ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
本編
第零話: マチュ・運命の分かれ道
の物影を確かめる の先です。
2話を今日の22:00に投稿します。
第1話: マチュvsジオン
遅れに遅れ、ようやくジャンク屋の裏格納庫に飛び込んだ時、マチュは肩で息をしていた。
「おせぇっ!!あと数分だぞ!何してやがった!」
待ち構えていたジェジーの怒鳴り声が格納庫に響き渡る。
「す、すみません……でも途中で……」
「言い訳はいい!さっさと乗れ!こっちはフィールド申請通しちまったんだ、今更キャンセル効かねぇんだからな!」
「はいっ!」
マチュは慌ててパイロットスーツに着替え、機体の元へ走る。
ジークアクスのハッチが開かれ、パイロットスーツのまま滑り込む。
ケーンがコクピット前で「推進剤の補給も終わってる。すぐ行けるよ!」
慌ただしいまま、機体はコロニーの外壁ロックの前に。
(はぁ……なんとか間に合った……)
だが気は抜けない。出撃直後からフィールドへの移動開始。
コロニーの外壁を沿って進むルートだ。
視界いっぱいに広がる星の海。その合間に、コロニーの影がくっきりと横たわる。
ジークアクスは滑るように進む。
その時だった。
(……ん?)
影の中――一瞬、何かが光った。
輪郭がわずかに浮かんだ。デブリにしては大きい。
(……なに? あれ……)
マチュの手が無意識に操作パネルへ伸びる。ズームをかけようとした。
『世間知らず!何やってんだ!?フィールド行きが遅れるぞ!』
ジェジーの怒鳴り声が通信越しに飛び込んでくる。
「マチュ!ドウシタ!?」
ハロの声も重なる。
マチュは迷った。見逃せない光景だった。
"物影を確かめる"
マチュのジークアクスは、コロニーの外壁に沿って慎重に進んでいた。外壁の影に漂う不自然な気配が、胸の奥をざわつかせる。
だが、その疑問を振り払うかのように、カメラが捕らえた映像が答えを突き付けてきた。保護色シート。だがズームしたカメラが捉えたのは、そのシートを掴む、モビルスーツの腕だった。
そのとき、通信機からジェジーの怒声が飛び込んできた。
「世間知らず! 時間が無いって言ってんだろ!」
マチュは眉をひそめ、即座に怒鳴り返す。
「黙ってて!……ジオンのモビルスーツがいる!」
口にしてから、自分で驚いた。(なんで私“ジオン”だって分かったの……?)
直後、無線が割れて不協和音のような声が重なり合う。
「バレやがったな」
「仕方ねえ、殺すか」
「やめろ! 馬鹿ども!」別の声が鋭く制止した。「命令はクランバトルの後、消耗したシイコ・レイの捕獲、あるいは抹殺だ!」
「知るか。待たされすぎてイライラしてんだよ」
「そうそう……お前ら実況のパイロット紹介見たろ?あの“マチュ”って奴。顔はヘルメットで隠れてるけど、スーツ越しの身体つきがいいじゃねえか」
「機体を捕まえたら、中身のパイロットは好きにしていいんだろ?どうせ銃殺確定の機密に触れたやつ何だからな」
言葉は下卑ていて、吐き気を催すほどだった。だがそれは、彼らが本当に正気を欠いている証だった。セリーヌ・ロムによる実験で精神を削られ、もともと死刑囚だった犯罪者がさらに歪められた。命令など聞く耳を持たない。
保護色シートが吹き飛ばされ、十の影が姿を現す。先頭にゲルググ・カスタム、その後ろに九機のプロトタイプ・キュベレイが広がり、背部ラックからファンネルが解き放たれていった。
マチュは息を呑む。
(十対一……勝てるわけない!)
ジークアクスは全力でスラスターを噴かし、逃走へと舵を切る。しかし、これまでクランバトルで相手してきた連中とは訳が違った。ファンネルの群れが四方から襲いかかり、バルカンとハンド・ランチャーが雨のように火線を描く。さらに両腕部からメガ粒子砲が閃光を走らせ、間一髪でかわした機体の装甲が灼け焦げる。
「くっ……!」
ジークアクスは翻り、躱す。だが回避に次ぐ回避で、攻撃の余地など一切ない。操縦桿を握る手が汗ばみ、喉の奥で息が荒くなる。
(……シュウジ!)
心の奥底から名を叫ぶ。すると、空間そのものが震えるような感覚が返ってきた。ニュータイプの感応――。
「マチュ!」
遠くから、強い念が返ってきた。赤い閃光が宙域を駆ける。シュウジの赤いガンダムが、スラスターを灼き切らんばかりに吹かし、最速でマチュの座標へと向かう。
だが、まだ間に合わない。
シイコとポカダは、試合会場で待ちぼうけを食らっていた。ゲルググ・マグネットコーティング仕様に身を預けるシイコは、不意に眉をひそめる。
「……これは……バイトさん……?」
次の瞬間、心の中に悲鳴のような声が流れ込んできた。
「ジオンに……襲われてる!?」
シイコは息を呑み、隣のポカダへ振り返る。
「はあ!? この中立コロニーの目の前でジオンが軍事行動だと!?」
ポカダの怒声が響いた。シイコの瞳には、すでに迷いはなかった。
マチュの胸は、冷たい殺気の中で早鐘のように打った。プロトタイプ・キュベレイのファンネルが空間を切り取り、薄い青い軌跡を描いて迫る。これまで遠隔攻撃端末を相手にしたことなどないーーあり得た未来では出来たことが今の彼女にはまだ出来ないーー自在に、執拗に、標的の「間」を突いてくる。
ジークアクスのシールドが、光の楔を何度も受け止める。マチュはその都度、パネルの表示を見ながら手早く出力を調整した。シールドを張り続ければ瞬く間にエネルギーを消耗する。回避に回れば、遠隔端末は追尾を緩めない。どちらにしても時間がない。
(――こいつら! 私を痛めつけて楽しんでる!?)
無線の向こうから、嘲るような笑い声が飛んだ。
「当たりめえだろ! 楽しむ前に弱らせとかねえと面倒くせぇからなぁ!」という刃物みたいな声が、あからさまに楽しげで血生臭い。
マチュの顔に怒りの炎が走る。視界の端で、ファンネルのうち二つが連携し、わざと間合いを詰めてくるのを見逃さなかった。彼らはしつこく、苛立たせるかのように小刻みに切り返し、ジークアクスに痛みを与える「遊び」をやめない。だがそれは、マチュを消耗させるための作為だった。
「こんなゲス野郎どもに……!」
マチュは声を絞り出すと、コックピット奥の頸部バルカンの射撃準備を指先で指示した。頸部の襟部分に組み込まれた二門のバルカンは、近距離の高速小口径弾を高密度で放つ。ファンネルの速度と軌道を読み取り、わずかな遅れを突いて狙いを定める。
引き金を引いた瞬間、二つの白い閃光が並んで走った。ファンネルの一つが斜めに弾かれ、もう一つは高速で回転したが制御を乱され、コロニーの影に向かって散っていった。二機のファンネルが、空のどこかに墜ちる。
一発の勝利が、思わぬ効果を生んだ。強化人間たちの笑いが、氷に変わる。
「見たか? ファンネルを撃ち落としたぞ?」
「こいつ……ニュータイプか?」──声が、先ほどとは違ってひび割れた。
マチュはその言葉に一瞬戸惑う。ニュータイプ──自分の中でふわりと意味が膨らむ。キラキラした何か、それが見える人々のことだと、漠然と学んだ言葉。だがそんなことに構っている暇はない。
「だったら何だっていうの!」(ニュータイプ? それって――ただ、相手の動きが少しだけ早く見えるだけじゃないの?)
無線から今度は憎悪の塊のような声が突き刺さった。
「だったら遊びは終わりだ。両手両足無くなるぐらいは覚悟しろよ。俺たちはニュータイプが……世界で一番憎いんだよ!」
それは脅しではなかった。宣言だ。かつては愉快犯のように振る舞っていた者たちが、いっせいに殺意を固め、戦術を変換した。包囲は瞬く間に硬さを増し、二人一組で連携する「マブ戦術」が展開される。片方が囮になり、もう片方が致命の一撃を試みる。その反復は緻密で、単純な力押しとは違う──訓練された技量と、死を恐れぬ狂気が噛み合っていた。
マチュは急速に状況を把握する。ファンネルが遠隔で観測を行い、彼らの動きを予測してくる。プロト・キュベレイの掌部ビームやハンド・ランチャーが狙いを細かく合わせる。メガ粒子砲が装甲展開で砲身を露出し、まるで重い楔を振り下ろすように撃ってくる。ジークアクスの回避機動は、まるで罠の中を走らされているかのようだ。
(回避、回避……でも消耗が追いつかない。ここで受ければ、ただの的になるだけだ)
冷静だと自分に言い聞かせる。だが神経は研ぎ澄まされ、全身が戦場のリズムを拾う。ニュータイプとしての微かな感応が、相手の「間」を読ませる。僅かな早合わせでビームをかわし、掌ビームの発射点ギリギリでスラストを切る。シールドの出力を瞬間的に集中させ、衝撃を局所に受け流す。
しかし敵の戦術はそれを上回る。二人組が組んで交互に攻撃をしかけ、回避のルートを潰していく。旋回するファンネルがジークアクスの背後から回り込み、別の機体が正面から圧を掛ける。見えないところで、腕が一本、脚が一本消える恐れが現実味を帯びる──相手は言葉どおり「遊び」を終え、確かな殺意で臨んでいる。
マチュの呼吸は浅く、だが確実に続いている。赤い閃光がどこか遠くを裂いているのが分かる──シュウジが、最速で向かっている。だが到着まではまだ時間が必要だ。マチュは自分の腕を信じるしかない。冷や汗が額を伝い、コックピットの小さな鏡に浮かぶ自分の顔は、いつもより少しだけ大人に見えた。
(シュウジが来るまで……持ち堪える!)心の中で短く祈る。外では、敵が次の波を構え、包囲の輪がさらに狭くなっていった。
【ニャアン視点】
今日はマチュたちのクランバトル。ニャアンは自室のベッドに寝転がり、スマホで実況配信を開いた。
画面に映るのは、開幕地点の戦闘フィールド。赤いガンダム──シュウジの姿が堂々と映し出されていた。だが。
「……あれ?」
マチュのジークアクスが、いない。
開始地点に並ぶはずの味方が、まだ到着していなかった。その一方で、敵のゲルググ二機はすでに揃って画面内に立っている。
「マチュ……どうしたの? シュウちゃんはもう来てるのに。このままじゃ、不戦敗に……」
不安を抱いた瞬間、映像が切り替わった。別角度のカメラが、コロニー外壁沿いを進むジークアクスを映し出していた。
「よかった……今ならまだ間に合う……!」
胸をなで下ろしかけた、その時だった。
ジークアクスが急に減速し、外壁に視線を向けて立ち止まる。
「え……何で止まって……」
外壁の保護色シートがひらりと剥がれ落ちる。そこから、隠されていた十機のモビルスーツが姿を現した。
「なっ!? ゲルググ!? なんでジオンのモビルスーツが……!」
十機のうち一機はゲルググ・カスタム。その威容を見て即座に理解できた。だが、残る九機は見覚えがない。奇妙に巨漢で、背部にラックを背負っている……新型だ。
次の瞬間、九機がジークアクスへ殺到した。画面に閃光が走り、わずか数秒で映像はぷつりと途切れる。
代わりに流れ続けるのは、荒れ狂うコメント欄だった。
『何でジオンのゲルググがいんだよ!?』
『しかも残り9機、新型じゃね?』
『やっぱソドンなんか入れたらダメだったんだよ! 行政は何やってんだ!?』
『無茶言うな。あいつらが開戦のときにどうやってコロニー調達したと思ってんだ。毒ガスで全滅させられるよりマシだろ』
『じゃあ今日のクラバどうなんの? 俺ポメラニアンズに全財産賭けたんだぞ!』
『普通なら払い戻しだけど、無かったら御愁傷様』
画面は炎上し続けるが、それ以上の情報は出てこなかった。
「……っ!」
ニャアンはスマホを握り締め、部屋を飛び出した。
廊下を駆け抜け、難民街を通り過ぎ、街の大通りへ。息を荒げながら走りながら、必死に思考を巡らせる。
(やばい、やばい、やばい! いくらマチュとシュウちゃんでも、あんなの……十機も相手にしたら勝てるわけない!)
一度しかジークアクスに乗ったことがない。それでも直感で分かった。あの新型達は強い。
一対一ならシュウちゃんなら勝てると思う。だが二対一なら苦戦、三対一なら敗北必至。十対二なんて、勝ち目はまるでない。
(でも、どうすればいい? カネバンの事務所に行けば、マチュに通信できるかもしれない。でも、私が何か言ったって……状況は変わらない! このままじゃ、マチュもシュウちゃんも死んじゃう!)
ただ闇雲に走っていた。そのとき、視界の端をかすめた赤いラインの入った建物。
一筋の光が目の前をよぎり、ニャアンは思わず立ち止まる。
(……私、何で止まってるの? この建物……別に何でも……)
だが、掲げられたマークを見た瞬間、閃くように思案が進む。
(そうか……これなら……!)
迷っている暇はなかった。ニャアンはその建物へと駆け込み、受付へ飛びつくように叫んだ。
「――あの! 欲しいものがあるんですけど!」
☆9評価ありがとうございます! morganさん