近づいたお前らは、そういう戦いは好まなさそうだな」
「そうなの。けど、艦隊戦ではIフィールドとリフレクター・ビットとインコム持ちの機体ってすごく貴重なんだよ」フォウも言葉を添える。「だから、人となりを知ってる“あなた”を推薦したの。」
ムラサメ博士が静かに続けた。
「もちろん、これは強制ではない。君が“嫌だ”というなら、他の候補を探すだけだ」
しばし沈黙が落ちた後、ゲーツは静かに言った。
「……一つ、頼みを聞いてくれるなら――引き受けます」
その言葉に、博士とドゥー、フォウが同時に顔を上げた。
ゲーツは少し視線を逸らすと、やや躊躇いながら口を開いた。
「……一つ、頼みがあります」
「なんだい?」とムラサメ博士が優しく促す。子どもを背負いながらも、表情は真剣だった。
「現在、軍学校で“ムラサメ研究所入り”を目指している人間がいます。ナナイ・ミゲルという女性です」
ムラサメが首を傾げる。「ナナイ・ミゲル……確か、君と同じオーガスタの出身で、元・強化人間だったな?」
「はい。僕と同じく治療を受けた後、軍学校に進学しました」
そこへ、フォウとドゥーが同時に身を乗り出す。
「ナナイ?」
「会ったことある。前の“同窓会兼視察”の時でしょ?」
ゲーツは苦笑交じりにうなずく。
「ええ。実はその彼女が、最近少し厄介なことになっていまして……」
博士の眉が動き、フォウとドゥーの目が鋭くなる。
「厄介?」
「何があったの?」
ゲーツは言い淀んだ後、深く息をついた。
「――いじめです。連邦とジオンの全面戦争が近いと感じ取った生徒たちが、ナナイに対して嫌がらせを始めているらしい」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
フォウは静かに呟く。「いじめ、か……」
ドゥーの目は冷たく細められた。「潰す対象がまた一つ増えたね」
ムラサメ博士は淡々と、だがその声音には明らかな怒気がにじんでいた。
「――首謀者は誰か、把握できているのかね?」
「……それが、ちょっと複雑でして」
三人の視線に「?」が浮かんだ。
ゲーツは肩をすくめた。「問題の一部は“ナナイ本人”にもあるんです。まず……彼女は頭が良すぎる。そのせいで、周囲を容赦なく見下す癖がある」
「うわぁ……」
「え、待って。僕たちとは普通に喋ってたじゃん?」
「それは“研究所仲間”だからだよ。ナナイは、そういう“身内”とはちゃんと会話できるんだ。だけど、それ以外の人間――たとえば年下の女子とか……やたらと厳しい。自分基準でしか物事を測らないし、出来なければ平気でビンタする。年上にも“知能が劣ってる”と露骨に見下す。男に対しても理想が高すぎて……主席の男子生徒に告白されても、鼻で笑って振ってました」
「うわぁ、面倒くさ……」
「そりゃいじめられるわ……」
ムラサメ博士は顎に手を当て、思案に沈む。
「なぜ、そんな態度を……?」
ゲーツは苦笑しながら言った。
「それも原因は“あなた”なんですよ。……今、ムラサメ研究所って、新人の募集止めてますよね?」
「機密が増えているからな。教育リソースも足りない。……致し方ない判断だが」
「ナナイは、あなたの研究所に入りたかったんです。オーガスタ時代からサイコミュの基礎研究にも関わっていて……“自分にはその資格がある”と信じてた。でもその道が塞がれて、しかも“ムラサメの関係者”があちこちで活躍してる。――焦って、苛立って、周囲に当たり散らしてるんです」
博士は静かに目を閉じた。
「……つまり、私のもとで引き取れ、と?」
ゲーツは真っ直ぐに頷いた。
「はい。博士の元なら、彼女も落ち着くはずです。研究仲間もいますし、“何かに追われるように戦う”必要もない。ここでなら、ナナイも“自分の場所”を取り戻せるんじゃないかと思います」
沈黙のあと、フォウとドゥーが顔を見合わせてうなずいた。
「いいんじゃない? 確かに変人だけど、敵じゃない」
「味方に置いといた方が、後々助かるタイプだと思う」
ムラサメ博士は、子どもをあやす手を止め、改めてゲーツに向き直った。
「わかった。……君の要望、受け入れよう。ナナイ・ミゲルには“研究協力員”として呼び寄せる。必要があれば、私からも直接話をしよう」
ゲーツは頭を下げた。「ありがとうございます」
フォウは肩をすくめながらにやりと笑った。
「……じゃあ、ゲーツは“盾”担当で決まりだね。ま、適任じゃない?」
☆9評価ありがとうございます! rarugさん are0210さん
カイさんの外伝読んで驚きました。ナナイさん、あなたオーガスタ出身だったの!?なら出そう!となってこことゲーツ・キャパ2にだけ出ます。多少キャラ変してますがご容赦を。今回のメインはゲーツでもナナイさんでもないので。