ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【地球連邦軍・南米ジャブロー基地 ムラサメ研究所前】
軍用輸送機の後部ランプが重々しく開かれ、熱気と湿気を含んだジャングルの空気が一気に機内へと流れ込んだ。
「……ふう。これがジャブローか」
サマナ・フュリスが額の汗を拭いながら、眩しげに空を見上げる。
ユウ・カジマは無言のまま、ストレッチャーに横たわるマリオン・ウィルチを見下ろしていた。彼女の表情は静かだが、昏睡からはまだ目覚める気配はない。
「……頼むぞ、ムラサメ博士」
低く、誰にも聞こえない声でユウが呟く。
フィリップ・ヒューズがパンを詰めた袋を背に抱え、周囲を見回した。「にしても、相変わらず物々しい場所だな。ここが“最先端”の研究所とは思えねぇよ」
「この地下にあるらしいですよ」
サマナがタブレットを操作しながら返す。「ムラサメ博士が、強化人間を“人として扱う”と明言したのも、ここが最初だったとか」
「ふん。言葉通りならな」
アルフ・カムラが渋い表情のまま、ストレッチャーの片方を持ち直した。「だが、信用するしかねぇ。俺たちの手には負えなかったんだ」
その一行を、すでに先回りしていたゼロ・ムラサメとドゥー・ムラサメが出迎える。
ゼロはすぐにマリオンの容態を確認すると、ユウに静かに問う。
「……輸送中に変化は?」
ユウは小さく首を振る。「安定はしていた。ただ……呼吸が時折深くなる。何かを夢見ているような、そんな感じだ」
「なら、急ごう」
ゼロが静かに言い、ドゥーが研究所への通路を指差す。
「こっち。ムラサメ博士は中で準備してるって。マリオンさん用の特別室も確保済み」
ジャブローの地下に続く重厚なリフトが、音を立てて下降を始める。
地上から地下へ、ただの施設から最深部へ――
ユウたちはマリオンを連れて、その中心にある「答え」へと向かっていた。
静寂と機械音の狭間を抜け、リフトが最下層で停止する。
ドアが開くと、白衣姿のムラサメ博士が待っていた。
「やあ、ようこそ……ムラサメ研究所へ」
【ムラサメ研究所・診察室前】
白衣を翻して現れたムラサメ博士は、昏睡状態のまま運ばれてきたマリオンに目を向けた。その視線は鋭く、すでに医学者としての眼差しになっていた。
「その子が……ジオンのニュータイプで、かつて《EXAM》の犠牲になった少女だな?」
博士の問いに、ユウ・カジマが頷く。
「そうだ。体調は一時期完全に回復し、退院の話も出ていた。だが……ある日を境に数日に一度、意識を失うようになって……最後には、昏睡状態に戻ってしまった」
ムラサメ博士の表情がわずかに陰る。
「まるで、《EXAM》がまだ動いていた時と同じように、か……」
ユウも、言葉の裏にある真意に気付いたように、顔を曇らせた。
「……そうかもしれない。言われてみれば、マリオンはあの時も昏睡していた。彼女の脳や神経に、EXAMの名残のような……何かが残っているとでも?」
「それは調べてみなければわからん。だが、脳波か、サイコ・リンクか……必ず手がかりはあるはずだ」
ムラサメ博士は静かに診察室の扉を開き、ベッドを運ぶ技師たちに指示を出した。
「このまま隔離ルームへ。EXAMの波形と一致するパターンを一度すべて照合する。初期診断はすぐに終わる」
そして、横にいたカムラを振り向いた。
「カムラ大尉だったな。君には隣室でリタに、EXAMの構造と変異について話してほしい。この子はニュータイプの中でも特別な存在だ。今回の件、何か思いつくかもしれない」
カムラは一つうなずいた。
「わかりました。資料はデータで持っています。今晩中に渡せば足りますか?」
「できれば、その前に口頭でも。リタは細部を自分の感覚で組み立てるタイプだからな」
ちょうどその時、白衣姿のリタ・ベルナルが廊下の向こうから歩いてきた。
「話は聞こえていました。博士、私も気になります。《EXAM》が、まだ彼女を縛っているとすれば……」
「よろしく頼むよ、リタ。君とカムラで、マリオンを再び目覚めさせる可能性を探ってくれ」
廊下の空気が、静かに、しかし確実に変わっていった。
【ムラサメ研究所・観察室】
リタ・ベルナルは、タブレットを操作しながら隣のカムラに問いかけた。
「つまり……《EXAM》とは、彼女の魂を縛るシステムだったんですね?」
窓の外から人口光が淡く差し込んでいる。医療用ガラス越しに眠るマリオンの姿が、仄かに揺れていた。
「ああ。三機の《EXAM》を破壊した直後にマリオンは目覚めたんだ」
カムラは腕を組みながらうなずく。言葉の奥には、どうしようもない悔いが滲んでいた。
「その後、ユウが彼女を保護して地球の病院に移送した。退院間近まで回復したってのに……それが、また意識を失い始めたらしい。もう《EXAM》は存在していないのに、だ」
「……博士の検診次第ですが、マリオンさんの“体”が、《EXAM》の存在を記憶してしまっているのかもしれません」
リタの言葉に、カムラは眉をひそめた。
「体が……覚えている?」
その時、リタの端末が震え、通知が表示された。彼女は画面に目を通すと、静かに立ち上がった。
「博士が診察を終えたようです。戻りましょう」
【診察室】
部屋に戻ると、ムラサメ博士が白衣を翻しながら診察台の隣に立っていた。マリオンは簡易ストレッチャーに横たわったまま眠っており、彼女の表情は安らかというより、虚ろに近い。
「彼女の状態が分かった」
博士の目が一同を静かに見渡す。
「あの子は《EXAM》に長く囚われすぎた。結果として、“存在しないEXAM”を探し続けることで、再び昏睡状態に陥ったのだ」
「存在しない……?」
フィリップが思わず身を乗り出した。
「すまんが、もっとわかりやすく言ってくれないか」
ムラサメ博士はひとつ息をついて、言葉を選ぶように言った。
「……魂が、体から離れすぎた。それによって、魂が“戻るべき場所”を見失ってしまった、と考えればいい」
「そんな……そんなの、治しようがないじゃないですか」
サマナが声を震わせた。傍らでフィリップが拳を握る。
「以前のマリオンは、《EXAM》を破壊することで解放された。けど……今はもう、破壊する《EXAM》なんて残ってない。これじゃ……」
カムラの言葉には、どうしても希望の影が見いだせなかった。
だが――
「いや。むしろ助かったと考えるべきだ」
ムラサメ博士はきっぱりと言った。
「もし、ジオンにまだ《EXAM》が残っていたなら、それを探しに行くのは困難だった。今は違う。魂を“戻す”方法がある」
「え……!?」
フィリップが目を見開いた。
「体から魂が離れやすくなっているのが原因なら、その魂を“近くに留める器”を用意すればいい」
「話がオカルトに寄りすぎてねえか……?」
カムラが眉を寄せたが、博士は首を横に振った。
「否定はしない。だが、これは科学の領域にも踏み込んでいる。リタ、例のものを」
「はい」
リタは研究室の奥に歩き、厳重なロックを解除して銀色の箱を取り出した。中には、T字を模した不思議な金属片――それは、淡く輝きを放っていた。
「これが……?」
ユウが声を漏らす。
「《サイコ・フレーム》だ」
ムラサメ博士が告げる。
「これは、金属粒子サイズのコンピュータ・チップを、金属フレームに鋳込んだ構造体。サイコミュの基礎機能を持ち、意識や感情に反応する。ニュータイプが近くにいれば、魂の痕跡すら留めることが可能になる」
「魂を……取り込む? まさか、マリオンの魂は……」
「すでに抜け出ている。だが、この《サイコ・フレーム》なら、彼女の魂を再び肉体のそばに留めることができるはずだ」
サマナが思わず声を上げた。
「そんなこと、本当に可能なんですか……!?」
「実際に《起きた》事例がある。信じるかどうかは君たち次第だ。だが、試す価値はある。どうする? 信用できないというなら、無理強いはしない」
ムラサメ博士の言葉に、ユウが一歩前に出た。
「その《サイコ・フレーム》……俺に触らせてくれ」
「構わんよ」
ユウがそっと手を伸ばし、フレームに触れた瞬間――
『……ユウ……』
微かな声が、脳裏に響いた。幻聴ではない。確かに、マリオンの声だった。
「……マリオン……!」
ユウは拳を握り、真っすぐに博士を見た。
「この《サイコ・フレーム》を……マリオンのそばに置いてくれ」
カムラが言った。
「……いいのか、ユウ?」
ユウは頷いた。
「マリオンの声が聞こえた。きっと、彼女も……そう望んでる」
その静かな言葉に、誰も異を唱えなかった。
そして――新たな希望が、確かにそこに芽吹いてい
淡い陽光のような室内灯に照らされて、ベッドの脇には小型の銀色のケースが置かれていた。中には、ほんの手のひらほどのT字型のサイコ・フレームが静かに鎮座している。その微細な粒子構造が放つわずかな波動は、すでに彼女に変化をもたらしていた。
ベッドに座ったマリオンは、目元にわずかな影を落としながら周囲を見渡した。すぐ隣に立つユウ・カジマと、部屋の一角に集まる仲間たち。彼女は穏やかに微笑み、声を発した。
「……歩けるなんて、夢みたいです」
ユウが静かに頷いた。彼の顔にも微笑があったが、ほんの少しだけ目尻が濡れているようにも見えた。
「マリオン……本当によかった」
感極まったフィリップが肩をすくめていた。
「いや〜……ほんと、良かったな! あー、やべえ……なんか目がしみやがる」
「何泣いてんですか、フィリップさん」
サマナが苦笑しながら言ったが、彼の目も真っ赤だった。
「お前も泣いてんだろうが、バレバレだぞ」
フィリップは鼻をすすりながら、どこか照れくさそうに笑った。
「……ユウさんがアレックスの選抜で負けて、ジャブローに行けなかった時はもう無理かと思ってました。でも……こうして、マリオンさんが目を覚ましてくれて……」
「全くだな」
カムラが腕を組みながら言った。悔しさ半分、安堵半分の顔つきだ。
「しっかし、ムラサメ博士ってのは本当にすげぇ。なあ、“博士”」
挑発するように言うフィリップに、カムラは額の血管をピクつかせる。
「俺は工学博士だ。半分オカルトじみた機械の専門家じゃねぇんだよ!」
「オカルトでも何でもいいじゃねぇか。マリオンちゃんが目を覚ました、それがすべてだろ」
フィリップが茶化すように言うと、カムラはプルプルと肩を震わせて拳を握った。
「フィリップてめぇ〜……!」
そんな空気の中、ガラリと扉が開いた。
「ムラサメ博士〜! テム・レイ先生が、バイオセンサーとサイコミュの同調報告の件で『早く出せ』って催促してますよ〜」
軽い口調で入ってきたのは、明るい髪を一つに束ねた少女だった。研究所の制服を纏い、片手に書類を持った彼女――アルレットだった。
「おっと、すまない。今日中には仕上げて提出するよ。少し患者の診断があってね」
「患者……? って、見ない顔ばっかりですね。」
アルレットが室内を見回していたが、マリオンの姿でその動きが止まった。
「……マリオン?」
その名を呼ぶと、マリオンも驚きに目を見開き、声を震わせた。
「アルレット……? うそ……あなた、生きてたの……!?」
マリオンは涙を浮かべ、ベッドから飛び出すように立ち上がると、アルレットに抱きついた。
「私……てっきり死んだと思ってた……! だって、手柄を立てたくて志願して出撃して……撃墜されたって……!」
「うーん、都合のいい死因になってたみたいだね」
「突然あなたが死んだって聞いて……本当に悲しかった」
マリオンの声は震えていた。その瞳には、怒りと悲しみがない交ぜになっている。
「いったい、何があったの……?」
アルレットは短く息を吐いて、天井を仰ぐように目を細めた。
「いや〜……ね。あのフラナガン博士に、いろいろ実験されてさ。結局、サイコミュはちっとも扱えなくて、“失敗作”の烙印を押されたのよ」
どこか他人事のように、淡々と語る声。
「それで“使い道がない”って判断されたんだろうね。ボロボロの初期型ゲルググを与えられて、“実戦で戦果を挙げられたら再評価する”って言われたけど……。実際は、実戦で死なせて処分したかっただけだと思う」
その言葉に、マリオンの拳が震えた。
「そんな……っ、あまりに酷すぎるわ……!」
隣で黙って聞いていたユウやサマナ、フィリップ、カムラも言葉を失っていた。
ジオンのニュータイプ研究の狂気。
マリオンがかつて囚われていた世界は、アルレットにとってもまた――牢獄だったのだ。
「まさかよ、こんなちっちゃなもんでマリオンちゃんが目を覚ますなんてなぁ」
彼の目線の先には、小さな金属片――T字型のサイコ・フレームがある。それは、光こそ発していなかったが、確かな「何か」を今も放っていた。
「ええ……サイコ・フレーム。とんでもない技術です」
隣でサマナが真顔で頷く。「ニュータイプにしか反応しないという話ですが、まさか本当に目覚めるとは」
「そりゃ連邦全体がニュータイプの発掘に躍起になるわけだよな」
カムラが肩を竦める。「昔なら、こんな力持ってるやつは“実験体送り”だったかもしれねえってのに、今じゃ希望扱いとはな……」
「でもよぉ……」
フィリップは額に手をやって、やや困ったように続けた。「そのサイコ・フレームを貸してもらってる間は、マリオンちゃん、しばらくジャブローから出られねえんだろ? せっかく自由になったのに、また缶詰とはよ……」
それを聞いたマリオンは、そっと微笑んで首を横に振った。
「仕方ありませんよ、フィリップさん。このサイコ・フレームは、長い年月をかけてムラサメ博士が作った最重要機密……本来ならまだまだ試験運用を重ねるはずのものを、特別に私のために貸してくれたんです。感謝こそすれ、恨みなんてありません」
その穏やかな語り口に、誰も言葉を返せなかった。
「……でもマリオン、君はもうニュータイプの力を使うことはないんじゃないのか?」
ユウが少しだけためらいながら問いかけた。「ムラサメ研究所で研究に関わるって話だが、戦場に出るわけじゃない」
「ええ。私、体が弱いですから。実戦に出るつもりはありません」
マリオンは頷いた。「でも、ジャブローから出られないのなら……せめて、出来ることをしたいんです。それに、このサイコ・フレーム、まだまだ謎が多くて。私自身、興味があります。ジオンのサイコミュと違って、粒子単位にまで落としてまとめ上げたと言えばそれだけに聞こえますが、明らかに技術的躍進を果たしてる」
「だな……」
カムラも渋々ながら認めるように腕を組んだ。「クルスト博士からジオンのサイコミュについて触りだけは聞いてたが、これは明らかに“別物”だ」
「……それに」
マリオンの声にわずかに怒りが混じった。「今のジオンが何をしているか、私にはわかりません。もしかしたら、私の時よりも酷い実験をしているかもしれない……。だって……」
その時、彼女の口元が強く結ばれた。
「アルレットが死んだって聞かされていたのに――フラナガン博士は、彼女を“失敗作”として捨てるようにして、廃棄寸前のゲルググで実戦投入してたんですよ!? そんなの、あっていいはずがありません……!」
「たまたま、ヤザン・ゲーブルって人が上層部からゲルググ鹵獲の命令を受けてて、運良く助けられたからよかったものの……。そうじゃなかったら、アルレットは本当に死んでいたかもしれないんです」
マリオンは拳を握り締める。
「アルレットは今、“素材の良し悪しを見抜く力”を活かして、人を守るモビルスーツを作れているからって、気にしてないって言うけど……私は、気になるんです。許せないんです」
その瞳は揺らがない。
「今もジオンは、あの頃と何も変わっていないはず。きっと、どこかでまた誰かが“使えないから”って命を切り捨てられてる。だからこそ……!」
言葉に力がこもる。
「連邦が“ニュータイプも強化人間も道具扱いしない”って言ってくれるなら――私は、自分の力を使うことに、もう躊躇なんてしません。使います。誰かを守るために」
サマナとフィリップは、短い付き合いの中でしかマリオンを知らなかったが、その姿には目を丸くした。かつて「EXAMの器」とまで言われた少女が、こんなにも明確な意思と怒りを持って誰かのために声を上げるとは――それは、彼女が“生きている”証そのものだった。
☆9評価ありがとうございます! シズリさん
最初はマリオンが目覚めないのはジオンで実はEXAMが残っててそれを破壊しなくては目覚めないルート(ユウの闇落ち復讐ルート)を考えてたのですが、同じフラナガン出身ってことでアルレットと絡ませたかったのでサイコフレームのご都合パワーで復活してもらいました。
でえじょうぶだ。魂関連はサイコフレームで何とかなる!