ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第3話

シイコは、ニャアンの叫びとザクの自爆が示した彼女の意図を瞬時に読み取った。狙いは単なる自爆や攪乱ではない。本人は認めないが優れたニュータイプである彼女は駆けつけたニャアンと戦場のマチュ、赤いガンダムのパイロットの関係を読み取り、何をすれば良いか思考する。

 

思考が一つに定まると、シイコは即座に通信回線を引いた。相手は予想どおり、モスク・ハン博士の回線だ。

 

「モスク・ハン博士。私の夫から通信が届いたのなら、こちらからも飛ばせる距離にいるということですね?」シイコは抑えた声で訊いた。

 

「そうだが。一体何を──」

 

シイコは言葉を切らずに続けた。

「NT-1を、私の座標へ飛ばして欲しい。そう伝えてください」

 

回線の向こうで、一瞬の静寂。やがてモスクの周囲でざわつきが起きる。スタジオのように賑やかな雑音の中、誰かが低い声で呟いた。

「NT-1? 何だそれ……?」

 

かつて連邦にいた、モスクの反応は違った。彼はすぐに眉間に皺を寄せ、言葉を荒げる。

「NT-1を飛ばすだと!? 何をする気だ、君は!」

 

シイコは冷たく答えた。

「飛ばしてくれなかったら、ドミトリーは私を見捨てたことになります。よろしくお願いします。」

 

それだけ言うと、シイコは通信を切った。回線を繋ぎ直し、今度は隣のポカダに向けて打電する。

「ポカダ、そういうことだから、付き合ってくれる?」

 

ポカダの声が苦笑混じりに返る。

「はあ……全く、シイコ。ジオンに喧嘩を売るつもりかい? そんな急拵えの“あんたの全力”に応えてくれない機体で?」

 

シイコは肩をすくめるように笑みを浮かべた。だがその目は鋭い。

「この子じゃ、勝つのは無理よ。だけど時間稼ぎはできる。その間に、来るわ。私の“全力”に応えてくれる子が。」

 

ポカダは一拍置いてから、ぶっきらぼうに吐き捨てる。

「ったく……。もし死んだら、連邦軍に保証金よこさせるんだからな!」

 

シイコはきっぱりと言った。

「いいわね。どっちかが生きていたら、ちゃんと払わせる。」

 

 

 

――その機上で、シイコは静かに小さな告白を口にした。

「ねえ、ポカダ。私、わがままを止めるわ。」

 

ポカダは思わずブレーキ代わりのエンジン出力を上げ損ねたように、驚いた声音で返す。

「はあ!? 手ぇ抜いて戦ってたのかい?」

 

シイコは俯きもせず、淡々と続ける。

「困らなかったからね。私たちが出た戦場で、私より強い人なんて味方に三人しかいなかったし。だから私が出た後の戦場で死人なんて出さなかったし」

 

ポカダの胸中で、短い熱い何かが弾ける。――(一度言ってみたいわそんなセリフ!)と、心の隅で呟くのを我慢するのに必死だった。外見には出さず、ぶっきらぼうに続ける。

「そいつは……図々しい自慢かもしれないが、分かった気がするよ。あんた、本気出すんだね?」

 

シイコの瞳が、かすかに揺れた。

「ニャアンって娘は命をかけて友達を助けに来た。私がわがままを止めれば、あのザクを落とさせることもなかった。まあ、あの娘は脱出できたけど──戦争が始まっても、そんな言い訳はしたくないのよ。」

 

ポカダはふうと短く息を吐き、機内に漂う油と金属の匂いを嗅ぎながら相棒の覚悟を噛みしめた。言葉は少なかったが、その声には諦めとも納得ともつかぬ覚悟がこもっていた。

「わかった。なら、見せてもらおうじゃないか。連邦最強のパイロット、アムロ・レイのマブの本気の実力って奴をさ。」

 

シイコは微かに口角を上げた。それはいつもの子供じみた勝ち誇りではなく、戦場でしか生まれない冷たい希望のような笑みだった。彼女のニュータイプとしての鋭敏な直感は、今や仲間を守るための刃に研がれている。

 

外壁が近づく。赤い点滅が散る包囲網の向こうで、ニャアンの叫びとマチュの影が踊る。シイコとポカダは互いに最後の一瞥を交わすと、アクセルを深く踏み込んだ。二人のゲルググは、炎と残骸の入り混じる宙域へと突っ込んでいった。時間を稼ぎ、そして――運命を変えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シュウジが……せっかく助けてくれたのに! なのに、生き残る道が見つからない!)

マチュは歯を食いしばり、コクピットの中で震える指を必死に押さえ込んでいた。

 

敵の動きはあまりにも鮮やかだった。まるで高度なプレイヤーが紡ぐ戦術ゲームのように、彼らは自分を追い詰めてくる。孤立した時には痛めつけて仲間を呼ばせ、援軍が到着する寸前にダメージを与える。そして、駆けつけた仲間をも“動けない自分を庇わせる”ことで弱らせる。

ゲームだったら――絶賛して称賛すらしたかもしれない。だが。

 

(現実で自分がやられるとしたら……無茶苦茶イラつく!)

 

「シュウジ! なんか、逆転の切り札ないの!?」マチュは焦りを隠さず叫んだ。

 

赤いガンダムのコクピットから、荒い息が返る。

「ごめん……ビットは落とされて、もう……ハンマーとビームサーベルしか残ってない。」

 

「盾は私が使ってるもんね! ほんっとに……こいつら!!」

 

「でも……僕たちはまだ死なない……と……ガンダムが言ってる。」

 

「えっ? それってどういう――」

 

その時だった。ジークアクスの通信ランプが点滅し、割り込む声が響く。

 

『マチュー! 拾って!!』

 

「……ニャアン!? 拾ってって、どこにって……まさか、そのザク!?」

 

次の瞬間、一機のザクが包囲網を突っ切ってきた。挙動はぎこちなく、戦場に似つかわしくない動き。それでも獣のような必死さで致命傷を避け、敵機の間を縫う。そしてコクピットが開き、パイロットが投げ出されるように飛び出した。無人となったザクは、そのままプロトタイプ・キュベレイに突進していく。

 

「くっ!」

マチュはジークアクスの左手を伸ばし、宇宙空間に浮かぶ人影を掴み取った。抱き寄せるようにしてコクピットへ滑り込ませる。

 

「な、なんでこんな無茶を……!?」

 

「ごめん、後で! 通信貸して!」

狭いコクピットに転がり込んだニャアンは、マチュの制止も聞かずに機器を操作する。震える指で周波数を切り替え、国際救難チャンネルを開いた。

 

「――私はニャアン! 連邦軍の志願兵です! ジオンに襲われています! 助けてください!」

 

真空の戦場に、その声が鮮烈に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!? 志願兵だと!」指揮官が声を荒らげる。

 

「馬鹿が!」強化人間の一人が嘲笑を混ぜて吐き捨てた。

「いもしねえ連邦に助けなんて求めてどうすんだ!」

 

別の強化人間が続ける。

「アムロ・レイが来てると思ってんじゃねえか? だったら可哀想にな。あいつらなら、俺たち強化人間の中でも上位のギュネイ・ガスの部隊が、十六機がかりで全滅させてるっての!」

 

「そうだ! 連邦の志願兵なんかいるかよ! 死にやがれ!」

 

嘲りと共にプロトタイプ・キュベレイのビームが二機のガンダムに殺到する――だが、その光を遮るようにデブリの群れが舞い込み、火線を防いだ。

 

「どういうつもりですか? ドミトリーへ通信は届いているはずですが……エントリーネーム【MAMAMAJO】さん?」

 

宙に浮かぶ影。その姿は、二機のガンダムを庇うように立つ1機のゲルググだった。

 

「白々しいわね。本名を知っているくせに。」シイコが冷ややかに言い放つ。「まあいいわ。どういうつもりかはこちらが聞きたいのだけど。あの白いガンダムタイプには、連邦軍の志願兵が乗ってると国際救難チャンネルで通信が響いたのに、あなたたちは何を撃とうとしていたの?」

 

「死にたくないから虚言を撒き散らしてるだけですよ。」指揮官は取り繕うように答える。

 

「本当です! 書類は出してあります! 私は連邦軍の志願兵のニャアンです!」

 

ジークアクスのコクピットの片隅で、マチュは隣にいる友の言葉に顔を青ざめさせ、悲鳴が通信に乗らないよう、両手で自分の口を塞いだ。

(ニャアン!? いったい何言ってるの〜!? 連邦軍の志願兵ってどういうこと〜!?)

 

シイコが指揮官を見据えたまま言い放つ。

「こう言ってるわよ?」

 

「だとしても、あの機体は元々我々のものです。まさか連邦が奪うつもりですか?」

 

「あんなのいらないわよ。なら、一旦戦闘を終了した後に機体を返させましょう。サイド6立ち会いのもとで。」

 

「なっ……!?」指揮官の顔に焦りが走る。(ジークアクスが欲しくて介入したのではないのか!? なら、何故邪魔する!?)

「何故サイド6を立ち合わせなければならないのです? 彼らは――」

 

「ここは彼らの領域よ?」シイコは静かに告げる。「そんな場所で好き勝手に殺し合いをしたのだから、彼らに説明するのは当然だと思うけど。私は人命、つまり白いガンダムが拾ってくれた志願兵を助けたい、あなた達は機体を取り返したい、サイド6は事情を話して欲しい、ならこの後の話し合いで全て片付けましょう?」

 

「ぐっ……」

 

「じゃあ、そういうことで。」シイコはあっさりと背を向け、ゲルググを二機のガンダムの方へと向けた。

 

強化人間たちがニュータイプ的思念で短く言葉を交わす。

(おい、分かってんな?)

(ああ。シイコ・レイを捕まえるのが任務だ。ガンダム二機も一緒なら、大手柄だろうよ。)

(そうそう。負けた連邦の志願兵が乗り込んだから何だってんだ……)

 

静かに、プロトタイプ・キュベレイが動いた。片腕を持ち上げ、掌のビームガンを背を向けたシイコのゲルググへ。

 

発射の刹那、シイコの機体は最小限の動きで回避した。まるで見えていたかのように。

 

「あら? 攻撃されたわ。」シイコが冷たく笑う。「私はジオンの奪われた機体を話し合って返そうとしたのに。……ポカダ、録画してるわね?」

 

「録画だけじゃなく、サイド6内に配信してるよ。」ポカダが答える。

 

「そう。ありがとう。配信はもういいわ。……あれをやるわ。」

 

「はいよ。」ポカダの声が少し楽しげに響く。次の瞬間、二機のゲルググは濃いスモークを散布し、戦場を覆った。

 

「目眩しか!?」指揮官が唸る。「そんなもの時間稼ぎにしかならんぞ!(……いや、それより配信だと!? くそっ! 作戦はどうする!? 強化人間どもが先走って攻撃するから……奴らに責任を押し付けて……今はとにかく!)」

 

「貴様ら! あの二機のガンダムとシイコ・レイだけは確保しろ! 別のゲルググは落としても構わん!」

 

「言われなくてもそうするっての。」強化人間が嘲る。「ほら、煙が晴れるぜ……」

 

霧散していくスモーク。その奥で、緑の双眸が鋭く光った。

 

「はあ……?」強化人間が息を呑む。

 

一瞬のことだった。ワイヤーのようなものがプロトタイプ・キュベレイに絡みついたかと思うと、次の瞬間、緑の瞳を光らせた機体が背後に回り込み――ビームサーベルでコクピットを貫いた。さらに、もう一機へ向けてビームライフルが閃光を走らせる。

 

指揮官の目が見開かれた。

「馬鹿な……!? アレックスだと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークアクスの推進ノズルが低速巡航へ落ち、宇宙の冷たい静寂が機体の周囲に戻ってきた。赤いガンダムは片腕を痛々しく損ねたまま、辛うじて姿勢を保っている。ポカダのゲルググが一歩前に出て、二機を護る盾のように並んでいた。

 

ニャアンは肩の力が抜けたように、コクピットでぐったりと身を沈める。顔からまだ血の気が引いていて、やっと震えが収まったかのようだった。

 

「ニャアン! いったいどういうこと!?……志願兵って何!?」

マチュの声は怒り混じりに震えていた。耳に残る爆音と警告音が、なお声を荒げさせる。

 

ニャアンは慌てて耳を押さえながら弁解する。

「ご、ごめん。怒鳴らないでよ。コクピットの中だと反響して……」

 

マチュは声を少し落とし、詰め寄るように訊く。

「それで? どういうことなの、ニャアン?」

 

ニャアンは顔をしかめて言葉を選ぶように吐いた。

「だって、あの十機相手じゃマチュたち、殺されちゃうと思ったの。だから……私が連邦に志願書を出して、戦場に飛び込めば助けてくれるかもって考えたの。最悪、今回戦うはずだった二機を巻き込んで三つ巴にできるかなって……」

 

マチュはジト目を向け、感謝と呆れを浮かべて言う。

「ニャアンって……腹黒いところあるよね」

 

ポカダが肩を竦めて苦笑する。

「ったく。助けに来たと思ったら三つ巴にして生き残ろうって考えてたとは。最近のガキは怖いなあ」

 

助けに介入してくれたゲルググのパイロットの声が小さく聞こえ、ニャアンは顔を引き攣らせ、すぐに謝った。

「ごめんなさい。本当に、友達を助けたくて。郵便局に志願書を郵送してもらって、カネバンの事務所からザク盗んで――突撃しちゃったの」

 

「やっぱりあのザク、カネバンのだったの!?どうりで見覚えがあると思った」

 

ポカダは腕組みしてから、少しだけ感心したように言う。

「まあ、有効になるには連邦軍が受理してからなんだけど……私たちが介入する理由になって、先にあいつらから撃って来てくれたから、ファインプレーだよ」

 

赤いガンダムのコクピットで、シュウジが短く笑ったように呟く。

「ナイスだと、ガンダムが言ってる。おかげで助かった。ありがとう、ニャアン」

 

ニャアンは顔を赤くして俯き気味に答えた。

「いや、私もテンパるとワケワカになっちゃって……勢いで動いただけだから。上手くいってよかったよ」

 

マチュがすぐに話題を切り替え、厳しい視線を向ける。

「そ・れ・より! 加勢に行かなくていいの?!」

 

ポカダは首を傾げて聞き返した。

「加勢? 誰に?」

 

「シイコさんに決まってるでしょ! 二機落ちて残り八機だけど、一機じゃ無理じゃないの?」マチュは苛立ち混じりに言う。

 

ポカダが少し冷めた口調で答える。

「ああ。あんたらは十機にいいようにやられたからね。」

 

「何をー!」マチュが反論の声を上げると、ポカダは落ち着いて続けた。

「まあ聞きなよ。ジオンがわざわざ十機も部隊を潜ませたのに、何でクランバトルが終わるまで隠れようとしてたか、あいつらはシイコを捕まえるのが本命だったんだろ」

 

ニャアンが首を捻る。

「そういえば、何で?」

 

ポカダは視線を遠くの残骸に向けて低く笑む。

「簡単さ。仮に万全のシイコが自分の全力に応えられないゲルググに乗ってたとして、部下の強化人間が“勝てる”とは思えなかったんだよ。奴らの上司はね」(というかあいつ手ぇ抜いて戦っても連邦で上から4番目なのかよ。化け物集団め)

 

その言葉にマチュとニャアンは一瞬思考が止まった。目の前の女性は、シイコ・レイにとってあの9機は敵ではないと言ったのだろうか?

 

「その上、今は乗り換えてアレックスに乗ってる。私はジオンにほんのわずかばかり同情するね」

 

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