ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: フィリップのパン屋2 リタ、ヨナ、ミシェルの昼食

【ジャブロー地下 ショッピングモール・フィリップのパン屋】

 

「……よし、これで焼き立て分も全部補充完了っと」

 

 リタが小さく息を吐きながら、カウンター奥から出てきたあんぱんのトレーを両手で持ち上げ、並べ終えた棚に丁寧に収めていった。レツがパンの仕上げと棚までの運び、キッカが客対応をしてくれるおかげで、昼前からの混雑も今はだいぶ落ち着いていた。

 

「アンタたち何やってんの? 軍人からパン屋に夫婦転職でもしたの?」

 

 突き刺すような軽口がカウンターの前から聞こえた。顔を上げると、整ったスーツ姿に身を包んだミシェル・ルオが腕を組んで立っていた。その背後には、控えめに立つルオ商会の秘書らしき男性が一人。

 

「やだな〜、まだ夫婦じゃないよ〜。今日はパン屋のフィリップさんが“感想を聞きたい”っていうから、その代わりに店手伝ってるの」

 

「私は商談終えて帰ろうとしたら、“ここでリタ・ベルナルが待っています”って言われて来たんだけど?」

 

「うん、待ってたでしょ?」

 

「帰る」

 

「待って待って! 代わりの人が来たら、1時間お昼休憩もらえるんだから。一緒にお昼食べようよ、せっかくだし」

 

「嫌よ。なんで私が待たなきゃいけないのよ」

 

 そのとき、バタバタと店の裏口が開いて一人の女性が現れた。ツナギ姿で、少し息を切らせながら前掛けを整える。

 

「ごめんなさい、ギリギリになっちゃって! 代わります! あなたたちが今日応援に来てくれてるリタさんとヨナさんですよね? 店番は私に任せて、お昼行ってきてください」

 

 ミハル・ラトキエ。かつてジオンのスパイとして活動していたが、防諜に力を入れた連邦の特殊部隊に捕縛された過去を持つ。本来なら、よくあるスパイの末路――処刑、あるいは極秘収容が待っていたはずだった。しかし、弟たちの保護を条件に彼女は連邦に協力。ジオンへの偽情報を流す存在として残され、その後、ジオン式の暗号解読能力と、妹が発揮したパソコンのハッキング技能が評価され、今ではジャブローにて制限付きの生活を許されている。

 

「ありがとうございます! じゃあ待たなくていいから、今から行こう、三人でお昼!」

 

「……仕方ないわね」

 

 ミシェルはわざとらしくため息をつきながら、持っていたブランド物のカバンをヨナの胸に押し付けた。

 

「あんたが荷物持ちなさいよ」

 

「いやこれ、高いやつだろ!? 責任重いぞ!」

 

「傷つけたら、ルオ商会の義娘の持ち物を傷つけたってことで“それなり”の罰ね。不届き者として処理されるわよ」

 

「……リタ、助けてくれ」

 

「ヨナ、昼食プレートは二人分私が持つから、そのカバンはよろしくね〜?」

 

「くっ……リタの尻に敷かれる未来が今、見えた……」

 

 三人はにぎやかに店を後にしていった。残されたミハルは厨房に入り、手際よくレジと品出しのチェックを始めていた。

 

「キッカ、レツ、よろしくね」

 

「はーい!」

 

「棚の整理は任せてください、ミハルさん!」

 

 ジャブローの地下、軍事基地の片隅で――パンの香りと、少女たちの笑い声が交差していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブローのショッピングモール内、フィリップのパン屋の脇に設けられた簡易テラス席。リタ、ヨナ、ミシェル、そしてミシェルの秘書である長身の男性――ブリック・テクラートが、昼食を囲んで座っていた。

 

「で、これがアンタのおすすめの“あんぱん”ってやつ?」

 

 ミシェルが興味なさげに袋を開け、白あんパンを取り出してひと口かじる。

 

「そうなの!」とリタが嬉しそうに言った。「このパンは、ドゥーとゼロが基地を移動する中で見つけたパン屋さんのものでさ。ドゥーがお土産ってことで身内に配ったから、今じゃジャブローでも密かに人気なんだよ」

 

「ふ〜ん」

 

 ミシェルは唇をとがらせつつも、意外と味に満足している様子で再びパンにかじりついた。

 

「まあ、悪くないわね」

 

「ルオ商会のお嬢様のお墨付きなら、フィリップさんも喜ぶよ」とヨナがフォローを入れる。

 

 しかしミシェルはそっけなく言い放った。

 

「コネで入ったようなもんでしょ? だったらこれくらいは美味しくないと、すぐ馬鹿にされるわよ。それより――あれ見なさいよ。向こうで宣伝してるのって、ムラサメ研究所出身の2人でしょ?」

 

 彼女の目線の先では、店の前でゼロとドゥーが立っていた。確かに、ドゥーの人懐こい笑顔に誘われて客が列をなしていたが、それ以上に、ゼロには周囲のパイロット志望たちがやたらと群がっている。

 

「ですね〜」とリタも苦笑しながら肩をすくめる。「ドゥーの可愛さで客が増えると思ってたんだけど、ゼロに殺到してるのは予想外だったかな」

 

「当然ですね」

 

 落ち着いた声が割って入る。メガネをかけた長身の男――ブリック・テクラートが静かに口を開いた。

 

「ここは軍事基地です。ゼロ・ムラサメの名は広く知られています。最強の3人の一角、教導の実績も十分。彼のような存在に話を聞きたがる若者が多いのも当然でしょう」

 

「おぉ、ブリックさんですね。ミシェルからメールで聞いてました」

 

 リタがにこやかに言えば、彼も小さく頭を下げる。

 

「はい。お嬢様の秘書を務めさせていただいております、ブリック・テクラートです」

 

「ミシェルがお世話になってます」

 

「どこポジションよ、アンタは」

 

 ミシェルがリタにツッコみを入れる。

 

「それでブリックのこと、アンタは前から知ってたの?」

 

「ん〜、ミシェルのメールで聞いてたってだけだよ」

 

「……違う。わかってるでしょ? アンタが“見た未来”での話よ」

 

「……うん、少しは」

 

「未来?」

 

 ブリックがきょとんとしながら聞き返す。

 

「それはどういう……」

 

「この子こそ、本物の“奇跡の子”よ」

 

 ミシェルが言いながら、ふとリタとヨナに視線を向けてから続けた。

 

「手を出したら隣の男が飛んでくるわよ。そっちはまあ、アンタなら相手できるかもしれないけど……下手したらエコーズが襲ってくるからね。間違っても手出さないで」

 

 ブリックは静かに首を横に振った。

 

「女性に手を出すような人間であれば、お嬢様の秘書など任されておりません」

 

「あっそ。じゃあリタ、私とあんたとヨナが辿る未来は聞いたけど……こいつはどうなったわけ? あんたの視点からなら、私のすぐそばにいたんでしょ?」

 

「それは……」

 

 リタは少し困ったように目を伏せた。その未来を語るには、少しばかり重すぎるのだ。

 

「……言っちゃっていいのかな〜」

 

「お嬢様が辿る未来なら、私は最後までお嬢様に付き従ったはずです。例え拒まれようとも」

 

 静かに、しかし確信を持った声でブリックが言った。

 

「……それじゃ困るから聞いてんのよ。リタ、どうなの?」

 

「……うん。ブリックさんの言う通りとだけ」

 

「そう、わかった」

 

 ミシェルはそれ以上追及せず、静かに口を閉じた。

 

(……つまり、こいつは私のほぼ“自殺”みたいな未来に、付き合ってくれたってわけね。まるで心中じゃない)

 

 胸の奥に小さな疼きを抱えながら、ミシェルは再びあんぱんを一口――今度は、じっくりと噛み締めて味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人の昼食は、穏やかな空気の中で進んでいた。白あんぱんを半分ほど食べ終えたミシェルが、ふと何かに気づいたように目を細める。

 

「ん? このパン……制作者って、感想を聞きに回ってるのよね?」

 

「そうだよ〜」とリタが笑顔で答える。「味の改良に活かしたいんだって。ちゃんと自分の足で回って、直接声を聞いてるの」

 

 ミシェルはその言葉に、興味深そうに目を細めた。

 

「このパンを広めたのは、あそこで宣伝してるドゥーでしょ。配った相手って、あんた達の派閥じゃないの? ……どこまで配ったの?」

 

 視線はドゥーに向けられ、その先でゼロに群がる若い兵士たちの姿も視界に入っていた。

 

「上から下までだよ」ヨナが言葉を受け取る。「もちろん“いちばん上”の人も。今日の配達先のリストは、リタが書いてあった場所にだけ記載されてる」

 

 その瞬間、長身の秘書――ブリック・テクラートが静かに言葉を挟んだ。

 

「……“あなた方の派閥”のいちばん上とは、つまり連邦軍のトップ、ということでよろしいですか?」

 

「そうなんです」

 

 ヨナは小さく頷いた。「しかもリタは、誰に届けるかをパン職人に“事前に”知らせてないんです。『役職を意識したら味が落ちるかもしれない』って。昨日は作るパンの種類と個数だけ渡してて、配達先は今日、ようやく明かされたんです」

 

 ミシェルは少し呆れたように、あんぱんの残りをゆっくり口に運びながらつぶやいた。

 

「……あんたってさ、たまにものすごく腹黒くなるわよね」

 

「違いま〜す♪」

 

 リタはにっこり笑い、両手を祈るように組み演技がかった声で返す。

 

「これは“愛の鞭”です! フィリップさんに、これからもパンの味の改良に精進してもらいたい……そういう願いのこもった、優しい優しいムチなんです!」

 

 その瞬間、リタの端末が軽快な音を立てて振動する。

 

「ちょっと待ってね〜」と立ち上がり、リタは席を離れて行った。

 

「……“愛の鞭”って何よ」ミシェルが呆れ混じりにつぶやく。

 

「リタはね」ヨナが代わりに答える。「最近、ヤザンさんに鍛えられてるんだよ。3人で組めば敵がニュータイプでも勝てる“強い3人”を相手に、連日負け続けてる。でも、その中で“飴と鞭”の話が出てきたらしくて」

 

「……で、真似してるわけ? あいつもずいぶん人生を謳歌してるのね」

 

 ミシェルは苦笑しつつ、残りの白あんぱんをそっと包み直す。

 

「うん。昔の、どこか諦めたような顔をしてた頃より、今の方がずっと楽しそうだよ」

 

 ヨナの言葉に、ミシェルの瞳がわずかに柔らかくなった。そして、少し真面目な声色で続ける。

 

「……あいつ、モビルスーツパイロットになるなら――あんた、足引っ張らないようにしなさいよ。あの子の優先順位のいちばん上は、あんたなんだから。あんたが弱けりゃ、どれだけあいつが天才でも意味ないのよ」

 

「……分かってる」

 

 ヨナはまっすぐに、静かにそう答えた。

 

 そこに、リタが戻ってきた。

 

「いや〜、フィリップさんからだったよ。電話」

 

「フィリップさんはなんて?」とヨナが尋ねると、リタは照れ隠しのように少し肩をすくめた。

 

「えっとね、……『リタちゃん、届け先間違ってるぜ!? この先は……連邦のトップの部屋だぜ!?』ってさ」

 

 リタはけろりと笑って続けた。

 

「だから返したの。“間違ってないですよ〜”って♪」

 

 3人の視線が、一斉に彼女へと集まる。

 

「……本気でやってんのね、あんた」

「さすがだよ、リタ……」

 

 そんな感嘆とも呆れともつかない声が、ジャブローの食卓に小さく響いた。

 

 

 




フィリップのパン屋編はキッカ達3人組とミハルをちゃんと生きて行かせるために書いた感じです。
後、妹ちゃんのカイが評価するレベルのハッキング能力を活かさない手は無い。
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