ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: イオ・フレミング6

【ジャブロー・訓練フィールド/模擬戦】

 

 開始直後から、ヤザンのネモは鋭かった。

 踏み込み、間合い、回避――すべてが迷いなく、無駄がない。

 

 ――おかしい。

 

 イオは操縦桿を握りしめながら焦りを覚える。

(なんでだ? いくらヤザンが相手とはいえ、乗ってるのはネモだぞ? こっちのアレックスの方が、出力も装甲も、スラスターも全てにおいて上回ってるはずだ――)

 

 その瞬間、モニターが赤く染まる。

 右腕ユニット、切断判定。

 視界の端で、アレックスの腕が虚空に漂っていく映像が再生されていた。

 

(何故勝てない!)

 

「くだらねえ」

 コックピットに低い声が響く。

「勝てない理由でも考えてんのか?」

 

 イオは声を出していない――だが、その思考を射抜くような言葉だった。

 

「お前は何も変わっちゃいねえ」

 ヤザンの声は冷たく、鋭い。

「新兵を盾に突っ込むなんて、クソみたいな作戦を実行した時と同じだ」

 

「違う! 俺はあの頃とは――!」

 

「変わってねえさ」

 ネモが一歩詰め寄る。

「あの時はガンダムでザクに負けて、今はアレックスでネモに負けた。何が違う?」

 

「それは……」

 言葉が詰まった瞬間、ネモの脚が唸りを上げ、アレックスの胸部を蹴り飛ばした。

 全身が後方に押し倒され、仰向けに転がる衝撃が機体を揺らす。

 

「だが安心しろ」

 見下ろすネモのカメラアイが不気味に光る。

「俺が担当する以上、貴様みたいに増長した傲慢野郎にも、しっかり分からせてやる。……だがまあ、今日は――」

 

 ヤザンのネモがゆっくりと片足を持ち上げた。

「おいおい、決着はついただろ!」

 イオの抗議を無視し、ヤザンは吐き捨てる。

 

「この後の整備士の皆様と――苦労を共にするんだな!」

 

 巨大な足が振り下ろされ、アレックスの頭部を踏み潰す。

 メインカメラが砕け、視界がノイズと暗転に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・訓練フィールド脇】

 

 牽引用のトレーラーが、頭部を失ったアレックスを無情に運んでいく。

 ヤザンはコクピットから軽やかに降り、グローブを外すと、整備区画へと戻ってきた。

 

 そこへ、足音を鳴らしてアルレットが詰め寄ってくる。

 

「――頭を踏み潰すって、模擬モードの意味知ってます?」

 

「そう言うな」

 ヤザンは涼しい顔で肩をすくめた。

「テムのやつから許可は取ってるぜ」

 

「……先生が!? 何でそんな許可を!」

 

「俺らがほとんどダメージを受けずに敵を倒しちまうからな。俺がアプサラス相手にした時ぐらいしか、大規模な修理なんざ入らなかった。データの蓄積のために許可するってよ」

 

 アルレットは一瞬言葉に詰まり、眉を寄せた。

「……先生が言うことなら……でも……先生のアレックスをあんなふうに……」

 

 たとえ許可が出ていても、テム・レイが作ったアレックスが無残に踏み潰される姿には、どうしても胸の奥がざわつく。

 

「それと――明日もどっかぶっ壊すからな」

 

「はい? 今日みたいなのを明日もやるつもりですか?」

 

「たりめぇだ。一回じゃデータなんて足りねえよ」

 ヤザンは当然のように言い放つ。

「お前は忙しいから修理に直接は関われねえだろうが、整備士の連中に指示だけは出しといてくれ。お前の指示があるのとないのとじゃ、整備効率は雲泥の差だろ。……頼むぜ、機械の声が分かるニュータイプ」

 

 肩を軽く叩くと、そのまま背を向けて歩き出した。

 

「これからの戦いのために必要なのは……分かります、分かりますけど――!」

 アルレットは両手を握りしめ、背中に向かって叫んだ。

「――納得いかな〜い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・訓練フィールド/模擬戦後】

 

 アレックスの視界は既に真っ暗だ。

 頭部を踏み潰され、メインカメラもサブモニターも沈黙している。

 ただ、機体が引きずられる振動と、外殻を軋ませる音だけがコクピットに伝わってくる。

 

(……畜生……勝てなかった……完敗だ……)

 唇を噛み、操縦桿を握る手に力が入る。

 その時――

 「ガンッ!」

 大きな衝撃が座席ごしに背中を叩きつけた。

 

「……ッ!」

 思わず息を呑み、ヤザンとの通信を開く。

「おい、何のつもりだ!」

 

『着いたぜ。降りな』

 

「……はぁ?」

 訝しげにコクピットを開ける。湿った熱気が一気に流れ込んできた。

 

「何が“着いた”だ。まだ外じゃ――」

 そこで言葉が途切れる。

 視線を落とすと、アレックスは牽引用の大型トレーラーの上に乗せられていた。

 

『てめえが運転して運びな』

 ヤザンはネモのコクピットから淡々と告げる。

 その声音に、容赦も同情も一切ない。

 

(……これ以上、屈辱ってあるか?)

 イオは奥歯を噛みしめながら、操縦席を降りる準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・第3整備区画】

 

 翌日から――ヤザンは容赦なくアレックスを使ってイオの相手をした。

 結果は変わらない。訓練ごとに、イオは何度も叩き伏せられ、模擬戦が終われば整備区画での修理作業が待っていた。

 

 外せない軍務の時間を除けば、イオの一日は「ヤザンに挑む」か「アレックスの修理に加わる」かで埋まっていく。

 そんな日々の中、コーネリアスや整備班の面々と話すうちに、イオはあることを知った。

 

 ――アレックスは、確かに突出した反応速度を誇るパイロットのために設計された機体だ。

 だが、ネモはただの“選に漏れた者”の機体ではない。

 

 そのことをはっきり教えてくれたのは、普段は指示を出すだけだが、時折自らレンチを握り、精密な調整まで手伝う――とんでもなく優秀な整備士、アルレットだった。

 

「テム・レイ先生はね、アレックスが必要になるくらい突出した人間のために作ったんです」

 アルレットは作業用手袋を外し、手の甲で額の汗をぬぐった。

「でもネモは、ただの量産型ってわけじゃないんですよ。“選ばれない者”のための機体として作ったんです」

 

「……エースと、それ以外って、単純な話じゃないってことか?」

 

「そうです」

 アルレットは整備台の上から軽く跳び降り、イオの正面に立つ。

「確かに、アレックスの反応速度はネモとは比べ物になりません。でも、戦いは反応速度だけで決まるわけじゃない。戦場の環境、仲間との連携の練度、相手を欺くフェイント……そういうものを駆使すれば、敵のエース相手でも、ネモは勝てるように作られています」

 

 イオは黙って聞いていた。

 アルレットの目は真剣で、冗談ひとつ交じっていない。

 

「だから――“ネモってだけで馬鹿にしてる”ようじゃ、アレックスを使いこなすなんて、まだまだですよ」

 

 その言葉は、イオの胸にずしりと響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー・第3訓練フィールド】

 

 翌日。

 イオはヤザンのもとへ足を運び、真剣な眼差しで言った。

 

「カイさんたちを相手に、戦わせてくれ」

 

 ヤザンが片眉を上げる。

「ほう? だが、こいつらはアレックス乗りじゃねえぜ」

 

「アレックスだろうと、ネモだろうと――強い奴は強いって理解した。頼む」

 

 そう言って、イオは頭を下げた。

 ヤザンはしばし黙って見下ろし、やがてニヤリと笑う。

 

「いいだろう。……カイ、相手をしてやれ」

 

「俺?」カイが肩をすくめる。「なんか、リタちゃんの時を思い出すなぁ」

 

「リタの時とは違うだろう? お前たちは。……カイが終われば、リュウ、ハヤトの順で1対1だ」

 

⸻

 

第一戦 カイのネモ vs イオのアレックス

 

 開始直後、イオはアレックスの高機動を活かし、縦横無尽に動き回る。

 だが――その動きは、まるで見透かされていたかのように、正面からビームライフルの一撃を浴びた。

 

「はあ!? あんたニュータイプなのか!?」

 

 カイは鼻で笑う。

「俺がニュータイプ? まさか。ビットなんて使えねぇよ。……まあ、種明かしは最後にまとめてしてやるよ」

 

⸻

 

第二戦 リュウのネモ vs イオのアレックス

 

 今度のイオは戦法を変えた。

 「パワーで押す」――接近戦で勝つために、ビームライフルの銃口を警戒しながらスラスター全開で突っ込む。

 

 リュウは数発だけビームを放つ。

 イオはそれをすべて回避し、距離を詰めていく――が、その足はいつの間にか脆い足場へと誘導されていた。

 

 ガクリと重心を崩した瞬間、ビームライフルの閃光がアレックスの装甲を撃ち抜いた。

 

⸻

 

第三戦 ハヤトのネモ vs イオのアレックス

 

 開始前、ハヤトがニヤリと笑う。

「接近戦がそんなに好きなら、最初から近距離で始めましょうか?」

 

「……ぜひ頼むぜ」

(挑発には乗らない。接近さえすれば、アレックスなら勝てる――)

 

 合図と同時にビームサーベルを構えたイオ。

 しかし、その手首をハヤトのネモががっちりと掴み――一本背負いのように地面へ叩きつける。

 

 イオの視界が天地逆さまになるのと、敗北の判定音が響くのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【模擬戦後・整備ハンガー】

 

 アレックスのコクピットを降りたイオは、汗を拭いながら悔しさを噛みしめていた。

 そこへ、カイ・リュウ・ハヤトが並んで歩いてくる。

 

「……で、カイ。なんであんなに簡単に俺を撃ち抜けた?」

 

 カイは苦笑し、指でアレックスの機体を指す。

「理由は単純だ。俺、ヤザン教官の乗るアレックスや、リタちゃんの乗るアレックスと何度も模擬戦してる。

 だから“ただ推力を頼りに突っ込んでくる”相手は、むしろ楽なんだよ。お前はスピードを武器にしたが、それを読むのは慣れたもんだ。2人相手なら、そうはいかなかったけどな」

 

 リュウが続ける。

「俺の場合は“足を止めさせる”のが狙いだった。ネモはアレックスほど反応速度はないが、地形を読んで誘導するのは得意だ。脆い足場や遮蔽物の配置を覚えておけば、接近してくる相手の動きを殺せる」

 

 最後にハヤトが口を開く。

「僕は単純に“接近戦での間合い”を逆手に取っただけだよ。近距離戦ならアレックスが有利だと、あえて思わせる。けど実際は、腕を取って投げれば装甲の差なんて関係ない。ネモは関節強度が高いから、ああいう体術もできる」

 

 イオは黙って三人の話を聞き、やがて小さく息を吐いた。

「……つまり、ネモってのは“選ばれなかったやつのための機体”ってのは、“どう戦うかを工夫できるやつのための機体”ってことか」

 

 カイがニヤリと笑う。

「お、やっとわかってきたじゃねえか。アレックスは確かにすげぇ機体だ。でも、それだけに頼ってたらいつか足をすくわれる。ネモはそういう奴をひっくり返すための機体なんだよ」

 

 その言葉が、イオの胸に深く刺さった。

 アレックスに乗れたことが誇りだったはずなのに、今はただ――その重さを痛感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イオ・コーネリアス・クローディア 焼肉店の夜】

 

 南米の夜は、日中の蒸し暑さを少しだけ和らげる。

 ジャブロー基地のショッピングモール内の繁華街エリア、通りに漂う香ばしい煙に誘われて、3人は古びた焼肉店へと足を踏み入れた。

 

 店内は煤けた壁に年季の入ったテーブル。肉の焼ける匂いと、タレの甘い香りが鼻をくすぐる。

 イオはメニューも見ずに「上カルビ三人前!」と叫び、席に腰を落ち着ける。

 

「……あのねぇ」

 クローディアが呆れたように眉を寄せる。

「数ヶ月ぶりに会った恋人を誘うのが、焼肉屋ってどうなの? しかも二人きりじゃないし」

 

「あはは、ごめんクローディア」

 コーネリアスは申し訳なさそうに笑う。

「イオがどうしてもって言うから……」

 

「悪いが腹が減って仕方ねえんだよ」

 イオは箸を構えたまま、疲れた顔で言った。

「くっそ……とうとう整備士のおっさんに『パイロット出来なくなったら整備士にならないか』なんて誘われたぞ。毎度毎度、模擬戦なのに修理がいるぐらいぶっ壊してくれやがって」

 

 ジュウッ、と鉄板の上で肉が音を立てる。

 クローディアはその音を聞きながら問いかけた。

「やっぱり、最強の3人の一人――ヤザン・ゲーブルは別格なの?」

 

「まあ、ヤザンさんは別格だな」

 コーネリアスが頷く。

「アレックスが壊されてるのは大体ヤザンさんの仕業だ。ただ……イオが面倒なことになってるのは、ちょっと複雑でね」

 

「……?」

 

「イオはヤザンさんの教え子の3人と、模擬戦を繰り返してるんだ。1対1なら最近勝てるようになったんだけど……1vs3じゃ全然勝てなくて」

 

「1vs3? しかもヤザン・ゲーブルの教え子相手じゃ、仕方ないじゃない」

 クローディアは当然だと言わんばかりに肩をすくめる。

 

「まあ、普通そう思うよね」

 コーネリアスが同意しかけた瞬間――

 

「――4日であの3人に1vs1で勝てるようになった、素人の女がいる」

 イオが肉をひっくり返しながら遮った。

 

「よ、4日で!?」

 コーネリアスが思わず聞き返す。

 

「ああ。そいつも最初は1vs3じゃ勝てなかったそうだが、始まってから2週間で、1vs3でも勝てるようになったんだと!」

 イオは焼けた肉をタレにくぐらせ、豪快に口へ放り込む。

 

「……どんな大天才よ」

 クローディアは呆れ混じりに笑う。

 イオは噛みしめるように言葉を返した。

「アレックスに乗れるようになっただけじゃ駄目だ。まだまだ俺には足りないものが多すぎる」

 

 クローディアはため息をつき、心の中でぼやいた。

(……明日、デートとかしたかったんだけど、これじゃ無理そうね)

 

 そんな彼女の様子を察したのか、コーネリアスが隣のイオを肘で小突く。

「おい、王子様」

 

「あ〜……クローディア」

 イオは少し照れたように顔を向ける。

「明日は俺も休みだし、うまいパン屋があるらしいんだ。行くか?」

 

「パン屋って……学生じゃないんだから」

 そう口では返しつつ、クローディアの表情はほんのり緩む。

 

「まあ、二人らしくていいと思うよ」

 コーネリアスが笑う。

「クローディアだって、あの頃が一番楽しかったんだろ? 昔を思い出しつつ、ショッピングモール巡りでもしてきなよ」

 

 鉄板の上で、また肉がジュウッと音を立てた。

 3人の笑い声と煙が、夜の焼肉店にゆったりと溶けていっ

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブローショッピングモール・フィリップのパン屋】

 

 ジャブローショッピングモールの一角に、木製の看板が掲げられている。

 前のパン屋の引退後に基地に入れ替わりで入った最近評判のパン屋だ。

 

 近ずくにつれ、小麦とバターの香りがふわりと広がった。

 焼き立てのパンがぎっしり並ぶ棚、その奥の厨房から、元気な声が響く。

 

「お! イオじゃねえか!」

 白いエプロン姿の店主フィリップが、粉だらけの手を振った。

「恋人連れで来てくれるとは嬉しいねぇ」

 

「うるせえ」

 イオはそっけなく返しつつ、口元にはうっすら笑みが浮かんでいる。

「あんたが自慢してた“あんパン”とやらを食いに来たんだよ。粒あんパンとBLTサンド一つずつくれ。クローディアは?」

 

「そうね……じゃあ、こしあんパンと、そのBLTサンドを一つずつちょうだい」

 クローディアはガラスケースを覗き込みながら、さらりと注文した。

 

「あいよ!」

 フィリップは素早くトングを動かし、注文の品をトレイに載せていく。

 その動きは軍人のように無駄がない。

 

⸻

 

 二人は窓際のテーブルに座り、紙袋からパンを取り出した。

 外から差し込む昼下がりの陽光が、クローディアの金色の髪を柔らかく照らす。

 

 まずは粒あんパンを頬張ったイオが、目を見開く。

「……おお、これは……あんこが主張してくるくせに、甘すぎねぇ!」

 

「こしあんもすごく滑らかね」

 クローディアは目を細めて微笑む。

「パン生地がふわっとしてるのに、しっかり小麦の香りがする。さすが評判の店ね」

 

「だろ? ……ああ、やっぱ来て正解だった」

 イオはBLTサンドにかぶりつき、口元を拭うと――

 少し真剣な顔つきに変わった。

 

⸻

 

「……クローディア」

 名前を呼ぶ声に、クローディアは顔を上げる。

 

「結婚しよう」

 

「――っ!?」

 突然の言葉に、クローディアはパンを飲み込み損ねて、目を丸くした。

「あ、あなたねぇ……こんなパンのついでみたいにプロポーズなんて……!」

 

「悪いが、俺はずっとこうだ」

 イオは肩をすくめ、まっすぐな目で見つめる。

「昔と何も変わってねぇ。学生の頃、お前とコーネリアスとバカやってた頃のままだ」

 

「それにしたって……もうちょっとムードとか、時期が良くなったらとか……」

 

「そんな死亡フラグに塗れた告白、受けたいか?」

 低く笑うイオに、クローディアは思わず吹き出しそうになる。

 

「……そうね。やっぱナシで」

 と言いながらも、頬がうっすら赤い。

「でもよ! なんでいきなり結婚なんて話になるの!?」

 

「お前が、なんかあったら薬物に逃げるような弱い女だからだ」

 イオの声は真剣だった。

 

「……うぐっ!」

 クローディアは一瞬、視線を逸らす。

「もう治療も終わったし、今はやってないわよ」

 

「けど、なんかあったらまたやりかねないだろ。お前は、何かにつかまってないとすぐ折れる。だから――俺に掴まってろ」

 イオはBLTサンドを置き、両手をテーブルに置いて前のめりになる。

「パイロットやってる時は、俺はそれしか考えねぇ。この先ずっとだ。だが、それ以外の時間は……お前のために使ってやるよ」

 

 

 クローディアは沈黙の後、ぽつりと尋ねた。

「……指輪は?」

 

「これから買いに行く」

 

「はあ!? こういうのって先に用意するものでしょ!?」

 

「お前の指のサイズがわからなかったから買えなかったんだよ!」

 

「……本っ当に学生の時のまま!」

 クローディアは大きく息をつき、立ち上がった。

「もう、さっさと行くわよ!」

 

 店を出る二人の背を、フィリップはパン生地をこねながら笑って見送っていた。

 

 

 




だいぶダイジェストになったけどイオ編終了です。
明日も18時投稿します
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