ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: イオ・フレミング

【宙域:サンダーボルト宙域周辺・暗礁宙域】

 

 四方を巨大なデブリが埋め尽くす、音もなく命が散っていく地獄の宙域。

 そのただ中で、イオ・フレミングのフルアーマー・ガンダムは、半壊寸前だった。

 

「……くそっ、右腕と頭部か。やられたな……!」

 

 相手はジオンのリビングデッド師団。廃棄されたザクやドムを改修し、重武装のスナイパーとして運用する、死を纏った亡霊たち。その中でも最後に現れた“あいつ”――サイコ・ザクのパイロットは、異様なまでの執念でイオに喰らいついてきた。

 

 相打ち。それ以外の表現はなかった。

 サイコ・ザクは頭部と両腕を、ガンダムは片腕と頭部を。それぞれ失い、動けぬまま宙域を漂っていた。

 

 イオは、息を荒げながら目の前の現実を受け入れようとしていた。

 しかしその刹那、通信機のノイズの向こうに聞こえたのは、聞き慣れない警告。

 

「――敵影増加、ジオンのゲルググか!」

 

 そして、見えたのは赤白の機体。ゲルググ。量産機ではあるが、パイロット次第でエース機にもなる。サイコ・ザクの機体を守るように、その巨体がイオの前に立ち塞がる。

 

 コクピット内、ジオン兵が鼻で笑う。

 

「ガンダムは既にジオンにある。貴様はいらん」

 

 引き金が引かれようとした、その瞬間。

 

 ――ビームが、ゲルググのコクピットを貫いた。

 

「何っ!?」

 

 突然の狙撃に、敵が動揺する。

 イオはすかさずサブモニターを起動。煙を吐くゲルググの残骸。その先から――もう一条の光が走った。再び、敵の一機が沈む。

 

「……誰だ!?味方の援軍か?」

 

 そう思った次の瞬間、モニターに映ったのは、カスタム軽キャノン。

 その性能は、ゲルググと同等クラスとされている。だが、そいつはまったく怯んでいなかった。

 

「軽キャノン如きがッ!」

 

 ゲルググのマブ×2の4機がフォーメーションを組み、軽キャノンへと突撃を開始する。

 

「やめろ!その戦力差じゃ勝てない!逃げろ、軽キャノンのパイロット!」

 

 イオは叫んだ。自分を助けてくれたパイロットが無残に散る姿を見たくなかった。

 

 しかし返ってきたのは、冷酷な声。

 

『新兵を盾にするような雑魚は黙ってろ!戦いの邪魔だ。

 鼠みたいに隅っこで震えてろ、ガキが』

 

「な……!」

 

 通信の主は、ヤザン・ゲーブル。

 

 その名を知らぬ者は少なかった。不利な連邦軍内で際立った戦果を挙げる、圧倒的な戦闘能力を誇る男。アムロがテストパイロットを、ゼロ・ムラサメが道具として扱われていたこの時代――最強の連邦兵は、間違いなくこの男だった。

 

 彼のカスタム軽キャノンが、ジオンの4機の射撃を翻し、宙域を舞う。

 狙撃を避け、敵の動きを読み、蹴り、跳ね飛ばし、敵を敵へとぶつけて破壊する。

 

 一機、二機、三機――そして最後の一機が、彼の肩のキャノン砲によって粉砕された。

 

 静寂。虚無。

 だが、その中心には確かにいた。冷徹な獣のように、冷たく、正確に敵を葬った男。

 

 ――ヤザン・ゲーブル。

 

 イオ・フレミングは、ただモニター越しに、その姿を見つめていた。

 

(こいつが、連邦最強――か)

 

 その圧倒的な現実が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【宙域:サラミス級巡洋艦ブリッジ】

 

 ブリッジの空気が、思わず肌を刺すほどに冷え込んだ。怒声を上げたのは、艦長席に座るヘンケン・ベッケナーだった。

 

「……何だと!? あのサンダーボルト宙域に、新兵を四十名も送っただと!?」

 

 拳がコンソールを叩く音が鋭く響く。

 

「我々があの宙域の掃討を担当するという命令が正式に下りていたはずだ! なぜ勝手に!」

 

「それが……ムーアの生き残りによる“志願”という名目で派遣されたとのことです」

 

 淡々と報告するオペレーターの声には、どこか怒りすら感じられた。

 

「志願……? 生き残りの上層部が、戦後に連邦内での影響力を得るための“生贄”を差し出したってことか」

 

「おそらくは」

 

 ヘンケンは顔をしかめ、鼻で荒く息を吐いた。

 

「兵士を消耗品扱いか……ふざけた真似を」

 

「……せっかく、わざわざ別部隊にいた私を合流させたのに、戦力集中の意味がなかったわね」

 

 背後から声をかけてきたのは、凛とした佇まいの女性――シイコ・ムラサメだった。未だアムロと出会う前。ムラサメの名を背負いながら、彼女はマブと共に最前線を渡り歩いていた。

 

「着く頃に何人かでも生き残ってりゃいいがな」

 

 ヤザン・ゲーブルが、つまらなそうに呟く。腕を組み、鋭い眼光だけがモニターに向けられている。

 

「分からないじゃないですか。フルアーマーガンダムが投入されたって聞きました。あれなら敵を圧倒して、味方の損害を減らせるはずです!」

 

 そう反論したのは、シイコに随行するマブだった。若さの残る瞳に希望を宿して。

 

「……正しく扱えればな」

 

 ヤザンはわずかに目を細める。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 マブが問うたが、答えたのはシイコだった。

 

「今の連邦で“ガンダム”の評価がまともだと思ってるの? ジオンに鹵獲された赤いガンダムがあれだけこちらに被害を出してるのに、本家のガンダムは厄介者扱い。実験部隊や軍内での厄介者に回されてるような状況よ」

 

「そんな扱いの中で、あの機体を正しく使える人間が、果たしているかどうかって話だ」

 

 ヤザンの声に熱はなかった。ただ、冷静で鋭い現実だけが突きつけられる。

 

「おまけに、新兵が四十人、しかも機体付きで送られてる。となりゃ、こっちは十分な戦力と思うわけだ。……“肉盾”にする気満々でもおかしくねぇな」

 

「っ……そんな!」

 

 マブは拳を握りしめ、悔しげに声を漏らす。

 

「そんなことに使うくらいなら……ガンダム、ヤザン隊長かシイコさんに回すべきでしょう!」

 

「その通りだな」

 

 再び言葉を重ねたのは、ヘンケン艦長だった。

 

「ヤザンに回そうとした“廃棄予定”のガンダムを調べてたら、こんなことになっていたとはな……。いずれにせよ、我々は全力で向かうしかない」

 

 サンダーボルト宙域。

 

 ムーア同胞団の名を継ぎ、復讐に駆られた新兵たち。そこに投入されたフルアーマーガンダムと、既に潜伏しているジオンの亡霊部隊。

 

 そして、最も遅れて到着する――ヤザン・ゲーブルという切り札。

 

 その戦局が、どう転ぶかは誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【宙域:暗礁宙域 サンダーボルト宙域 ガンダムと軽キャノンの間】

 

 黒焦げになったゲルググの残骸が、ゆっくりと宙に漂っていた。四機いた敵機は、すべて沈黙。残されたのは、無傷とは言えないイオのフルアーマーガンダムと、その周囲に浮かぶ瓦礫の山。

 

 そんな中、戦場を駆け抜けたカスタム軽キャノンのコクピットで、ヤザン・ゲーブルは眉をしかめていた。

 

「チッ……ガンダムを使ってボロ負けするような奴に回すくらいなら、最初から俺に回せばよかったんだ」

 

 眼前のフルアーマーガンダムは、片腕と頭部を完全に損壊。予備パーツも乏しい現在の連邦では、修理すら叶うか怪しい。もはや、ただの鉄屑だ。

 

 その瞬間、ノイズ交じりの通信が飛んできた。

 

『おい、あんた! 今のゲルググが全部だとは思えない! 近くに空母ビーハイブがある。そっちも襲われてるかもしれない! 救援に行ってくれ!』

 

 イオ・フレミングの声は、焦りと怒り、そして無力感が混じっていた。

 

 だが、ヤザンは鼻で笑った。

 

「ハン! 新兵を盾にするような雑魚パイロットの次は、そんな作戦を立てた幹部どもを助けろってか。……そいつらより、残骸でもそのガンダムの方がまだ価値があると思うがな」

 

『ぐっ……』

 

 イオは言葉を詰まらせる。悔しさが滲んだ。

 

(分かってる。目の前のパイロットにガンダムが渡っていれば、こんな無様な姿を晒すこともなかった……。だけど!)

 

『頼む。仲間が乗ってるんだ。……こんな作戦を望んでやるような奴らじゃない。こんな作戦でも立てないと、奴らを倒せなかった弱い俺が悪い。だから……頼む』

 

 数秒の沈黙の後、ヤザンが低く、呟くように言った。

 

「そうだ。ガンダムを受け取っておきながら、こんなふざけた作戦でしか勝てなかった貴様が悪い。俺の任務はガンダムの回収だ」

 

 ヤザンの声には、冷徹な現実が滲む。

 

「廃棄処分のように貴様に渡しておいて、敵に獲られるのは嫌だとさ。……ふざけた命令だ」

 

『そんな……!』

 

「勘違いするな」

 

 ヤザンは通信を切らず、続けた。

 

「俺が救援に行かないのは、行く必要がないからだ。既に“腕利き”が二機、向かってる」

 

『二機!? 少なすぎる! こっちには五機もゲルググが来たんだ。同じくらい、いや、それ以上が向こうにも行ってる可能性が――!』

 

 イオの声を、ヤザンの一喝が遮る。

 

「貴様の知るパイロットなら、そりゃ足りんのだろうな」

 

 軽く笑う。

 

「だが、あの二人は今の連邦で、数少ない――“俺にダメージを与えられる”二人だ。他の雑魚と一緒にすんじゃねぇよ」

 

 通信が途切れる。

 

 残されたイオは、痛みと敗北感に打ちひしがれながら、未知の味方への希望を手繰るしかなかった。

 

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