ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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次話も明日の1800に投稿します。


幕間: ユウ・カジマ3

【連邦軍基地 シミュレータールーム】

 

シミュレーターの大型ディスプレイの前に並んだのは、制服姿の幹部達。そして、その一段上の観戦室では、通常任務の合間を縫って集められたパイロットたちが息を詰めて画面を見つめていた。

 

観戦室の片隅には、サマナ・フュリスとフィリップ・ヒューズ、そして技術主任のアルフ・カムラの姿もある。

 

「……始まるか」

カムラが短く呟いた。

 

「ユウさん……頼みますよ」

サマナは祈るように、両手を胸の前で組んでいる。

 

ふと、隣に立つフィリップを横目で見てサマナが小声で尋ねた。

 

「ていうか退役してるフィリップさんが、なんでここにいるんですか?」

 

「おいやめろ、“退役”なんて言うんじゃねえよ」

フィリップは苦笑しながら、手に持ったパン入りバスケットを掲げる。

「俺はな、ただパンを届けに来ただけの善良なパン屋だ。偶然、旧友と立ち話してたら……真剣すぎる空気の部屋に迷い込んで出るタイミングを逃した“迷子のパン屋”なんだよ」

 

「……それ、完全に観戦する気満々じゃないですか」

サマナが小声で返すと、カムラは鼻で笑った。

 

「黙って見てりゃいい。どうせそのうち、黙ってられなくなるほど盛り上がる」

 

観戦室には、徐々に高まる緊張とざわめきが満ち始めていた。

 

【試合開始まで――あと10秒】

 

その刹那、空気が張り詰める。

 

戦うのは、かつてEXAMと共に戦場を駆け抜けた男と、現在のスコア最上位のパイロット。

“アレックス”というガンダムを懸けた戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、シミュレータールーム中央、アレックスのフレームを模した演習ポッドの前に、2人の男が立っていた。

 

「……ではこれより、アレックス選抜最終試験を開始する」

静まり返った室内に、基地司令の重々しい声が響いた。

「スコア一位、イオ・フレミング。スコア二位、ユウ・カジマ。両者、準備は?」

 

「いつでもいいぜ」

余裕の笑みを浮かべ、肩を回すイオ。

 

「問題ありません」

短く、淡々と答えるユウの目は鋭い。

 

「……では両名、シミュレーターに搭乗を」

 

2人は並んで歩き出した。訓練用ハッチの前で、イオがふとユウに声をかける。

 

「へぇ、つい最近まで10位にも入ってなかったくせに……何だよ急に。アレックスが欲しくなったのか?」

 

ユウはその挑発に動じることなく、静かに言い返す。

 

「アレックスが欲しいんじゃない。ジャブローに行く必要ができただけだ」

 

「……そうかい」

イオの目が一瞬、楽しげに細まる。

「けどな、あの最高のガンダムをもらうのは――俺だぜ」

 

2人は無言で搭乗用シートに腰を下ろし、それぞれのポッドがゆっくりと閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サマナが緊張した面持ちで問いかける。

「イオさんって、どんな操縦をするんですか?」

 

カムラは視線をスクリーンに向けたまま、低く答える。

「……ある意味では、昔のユウに近い」

「機体の限界なんざお構いなしに、全力以上を引き出そうとする。操作は荒いし、ニュータイプでもなければ、ブルーを使ってた頃のユウみたいな予知的な回避もできん。だが――強いぞ、あいつは」

 

フィリップが胡乱げな顔で口を挟んだ。

「そんなにか?」

 

カムラは小さく鼻を鳴らした。

「以前のやつは、ガンダムって“力”に酔って、好きに振り回してるだけだった。典型的な破滅型だ。だがな――“理想”を見ちまったからな」

 

「理想……?」

 

「ヤザン・ゲーブル。オールドタイプの限界を塗り替え続けてる化け物だ。連邦じゃ“最強の3人”の一角に数えられてる」

 

フィリップが呆れ気味に肩をすくめる。

「最強の3人、ねぇ。そんなに強い奴らがいるなら見てみたいもんだ。他の2人は?」

 

「ゼロ・ムラサメ。強化人間だが、他のナンバー持ちと比べても格が違う。ゼロは特別だ。

そして……アムロ・レイ。あのテム・レイの息子にして、連邦最強のニュータイプだ」

 

その名を聞いたフィリップの眉が動いた。

「……ん? ゼロって……どっかで……」

彼は何か引っかかるように思案を巡らせた。

 

一方でサマナは、純粋に疑問を口にする。

「それで、なんでヤザンさんが“理想”なんですか?」

 

カムラの目にだけ、わずかな尊敬が滲む。

「ヤザン・ゲーブルはオールドタイプだ。ゼロやアムロみたいな特殊能力に頼ってない。鍛錬と実戦、それだけで強さを築き上げた。しかも、機体を限界まで乗り回すスタイルだ。だからこそ、イオと似てる」

「だがな――ヤザンは遥かに強い。敵にシールドごと腕をぶつけて相手の機体を破損させながら、自分は無傷で帰ってくる。実際にそれをやって生き残ってる」

「イオにとって、これ以上ない参考例さ」

 

カムラの声には、ただの皮肉ではない、真実だけがあった。

 

そして、スクリーンの中では、二機のアレックスが互いに向かい合おうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【シミュレーター内仮想宇宙空間】

 

二機のアレックスが、無音の虚空に対峙する。光の届かぬ闇に浮かぶ機影が、徐々に緊張を高めていく。

 

先に動いたのはイオ・フレミングのアレックスだった。

 

「――いくぜ!」

 

白い残光を引きながら、イオ機が一気に距離を詰める。アレックスの高出力スラスターが火花のような粒子を撒き散らし、ジグザグに滑るような軌道で翻弄してくる。

 

対して、ユウ・カジマは微動だにしない。

 

構えたビームライフルから、正確無比な連射が放たれた。距離を取りつつ、精密な照準でイオの猛進を牽制する。

 

「チッ、やるな……!」

イオは紙一重でかわしつつ、障害物を盾に接近するか考えるが――すぐにやめた。

真正面からのぶつかり合いを望んでいた。

 

ビームサーベルを抜いたユウが、ついに動く。

回避と同時に踏み込む。淡い軌跡を描きながらの斬撃――しかし、イオはその鋭い一撃を回避し、推進力を活かした反撃で迫る。

 

「だが……あんた、弱くなったな」

イオが言い放つ。

 

ユウは間合いを取る中で問い返す。

「何のことだ?」

 

「しらばっくれるなよ。……俺は一年前の、シミュレーターに映ってたあんたを見てる」

イオの声は苛立ちと興奮に揺れていた。

「驚いたぜ。こんな基地に俺より遥かに強い奴がいるんだからな」

 

ビームを交わしながら、イオが続ける。

「俺は一年戦争で軽キャノンのヤザンを一回、残党狩りの時にアレックスに乗ったヤザンの戦いを一回、計2回見た。あれはヤバかった。向こうはカスタム軽キャノンだったのに、勝てる気がしなかった。理不尽な強さってやつだった」

 

「……」

 

「そして次に見たのが、あんたの戦いだ。ヤザンには及ばなくても、間違いなく俺より上だった」

「でもな、その後のあんたは明らかに手を抜いてた。動きが重い。ビームの精度も落ちてた。……がっかりだぜ」

 

ユウの瞳が僅かに揺れる。

 

(……マリオンのために、戦う理由を捨てていた。

 彼女が見つかるのが怖かった。

 彼女を巻き込むのが、怖かった)

 

だが――

 

「悪いが俺が勝たせてもらう」

イオが距離を詰める。猛スピードのスラストで翻るように急接近。

 

「アレックス。これこそ最高のガンダムだ。ヤザンの無茶苦茶な操縦についていってた。ありゃ本物だ。しかもガタひとつ見せない機体性能……!」

「俺は、このガンダムが、どうしても欲しい!」

 

ユウはビームサーベルを構え直す。心の中で、誰かに語りかけるように――。

 

(……見ていてくれ、マリオン。お前の時間を守るために、俺はもう、隠れてはいられない)

 

一瞬、軌道上の岩影を踏み台にしたかのような加速――

その瞬間、ユウ・カジマが動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イオ・フレミングは気づいていた。

 

目の前のユウ・カジマの動きが――明らかに、戦いの中で“冴え”を取り戻しつつあることに。

 

(……なるほどね。こいつ、サボってたツケを戦場で精算してるってわけか)

 

鋭い切り返し、緩急のついた推進制御、斬撃の間合いの読み――

“昔のユウ”に、わずかずつ、確実に近づいていた。

 

(でもなあ、お前が完全になるまで待つほど、俺はお人好しじゃねえんだよ!)

 

イオのアレックスが再加速する。スラスター全開、常識外れの切り返しと飛び込みで距離を潰す。

サーベルの斬撃――二度、三度と叩き込みながら、すぐさまビームライフルを抜いて牽制。

それもフェイント、即座に盾を振り回してユウのアレックスを怯ませ、至近距離からの銃撃!

 

「ちっ……!」

 

ユウの機体が仰け反る。絶妙に躱しながらも、いまだ完全ではない。

ブルーに乗っていた頃の彼なら、そのタイミングでカウンターを入れていた。

 

(だが――)

 

次の瞬間、ユウのアレックスが低軌道からすり抜け、切り返しざまに回り込む。

右手のビームサーベルがイオのアレックスの左腕を狙い――

 

「……っこの!!」

 

鋭い軌道が閃光となって走り、イオの左腕――ビームライフルを持っていた腕が、斬り飛ばされた。

 

シミュレータールームの観戦室がざわつく。

 

「やった……!」

サマナが思わず立ち上がった。

 

だが。

 

「まだだッ!」

 

イオの叫びとともに、彼のアレックスが逆手に持ったサーベルを旋回させる。

両者の距離はあまりにも近い。反撃を警戒したユウの防御はわずかに遅れ――

 

刹那。

 

イオのサーベルが、ユウのアレックスのコクピット部を切り裂いた。

ダメージ判定――ユウ、戦闘不能。イオの勝利。

 

虚無のような静寂が、シミュレーター室を包む。

 

「……はぁ……」

 

イオは息を整えながら、静かに呟いた。

 

「惜しかったな、ユウ・カジマ。でも、アレックスは……俺がもらう」

 

通信は切られ、戦闘終了の表示が点灯した。

 

観戦室の中。サマナは唇を噛みしめ、フィリップは拳を握りしめた。

 

だが、誰より悔しそうだったのは――

操作端末の前で何も言わず佇む、アルフ・カムラだった。

 

(あと少しだったんだよ、ユウ。……くそっ)

 

一方、シミュレーターを降りてきたユウは、そのまま拳を強く握りしめた。

敗北。しかし――確かに何かを取り戻していた。

 

(あと一歩。次は、必ず……)

 

 

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