ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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2話目です


第五話: アルテイシアの演説

【場所:地球連邦政府ビル・私室応接間】

 

昼下がりの静かな応接室。

重厚なソファに深く腰を沈めた老人が、紅茶を片手に目の前の女性を穏やかに見つめていた。

 

「やあ……あなたは、ミライさんのご友人の方だね」

声の主、ゴップ提督が懐かしそうに微笑む。

「レイ夫妻の結婚式でお会いして以来ですね」

 

向かいに座る金髪の女性――セイラ・マスは、小さく会釈する。

 

「ええ。このたびは、突然の申し出にもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます」

 

ゴップは肩をすくめた。

 

「構わないとも。私はミライさんの父君に恩がありますからな。

ようやくこうしてお返しできて、少しほっとしておりますよ――セイラ・マスさん」

 

その名を口にした瞬間、セイラの目がわずかに鋭くなった。

 

「……やめましょう。その名では、なくてよいのです。

あなたはご存じでしょう? 本当の私を――アルテイシア・ソム・ダイクンを」

 

ゴップは一瞬だけ目を細め、静かに返す。

 

「ほう。てっきり、あなたはその名を名乗るつもりなどないのではと思っておりましたが」

 

「ありませんでした。……けれど、驚くべき話を耳にしまして」

 

ゴップが紅茶を一口啜る。

 

「どんな話ですかな?」

 

セイラは一瞬、視線を落としてから口を開いた。

 

「――私の兄、キャスバルが……生きていると。

そして、未来でまた……ろくでもないことをやらかすのだと。

彼の戦友だった人が、そう言いました」

 

ゴップは顎に手を当ててうなずく。

 

「……それは興味深い話ですな。しかし、それが直接、私のもとに来る理由にはなりません」

 

セイラは小さく頷いた。

 

「ええ。本題は、そこではありません。

ただ――その前に、どうしてもお聞きしておきたいことがあります」

 

「……何かな?」

 

「あなたたち“連邦”は、戦後のビジョンをどう描いているのです?」

 

ゴップは少し口角を上げて、老練な笑みを浮かべた。

 

「ふむ……それをあなたが知って、何になる?」

 

セイラの瞳が鋭く光る。

 

「……ダイクンの子が連邦の頂点に話を通しに来ているというのに、くだらない駆け引きをなさいますか?」

 

ゴップは、声を低くして笑った。

 

「これは失礼――ではお話ししましょう」

 

彼は語り始めた。

 

「まず、ザビ家には責任を取ってもらいます。

彼らは、やりすぎました。ギレン・ザビは今や、地球人類にとって“危険因子”でしかありません。

あれを排除せねば、地球の安全も未来もありはしません」

 

「そのうえで、我々はかつてのような圧政を繰り返すつもりもありません。

引き金となった幾つかの事件――港の順番を無視して事故を起こし、

スペースノイドに“掃除”させたこと。

隕石が接近していたのに何の通達もせず、多くの犠牲を出したこと。

ああいう恥ずかしい失策を、今の連邦でやれば即座にクビです」

 

彼の口調は、明快だった。

 

「ただし、完全にスペースノイドを“独立”させるわけにもいきません。

地球から空気や水を運ぶ以上、互いは不可分です。

ならば、“こちらの意図を理解しつつ”、スペースノイドに信頼される存在――

首相となる者がいればよいのですが……なかなか適任がいない」

 

その言葉を、セイラは逃さなかった。

 

静かに立ち上がり、胸に手を当てて告げる。

 

「――私が就きましょう。その“首相”に」

 

ゴップの目が細くなった。

 

「ほう……だが、認められると思いますか?

スペースノイドにとって、あなたはこれまで何もしてこなかった“血筋だけの女”だ」

 

セイラの声は静かだったが、そこには鋼のような芯が通っていた。

 

「構いません。

私をザビ家独裁体制を崩す“神輿”として利用してくださって。

――ルウム戦役でザビ家が投入した兵力を見れば、貧しさの原因は彼ら自身にもあった。

その事実だけでも、弾劾には足ります」

 

彼女の視線が鋭くなる。

 

「それに加えて――スペースノイドの代表を名乗っておきながら、各コロニーに溢れる難民を放置している。

生活インフラの崩壊にも手を打たず、子供たちが凍えるテントの中で眠っているというのに、

ザビ家はその金を、自らの“内乱”のための兵器に注ぎ込んでいる」

 

「戦前には、コロニー落としのために“アイランド・イフィッシュ”の住民――

二千万人の同胞スペースノイドを、毒ガスで虐殺した」

 

「……それでもなお、自分たちを“正義の解放者”と名乗るつもりなら――

私は、その欺瞞を、声を大にして暴く役を買って出ましょう」

 

ゴップはしばらく沈黙したのち、ゆっくりと微笑んだ。

 

「……あなたは父君とは違う。

だが、あなたもまた“宇宙の声”を背負うお方だ。

では――その言葉を、全宇宙に聞かせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【視点:ジオン一般市民 サイド3・ムンゾ市 喫茶店内】

 

店内に流れるのは、特別編成の臨時中継。

壁のスクリーンに、地球連邦軍総司令ゴップ提督の顔が映し出されていた。

 

「ザビ家は一年戦争において、地球に向けたコロニー落としで数億の命を奪った。

そして今なお、ニュータイプと呼ばれる者たちを兵器とし、

人類を選別・粛清するための“虐殺兵器”を開発していることが判明した」

 

客たちの間に、ざわめきが広がる。

スプーンをくるくる回していた男――市民Aが、隣の友人Bにぼそっとつぶやいた。

 

「……一年戦争で負けたんだしさ。連邦はさっさと引っ込んでりゃいいんだよ、今さら何を言い出すんだか」

「でも……虐殺兵器って言ってたよ? ただのモビルスーツじゃないって」

「どうせ嘘だよ。戦争を仕掛けたいだけさ。連邦はいつもそうだ」

 

男の声には、疲れたような冷笑が混じっていた。

 

「ここに至り、地球連邦はザビ家を“人類種の敵”として断定する。

よって、本日をもってジオン公国に対し宣戦を布告する」

 

「ほらな。言ったとおりだ」

Aが鼻を鳴らす。

「結局、また戦争だ。今度はこっちが先に挑発されたってわけか」

 

「だが誤解なきよう申し上げておく。

これはスペースノイドとの戦争ではない。

我々の敵は、あくまで“ザビ家”と、それを信奉する者たちである」

 

「……ザビ家がスペースノイドの代表でなくて、誰が代表なんだっての」

「そりゃ……まあ、もともとはジオン・ズム・ダイクンって人だったんだろ? 名前は学校で習った」

「それ、暗殺されたって噂あるよな。ザビ家がやったって」

 

空気が変わる。

あちこちのテーブルで、視線がスクリーンに集まり始めていた。

 

「ジオン・ズム・ダイクン――彼こそが、宇宙に生きる人々の声を代弁した指導者だった。

だが彼は、ザビ家によって命を奪われた。

本日は、その遺児が皆様にどうしても伝えたいことがあると申し出ている」

 

「アルテイシア・ソム・ダイクン。

彼女の言葉ならば、宇宙に住まう皆様にも届くはずです」

 

画面に映るゴップが静かに頭を下げ、横に歩いてその場を譲る。

背後から、ゆっくりと現れたのは――

白いスーツに身を包み、凛とした佇まいの女性。

 

「皆さま、どうか静かに耳を傾けてください」

 

ざわめきが止まった。

喫茶店の空調音すら気になるほど、店内が静まり返る。

 

「……まさか、本当に……」

Aが小さく呟く。

 

「アルテイシア……ダイクン……?」

Bの手から、スプーンが音を立ててテーブルに落ちた。

 

彼女の声は、柔らかく、それでいて揺るがぬ芯を持っていた。

 

「私の名は、アルテイシア・ソム・ダイクン。

サイド3、ムンゾ自治共和国の創始者――ジオン・ズム・ダイクンの娘です」

 

言葉が、スクリーン越しに静かに、しかし強く響いていた。

まるで、ずっと聞きたかった“本当の言葉”が、ようやく流れてきたような感覚。

 

「なあ……」

Aが小さく、誰にともなくつぶやいた。

「……俺たち、ずっと、間違ったものを信じてたのか?」

 

誰も、答えなかった。

ただ皆、画面の彼女を――彼女の言葉を、息を詰めて見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルテイシア・ソム・ダイクンによる「ザビ家弾劾演説」

 

皆さま、どうか静かに耳を傾けてください。

今ここに立ち、声を上げる機会を与えられたことに感謝いたします。

 

私の名は、アルテイシア・ソム・ダイクン。

サイド3――かつてムンゾ自治共和国と呼ばれたこの地に、自由と自治をもたらそうとした男、ジオン・ズム・ダイクンの娘です。

 

そして今日この場において、私は一人の人間として、また宇宙に生きるすべてのスペースノイドの代表として、声を上げます。

 

ザビ家によって偽られ、奪われた“理想”を、ここに正すために。

 

 

■ ザビ家による簒奪と暴虐

 

私たちの父、ジオン・ズム・ダイクンは言いました。

「人類は宇宙に出ることで、新たな進化の扉を開く」と。

 

しかしその言葉を最も醜く利用したのが、他でもない――ザビ家です。

 

ダイクンの死。

それは「病死」と伝えられました。

けれども、その直後に起きたザビ家の政権掌握、ダイクン派の粛清、そして私と兄キャスバルに向けられた暗殺の手――

 

誰もが知っています。本当は“暗殺”だったのだと。

 

彼らは父の理想を踏みにじり、ジオン共和国を“家族の王国”に変えてしまいました。

ジオンの名を語りながら、その本質はただの――独裁です。

 

 

■ 一年戦争という名の虐殺

 

ザビ家が引き起こした一年戦争を、正義の戦いだと信じている方もいるでしょう。

ですが、その内実はどうでしたか?

 

サイド2・8バンチ、アイランド・イフィッシュ。

あのコロニーには、2000万人のスペースノイドが暮らしていました。

 

それを彼らは、毒ガスで皆殺しにし、地球へと落としました。

 

“敵に打撃を与える”という名目のもとに、自らの民を、同胞を、まるで荷物のように扱い、廃棄したのです。

 

コロニーの住民を虐殺し、その亡骸ごと地球に叩きつける――

 

それが、あなたたちザビ家の“戦い”なのですか?

 

 

■ 奪われた理想と、歪められた未来

 

「連邦は腐敗している、だから立ち上がるのだ」

ザビ家はそう言いました。

 

では問います。

 

本当に、スペースノイドは貧しかったのですか?

 

ではなぜ、ルウム戦役に2600機ものザクが投入できたのですか?

 

なぜ、巨大な戦艦と兵器が量産され、強化人間の研究が進められていたのですか?

 

それらの資金と資源があれば、どれだけの命が救えたでしょう。

子どもたちに、安全な食事と教育を与えることができたはずです。

 

それなのに、ザビ家は――

私たちの“未来”を、ただの“兵器”に変えたのです。

 

 

■ 宣言――ザビ家を拒絶する、すべての者たちへ

 

ザビ家よ。

 

あなたたちは、父の志を裏切り、民を道具とし、数えきれない命を奪ってきた。

そんなあなたたちが、“スペースノイドの代表”などと、よくも口にできたものです。

 

私たちは、もう決してあなたたちを許さない。

 

宇宙に生きるすべての人々が、真の自治と尊厳を手にする未来のために。

 

私はここに誓います――

 

ザビ家の支配を打倒し、父ジオンが夢見た“調和と進化”の時代を取り戻すために、

私は闘い続けます。

 

たとえ、それがどれほどの困難であろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【視点:ジオン市民たち サイド3・ムンゾ市 公民館モニター前】

 

小さな街の公民館。

週末の討論放送や娯楽番組が流れるはずのホールには、今日は連邦からの“弾劾演説”中継が流れていた。

 

人々は誰も口を開かず、ただモニターを見つめていた。

壁に掛けられたスクリーンには、白いスーツに身を包んだ若い女性――アルテイシア・ソム・ダイクンが映っている。

 

『本当にスペースノイドは貧しかったのですか?』

 

その言葉に、場の空気が一瞬だけざわめいた。

声を荒げたのは、隅の椅子に座っていた中年の男だった。

 

「貧しかったさ! あんたみたいなお偉いさんの一族は知らねえんだろ!

 税金は増える一方! 地球からの輸入品は年々高くなるし、子供の学費すら払えねえんだよ!」

 

周囲の人間も、うなずく者は多かった。

その怒りは“セイラに対して”ではなく、むしろ宇宙の苦しさを聞いてもらえたことへの噴出だった。

 

だが、セイラの声は続いた。

 

『ならば、なぜルウム戦役で2600機ものザクが動員できたのですか?

それだけの資金と資源があれば――どれほどの暮らしが変わったでしょう』

 

男の口が止まった。

 

「……確かに……」

ぽつりと、誰かが呟く。

 

「俺らの暮らしは苦しかった。けど……その金は……戦争に使われてたんだな……」

 

誰もそれまで口にしなかったことだった。

皆、心のどこかでわかっていたが、口に出すのが怖かったのだ。

 

モニターの彼女は、まっすぐにこちらを見つめていた。

その瞳には“怒り”よりも、“悲しみ”が宿っていた。

 

『ザビ家は――宇宙に生きる人々の未来を、戦争の道具に変えてしまった』

 

男は黙った。

誰も声を上げなかったが、誰も否定もしなかった。

 

それが、この街の小さな変化だった。

 

 

【その後 通りの裏路地 市民AとB】

 

「おい、さっきの……あれ、本物のダイクンの娘だと思うか?」

 

「さあな……でも、あんな目して嘘つけるか?」

 

市民Aは振り返って、辺りを警戒する。

周囲には監視用のカメラがある。声を荒げれば、すぐに“あの人たち”が来る。

 

「……言葉に出すのはまだ怖えよな」

「うん。……でも、なんつーか……変わったよな。空気が」

 

彼らは声を上げてはいない。

旗を掲げて通りを歩くこともない。

 

だが、それでも――確かに心のどこかにヒビが入った。

 

ザビ家という巨大な壁に、ほんの小さな、それでも確実な――疑念という名の亀裂が走ったのだ。

 

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