ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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次話は明日の1800に投稿します。


幕間: ユウ・カジマ2

【地球連邦軍 基地 試験シミュレータールーム】

 

シミュレーター備え付きの操作端末に向かって、データを睨むように見ていた男が、足音に気づいて顔を上げた。

 

「……あん?」

アルフ・カムラ技術士官――一年戦争中、EXAM部隊の技術担当だった男が振り返る。

 

「ユウじゃねえか。お前がこの部屋に何の用だ?」

 

シミュレータールームに入ってきたのは、いつもとは違う顔つきのユウ・カジマ。

その隣には、少し緊張した面持ちのサマナ・フュリスも立っていた。

 

「アレックス選抜試験のシミュレーターに乗りに来た」

 

「……お前がか」

カムラは口をへの字に曲げて、露骨な懐疑の眼差しを投げた。

「前にやった時は明らかに手ェ抜いてたじゃねえか。今さら“やる気になりました”って顔されてもな」

 

「今度は本気でやる。理由ができた」

ユウの声には、一切の迷いがなかった。

 

カムラは一瞬だけ表情を曇らせたあと、ため息をついて背を向け、端末を操作しながら言った。

「……へぇ、そうかい。“アレックスに乗りたい”って口で言う連中は山ほど見てきたが、テストに通る奴はほんの一握りだぜ。ま、ブルーの次が完成してりゃ、アレックスすら超えてたかもしれんがな」

 

「やめましょうよ、その話」

サマナが険しい表情で言った。

「“ブルーの次”――あの計画は、マリオンちゃんを犠牲にしたEXAMシステムの延長でしかなかったじゃないですか」

 

「……ぐっ」

カムラの眉がわずかに動いた。

「だがな。ニュータイプってのは戦場の中じゃ“現象”みてぇなもんだ。奴らに勝とうとしたら、こっちも“現象”に近づくしかねえ。その手段が、俺たちのEXAMだった。……マリオンを犠牲にしてまでやることじゃなかったのは認めるが」

 

「わかってるなら、もうそれでいいです」

サマナは目を逸らした。

「今の連邦はEXAMなんて求めてません。テム・レイ博士のアレックスと、バイオセンサー技術の延長線を選んだんです」

 

「チッ……テム・レイねぇ」

カムラは鼻で笑う。

「確かにあいつは天才だ。あいつのアレックスが連邦の未来を握る……ってのは、技術者仲間の間でも常識になりつつある。だがな、俺はまだ認めちゃいねぇ」

 

その目に宿るのは、燃え尽きていないプライドの炎。

 

「……で、シミュレーターに乗せてくれるのか?」

ユウが静かに口を開く。

 

「乗れよ」

カムラは端末の操作を終えると、皮肉げに笑った。

「本気でやるってんなら、選抜の上位に食い込めるだろうさ。その先、アレックスのパイロットに選ばれるかどうかは知らんけどな」

 

「十分だ。それでいい」

 

ユウは一言そう言い残して、シミュレーターブースの扉を開け、中へと入っていった。

 

その背中には、過去を背負いながらも未来を変えようとする、静かな決意がにじんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【シミュレータールーム外 観測室】

 

アレックス選抜試験のシミュレーター映像が大型モニターに映し出されていた。そこには、鋭い動きで戦場を駆け抜ける一機のモビルスーツ――ユウ・カジマの操るネモの姿があった。

 

「……本気でやってんだな、あいつ」

 

「当たり前ですよ」

サマナは真っ直ぐに画面を見つめながら、迷いのない声で返した。

「ユウさんは――マリオンさんのためにここまで来たんです」

 

「……フン」

 

カムラはモニターを睨みながら、鼻で笑った。その表情はどこか不満げだった。

 

「やはり、鈍ってやがるな」

 

「鈍ってる……ですか?」

サマナが眉をひそめる。

 

「そうだよ。今の奴の回避からの反撃――遅え。反応そのものは悪くないが、判断と動作に一拍、いや、二拍は遅れがある」

カムラの目は鋭かった。

「ブルーに乗ってた頃のユウなら、EXAM使ってなくても――撃たれる前に敵を仕留めてたぜ」

 

「それは……でも、ユウさんに勝てるパイロットなんて、そうそういないはずです」

サマナが必死に言葉を探す。

 

「確かに。一年戦争の頃の感覚で言えば、今のユウでも十分に“強い”さ」

だが――と、カムラは言葉を続けた。

 

「だがな、今の連邦は変わってきてる。アレックスとネモの実戦投入以降、"最強の3人"なんて呼ばれ始めてる奴らに感化された奴らが化け始めてる。“普通の強さ”じゃ、トップには立てねぇ時代になったんだよ」

 

サマナが言葉を失ったところで、シミュレータールームの扉が開いた。

 

ユウ・カジマが静かに歩み出る。その額には汗が滲み、肩で息をしている――だが、その眼光は鋭さを増していた。

 

「……すごいですよ、ユウさん!」

サマナが駆け寄って言う。

 

「だが……」

ユウは目線を操作盤に向け、モニターに映るスコアを一瞥した。

「スコアは“2位”だった」

 

「えっ!?」

サマナの声が裏返る。

「ユウさんが……2位?」

 

カムラが肩をすくめた。

「当然だろ。ユウ、お前が“マリオンのために本気でやる”って決めたのが、せめて1週間早けりゃな……」

目を細める。

「1週間あれば、お前ならブルーの頃の勘を取り戻せた。“1位”にも届いたはずだ」

 

「……」

ユウは何も言わず、静かにモニターを見つめている。

 

サマナが口を開いた。

「じゃあ、“1位”は一体誰なんですか……?」

 

「イオ・フレミング」

カムラが無造作に答える。

「あいつも、俺たちと同じで“テム・レイの失脚”のとばっちりを受けて、在庫処分のようにガンダムを押し付けられた口だ」

 

「イオ・フレミング……」

ユウが少しだけ目を見開く。

「金髪の、やたらジャズが好きな奴か?」

 

「ああ、そいつだ」

カムラは吐き捨てるように笑った。

「ブルーに乗ってた頃のお前なら、圧倒してただろうにな。鈍りすぎたな、ユウ。明日のアレックス選抜試験――勝率は低いぞ」

 

「……それでも、やるしかない」

ユウは、静かに答えた。

 

その声には、かつてEXAMと共に地獄を見た男の、確かな覚悟がにじんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スコア2位なら、次はアレックスで試せる」

カムラが立ち上がり、備え付けの端末に指を走らせながら言った。

「さっさともう一度入れ。搭乗機をアレックスに切り替えてやる」

 

「カムラ……」

ユウが思わずその背中に声をかける。

 

「フン」

カムラは、鼻で笑って振り向かない。

「テム・レイのアレックスに、お前が乗るなんて正直気に食わねぇ。だがな――」

 

その指が止まらずに端末を操作しながら、続けた。

 

「……マリオンのために必要だってんなら、明日までに“カン”を取り戻せなくても、せめてアレックスには慣れとけ。あいつの反応はネモとは比べもんにならねぇぞ」

 

「そんなにですか?」

サマナが身を乗り出す。

「ネモだって十分すぎるぐらい速いのに」

 

「雲泥の差だね」

カムラは端末から顔も上げずに答えた。

「しかも、アレックスには“バイオセンサー”がついてる。オールドタイプのお前がその恩恵を受けたきゃ、専用の調整が必要だが、明日までじゃあ間に合わん……ブルーに乗ってた頃のお前なら、いざとなりゃマリオンが内側から手を貸してくれたかもしれねぇ。だが、今はそれもない」

 

端末の操作が完了すると、カムラはようやく顔を上げた。

 

「突きつけられるぞ。ユウ。――“1年の差”ってやつをな」

 

「……」

 

「相手はブルーに乗ってた頃のお前より、きっと弱い」

カムラは言葉を絞り出すように続けた。

「だが、それでも――お前が負ける可能性の方が高い」

 

「……それでも、やるさ」

ユウは静かに、それでもはっきりとした声で応えた。

「俺はマリオンを、必ず直させてみせる」

 

その眼差しに、かつての“蒼い死神”が蘇ったような光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕がお相手します!」

サマナが声を上げ、ネモのデータが登録されたシミュレーターユニットに駆け込んだ。

 

ユウは目で礼を言った後に、アレックスの端末にログインし、起動手順を淡々と踏んでいく。やがて、コクピットを模したシミュレーター内部に接続され、視界が戦場へと切り替わった。

 

その瞬間――。

 

「……っ、なんだこれは」

ユウが低く呻く。機体の反応が、意識より数歩速く走る。ネモとは次元の違う“追従性”に、思わず制御を誤りかけた。

 

「だから言ったろ。雲泥の差だってよ」

「言っとくがな、向こうに“同じように反応についていけない”なんて甘えた期待はするなよ。向こうのアレックスには、バイオセンサーのオールドタイプ用調整が済んでるんだからな」

 

「えっ、それって……カムラさんがやったんですか!?」

サマナがコクピット越しに驚く。

 

「たりめえだ!」

カムラが胸を張る。

「この基地に、あんな技術者の腕頼みのバイオセンサー調整をやれる奴が何人いると思ってんだよ? 俺くらいしかいねぇっての!」

 

「なんでそんなに自慢げなんですか……ユウさんが不利になるのに」

サマナがぼやいた。

 

「だから言ったんだよ!」

「“1週間早けりゃよかった”ってな! ユウ用の調整だって、喜んでやってやったさ! せめて一言言ってくれてりゃよ……そしたら前もって、お前の古いデータを引っ張り出して、どうにか調整くらいしてやれたのによ!」

 

「でも……ユウさんの過去の戦闘データって、EXAMの破壊時に、上層部の指示で全部削除されたんじゃ?」

サマナの言葉に、カムラの動きがピタリと止まる。

 

「……」

視線を逸らすカムラ。

 

「……カムラ?」

ユウが、静かに問いかける。

 

「形を変えてだな……分解して、基地の端末から切り離して……残ってる“かもしれねぇ”な」

カムラは頭をかきながら、ぼそりと答えた。

 

「え、それって完全にマズいんじゃ……?」

サマナが引きつった顔をする。

 

「だから言ってんだろ。“形を変えて”ってな!」

カムラは語気を強めた。

「戦闘データのファイル名にも拡張子にも見えねぇようにした上で、復元に1週間はかかるように、原型から遠ざけて保存してあるんだよ!」

 

「……やるな」

ユウが短く漏らす。

 

カムラはわずかに口角を上げ、肩をすくめた。

 

「……だがな、今さら引っ張り出したところで、昔のデータは“昔のお前”のもんだ」

彼は備え付けの端末を叩きながら、冷静に言葉を続ける。

「今のお前に合わせたバイオセンサーの調整も、戦闘OSの最適化も……もう間に合わねえ。明日の選抜には到底ぶっつけだ」

 

ユウは黙ってそれを聞きながら、軽く首を回して答えた。

 

「上等だ。慣れればいいんだろ、今のこいつに」

 

カムラは鼻を鳴らした。

 

「慣れりゃあ使えるって代物でもねえんだがな。だが、お前ならやれなくもない」

 

そして、モニターを一瞥しながら、重い口調で続けた。

 

「……だから付き合ってやるよ。夜通しでも構わん。アレックスの癖ってやつを、嫌ってほど叩き込んでやる」

 

「助かる」

 

ユウが静かに返す。

 

「だが、お前の方こそ体を壊すなよ」

 

「心配すんな。昔みたいに、お前が勝手に暴れて帰ってくるよりは、何倍もマシな仕事だ」

 

小さく笑ってそう言うカムラの背中に、サマナがぽつりと呟いた。

 

「……なんだかんだで、皆さん変わってないですね」

 

その言葉に、ユウも、ほんの少しだけ、口元を綻ばせた。

 

 

 

 




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