ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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二話連続投稿二話目です。


幕間: グレイヴ2

ミデア輸送機 ― 夜間飛行中

 

エンジンの低い唸りが、輸送機全体に響いていた。

油の匂いが染みついた機内、簡易の照明に照らされたブリーフィングスペースで、数人の影が円を作って座っている。

 

「父さん……クロエは大丈夫だろうか?」

ヴィンセントの声には、幼さの残る不安が滲んでいた。

 

トラヴィス・カークランドは分厚い腕を組み、しばし黙していた。

やがて低く吐き捨てるように言葉を落とす。

 

「俺としても、あんな娘を実験体にしているグレイヴのやり方には反吐が出る。……だがな、ヴィンセント。俺たちは連邦に拾われた“傷持ち”だ。罪を犯し、汚れ仕事をやる条件で自由を許されてる。そんな俺たちがクロエを救うには、権力の後ろ盾がどうしても必要なんだ」

 

「……」

ヴィンセントは唇を噛みしめ、目を伏せる。

 

トラヴィスはハイターに目を向けた。

「ハイター。……グレイヴの鼻面を押さえるネタは見つかったか?」

 

「難しいね」

肩をすくめ、端末を弄りながらハイターが苦々しげに言った。

「ここまで探しても何も出てこないってことは、おそらくグレイヴの機密は“回線から切り離した独立端末”に仕舞ってあるんだろう。単純にして旧世紀からある無敵のハッカー殺しさ。それに……最近になって新しいハッカーを味方につけたらしくてな。逆探知がやけに早い。こっちも、下手に深入りすれば尻尾を掴まれる」

 

「……用心深い野郎だ」

トラヴィスの目に、怒りとも諦めともつかぬ影が走る。

 

その時、ブリッジ側から電子音が響いた。

「暗号通信です!」と声を上げたのはハイターだった。

彼が解読キーを叩き込むと、無機質な声が流れる。

 

『スレイヴ・レイスは明日1000時、ジャブロー本部に集結せよ――補足:同時間にクロエ・クローチェを出頭させること』

 

空気が凍りついた。

ヴィンセントが目を見開く。

「……クロエを……解剖でもするつもりなのか!」

 

「クソッ……!」トラヴィスが拳を机に叩きつけた。「やはり俺たちを処分するつもりか!」

 

息子を睨むように見据え、彼は低く告げた。

「ヴィンセント。絶対にクロエを死なせはしねぇ」

 

その視線が、隊の爆破工作担当――ボマーへと移る。

「ボマー。ミデアに積んでる軽キャノン、その核融合炉に自爆装置を仕込んでおけ」

 

「おいおい……マジでやる気か?」

ボマーが顔をしかめる。「ここはジャブローだぞ。連邦の総本部でそんな真似をしたら……」

 

「“カウンター”だ」

トラヴィスは即答した。

「もしグレイヴが俺たちを処分しようとした時、その時だけ使う切り札だ。……お前だって、グレイヴが“俺たちを労うためだけに”呼んだなんて思ってないだろう?」

 

ボマーはしばし睨み返したが、やがて重いため息を吐いた。

「……分かったよ。やってやるさ。だが、使う羽目にならないことを祈るぜ」

 

「そういうことだ」

トラヴィスは低く、だが仲間達に向けて力強く言い放った。

「お前たち……ジャブローに向かうぞ。クロエを守るためにな」

 

暗い輸送機の中に、決意と不安の入り混じった沈黙が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブロー ― 地下司令部、搬入デッキ

 

 南米の大地を削って作られた搬入口。

 ミデアがゆっくりと着陸すると、待ち構えていたのは数人の兵士、そして黒いコートを羽織った男――グレイヴ大佐だった。

 

 降り立ったトラヴィスとヴィンセント、スレイヴ・レイスの面々は、無言で緊張を張り詰めさせる。

 「やっぱり処分か……?」という疑念が、誰の胸にも渦巻いていた。

 

 グレイヴは歩み寄り、無表情で告げる。

 

「ようこそ、ジャブローへ。……安心しろ。クロエ・クローチェの件は既にムラサメ博士に話を通してある。治療はすぐに始められる」

 

 あまりにあっさりとした言葉に、全員が一瞬ぽかんとした。

 ――いや、逆に怪しい。

 

 最初に口を開いたのは、やはりトラヴィスだった。

 

「……大佐。俺たちはまだ信用していない。治療の話はありがたいが……対価は何だ? 何を要求するつもりだ?」

 

 その問いに、グレイヴは片眉をわずかに上げ、平然と答える。

 

「今まで通りだよ。お前たちの能力を活かして――裏切り者狩り、表立って消せない連中の掃除を続けてもらう。ただそれだけだ」

 

「……ただそれだけ、ねえ」

トラヴィスは腕を組み、睨みつける。「信用できん」

 

 ヴィンセントも隣で頷き、「父さん、絶対裏があるよ!」と声を潜めた。

 その横でボマーが小声で「な、なあ……もしかして俺の爆弾仕込み、もうバレてるんじゃね?」と呟き、ハイターが「しっ」と睨みつける。

 

 緊張感は高まるが、読者から見れば「もう自分からバラしてるじゃないか」としか思えないやり取りである。

 

 その時だった。

 低く響く声が、デッキの奥から歩み出てきた。

 

「……特殊部隊の上司と部下だから、仲良しこよしだとは思っていなかったが、……嫌われすぎじゃないか、君?」

 

 現れたのはゴップ元帥だった。

 温厚そうな顔立ちに似合わず、その眼光は氷のように冷たく鋭い。

 

「ゴップ元帥!?」

トラヴィスは思わず声を荒げた。「なぜここに……!? グレイヴはバスク派閥じゃあ……」

 

「それは“少し前まで”だな」

グレイヴが肩をすくめて言った。

「先日から私は、ゴップ元帥の元で働くことになったのだよ」

 

「……」

「……」

「……」

 

 トラヴィスたちはあまりの唐突さに、声すら出せなくなった。

 ヴィンセントが口をぱくぱくさせ、ボマーは「派閥移動、そんな軽いノリで!? 」などと心の中で叫び、ハイターは頭を抱えた。

 

 ゴップはため息を一つ吐き、静かに言葉を継ぐ。

 

「この男はこのままだと君たちに殺されかねないし、何より……アレックス乗りに勝てる駒を用意できるとは思えない。だから私の派閥に来たのだよ」

 

「そ、そんな理由で!?」

トラヴィスの声が裏返った。

 

「そんな理由とは失礼だな」

グレイヴは涼しい顔で言い放った。

「君たちにとっても都合がいい話だろう? クロエ・クローチェの完璧な治療が出来るのはムラサメ博士くらいだ。その博士の力を、私を通じて借りられるのだぞ。……むしろ感謝して欲しいくらいだ」

 

 ヴィンセントは父に向き直り、小声で囁く。

「父さん……これ、俺たち、感謝すべきなのかな……?」

 

「馬鹿言え! まだ爆弾は外すな」

「え、まだなの!?」

 

 シリアスな状況なのに、どうしてもコントのような空気が漂ってしまう。

 だがそれもまた、グレイヴという男の“策士ぶり”を際立たせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムラサメ博士の研究室・医療区画

 

クロエ・クローチェは白いベッドの上に横たわっていた。

人工的に調整された筋肉の線が皮膚に浮かび、ところどころに無理な強化の痕跡が見える。

 

ムラサメ博士はカルテを片手に、静かに観察した。

 

「……なるほど。バスク・オムの研究所の実験体にしては、調整が甘めだな。重要臓器への侵襲も浅い。君の指示か?」

 

黒い影のように背後で立つグレイヴが、口元をわずかに吊り上げる。

 

「ええ。アレックスが登場した時点で、EXAMやHADESのような“付け焼き刃”は遅かれ早かれ不要になると分かっていました。

 ですから、あくまで筋肉面の強化に留めさせた。もし重要な臓器にまで手を加えていたら――あなたでも完璧な治療は難しいでしょう? その時、ゴップ元帥は私を影から“闇”に葬るでしょうからね」

 

「……自己保身に長けた男だな、君は」

 

「最高の褒め言葉です」

 

 軽口を交わす二人の横で、ヴィンセントが食い入るように問いかける。

 

「じゃ、じゃあ……クロエは治るんですね!?」

 

ムラサメ博士は眼鏡の奥の瞳を細め、穏やかに頷いた。

 

「ああ。時間はかかるが、元通りの健康体に戻れるだろう」

 

「……よかった……! クロエ……!」

 

ヴィンセントは目に涙を溜め、クロエの手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後 ― 別室

 

 トラヴィスたちは、依然としてグレイヴを睨んでいた。

 

「……君たちの目的は果たされた。ムラサメ博士が“問題ない”と太鼓判を押した。なのに、その目で私を射抜かれるのは心外だな」

 

「無理だな」

トラヴィスの声は低く鋭い。

「お前は“徹底追尾の裏側の住人”だ。光の住人ばかりのゴップ派閥に、お前の居場所があるとは思えん」

 

「だからこそ、だ」

グレイヴは揺るぎなく返した。

「確かにゴップ元帥の周りは輝かしい英雄ばかりだ。だが、連邦軍すべてがそうなれるか? 身内を殺されジオン憎しでバスクの下にいた者、敵ニュータイプに怯えて上層部の命令に逆らえず孤児を実験体にした者……そういう“灰色”の人間を排除して軍は成り立つか?」

 

「……」

 

「軍のトップとは、真っ黒な人間は処分すべきだが、灰色の人間は受け入れなければならない立場だ。ゴップはそのことを理解している。だが、ブレックスはどうかな?排除こそしないだろうが“近くには置きたくない”とするだろう。なら、私が受け皿となる。贖罪の意思を持ち、働く人間を差別しないと、軍内外に示すためにな」

 

「……だからお前が必要だと?」

 

「適任だろう」

 

 グレイヴは胸に手を当て、あたかも誇り高き軍人のように言った。

 

トラヴィスはしばし黙り込み、やがて鼻を鳴らす。

 

「はぁ……さっきから聞いてりゃ大層な理屈を並べてくれるがな……」

 

「む?」

 

「お前は灰色なんかじゃない。二度と取れない“真っ黒な汚れ”だよ」

 

「……酷い言われようだ」

グレイヴは苦笑し、肩をすくめる。

 

トラヴィスは続けた。

 

「だがまあ……必要だってのは分かる。お前の指示で潰された連中は、確かに酷い奴らだった。出世のために味方を撃つ基地司令、孤児を生贄にして罪悪感すら抱かない研究者……そういう奴を掃除する人間も必要なんだろう」

 

 その「孤児を生贄に」という言葉で、トラヴィスの目は鋭く光り、グレイヴを睨みつけた。

 

 グレイヴはその視線を正面から受け止め、静かに答える。

 

「……お前も、か。忘れるな。あれは軍上層部の命令だった。敵のニュータイプに勝てる兵が必要だった……ただ、それだけのことだ」

 

 ――灰色か、真っ黒か。

 答えは誰にも下せない。

 

だがグレイヴは、今日もまた処分されずに“ギリギリ”を生き延びていた。

 




以後の連邦の裏仕事やら元バスク派閥だが、酌量の余地ある連中だったり、スレイヴ・レイスみたいに元犯罪者みたいな経歴の連中はグレイヴのところで働いてもらいます。

ブレックス達からは好きになれない味方として嫌われてるが、有能な悪役なので切り捨てられないポジションです。
原作でもグレイヴの政治的出世のためにスレイヴ・レイスが使われたと説明されましたが、漫画版見る限りでは処理しなければならない裏切り者を処理してた面もあったようなのでこんな落とし所にしました。

これで、ペッシュとスレイヴ・レイス編は完結です。
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