ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ゲーツ・キャパ4

【シミュレータールーム・前室】

 

シミュレーションが終了し、ハッチが開くと同時にアレックスのコックピットからシイコ・レイが軽やかに降り立った。続いて、やや重たい足取りでサイコガンダムMk-IIからゲーツ・キャパが姿を現す。

 

「ありがとう。艦隊の攻撃シチュエーションなんて、久しぶりで新鮮だったわ」

 

シイコが満足そうに微笑みながら言う。

 

「教導ありがとうございます!」

 

ゲーツは深々と頭を下げ、真っすぐに礼を述べた。

 

「私が楽しみたかっただけだから、気にしないで。あと、そんなに堅苦しくしなくていいのよ。階級も大して変わらないんだし、もっと気楽に喋って」

 

「それは……わかりました」

 

ゲーツは少し戸惑いながらも、口調をやや緩めた。

 

ちょうどその時、観戦用のガラス室から階段を使ってドゥー・ムラサメとフォウ・ムラサメが降りてくる。その後ろからは、子どもを背負ったムラサメ博士も姿を見せた。

 

「落ち込むことないよ、ゲーツ」ドゥーが慰めるように言う。「あのシチュエーションでシイコさん相手に勝利条件を達成できるなんて、アムロさんたちあの3人くらいだし」

 

「そうそう。よくやってたよ」とフォウも頷く。

 

「……あら。私は労ってくれないの?」シイコが軽くふくれっ面で振り返る。

 

ムラサメ博士がため息交じりに応じた。

 

「お前は楽しんだだけだろう。お前の“遊び”に付き合わされたゲーツを労うのは当然だ」

 

「ふふっ、でもね。楽しんだだけじゃないわよ。彼の“課題”も見えたもの」

 

「自分の課題……ですか?」

 

シイコは軽く顎に手を添えて、少し真面目な顔になる。

 

「そう。リフレクタービットはよく使ってた。でも、リフレクターインコムはあまり活用できてなかった。ニュータイプや強化人間は“有線=旧式”って見下しがちだけど、有線には有線の強みがあるの。私の戦い方、見てたでしょ?」

 

「はい……まさか、あそこまでインコムを操るとは……」

(ただ――あの制御……マニュアル操作にしては完璧すぎる。バイオセンサーの補助があるとしても……まるで“ニュータイプのそれ”だ)

 

「あなたの役目は“盾”だから、私の戦い方をまるまる真似するわけにはいかないけど――うまく活かしてね」

シイコはそう言うと、踵を返して扉へ向かった。

 

「えー! 僕たちとは対戦してくれないの?」ドゥーが名残惜しそうに声をかける。

 

「今日はこの子を迎えに来たのよ」

シイコはムラサメ博士から背負いカゴを受け取り、子供を背負い直した。

 

「明後日また来るから、そのときね」

 

「腕は衰えていないな……」ムラサメ博士がぽつりと漏らす。「ところで、“もう一つの機能”は使わなかったのか?」

 

「使ってたでしょ?サイコガンダムMk-IIの頭部にインコムを引っかけたとき。インコムに鉤爪をつけて引っ掛ける機能、便利なのよ。さすがお義父さんの“特別製”」

 

そう言って、シイコはにこやかに手を振りながら部屋を出ていった。

 

「また明後日にね~!」

ドゥーが手を振ると、シイコは背中越しに片手を挙げて応えた。

 

ゲーツはそのやり取りを見送った後、ふと疑問を口にする。

 

「インコムの……もう一つの機能とは?」

 

ムラサメ博士が短く答える。

 

「あれは“切り離せば”無線でも動く。つまり、あのインコムは――」

 

「ということは……彼女はニュータイプ、だったんですか!?」

(……なるほど。どうりで。動きが違うはずだ。リフレクターインコムが、マニュアルとは思えない軌道を描いていたのも――納得だ)

 

ゲーツはようやく得心がいったように、深く頷いた。

 

その様子を見ながら、ムラサメ博士が静かに言った。

 

「――彼女が手を抜いているとは思わないでくれ。あの子が“ニュータイプとして戦えない”のは、私にも原因がある」

 

「……博士に、ですか?」

 

ゲーツが意外そうに眉を上げると、博士は静かに目を細めた。

 

「テム・レイと共に作った機体、《ナラティブ》。図らずとも、あれは“あの娘のため”にあるような機体になった。もしあの娘がまた戦うなら、彼女がニュータイプであることを自ら認め、その機体に乗って本領を発揮する日が来るのを待っている」

 

「ナラティブ……ですか」

 

「そう。あの機体なら、彼女は“生きて帰ってこられる”。たとえ“あの3人”と同格のニュータイプが敵であっても、だ」

 

博士の言葉は、強い確信に満ちていた。

 

「では、今のアレックスのままでは……その保証はない?」

 

「……問題ない。仮に開戦すれば、テム・レイと結託して彼女にはアレックスではなく、ナラティブに乗せる。理由はいくらでも捻り出せる。“シイコの腕に、もはやアレックスがついていけていない”とかな。“テム・レイに、不完全な機体でパイロットを送り出した欠陥技術者の汚名を着せる気か”とでも言えば、あの子は諦めてナラティブに乗る。シミュレーターでテストはさせているから実戦でも問題ない」

 

「それに、あの娘を落とせる敵など数えられるほどしかいないし、仮に彼女が軍務に復帰したとしても、配置は“アムロ・レイの隣”だ。――戦場で、あの男の隣ほど安全な場所は存在しない。艦隊旗艦の防衛よりもな」

 

小さく笑みすら浮かべながら、博士は続ける。

 

ゲーツは無意識に息を呑んだ。

 

「……それほどの力なのですね。最強のニュータイプとは」

 

「私がアムロ・レイを倒す装備を作れと命じられたなら、こう答えるよ。“不可能です”。――艦隊を丸ごと沈めて、旗艦を撃つ装備の方が、遥かに現実的だ」

 

その口調に、冗談の色はなかった。

 

 

 

そう――。

 

少なくとも今、シイコ・レイの周囲にいる人間たちは、彼女の“安全”を心配してはいなかった。

 

なぜなら、彼女がアムロ・レイの隣にいる限り――どんな敵も、彼女を“害すること”などできないと知っていたからだ。

 

 

 

……彼女自身が、“自らその隣を離れようとする”など。

……敵の策略があったとはいえ、“アムロの父から奪われたガンダム”が再び現れ、それを“自分が倒しに行く”などと考える事など――。

 

誰一人、想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ムラサメ研究所・通路】

 

リタとヨナがムラサメ博士の研究室に向かっていたとき、角から現れた人物に、リタが目を見開いた。

 

「わあ……! シイコさん!」

 

そこには、小さな子供を背負ったシイコ・レイの姿があった。彼女はゆったりとした微笑を浮かべていた。

 

「こんにちは、リタ。……あら、ヨナ君も一緒なのね」

 

「こんにちは」ヨナは少し緊張しながら頭を下げた。

 

「2人のお子さん、大きくなりましたね」

リタの声には自然と温かさがこもる。

 

「でしょ? 病気一つしなくて、ほんと手がかからないのよ」

 

「おお……この子が……」リタの目が輝く。

 

「抱っこしてみる?」

 

「えっ、いいんですか? ぜひ!」

シイコが子供を背から下ろし、そっとリタに手渡す。リタは自然な手つきで受け取り、しっかりと抱き上げた。

 

「わぁ、軽い……上手に抱けてますか?」

 

「ええ、すごく上手よ。リタはきっと、いいお母さんになれるわ」

 

「……そうですかね〜」リタの頬が少し紅潮する。

 

シイコがふと隣を見る。

 

「ヨナ君は?」

 

「いや……僕は、そういうのはちょっと……」言い淀むヨナに、

 

「シイコさんが言ってるんだから、ほら。手を出して」

リタが優しく促す。

 

ヨナは恐る恐る両手を差し出す。「首は……ちゃんと支えればいいんでしたっけ?」

 

「もう首は座ってるから大丈夫。変な抱き方しなければ問題ないわよ」

 

ヨナはぎこちなくも丁寧に子供を受け取った。少しこわばった表情だったが、どこか嬉しそうでもある。

 

そんな様子を眺めていたリタは、ふと顔を引き締めて言った。

 

「……あの、シイコさん。やっぱりいずれ、軍務に復帰するんですか?」

 

シイコは少し間を置いてから、穏やかに頷いた。

 

「ええ。坊やがもう少し大きくなったらね。……あの人を、一人で戦わせて全てを背負わせて、家で帰りを待つなんて、そんなの私にはできないわ。

それとも、私がいたら足手纏いかしら?」

 

「……毎回負けてる私が言えるわけないじゃないですか。言えるアムロさんやゼロさんも……絶対、言わないと思いますし」

 

「じゃあ、そういうこと」シイコは軽くウインクをした。

 

リタは意を決して、言葉を続けた。

 

「なら、せめてその時は……フル・サイコフレームとは言いませんが、“ナラティブ”に乗ってくれませんか? あの機体をシイコさん以上に扱える人、いません。テム・レイ主任もそれを前提にネモⅡとのパーツ共用を進めて再設計してます」

 

「……あの人たちに言われたの?」

 

「いえ。私には何も命じていません」

 

「……バカね。博士なんて呼ばれてるくせに、お義父さんと結託してアレックスから乗り換えさせようとしてるの、バレないとでも思ってるのかしら?」

 

「直接は言ってないですし……」

 

「あなた達とデータ取りの名目で、何度もナラティブ同士で模擬戦させといて?」

 

「え〜と……あはは〜……」リタは目を逸らしながら、苦笑するしかなかった。

 

「でも、そうね……」シイコは視線を背負った子供に向けながら、そっと言葉を紡ぐ。

 

「死んだ“マブ”の墓参りにも行った。赤い彗星が消えて何年も経った。研究所の医者さんも変わった……。私も、いつか“ナラティブ”に乗らなきゃいけない時が来るかもね」

 

「それがいいですよ!」と、ヨナが力強く声をあげた。

 

「僕も……あなたと戦ったときに思いました。ナラティブを一番扱えるのはこの人だって。あれはあなたを守るための機体です。誰よりも、あなた自身を」

 

シイコは少しだけ驚いた表情を見せてから、小さく、穏やかに笑った。

 

「後輩2人にそこまで言われちゃあねぇ。……そのうち乗るしかないね。アムロにも、この子にも――悲しみなんて味わってほしくないし」

 

彼女の手が、無意識に子供の背を撫でていた。

 

 

 

 




ナラティブのあの鉤爪にも使えそうなインコムとかシイコさんにぴったりだと思う。
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