ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

13 / 178
第二話:宇宙(ソラ)に交わる三つの影

NT-1アレックスの前に、二機の影がゆるやかに滑り込んできた。

 

一機は、白い四肢に青い胸、赤い腹部を持つ奇妙なモビルスーツ——ジークアクス。

もう一機は、旧RX-78を彷彿とさせながらも、全身を血のような赤で染め上げた機体——赤いガンダム。

 

アムロ・レイの視界に、それが映る。

 

(……赤いガンダム)

 

一瞬、胸がざわついた。だが、あれはシャアではない。

その中にいるのは——別の誰か。

 

コックピットに微弱な感応が届く。ニュータイプとしての直感が、名もなき意識の波を拾う。

 

(シュウジ・イトウ……あれが……)

 

同じ瞬間、赤いガンダムの中の男も、静かにアムロの名を思い出していた。

 

「……アムロ・レイ、か」

 

口調はあくまで緩く、温度がない。

それがまるで、戦場にいることすら忘れているかのようだった。

 

「……シイコの旦那さん。初めまして」

 

アムロの眉がわずかに動いた。

コックピットの温度が、微かに下がる。

 

「……知っていたのか」

 

「夢の中で会ったよ、彼女とは。……あの夜、殺す前に、ほんの少しだけ。互いの名前を交わした」

 

「お前が——!」

 

言葉を吐きかけた瞬間、ジークアクスが横から滑り込むように突進した。

 

「シュウジ!」

 

「行こう。終わらせに来たんだろ、マチュ」

 

その一言に、マチュは頷いた。

彼女の瞳に宿っていたのは、まだ希望——非日常への憧れと、地球という楽園への夢だった。

 

戦闘が始まった。

 

ビームが飛び交い、火花が散る。

白と赤、青と灰が交錯する戦場に、沈黙の雷鳴が鳴り響いた。

 

マチュのジークアクスが先陣を切る。

 

ヒートホークを大きく振り抜く——しかしアレックスは紙一重で回避し、左腕部のガトリングが火を噴く。

 

「ッ——!」

 

ジークアクスの右腕がもがれるように吹き飛ぶ。追撃するように、アムロが機体を反転させ、接近。

 

ビームサーベルが閃いた。

 

一瞬遅れて、ジークアクスの頭部が音もなく飛んだ。

 

マチュの視界が一気にブラックアウトする。

オメガサイコミュが短く、断末魔のようなノイズを吐き、機能を停止した。

 

「マチュ」

 

シュウジは一歩も焦る様子を見せず、赤いガンダムを滑らせて彼女の機体を庇うように前へ出る。

 

「……行け。こっちは、どうにかする」

 

「でも……!」

 

「夢は見ろ。最後まで。そういう約束だったろ」

 

それだけ言って、彼は背を向ける。

 

損傷したジークアクスは、制御を取り戻し後退を始めた。

その背を見送りながら、シュウジが静かに呟いた。

 

「坊やには、父親が必要だろ?」

 

アムロの動きが止まる。

 

「……その坊やから、母親を奪ったのは……お前たちだ」

 

その言葉に、シュウジは応えない。

ただ、赤いガンダムの背部から浮かび上がる、ビット。

 

六門のメガ粒子砲が、無音のまま宙に散開した。

 

光弾が一斉にアムロを襲う。

チョバムアーマーの一部が砕け、火花が飛ぶ。

しかしアムロは、そのすべてをアレックス本体に当てさせることなく、回避し続ける。

 

重力のない空間で、機体がしなるように動く。

人間では追いつけない速度——だが、アムロには見えていた。

 

やがてビットは一つずつ撃ち抜かれていく。アムロのビームライフルが、正確に命中させた。

 

空間が再び静かになる。

 

「……恨んではいない。シイコが俺を殺しに来たのは……当然のことだった」

 

「だったら、なぜ戦った」

 

「……ガンダムを壊さなきゃ、彼女は一歩も進めなかったんだと思う。そうしないと、誰も救えなかったんだろう」

 

アムロの目が細められる。

シュウジは少しだけ目を伏せ、言葉を続けた。

 

「でも、俺にとっては……この機体が、たぶん……一番遠くまで連れてってくれるものだった」

 

「お前は……」

 

「……わかってるよ。矛盾してる。でも、誰かの“大切”と、誰かの“痛み”がぶつかる場所が、戦場なんだろ。……ガンダムが、そう言ってる」

 

言葉が、静かに消える。

 

そして、シュウジの赤いガンダムが、マチュのジークアクスが落としたヒートホークを拾い上げる。

 

「……これを使うのは、俺で良かった」

 

静かに呟き、突進。

 

ヒートホークが唸りを上げて振り下ろされる——狙いはアレックスの頭部。

 

だがアムロは、すでに未来を見ていた。

 

その一振りを寸前でかわし、反撃のビームサーベルを、コクピットへと突き立てる。

 

熱が走り、沈黙が訪れる。

 

モニターに、かすかに笑ったようなシュウジの顔が映る。

 

「……バイバイ、マチュ」

 

赤いガンダムが、崩れるように沈黙した。

 

——終わった。

 

宇宙(そら)を焦がした、たった一つの意志が、ようやく静寂に溶けていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。