ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
幕間:アレックス選抜配属会議
――地球連邦軍・ジャブロー技術本部 テム・レイのラボ
仄暗い照明の下、ホロ端末が青白い光を放っていた。並ぶデータの中に、新たなパイロットの戦績と選抜結果が記されている。
「各基地のアレックス選抜通過者が出そろったな」
テム・レイは、ひとつ息を吐いて言った。指先でスライドされた一覧には、選抜上位の名が並んでいる。彼の隣では、アルレット・アルマージュが覗き込んでいた。
「いつも通り、タイプが近い人に任せるんじゃないんですか? ニュータイプや、機体を知り尽くして戦うタイプはアムロさん。オールドタイプや、技術依存じゃなく戦術と訓練で戦う人はヤザンさん。ニュータイプ研究所出身や強化人間はゼロさん。で、その3人が抱えきれなくなったら、シイコさんやカミーユ、フォウに振る」
言いながら、アルレットは慣れた口調で端末を操作し、候補者の割り振り作業に取りかかる。だが――テム・レイの沈黙が続いた。
しばしの間の後、テムは言った。
「そうしたいところなんだがな……問題なのは、ある基地の通過者だ」
「……問題児ですか?」
「まあ、問題児ではあるな」
テムは無言でホロ端末を手渡した。画面には、イオ・フレミングの名と戦績、さらには「作戦中の通信にて違法電波ジャズ放送を常習的に流す」といった、もはや様式美と化した違反歴までが記載されていた。
アルレットは一言だけ口にする。
「……うわ……」
そして、天を仰ぐ――が、そこには現実逃避を許さぬコンクリート製の天井があるだけだった。無表情で、目だけが死んでいる。
「イオ中尉ですか……タイプで言えばオールドタイプで荒っぽい操縦だから、本来はヤザンさんの担当ですよね……」
「……だが、問題はそこだ。ヤザンがな……あの中尉を、ボロクソに言っていた」
2人の脳裏に、数ヶ月前のある夜が蘇った。
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回想:身内の飲み会にて
場所はジャブローの基地内にある非公式の懇親室。そこにはアムロ・レイ、ヤザン・ゲーブル、ゼロ・ムラサメ、アルレット・アルマージュ、テム・レイ、そしてヘンケン・ベッケナーらが顔を揃えていた。
普段は冷静沈着なヤザンが、その夜に限って、妙に強い酒――それもアルレットが間違って用意した酒豪用の度数96度スピリタス混合酒をグラスで煽っていたのが始まりだった。
「今思い出してもムカつくぜ!、あの“ムーアの王子”!」
急にヤザンが怒鳴り出した。頬はやや赤く、目は据わっている。周囲がギョッとするなか、ヤザンはテーブルを両手で叩いて立ち上がった。
「あのヘボが! 40人の新兵を肉盾にして、スナイパーが潜む暗礁域に突っ込んで! フルアーマーガンダムまで半壊させる奴があるか!」
「ヤザン飲み過ぎだぞ。水だ」
テム・レイが水を勧めるがヤザンの叫びは止まらない。
「上層部に押し上げられて有頂天にでもなったか! 俺たちが行くのを待ってりゃよかったんだよ! あんなのに"ガンダム"を渡すとか、正気かよ!? 挙句いっぱい奢るぜだと〜!手前の顔面を2週間見れなくして良ければ奢られてやるってんだよ!!」
「聞こえてないよ、親父」
誰も止めることができなかった。なにせ、相手はヤザン・ゲーブルだったからだ。
「ジャズや酒を楽しんでる暇があるなら鍛えろ!スナイパー共を毒蛇やろうだのなんだの罵ってるなら、新兵を盾にしなくても勝てるようになりやがれ!」
その夜の「ヤザン悪酔い事件」は、今もな身内の間で語り草となっていた。
「……フルアーマーガンダム? 親父が計画してたやつに、そんなバリエーション、あったか?」
テム・レイは深いため息をつき、手元のグラスを軽く回す。
「私があんなガンダムの無駄遣いをするわけがないだろ。あれは完全に現場の暴走だ。ごてごてと装備を足して重くしたせいで、前衛を張るべきガンダムが後衛の軽キャノンを盾にして突っ込む羽目になったんだぞ。……しかも、案の定破損だ」
「だよな。どう考えても親父の趣味じゃない」
アムロの言葉に、テムは苦々しく頷いた。
「一年戦争中の上層部は、なにをどう考えていたのか……。せめて、あれを最初からヤザンに渡していれば、サンダーボルト宙域であれほどの犠牲を出さずに済んだはずだ」
「君は当事者だったな? ヘンケン」
「……ええ」
その名を呼ばれたヘンケン・ベッケナーが、しみじみとした声で応じた。
「ヤザンも、普段はあそこまで感情的になるようなタイプじゃない。あの酒のせいでつい溢れてしまったんでしょう」
「正直、叫び出したかったのは私も同じです。……あの宙域で、どれだけの人間が命を落としたか。別の部隊にいたシイコ中尉と、彼女の“マブ”を現地に呼び寄せるために、我々は被害と戦術的利点をまとめて上層部に直訴しました」
拳がグラスを握り潰す勢いでテーブルに叩きつけられる。
「正式な命令を勝ち取るために、どれだけ奔走したことか……! そのうえ、廃棄処分にされていたガンダムを追って突き止め、ようやく現場に辿り着いたと思ったら――!」
「……君も酔ってるな」
テムの冷静な指摘に、ヘンケンは苦笑を浮かべながら、肩をすくめた。
「ええ。そうですとも。あれを思い出したら、酔いたくもなりますよ……!」
憤りを抑えられない声だった。
「軽キャノンからガンダムに乗り換えたヤザン、そしてシイコ中尉と“マブ”――万全の布陣になるはずだった。ところが蓋を開けてみれば、40人もの新兵が志願して向かったなどと聞いた時は……私の中の理性が、どこかへ飛んで行きました」
ヘンケンは一度目を伏せた。
「そして、ヤザンが持ち帰ったフルアーマーガンダムは……半壊。あれだけの犠牲を出して、得たものは傷だらけの機体だけ、40名いた新兵は7名しか救えなかったそうです」
沈黙が、その場を包んだ。
「だからこそテム・レイ博士が現場に戻れたと聞いた時は嬉しかった。私はブレックス准将にあなたがV作戦で作った二機のガンダムの凄さを聞いていましたから」
「ブレックス准将か。サイド7まで助けに来てくれた彼と赤い彗星を引き付けてくれたヴェルツ大尉のおかげジャブローに来れたことを今でも覚えているよ」
「これでヤザンの動きに耐えられないカスタム軽キャノンじゃなく、全力を出せる機体を回してくれると期待したものです。あなたはアレックスという期待以上のものを作ってくれた」
「出せたのは一年戦争後になってしまったがね・・」
それでも、アレックスというガンダムは、確かに生まれた。
そんな静かな会話を、部屋の隅のソファで黙って聞いていた男がいた。
ゼロ・ムラサメ。
仄暗い照明の中、彼はグラスの氷を弄びながら小さく呟いた。
「……テム・レイ博士を左遷なんてせずに、強い機体を作ってもらってれば……一年戦争、勝っていたかもしれませんね」
隣で同じく会話を聞いていたアルレット・アルマージュが、唐突に立ち上がって拳を振り上げた。
「ゼロは分かってるじゃないですか! 先生を左遷した上層部のアホ〜〜〜〜!!」
酒精の勢いか、感情の昂りか――いや、たぶん両方だった。
ゼロは目を丸くしてグラスを見やった。
「……って、お前、それ酒だろ!? ソフトドリンクしか飲まないって言ったろ!」
アルレットはにっこり笑ってグラスを掲げた。
「カクテルなんてジュースみたいなもんです! それに、私、実年齢はセーフですから!」
それは、かつてフラナガン機関の実験に晒され、“外見年齢”と“実年齢”が食い違うことになった彼女ならではのセリフだった。
だが――
「……ツッコミづらい重いボケをするな! ったく、水、持ってくるから待ってろ!」
慌てて立ち上がったゼロは、やれやれと肩をすくめて部屋を出ていった。
そんな彼の背中を、アルレットはちょこんと座って見送った。顔は赤いが、どこか満足げだった。
夜はまだ続く。だが、未来を繋ぐ“アレックス”の物語は――確かに、ここから始まっていた。
【再び/ジャブロー・テム・レイのラボ】
ホロ画面の操作を一段落させたテム・レイが、ふと視線を横に向けた。
「……そういえばアルレット」
「ん?」
軽く気の抜けた声を返すアルレットに、テムは少しだけ眉を上げて続けた。
「君、あのとき“ソフトドリンクしか飲みません”って言って飲み会に参加したね。なのに、飲み会では見事に酔っていたな?」
アルレットは目を泳がせた。
「あ、あれはその、ですね……付き合い的なあれというか、ノリというか!カクテルはジュースというか!」
言い訳がましい声が部屋に響く。だが、テムはすでにため息をついていた。
「体を大事にしなさい。君の身体は……いろいろ特殊な経緯がある。アルコールに対する耐性も“未知数”なのだから。くれぐれも、信用できる人が傍にいるときだけにしなさい」
その声は叱責というよりも、どこか親心を滲ませた穏やかさがあった。
「……はい」
アルレットは小さく頷いた。怒られたはずなのに、心配されるその言葉が、ほんの少しくすぐったい。
そして、空気を切り替えるように、テムが一つ咳払いをした。
「さて――イオ中尉の話だったな」
「ですね。誰に教導を頼むか……やっぱり、タイプ的にはヤザンさんが――」
「いや、いつものやつでいこう」
テムが静かに言い、アルレットがきょとんとした顔をする。
「いつもの……?」
「直接、本人たちに聞く。アムロ、ゼロ、ヤザン――三人の中で、最も“その目で見て”判断した者に任せる。いつものやり方だ」
アルレットは思わず微笑んだ。
「軍隊らしくはないですけど、私たちらしいですね〜」
「風通しが良いのは、悪いことではない。戦争の後、私たちはそうやって信頼で組織を立て直してきた。上からの命令で全てを決める時代は、もう終わったんだよ」
テムは端末に向き直り、通信リクエストの入力を始めた。
「ヤザンは……今、カイ君たち新兵チームの調整中だろう。まずはアムロとゼロ、二人に招集をかけよう。あの二人なら……何か、見抜いてくれるかもしれん」
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