ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
NT-1アレックスの前に、二機の影がゆるやかに滑り込んできた。
一機は、白い四肢に青い胸、赤い腹部を持つ奇妙なモビルスーツ——ジークアクス。
もう一機は、旧RX-78を彷彿とさせながらも、全身を血のような赤で染め上げた機体——赤いガンダム。
アムロ・レイの視界に、それが映る。
(……赤いガンダム)
一瞬、胸がざわついた。だが、あれはシャアではない。
その中にいるのは——別の誰か。
コックピットに微弱な感応が届く。ニュータイプとしての直感が、名もなき意識の波を拾う。
(シュウジ・イトウ……あれが……)
同じ瞬間、赤いガンダムの中の男も、静かにアムロの名を思い出していた。
「……アムロ・レイ、か」
口調はあくまで緩く、温度がない。
それがまるで、戦場にいることすら忘れているかのようだった。
「……シイコの旦那さん。初めまして」
アムロの眉がわずかに動いた。
コックピットの温度が、微かに下がる。
「……知っていたのか」
「夢の中で会ったよ、彼女とは。……あの夜、殺す前に、ほんの少しだけ。互いの名前を交わした」
「お前が——!」
言葉を吐きかけた瞬間、ジークアクスが横から滑り込むように突進した。
「シュウジ!」
「行こう。終わらせに来たんだろ、マチュ」
その一言に、マチュは頷いた。
彼女の瞳に宿っていたのは、まだ希望——非日常への憧れと、地球という楽園への夢だった。
戦闘が始まった。
ビームが飛び交い、火花が散る。
白と赤、青と灰が交錯する戦場に、沈黙の雷鳴が鳴り響いた。
マチュのジークアクスが先陣を切る。
ヒートホークを大きく振り抜く——しかしアレックスは紙一重で回避し、左腕部のガトリングが火を噴く。
「ッ——!」
ジークアクスの右腕がもがれるように吹き飛ぶ。追撃するように、アムロが機体を反転させ、接近。
ビームサーベルが閃いた。
一瞬遅れて、ジークアクスの頭部が音もなく飛んだ。
マチュの視界が一気にブラックアウトする。
オメガサイコミュが短く、断末魔のようなノイズを吐き、機能を停止した。
「マチュ」
シュウジは一歩も焦る様子を見せず、赤いガンダムを滑らせて彼女の機体を庇うように前へ出る。
「……行け。こっちは、どうにかする」
「でも……!」
「夢は見ろ。最後まで。そういう約束だったろ」
それだけ言って、彼は背を向ける。
損傷したジークアクスは、制御を取り戻し後退を始めた。
その背を見送りながら、シュウジが静かに呟いた。
「坊やには、父親が必要だろ?」
アムロの動きが止まる。
「……その坊やから、母親を奪ったのは……お前たちだ」
その言葉に、シュウジは応えない。
ただ、赤いガンダムの背部から浮かび上がる、ビット。
六門のメガ粒子砲が、無音のまま宙に散開した。
光弾が一斉にアムロを襲う。
チョバムアーマーの一部が砕け、火花が飛ぶ。
しかしアムロは、そのすべてをアレックス本体に当てさせることなく、回避し続ける。
重力のない空間で、機体がしなるように動く。
人間では追いつけない速度——だが、アムロには見えていた。
やがてビットは一つずつ撃ち抜かれていく。アムロのビームライフルが、正確に命中させた。
空間が再び静かになる。
「……恨んではいない。シイコが俺を殺しに来たのは……当然のことだった」
「だったら、なぜ戦った」
「……ガンダムを壊さなきゃ、彼女は一歩も進めなかったんだと思う。そうしないと、誰も救えなかったんだろう」
アムロの目が細められる。
シュウジは少しだけ目を伏せ、言葉を続けた。
「でも、俺にとっては……この機体が、たぶん……一番遠くまで連れてってくれるものだった」
「お前は……」
「……わかってるよ。矛盾してる。でも、誰かの“大切”と、誰かの“痛み”がぶつかる場所が、戦場なんだろ。……ガンダムが、そう言ってる」
言葉が、静かに消える。
そして、シュウジの赤いガンダムが、マチュのジークアクスが落としたヒートホークを拾い上げる。
「……これを使うのは、俺で良かった」
静かに呟き、突進。
ヒートホークが唸りを上げて振り下ろされる——狙いはアレックスの頭部。
だがアムロは、すでに未来を見ていた。
その一振りを寸前でかわし、反撃のビームサーベルを、コクピットへと突き立てる。
熱が走り、沈黙が訪れる。
モニターに、かすかに笑ったようなシュウジの顔が映る。
「……バイバイ、マチュ」
赤いガンダムが、崩れるように沈黙した。
——終わった。
宇宙(そら)を焦がした、たった一つの意志が、ようやく静寂に溶けていった。