ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【ムラサメ研究所/模擬戦シミュレーター内】
赤い警告ラインが幾重にも走るホログラフ。後方には、味方の艦隊が控えていた。
《状況:敵艦隊による艦砲射撃が継続中。サイコガンダムMk-IIによる防衛行動を開始せよ》
「……了解」
ゲーツ・キャパ中尉は無言で操縦桿を握り直す。
彼が操るのは、機動兵器というよりも「移動型要塞」と言うべき巨体、サイコガンダムMk-II。
装備は――
• 頭部2連装小型メガ・ビーム砲
• 腹部3連装メガ拡散ビーム砲
• 腕部5連装ビーム砲×2
• サイコミュ式ビーム・ソード(両腕)
• 全身にメガ・ビーム砲
• リフレクタービット
• リフレクターインコム
• そして全身を覆うiフィールド
これらを駆使し、ゲーツは前線に立つ。
敵艦隊からのビーム砲を即座に感知し、iフィールドを展開。
間髪入れず、メガ拡散ビーム砲を腹部から吐き出し、敵の前衛を一掃する。
そのまま左腕のインコムを飛ばし、後続の艦のミサイルを軌道上で反射迎撃。右腕のビーム・ソードが稼働し、接近してきたモビルスーツ部隊を振り払う。
淡々と、正確に。
だが――ゲーツはふと、操作をしながら思った。
(……たしかに、この戦い方は今のフォウやドゥーには向いてない。あいつらの今の持ち味を潰してしまう)
以前、シミュレーターで2人と模擬戦を行った時のことを思い返す。
あの2人の動きは、「まるで別人」だった。
ゼロ・ムラサメと共に鍛錬を積んできた彼女たちは、巨体の機体ではなく、
アレックスのような通常サイズの機体で、速度・反応・柔軟性を極めた戦い方に適応していた。
そして、彼女たち自身が言っていた言葉を思い出す。
『僕らは“最強の3人”と“それ以下”の間にある“壁”に近づいただけ。まだ、超えられてないよ。カミーユやリタ、シイコさんみたいにね』
(リタやカミーユは知ってるが、シイコ?)
ゲーツは名だけ聞いたことのある名前に微かに引っかかりを覚えた。
最強の3人の存在は知っていた。
だが、今の連邦にはそれに“近づいた者”もいる。
――連邦、魔境かよ
だからこそ、今ならわかる。
フォウやドゥーがサイコガンダムMk-IIを“拒んだ”のではなく、
“より最適な舞台”があることを、彼女たち自身が知っていたのだと。
上層部の思惑も理解できる。命令されれば彼女達は自分より上手くサイコガンダムマーク2を使いこなすだろう。しかし彼女達はそれより遥かに有用な存在になれる可能性を秘めている。
最強の3人の“僚機”として動ける可能性を持った人材を、
無理に押し込まず、能力を発揮しやすい機体に乗せてやる。
……だからこそ、"盾役のお鉢”が、自分に回ってきたというわけか。
「……まぁ、悪くない任務だな」
そんな時だった。
訓練ブロックの入り口に、黒髪の女性が現れる。
「あら? あなたは……?」
ゲーツは椅子から立ち上がり、直立した。
「ゲーツ・キャパ中尉です。現在、サイコガンダムMk-IIで訓練中です」
女性は目を細め、頷いた。
「ああ。あなたが、新しい“サイコガンダムMk-II”のパイロットね?」
「はい。身に余る任務とは思っていますが、全力で務めるつもりです。ところで、あなたは……?」
女性は軽く手を上げて笑った。
「ごめんなさいね。ここ、新しい人が来るの少ないからつい名乗り忘れたわ。私は、シイコ・レイ。今日は、坊やを迎えに来ただけよ」
「坊や……ですか?」
(この研究所で“坊や”って言われる歳の子なんて……まさか)
すると、タイミングを合わせたようにムラサメ博士が子供を背負って部屋に入ってくる。
「やあ、シイコ。迎えに来たのかい?」
「そうよ。医者なら、たまには孫の世話くらいしてくれてもいいでしょ」
「私は構わないさ。いや、何ならもう数日預けていても――」
「だーめ。今日は連れて帰る。でも……」
彼女はちらりとゲーツを見る。
「ねえ、君。サイコガンダムMk-IIで訓練中なんでしょ? 私も、久しぶりにシミュレーターやりたいの。付き合ってくれる?」
「は……はい!?」
(母親で、子供を迎えに来た人が……何言ってんだ!? いや、でも……その顔、どこかで)
「シイコ。君も親になったんだから、もう少し落ち着きを――」
「休職してるだけで、退役はしてないわ。たまにはアレックスにも乗りたくなるのよ」
(……思い出した! ムラサメ博士の娘ってことは、この人の旧姓は“ムラサメ”――)
――シイコ・ムラサメ。
一年戦争で100機以上の敵を撃墜した伝説のエース。
ドゥーやフォウが言っていた“壁を越えた3人”、
その一角に名を連ねる――本物が、目の前にいた。
ゲーツ・キャパ中尉は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(……この研究所、ホントに人材の濃さがおかしい)
──そして、その“伝説”との模擬戦が、今始まろうとしていた。
【ムラサメ研究所/シミュレーションルーム】
《模擬戦開始まで、残り30秒》
ゲーツ・キャパは、訓練用コックピットに座り、緊張を指先に溶かすようにゆっくりと操作系に触れていた。
《シチュエーション:防衛任務》
• 味方:サイコガンダムMk-II(ゲーツ)+後方に艦艇10隻
• 敵:アレックス(シイコ・レイ)
ゲーツの勝利条件:10分間で艦艇3隻以上を防衛、またはシイコ機の撃墜
シイコの勝利条件:10分以内にゲーツ機の撃墜、または艦艇8隻以上の撃沈
「……またとんでもない設定だな」
【観戦モニター前】
「さーて、ゲーツは今日はどれくらいスコアを出すかな~」
鼻歌混じりにドリンク片手でモニター室に入ってきたドゥーは、ホログラム画面のパイロット紹介を一瞥して――止まった。
「……え?」
一瞬の沈黙。
その様子を後ろから見ていたフォウが怪訝そうに首を傾げた。
「なに、急に止まって。どうかしたの?」
「いや、別に。……あ、フォウ。このドリンク美味しいよ。一口どうぞ」
「は? ……まあ、くれるなら貰うけど」
フォウが無警戒にストローを咥えた瞬間――
「道を開けるね〜」
ドゥーはスッと彼女の前から横に避ける。
次の瞬間、フォウの視界に現れたのは――
《Pilot:シイコ・レイ》
「――ぷっ!!」
盛大にドリンクを吹いた。
「おお、虹が出た。 俺の治療まだ完璧じゃなくて、幻覚でも見てるのかと思って、焦ったよ」
「げほっ、ごほっ……!! あんた、どんな確かめ方してんのよ!?」
フォウはドゥーの頬を容赦なく引っ張る。
「いひゃい、いひゃい、ごめんてごめんて!」
「それで? ゲーツの訓練なのに、何で相手がシイコさんになってるわけ?」
その疑問に答えたのは、部屋に子供を背負って入ってきたムラサメ博士だった。
「今日この子を迎えに来てな。『たまにはアレックスに乗りたいから、誰かと模擬戦したい』と言われてね。そこで、ゲーツにお願いしたというわけだ」
「あの人……何しに来たんだっけ?」
ドゥーが虚ろな目でつぶやいた。
「子供の迎えでしょ」
フォウがため息まじりに答える。
「で、ゲーツ、何分持つかな」
ドゥーがカウント用の腕時計をタップする。
「……せめて勝つか負けるかで考えてあげなさいよ」
フォウがむくれる。
「じゃあ、賭けようか? シイコさんの勝ちに一票」
「当然でしょ。その逆にしか賭けれないなら私、降りる」
「結局、僕と同じじゃん」
「仕方ないでしょ」
ムラサメ博士は笑いながら説明を加えた。
「一応、シイコの勝利条件は10分以内にゲーツを落とすか、艦艇を8隻以上沈めること。ゲーツが防衛できれば、勝ち扱いにはなる」
「ちなみに、シイコさんの機体って?」
「アレックスだ。リフレクター・インコム仕様のな」
「無理だよ」
フォウが即答する。
「ていうか、ゲーツじゃなくても無理。私たちでも無理。あの3人でも連れてこいってレベルよ」
「この研究所の模擬戦、たまに常識がバグるんだよなぁ」
ドゥーが肩をすくめた。
【シミュレーター内】
ゲーツの周囲を飛ぶ警告アイコン――高速で接近する光点。
《敵機接近:高エネルギー反応確認》
「来たか……!」
その声とほぼ同時に、赤い閃光が横をかすめる。
「うおっ!?」
いきなりの高精度射撃。まだ視認すらできていない距離からの偏差射撃。
反応速度ではなく、予測精度が桁違い。
「やばいな……マジで本物の“エース”だ……!」
iフィールドを展開し、ビームを受け止める。
だが、その裏から背後の艦隊を狙うようなビームが飛んでくる。
「ちっ、やってくれる!」
防御を切り替えつつ、ゲーツはリフレクター・ビットを艦隊を守るように展開。
反射角を操って、敵の攻撃を“防ぐ”。
そしてようやく、視界に捉えた――
青と白の鋭角な機体、アレックス。
その中で動くパイロットの姿を、ゲーツは真正面から見据える。
(……始めようか。あんたがどんな怪物でも、俺の任務は一つだ)
【シミュレーションルーム/ムラサメ研究所】
シイコ・レイのアレックスが、宇宙空間を切り裂くように加速する。背部のスラスターは凄まじい推力を吐き出し、何年も前に作られた機体が大元であるとは思わせない機動を描いていた。
ゲーツ・キャパのサイコガンダムMk-IIは、その巨体で味方艦隊十隻を背後に守るように布陣している。
「前方からくる敵機――ただのアレックスじゃないな」
ゲーツはすぐに理解した。通常のアレックスではあり得ない挙動。――それが伝説の撃墜王、《シイコ・レイ》仕様だと気づいたのは、眼前で一隻、また一隻と、味方艦のブリッジが落とされていく光景を見た時だった。
「スラスターだけじゃない、あれは――ワイヤー!?」
モニターに映るのは、シイコのアレックスが腕部のワイヤーを艦の外壁や自分のサイコガンダムマーク2に引っ掛け、スイングしながら旋回・急加速を繰り返す姿。
まるで宇宙を飛び回る猛禽。高速の慣性を生かした“スティグマ戦法”がゲーツの艦隊を切り裂いていく。
7分経過。残る艦は3隻。そのうち、すでに2隻が中破。ゲーツの焦燥が高まる。
(このままじゃ、次で終わる…!)
だが次の瞬間、戦況が変わる。
「――来る!?」
シイコのアレックスが、直線軌道でゲーツのサイコガンダムMk-IIに突撃してきた。
「何だと!?」
《通常なら、あと一隻落として終わりだ。だが――》
「言ったでしょ?」通信が入る。明るく、少し楽しげな声。
「“シミュレーターで相手して”って。このまま勝っても、全然面白くないのよ」
(馬鹿にしてるな……! だが、好機だ)
ゲーツは構えた。巨大なサイコガンダムの前面に、全砲門が展開される。
「これで、終わりだッ!」
腹部の拡散ビーム砲、両手の5連装ビーム砲を同時に解放――
だが。
「なっ――!?」
そのビームが、“曲がった”。
――いや、反射された。
シイコは、展開中のサイコガンダムのリフレクタービットのひとつを、ワイヤーで巻き取りつつ、自分とゲーツとの中間に再配置していた。そして、反射角度を精密に調整していた。
それは、iフィールドの内側で跳ね返されたビームが、拡散ビーム砲自身を撃ち抜くという、想定外の反撃。
《ズドン!!》
腹部の砲門が、火花を散らし機能停止。
「なにィィィ!!?」
なおもゲーツは頭部の2連装ビーム砲、両手のビームで応戦を試みるが――
「無駄よ」
背後へとすり抜ける光。
シイコのアレックスが、リフレクターインコムの“引っ掛け機能”をサイコガンダムMk-IIの頭部に打ち込んだ。
「……とどめ!」
ワイヤーで加速しながら背後に回り込んだシイコのビームサーベルが、サイコガンダムMk-IIの頭部を一刀のもとに切り裂く。
警告音。画面停止。――《Simulation Over》
【観戦室】
機械音声が無機質に告げる。
「……終了。勝者、シイコ・レイ」
「無理だよ。あれ……僕たちでも絶対無理」
「だから言ったでしょ。3人の誰かを呼ばなきゃって」
ムラサメ博士も、腕を組みながら苦笑していた。
「とはいえ、ゲーツはよくやったさ。誰も彼女に“勝つ”ことまでは求めてない。あの機体をあれだけ捌いたこと自体、立派な訓練成果だよ」
画面の中。ゲーツは、敗北の中でも、確かな何かを掴もうと、通信記録を見直していた。
そして心に刻む。
(あれが、“壁の向こう側”か……)