ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
指揮官の顔が硬直した。目の前で起きた光景は、彼の想像の範囲を超えていた——スモークが晴れたと思えば、今回の主目的のアレックスが現れたからだ。
「アレックスだと! どういうつもりだ! 連邦軍がこの戦場に介入するのか!?」指揮官は怒声を張り上げた。声には狼狽と動揺が混じる。自分の置かれた立場が一瞬で変わる危険性を嗅ぎ取っていた。
「失礼ね」
「これは拾ったのよ」
「はあ? 拾った? しかもシイコ・レイだと?」指揮官の声音はさらに鋭くなる。彼は外交と戦略の均衡を必死に守ろうとしていた。ここで連邦の名前が出れば、ザビ家の目に留まる——自分は切り捨てられる。そんな恐怖が、指揮官の舌を速くさせる。
「あなたたちジオン兵はクランバトルに割り込み、勝手に殺し合った。それを止めて盗まれた機体を返そうとした私までも攻撃してきた。だから仕方なく正当防衛しているだけ。」シイコは淡々と、しかし胸の中の怒りを押し殺すように告げた。
「だったらそのアレックスは何だ!?」
「だから拾ったの。宇宙を漂ってたのよ。運が良かったわ」シイコの声には嘲りも混じる。だが指揮官の内心は冷や汗でいっぱいだった。——そんなことはありえない、と彼は本能的に否定したい。しかし、問題は「ありえない」では済まされない現実だった。既に流れている映像がある。さっきの交戦の際、シイコが返還を主張している最中にジオンのモビルスーツが後ろから撃ち、シイコ・レイが落とされかけた――その瞬間が小さなクリップとして配信や断片的な通報に残っているのだ。視聴者や第三者の目には「ジオン兵が、返還を試みた無抵抗の相手を攻撃した」ように映っている。
そしてもっと深刻なのは別の危機だ。もしここで事がつかず、シイコを捕らえられず、赤いガンダムやジークアクスを奪い返せずに終われば――指揮官自身に残るのは責任だけだ。上層部に対して何を説明しても、失った戦果と取り戻せなかった重要機体の事実は消えない。ザビ家の顔色と利害を考えれば、『無能な回収を為さなかった者』は切り捨てられる。〈赤いガンダムとジークアクスを取り戻せないなら、俺の未来は無い〉という予感が、彼の胸を締めつけた。
(そんな訳にいくか……!)指揮官の頭の中で思考が暴れ回る。ここで迷えば、目の前の小さな証拠クリップは瞬く間に広がり、もっと大きな失点に変わる。判断は極端に傾いた。
「これは問題ですよ? いくら休暇中であろうと——」
「どんな?さっきのことは配信されてるのよ?あなたがジオンの上に泣きついたって現場の暴走ってことにされて、切り捨てられるだけだと思うけど」
(くそ!そんなこと分かってる!この作戦がザビ家のどちらが下したのか分からないが、どちらだとしても俺は切り捨てられる!ならばーー)
「やってやる!アレックスが何だ!」
カスタムゲルググがビームサーベルを抜き、アレックスへ突進する。シイコは構えを整え、アレックスのビームサーベルを抜き放して迎え撃った。刃と刃がぶつかるたびに、火花が散る。しかし、機体のパワー差は明白だった。圧倒的に勝るアレックスのパワーでシイコは冷静に押し込み、相手機の胴体へ強烈な一撃を与えようとする。
「悪いけど、カスタムゲルググ程度でこのアレックスに勝とうなんて……」シイコは静かに言い切る。だが指揮官は割り込むように叫んだ。
「今だ! 貴様ら! 俺ごと撃て!」
その声を合図に、残存する七機のプロトタイプ・キュベレイが一斉に位置を調えた。狙いは明白だ——アレックスと、その周囲のすべてを一挙に叩き潰す。両腕を展開し、砲身を整列させる。巨大なメガビーム砲の発射準備が整う。
「この!」鍔迫り合いの手を止める暇もなく、シイコはゲルググの胴を蹴り飛ばして距離を取った。足先から伝わる反動で機体が弾かれ、寸でのところでメガビームの照準をかわす。光の柱がアレックスの先をかすめる——だが奇跡的に命中は免れた。
爆炎が去った後、視界に残ったのは、無傷に見えるアレックスと、だがその目の前でビームサーベルを一本失ったゲルググの姿だった。味方の火力が友軍に被害を与えたのだ。もしシイコが蹴り飛ばさなければ、背後の味方の砲撃で指揮官自身が叩かれていたに違いない。
「どういうつもり?」シイコの声には怒りがこもる。復讐の炎を抱きつつも、そこには冷徹な判断が混じっている。
指揮官は唇を噛む。声は震え、しかし意志は強引だった。
「このまま帰っても、死ぬだけだ。貴様を捕らえられなければ、我々が死ぬならば——自分ごと攻撃させてでもお前を捕まえてやる!」
シイコは冷笑を一つ漏らした。「その特攻精神、ほんとに鬱陶しいわ」
「何とでも言え! 貴様さえ倒せるなら何でもしてやる!」指揮官の目は血走っていた。だが――その叫びが、本当に計算された戦術か、それとも破滅に向かう狂気か。周囲の緊張はさらに増し、戦場はいっそう不安定さを帯びていった。
ジークアクスは低速航行を続けていた。二人を護ったポカダのゲルググは、三人を安全圏まで送り届けるとすっと舞い戻り、戦闘領域へと消えていった。宇宙は再び冷たい静寂を取り戻し、三人の間に残ったのは疲労と、図らずも生じた小さな安堵だけだった。
だが、その静けさは長くは続かなかった。マチュはふと隣の赤いガンダム――シュウジとの通信が途絶えていることに気づいた。コクピット越しにシュウジに呼びかけるが、反応はない。
「シュウジ?」
マチュは通信を直接つなげ、赤い機体のコクピット映像を転送させた。画面に映ったのは、頭部を赤く濡らす血が流れ、意識のないまま俯くシュウジの姿だった。
「シュウジ! 怪我してる! 早く病院に連れて行かないと!」
「マチュ! 無理だよ! 私やシュウちゃんは市民権ないから病院で診てもらえない!」
その言葉は、マチュの胸に鋭く突き刺さった。共に過ごした日々、自分がどれだけ恵まれた家庭にいたか――そんな当たり前が、いまは遠い。彼女は初めて、友達二人が抱える現実の重さを身をもって知る。
「じゃ、じゃあどうすれば……」マチュの声が震える。
「闇医者なら大金を積めば診てくれるかもしれないけど……」ニャアンの目は泳ぐ。
「大金って……無理だよ! だってスペースグライダー買うのにクラバの賞金、もう全部使っちゃったし!」
ニャアンの頭の中はぐるぐると回る。外部に助けを求める手は、もう尽きかけていた。薬局で買える鎮痛薬で凌ぐ程度では頭の裂傷は足りない。ジオンと真正面からぶつかった彼らを、サイド6にいるソドンに頼んでも得られるものは少ないだろう。
そのとき、ジークアクスのカメラが自動で外部映像を切り替えた。画面に現れたのは、白い軍艦――確かにソドンに似ているが、塗装は白く、艦形は連邦のペガサス級そのものだった。
「何あれ? ソドン? イズマコロニーの中から出てきたの? ジオンだから、あれらも敵なの?」マチュが訊く。
「違う。あれはペガサス級だよ。ジオンが持ってるのは連邦から奪った一隻だけ。つまり、あれは連邦軍の艦。」ニャアンが答えると、白い艦のハッチが開き、三機のアレックスが滑走して飛び出してきた。
一機は無言で遠方、シイコが戦っている地点へと突進していった。残る二機は、ゆっくりとこちらへと姿勢を変え、明らかに自分たちを注視している。
「ジオンから逃げ切れたと思ったら、今度は連邦軍! シュウジを早く闇医者に連れて行かなきゃ行けないのに!」マチュは慌てて、ジークアクスの装備を確認する。目の前の敵を倒すため、赤いガンダムのバックパックからビームサーベルを引き出そうとしたそのとき、ニャアンが必死に手を伸ばした。
「マチュ! 武器出しちゃダメ! 今はやめて!」
「でもあいつら、私たちを敵だと思ってるよ!」
「シュウちゃんを助けたいんでしょ! だったら敵対行動しちゃダメ!」ニャアンは機器に向かって冷静に指を打ち始めた。彼女は先ほどからの“志願兵”の嘘を装い、今度は正規の連絡を装って通信を張る。
ニャアンの声は震えながらもはっきりしていた。
「私はニャアン、連邦軍の志願兵です。シイコさんに助けられてここにいます。彼女はまだ戦闘中です。そちらへ援護をお願いしたい。できれば、こちらの赤いガンダムのパイロットは負傷しています。医務室へ運んでください!」
アレックスの一機から静かな声が返る。低く、慎重な問いかけ――ゼロ・ムラサメだ。
「認識番号は?」
「はい?」
ニャアンは凍りつく。ゼロの言葉は軍の手続きそのものを求める。
ゼロの返答はさらに厳しくなる。
「軍籍があるなら認識番号があるはずだ。照会してやるから、早く言ってくれ。こちらも君たちの立場を早く知りたい。」
「あの……さっき志願書を郵送したところで……」
「はあ? じゃあ君はサイド6の住人なのか?」
「いや、私、難民で……」
ゼロの驚きの吐息が通信を通じて伝わる。難民がクラバに出て、ジオンの新型に乗り込み、しかも連邦軍に志願している――話があまりにも筋書きから外れているのだ。
そして、冷たく突き放すような声が響いた。
「……認識番号が分からないなら艦には入れられない。まずは君たちの素性と目的を話してもらう。」
ニャアンはたじろぎながら状況を説明しようとするが、マチュが深く息をついて、画面に向かって大きく身を乗り出した。彼女は赤いガンダムのビームサーベルを思い切り他所へ放り投げると、両手を挙げて通信に吐き出した。
「もういい! 私はニャアンに投降します! つまり私は連邦軍の志願兵、ニャアンの捕虜! で、あのガンダムに乗ってるパイロットは赤い彗星じゃない! 怪我してる捕虜がいるんだから、早く医者に診せて!」
艦載機の周波数に静寂が落ちる。やがて、別のアレックスから若い声が柔らかく響いた。
「ゼロ、軍人としては訳が分からないかもしれないけど、多分言ってる通りです。この娘たちは友達を助けたくて、シイコさんに助けられて、怪我した友達を医者に見せたくてたまらないみたいです。」
カミーユ——彼は短いが力強い擁護を付け加えた。ゼロはしばらくの間、通信を通じて頭を抱え、ため息を漏らしたあと、ようやく言葉を返した。
「はあ……報告書に何と書けばいいかわからないが、分かった。そちらの赤いガンダムをホワイトベースJr.に運ぶ。それでいいな?」
「は、はい! お願いします!」ニャアンは声を震わせながら、しかし確かな安堵を覚えた。
ジークアクスの中で、マチュは小さく笑い、コクピットの映像に映るシュウジの額にそっと手を当てた。まだ油断はできない。だが、救護の一筋の約束が、いま彼女らの肩の荷を少しだけ軽くしてくれた。
格納庫の照明は冷たく、鋼鉄の床を白々しく照らしていた。
ジークアクスから降りたマチュとニャアンは、赤いガンダムのコクピットから運び出されるシュウジを見つめる。ストレッチャーに乗せられた彼は、まだ意識を取り戻さず、医療班に囲まれて通路の奥へと消えていった。
「シュウジ!」
マチュは思わず駆け出そうとする。だがその背中に冷たい感触が突きつけられた。
「動くな」
短く鋭い声。振り向がなくてもわかる。銃口が押し当てられている。
「な、何するの!?」ニャアンが青ざめた声を上げる。
「君も動かないでね」もう一人の男が彼女を牽制する。
「連邦って投降した捕虜に銃を突きつけるんですか?」
銃を持つ男は、低い声で名乗った。
「俺はこの艦の警備責任者、ダグザ・マックール中佐だ。甘すぎるエースどもが君たちに何を言ったかは知らんが――ジオンの新型に乗っていた君たちを自由にさせる気はない。大人しくするんだな」
もう一人の男――コンロイが肩をすくめる。「そういうことだ。悪いね」
マチュは歯を噛みしめるが、なおも言葉を投げ返した。
「シュウジの治療はしてくれるの?」
「それは保証しよう」
「ならいい。……で、私たちはどうなるの?独房行き?」
「君たちの立場を明らかにする。それ次第では、この艦から降りてもらう。」
マチュは鼻で笑った。
「宇宙葬ってやつ?あんた、警備責任者より暗殺専門の特殊部隊の方が似合ってるんじゃない?」
ダグザは微かに口角を上げた。
「奇遇だな。俺もそっちの方が向いてると思ってる」
その不穏なやり取りに割って入ったのは、別の落ち着いた声だった。
「やめたまえ、ダグザ中佐。」
格納庫の奥から現れた白髪混じりの男――テム・レイが歩み寄ってきた。
ダグザは眉をひそめる。「テム・レイ中佐。これは艦内の安全のための最低限の警戒です」
「お嬢さん二人に何ができると?それとも、こんな二人に制圧されるほど君たちは脆いのかね?」テムは薄く笑う。
「……あなた方の優先度を考えて言っているのです」ダグザは声を潜め、続けた。「この娘たちがあなた方に傷一つでもつければ、我々の能力を疑われ、護衛対象のあなた達は今以上に窮屈な生活を送る羽目になる」
「それは困るな」テムは軽く頷いた。「なら君たちが後ろに立っていればいい。ただし、銃は突きつけるな」
彼はマチュとニャアンへ向き直ると、柔らかい声をかけた。
「すまないね。シイコに助けられたんだろう? 今映像が流れてくるから、その映像を見せてもらおうじゃないか」
マチュはじっと男を見つめる。「あなたは……?」
「テム・レイ。彼女――シイコの義父だよ」
マチュの視線が自然と横へ流れ、格納庫の片隅に鎮座する赤いガンダムに吸い寄せられる。
「あの……あの赤いガンダムの大元を作った……?」
「そうだ」テムは静かに頷いた。「赤い彗星に奪われた機体を、また直接見ることになるとはな」
その目は、かつての情熱と後悔の入り混じった光で赤い機体を映していた。
ソドンクルーの運命は?
-
ジオン星人は皆殺し
-
生存ルート(あくまでこの戦闘のみ)