ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: イオ・フレミング4

【ジャブロー・第3技術本部通路】

 

 淡い照明に照らされた通路を、アムロ・レイが静かに歩いていた。革靴の足音が、人工的な静寂の中に響いている。

 

 曲がり角に差し掛かったとき、向こうから現れた人物に、ふと足を止めた。

 

「……ここで会うってことは、親父からの呼び出しか?」

 

 そう声をかけた相手は、ゼロ・ムラサメだった。相変わらず沈着な表情のまま、わずかに口元を緩めて返す。

 

「はい。アムロさんも、ですよね?」

 

「ああ。まあ、時期的に要件は想像できるんだがな」

 

「ですね。十中八九……あれのこと」

 

 ゼロが意味深に言いかけた、そのとき。

 

 ドスッ、ドスッと力強い足音を鳴らしながら、向こう側の通路から歩いてくる男の姿があった。

 

 肩幅広く、堂々たる体格。仏頂面に無造作な髪――ヤザン・ゲーブルだった。

 

 ゼロがちらりとアムロに視線を投げる。

 

「……確定しましたね」

 

「だな」

 

 アムロが応じたちょうどその時、ヤザンが2人の前で立ち止まり、腕を組んで不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「ふん。お前らも呼ばれたってことは……テムの話は、アレックス選抜に通った奴の件だな?」

 

「でしょうね」ゼロが淡々と返す。「時期的に、博士のところには名簿が入ってる頃です」

 

「まったく……」ヤザンは肩をすくめた。「いつも通り、タイプが近いやつを俺たちに割り振りゃあいいものを。なんでわざわざ呼び出しなんぞ……」

 

 アムロは苦笑気味に言った。

 

「それじゃ足りない“何か”があったんだろ。……それにしても、ハヤトたちの教導は楽しそうだな。そろそろリタにも飴をやった方がいいんじゃないか?」

 

 するとヤザンは、真顔で胸を張った。

 

「俺は“平等”に鞭を与えてるんだよ。飴なんてどっちにも、ほんの僅かしか渡してねぇ」

 

 ゼロはその言葉に、少しだけ目を伏せ、そして視線をアムロへと向ける。

 

 その無言の問いかけは明らかだった。

 

(……愛弟子に甘い自覚、ないんですかね?)

 

 アムロはわずかに笑みを浮かべて、心の中で答える。

 

(鍛えてる“つもり”なんだろうさ。……まあ、リタのフォローは、引き続き頼む)

 

(了解です)と、ゼロも心の中で頷いた。

 

(メンタルは……まあ、ヨナと時間作らせてやれば勝手に回復しますし。楽ですよ)

 

 ほんの一瞬だけ、3人の間に流れる沈黙は、まるで呼吸のように自然だった。

 

 それは、同じ戦場を知る者たちにしか持てない、絶妙な距離感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・第3技術ラボ/作戦会議ブース】

 

 重厚な扉が静かに閉じられると、部屋の中にわずかな緊張が走った。

 

 中央の円卓には、すでにテム・レイとアルレット・アルマージュが待機しており、アムロ・レイ、ゼロ・ムラサメ、そしてヤザン・ゲーブルが向かい合うように座っている。

 

 会議の冒頭、テムは無言でホロ端末を操作し、一枚の名簿を空間上に浮かび上がらせた。選抜を通過したアレックス候補パイロットの名が、次々にスクロールされていく。

 

「……ここに記載されているのが、今回の各地アレックス選抜の通過者たちだ。とはいえ、すでに数名の担当割りは済んでいる」

 

 そう前置きしたあと、テムは一人の名前を指差す。

 

「――そして、こいつが最後の一人だ。担当未定。ジャブロー直行の通達が出ている」

 

 ホログラムに拡大された名前が表示される。

 

 『イオ・フレミング』

 

 その瞬間、ヤザン・ゲーブルの表情が見る間にしかめっ面へと変わった。

 

「……チッ」

 

 明らかに感情が顔に出た。彼の眉間に刻まれた皺が、誰よりも雄弁に物語っていた。

 

 それを見たアムロとゼロが、目を合わせる。

 

 アムロは静かに呟いた。

 

「……なるほどな。あのとき飲み会で、ボロクソに言ってた“例の中尉”か」

 

 ゼロも納得したように頷く。

 

「サンダーボルト宙域の件ですね。あの話を聞いていたら、確かに印象最悪でしょう」

 

 ヤザンが舌打ちを一つ、そして低く唸るように言った。

 

「“ムーアの王子”だと祭り上げられた勘違い野郎が、よくもまあノコノコとジャブローまで来れたもんだな。しかもよりによってアレックス……」

 

 テムが冷静に返す。

 

「だが、スコアは確かだ。今回の選抜で、彼はユウ・カジマを打ち破って通過してきた。結果として、彼にはアレックスの適性があると判断されている」

 

 アルレットが資料をスクロールしながら補足した。

 

「記録を見る限り、スラスター出力の限界を読んで強引に押し切るタイプですね。反応速度と操縦精度の高さだけじゃなくて、戦場での決断力が異常に早い。でも……同時に、味方を巻き込む判断も平然と取れる」

 

 ヤザンは鼻を鳴らした。

 

「“味方を犠牲にしても勝てばいい”タイプか。最前線じゃ通用しても、部下持たせたら部隊ごと死ぬな」

 

 ゼロがそれに重ねるように言う。

 

「確かにリーダー向きではありません。ですが、私たちの役割はあくまで“使いこなせるかどうか”を見極めることですから」

 

 アムロはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「彼の映像データを見たが……確かに、昔の俺と似てる部分がある。ガンダムに乗ることを“力”と信じて、戦いに陶酔する傾向がある。でも……どこかで“変わるきっかけ”を掴みかけてるようにも見えた」

 

 その言葉に、ヤザンが眉をひそめた。

 

「甘いんだよ、アムロ。そいつが変わる前に、味方が何人死ぬと思ってる」

 

そして、さらに畳みかけるように言葉を重ねた。

 

「それにな、お前は“力に陶酔してた”って言うが、問題なかっただろ」

 

「そんなわけないだろ」

 

 だが、ヤザンは構わず続けた。

 

「あるんだよ。だって、お前――負けたか?」

 

 アムロは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「それは……」

 

 ヤザンは肩をすくめ、吐き捨てるように言った。

 

「そういうことだ。乗ってる奴がどんな精神状態だろうと、命令を逸脱せず、結果を出して勝ち続けてりゃ、モビルスーツパイロットとして“問題あり”なんて評価にはならねぇよ」

 

 そしてさらに、言葉を重ねる。

 

「そもそも、軍人になった理由なんて人それぞれだ。家族を養いたい奴、家が軍の家系のやつ、俺みたいに単純に戦いが好きな奴――その中で“力に酔ってる”やつだけ弾いてどうすんだ。意味ねえよ」

 

 その目は、アムロの目を真っ直ぐに射抜いていた。

 

「だがな――こいつは違う。イオ・フレミングは、自分の“力不足”で部隊ごと全滅しかけた。」

 

「上層部から何言われようと、あと数時間、待ってりゃあ――死なずに済んだ命が三十三名だ。……三十三だぞ?

全ての責がこいつにあるわけじゃない。むしろ少ない方だろう。だが、"ガンダム"を任されて力不足なんて言い訳にもならねえよ」

 

 会議室の空気が一段重くなった。

 

 ゼロは何も言わなかった。ただ、二人の間に漂う緊張の波を静かに受け止めていた。

 

 アムロは静かに視線を落とし、数秒だけ黙ったあと、口を開いた。

 

「……それでも、俺は見たいんだ。“変わる可能性”があるなら――」

 

 その言葉はまだ、会議の結論にはならなかった。

 

 けれども、静かに火が灯り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・第3技術ラボ/会議ブース】

 

 会議室の空気は、ヤザンの厳しい言葉を境に、再び重く沈黙に包まれていた。

 

 アムロはヤザンを見据えたまま、ゆっくりと視線を逸らす。その目が自然と、テム・レイとゼロ・ムラサメに向いた。

 

 言葉はなくとも、三人の間に交わされる“目線”があった。

 

 (……ここまでヤザンが拒絶している以上)

 

 (引き受けるのは、俺か……ゼロしかいない)

 

 だが――

 

 ゼロはごくわずかに首を振った。無言の辞退。戦い方も思想もあまりに異なる。ゼロ自身が、イオとの“接点のなさ”を理解していた。

 

 アムロは、もう一度テムの目を見る。静かに、だがはっきりと――頷いた。

 

 テム・レイがゆっくりと口を開く。

 

「――では、イオ・フレミング中尉の教導役は……」

 

 言葉を区切ったその刹那、

 

「俺が引き取ってやるよ」

 

 重低音のような声が響いた。

 

 一同の視線が、一斉にヤザン・ゲーブルへと向けられる。

 

 その突然の発言に、一番驚いたのはアルレットだった。

 

「……は、はい!? さっきまであんなに、イオ中尉をボロカスに言ってたじゃないですか!!」

 

 ヤザンは腕を組んだまま、鼻で笑った。

 

「舐めんな。嫌いな奴だろうが、俺が鍛えるのが一番効率がいいと判断したなら、鍛えてやるさ」

 

 その声に、嘘や飾りはなかった。あるのは、徹底的な現実主義と、戦士としての覚悟だけ。

 

「こいつはオールドタイプで、操縦の癖も俺に近い。だったら俺が教えるのが一番早ぇ。……理想も情もいらねぇ。“使える”ように仕上げる。それだけの話だ」

 

 その言葉には、かつて幾多の死地をくぐり抜け、戦争の中で“生きる力”だけを研ぎ澄ましてきた男の真実があった。

 

 アムロは、静かにヤザンを見ていた。

 

 ゼロもまた、無言で理解を示すように頷く。

 

 テム・レイは、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「……わかった。では――イオ・フレミング中尉の教導役は、ヤザンに任命する」

 

 その決定をもって、会議の空気が少しだけ変わった。

 

だが、次に発せられたヤザンの言葉は、場の緊張をあっさりと切り替えた。

 

「まあ、いきなり俺が相手したらボコボコにしすぎるからな。最初はカイたちにでも相手させるさ」

 

 とだけ言い残し、ヤザンは椅子から立ち上がり、手をひらひらと振って部屋を出ていった。

 

 その背中を見送りながら、アムロがふとつぶやく。

 

「……ゼロ、アルレット。気のせいかな。嫌な予感がする」

 

 ゼロが頷きながら、ごく自然に返した。

 

「奇遇ですね。俺もです。ヤザンさん、ああ見えて無自覚に“愛弟子”に甘いところがありますから」

 

 アルレットも少し困ったような顔をしながら頷く。

 

「分かります。イオ中尉とヤザンさん……性格も操縦スタイルも、力の差はあるにしても、どこか似てますもん。同族嫌悪、起きそうですね」

 

 テムはため息交じりに呟いた。

 

「……厄介な類似性だな。同族嫌悪は、一番ややこしい。そして君たちニュータイプ3人が嫌な予感がするならもう確定してるようなものだよ」

 

 アムロは顔をしかめながら、ホロ画面を閉じた。

 

「とりあえず……イオ中尉がアレックスで模擬戦やるとき、相手が“ネモ”なことに文句を言わず、素直にやってくれることを祈ろう」

 

 ゼロは薄く笑って肩をすくめた。

 

「ですね。ああ見えてヤザンさん、仕事は真面目にこなしますから。ただ……嫌いな相手に対しても“平等”に接しようとして、ストレス溜めるタイプです」

 

 アルレットは、気まずそうに笑った。

 

「本音と理性がずっとケンカしてそうですね、あの人……」

 

 テムは椅子に背を預けながら、少しだけ遠い目をした。

 

「……さて、どうなることやら」

 

 その言葉は、誰にも答えられないまま、会議室には微妙な余韻だけが残った。




mini8さん誤字報告ありがとうございます!
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