ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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だいぶ独自解釈があります


第8話

【ホワイトベースJr./第1格納庫】

 

艦内を満たすのは、焦げた金属とオイルの匂い。

整備クレーンのアームが静かに動き、赤いガンダムの脚部を吊り上げていた。

その後方、床に腰を下ろしているのは――マチュとニャアン。二人ともガンダムを治していくテム・レイ博士の背中を見つめていた。

 

「自称志願兵と、自称捕虜が、なんで格納庫でのんびりしてるんだ?」

 

低く通る声が響く。

振り向けば、連邦軍の制服に身を包んだ男――ホワイトベースJr.艦長、ブライト・ノアが立っていた。

 

ブライトは整備台に上がりながら、後方で控えていた女性のエコーズ隊員に尋ねた。

「監視役。説明してもらおうか」

 

エコーズ隊員は、少し困ったようにタブレットを見ながら答える。

「え〜とですね。マチュと名乗る少女の方――本名は“アマテ・ユズリハ”だそうです。

 サイド6の官僚の娘で、身分的に“捕虜扱い”にするのはどうなのかと。手錠を嵌めるわけにもいかず……」

 

「官僚の娘がジオンから新型ガンダムを盗んでクランバトル、ね」

ブライトは短く鼻を鳴らす。

「まるで軍の規律試験を踏みにじるために生まれてきたような娘だな。――で、理由は?」

 

エコーズ隊員は苦笑を浮かべて肩をすくめる。

「さあ……ただ、今は“テロリストを装ったジオン軍が、我々アマラカラ商会所属の艦を襲撃した”という報道になってます。

 つまり、彼女たちの扱い次第で、国際世論がどう転ぶか分かりません。慎重を要します」

 

ブライトは額を押さえた。

「ダグザ中佐とコンロイ副隊長はどうした?」

 

「嫌ですねぇ」エコーズ隊員は苦笑いを浮かべる。

「奪還した〈ソドン〉――いえ、“元ホワイトベース”の操舵任務に就きました。

 艦内にジオン兵が残っていないか確認してから、運行を始めるとの報告が行っているはずですが?」

 

「隊長と副隊長が揃って行ったとは聞いていないがな」

ブライトの眉がぴくりと動いた。

(護衛対象の安全が確認された以上、文句は無いが面倒事を押し付けて出て行ったな)

 

そのとき――。

 

「機体帰還――整備と鹵獲機体の調査準備!」

管制席の通信士が声を上げた。

格納庫のシャッターが開き、無駄のない動きで一機の白い機体が両手に荷物を抱えて帰還してくる。

 

アレックス――その片腕には、要所に連邦系技術が加わっているゲルググ。

もう一方には、鹵獲したプロトタイプ・キュベレイをワイヤーで牽引していた。

 

「……シイコ・レイか」

ブライトは呟き、整備班が駆け寄るのを見送った。

 

ハッチが開き、コクピットの中からシイコが姿を現す。

その瞬間――整備台の脇で待っていたアルレットが弾かれたように駆け寄った。

 

「シイコさん!無事で良かったです!」

彼女の顔は涙ぐんでいた。

 

シイコは苦笑しながら肩をすくめる。

「勝手してごめんね。もうあんな無茶しないからさ」

 

「ホントですよ!」アルレットが頬を膨らませる。

「アレックスを“私の座標に飛ばせ”なんて、無茶まで言って……!」

 

「でも上手く乗り換えられたわ。ありがとう。

 流石、機械の声がわかるニュータイプね。ベストなタイミングだった」

 

「いや〜……」アルレットは照れながら頭を掻いたが、すぐにむくれる。

「って、誤魔化されませんよ!最初からアレックスを持って行ってくれたら、みんな心配しなくて済んだんですから!」

 

シイコは苦笑しつつ、格納庫の片隅を指差した。

「あはは……まあ、それはともかく。――あの機体に乗ってた子、知らない?」

 

視線の先、プロトタイプ・キュベレイのハッチがゆっくりと開く。

煙の中から、金髪の少女が降り立った。

目の焦点が定まらず、まるで夢の中を歩くようにエコーズ隊員に囲まれている。

 

「NT-001――という名前しか分かってないの」

シイコが静かに続けた。

「ジオンの強化人間らしいけど、マリオンの時みたいに……あなたの知り合いじゃない?」

 

アルレットは少しだけ黙り込み、顎に手を当てる。

「フラナガン機関の被験者全員を知っているわけじゃありませんが……う〜ん。すれ違ったことはあるかもしれません。でも、名前までは――」

 

その瞬間――。

 

「レイラ! 生きてたの!?」

 

甲高い声が格納庫に響いた。

テム・レイ博士の後ろで黙って修理の様子を見ていた黒髪の少女――ニャアンが、突然走り出した。

整備員やエコーズ隊員を押しのけ、一直線に金髪の少女へと駆け寄る。

 

振り返った少女――NT-001の表情がわずかに揺れた。

青い瞳が、過去の記憶を掘り起こすように震える。

 

「……あなた……誰?私を……知ってるの?」

 

その声は掠れて、しかし確かに“人間の声”だった。

 

格納庫の空気が一瞬、止まった。

ブライトも、アルレットも、シイコも、誰も言葉を発せない。

 

沈黙を破ったのは、アルレットの小さな呟きだった。

「……とりあえず、名前は“レイラ”でいいみたいですね」

 

シイコは微笑み、静かに頷いた。

「そうみたいね。――ようやく、少しずつ真実が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ホワイトベースJr./医療室】

 

白い光が壁に反射して、部屋全体を淡く照らしている。

電子音が規則的に鳴り、空気は無機質だった。

ベッドの上、金髪の少女――NT-001。

コードが細い手首と首筋に繋がれ、呼吸のたびにモニターが脈を描く。

 

向かいに座るのは、ゼロ・ムラサメとドゥー・ムラサメ。

二人の間に漂う空気は、軍の尋問室に似ていたが、どこか静かだった。

ゼロの声が低く響く。

 

「質問を始める。……君はどこで、誰の手で強化を受けた?」

 

NT-001は少しだけ視線を落とし、長く呼吸を整えた。

その声はかすれているが、はっきりとした意志を帯びていた。

 

「……“セリーヌ・ロム”。あの人の研究所で。

 毎日、薬を打たれて……光の部屋に入れられてた。

 “感情を殺せ”って、何度も言われた」

 

ゼロは無表情のまま、テーブルに指を置いた。

ドゥーが静かに記録端末を起動する。

 

「訓練や実験の内容を覚えているか?」

「心拍を落とす訓練、思考波を“読む”練習。……でも、一番怖かったのは身体の方。

 筋肉や臓器を……人工のものに“置き換えられた”。

 “死なない兵器を造る”って、笑ってた。

 私はその……“最初の試作”だったみたい」

 

その言葉に、ドゥーの胸がかすかに痛んだ。

(……僕と同じだ)

無意識にそう思って、しかし次の瞬間、彼女は首を横に振った。

 

(いや、違う。僕は自分から望んだ。

 戦うために――真のニュータイプになるために、救おうとしたゼロ達の善意を蹴ってあの手術を受けた。

 けど彼女は……選ばされもせず、ただ“造られた”。

 同じに考えるなんて、彼女に失礼だ)

 

ゼロは無言で彼女の脳波データを確認し、僅かに眉を動かす。

「脳の神経結合は不安定だ。記憶をいじられた痕跡がある。……思い出せるか?」

 

NT-001は首を振った。

「わからない。……でも、格納庫で“レイラ”って呼ばれた時、

 初めて呼ばれた気がしなかった。

 どこかで……前にも、そう呼ばれたような気がしたの」

 

ドゥーがそっと目を細める。

ゼロは淡々と問いを続けた。

「“ニャアン”という少女を、覚えているのか?」

 

「顔も、声も思い出せない。けど――“あたたかい”って感じた。

 ……何か、懐かしいものを、思い出しそうだったの」

 

沈黙が落ちた。

ドゥーの端末に走る心電データの線がわずかに揺れる。

 

「……思い出そうとすると、頭が痛む。

 でも、覚えてる。空が割れて……地球に、落ちたって。

 それが、最後の記憶」

 

「サイド2《アイランド・イフィッシュ》……か」

 

「その名前も、今、聞いて思い出した気がする。

 ……たぶん、そこにいた。あの“事件”の前まで」

 

ゼロは端末を閉じ、ドゥーを見やる。

「ジオンは、ニュータイプの実戦応用を急ぐあまり、“人格”を削ぎ落とす手法に走った。

 ……あの女、セリーヌ・ロムも例外じゃない」

 

ドゥーは苦笑を浮かべた。

「皮肉だね。連邦でも、同じことをしようとした人間がいた。

 でも――ムラサメ博士は違った。ゼロの身体を“兵器”に変えても、

 心だけは“人間のまま”に残した」

 

「博士のやり方は、命を削る類のものではなかった。

 彼にとって重要なのは、前線で戦う娘が死ななくて済むように、“ジオンのニュータイプに対抗できるパイロット”を得ることだったからな」

 

「……彼女が受けた施術は、ドゥー。君の受けたものに近いんだろうな」

 

ドゥーは肩をすくめ、苦い笑みを浮かべる。

「うぐ……重々反省してます。もう嘘ついて逃げたりしないから……」

 

レイラが小さく首をかしげる。

「あなたたちも、強化人間なの?」

 

ゼロが軽く笑って答える。

「ああ。僕もドゥーも“ムラサメ”って姓だろう? 研究所の名前なんだ」

 

ドゥーが手を上げて、少し照れくさそうに言う。

「はい。ムラサメの名前をもらったくせに、先輩達に救われるチャンスをもらえたのに、普通の人間になるなんて嫌だって嘘ついて、

 悪い研究者のところに逃げた悪い子は僕です……」

 

ゼロはため息をつきながらも、口元にかすかな笑みを浮かべた。

「もう気にしてないって。……まあ色々あったが、今は定期的な調整もしなくていい。

 パイロットをやってるのも、僕たち自身の意思だ」

 

その言葉に、レイラは小さく目を見開いた。

しばらく何かを噛みしめるように黙り――やがて、微かに笑った。

 

「……あなたたちは“戻れた”のね」

 

ドゥーが小さく微笑む。

「時間がかかったけど、ね。

 でも君は違う。戻るんじゃなく、“取り戻す”んだ。

 本当の自分を」

 

レイラの瞳がわずかに揺れた。

それは恐怖でも悲しみでもなく、確かな“希望”の光だった。

 

「……取り戻せる、かな」

 

「できるさ。君の中に、まだ“誰かに呼ばれた記憶”が残っている限りはな」

 

医療室の静寂を破るように、モニターの音が小さく変調する。

レイラはベッドの上でゆっくりと目を閉じ、微かに呟いた。

 

「……でも、記憶を取り戻せたとしても、私は――セリーヌ・ロムの“調整”なしでは長く生きられないの」

 

その言葉には、恐怖でも諦めでもない、静かな現実の重みがあった。

ドゥーがわずかに目を伏せる。

しかし、ゼロは即座に否定も慰めもせず、短く答えた。

 

「確定ではない。……だが、希望は持っていていい」

 

「どういうこと……?」

 

ゼロは椅子の背にもたれ、静かに言葉を続けた。

「さっきドゥーも言ったろ。――彼女も強化人間になるための手術を受けた。

 けれど、ムラサメ博士は“治した”んだ。

 君は一度ジャブローに降りる。……その時、博士に診てもらうといい」

 

レイラの唇が震える。

「……私、ジオンの強化人間で……敵なのに?」

 

ゼロはあっさりと肩をすくめた。

「問題ないな。――ここのドゥーだって、昔“模擬戦のふりをして殺してでも自分を証明してやる”みたいな殺気で僕に挑んできたし」

 

その言葉に、ドゥーがむっとして顔を上げる。

「もう、それ昔の話でしょ!」

頬をふくらませ、そっぽを向く仕草に、レイラの表情がわずかに緩んだ。

 

ゼロはそんな二人を横目に、少しだけ声の調子を落とした。

「ムラサメ博士は、君みたいな“壊された”者を何人も治してきた。

 “サイコミュを操れなかったから”と別分野の被験体にされた少女も、

 “機械の中に意識を閉じ込められた”子も――彼の手で戻った。

 ……だから、絶望するには早い。希望を持って良いんだ」

 

レイラはゆっくりとゼロを見上げた。

その瞳には、微かだが確かな光が宿り始めていた。

 

「……希望、か。

 あの人たちの中で、それを言ってくれたのは、あなたたちが初めてよ」

 

「“人間に戻る”ってことは、そういう言葉を信じるところから始まるものだ」

 

淡い光の中、NT-001《レイラ・レイモンド》の瞼が静かに震えた。

それは、かつて奪われた“人間の記憶”が、再び芽吹こうとする瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ホワイトベースJr./ブリーフィングルーム】

 

淡い照明の室内。テーブルを挟み、シイコ・レイとカミーユ・ビダンが座る。

向かいにはマチュとニャアン。背後には、彼女たちのボディチェックを担当した女性のエコーズ隊員が、静かに見張りの姿勢で立っていた。

 

テーブルの上の記録端末には、「被拘束者:アマテ・ユズリハ」と表示されている。

 

シイコが開口一番、まっすぐに視線を向ける。

「まず――マチュ。本名、アマテ・ユズリハ。あなたはなぜ“クランバトル”なんてものに出ていたの?」

 

マチュは背もたれに体を預け、少し不機嫌そうに返す。

「地球に行きたかったから。お金が必要だったの」

 

「そんなの旅券を買えば済む話でしょ。あなたの家なら簡単に買えるはず。

 旅行もダメなくらい、厳しい親なの?」

 

(旅券じゃシュウジのガンダム持って行けないじゃん……。

 それに、"普通"のお母さんに言ったって分かんないよ)

 

マチュが心の中で舌打ちした瞬間、カミーユの声が低く響く。

「――男と一緒に行きたいから、違法の賭け試合に出て金を稼いでいた、というわけか」

 

「っ!?」ニャアンが目を見開く。

(マチュ、喋ってないのに!)

 

(……この人も、シュウジと同じ“ニュータイプ”ってやつか)マチュは奥歯を噛みしめる。

 

カミーユは冷静な声で続ける。

「そもそも“普通の親”ってなんだ? 君をちゃんと見てくれる、愛してくれる両親に何の文句がある?」

 

「別に」マチュは視線を逸らす。

(私が地球に行きたいって言っても分かってくれないから、普通なんだよ)

 

カミーユの眉がわずかに動く。

「会話を放棄しておいて、親に責任転嫁するな。

 君が何を、なぜやりたいのか――話したのか?

 “どうせ分かってもらえない”と思って、何も言わなかったんじゃないのか?」

 

マチュはむっとして言い返す。

「好き勝手言うね。あんたの両親はそんなに良い親なんだ。よかったね」

 

カミーユは一瞬黙り、そして皮肉めいた笑みを浮かべた。

「良い親か……まあ、“良い親”だったよ。

 小遣いはくれたし、父親は外で愛人を作って家に帰らず、母親はそれを知ってて仕事に逃げる。

 家族らしい会話なんて、碌に無かった」

 

「……」

 

マチュもニャアンも、言葉を失った。

シイコは横で頭を押さえる。

(後輩が女子高生に家庭環境の地獄話をするの、どうなのよ……)

 

カミーユは続ける。

「まあ今は違う。テム・レイ博士に技術競争で叩きのめされて、愛人に捨てられて――父も少しはまともになった。

 ……君は? 両親は愛人でも作ってるのか?」

 

「そんなのいるわけないでしょ!」

マチュが立ち上がり叫ぶ。怒りと羞恥が混じった顔だった。

彼女はまだ気づかない――その怒りが、両親の名誉を守ろうとする“普通の娘”の感情であることに。

 

「母親と、まともに話したのか?」

 

マチュは俯きながら、唇を噛む。

「だって……(どうせ“そんな進路はダメ”って怒るじゃん)」

 

カミーユはため息をついた。

「進路希望表に“地球に行きたい”って書く気か? そりゃ怒るだろう。

 地球に行って、どうやって生きるつもりだった?」

 

「将来のことなんて、まだ分かんないじゃん」

 

「じゃあそう言えばいい。

 “まだ何をするか分からないけど、地球を見てみたい。海を見てみたい。本物の重力を感じてみたい”。

 何も言わずに勝手に家を飛び出して、違法賭け試合に出て――死にかけた。

 戻ったら、ちゃんと話してみろ」

 

マチュは目を伏せたまま、小さく呟く。

「……分かったよ」

 

シイコが立ち上がる。

「少し飲み物を取ってくるわね。――カミーユ、行くわよ」

 

二人が部屋を出る。

通路に出た途端、カミーユがぼそっと言う。

「……シイコさん。もし将来、息子が進路希望表に“コロニーに行きたい”って書いたらどうします?」

 

シイコは肩をすくめる。

「うちの子だと、地球と宇宙が逆になる訳ね。――面白いから、アリじゃない?」

 

カミーユは無言で天を仰いだ。

(この人に話振らなくて、ほんとによかった……)

 

「口に出さなくても分かるって便利よね」

シイコがニヤリと笑い、カミーユの頬を引っ張る。

 

「いひゃいですって!」

(ニュータイプ能力使うことに躊躇なくなったからって、心の中まで読んで怒らないでくださいよ!)

 

「そうね」シイコは軽く笑って手を離した。

 

「でも――フランクリン技師もヒルダ技師も、今はちゃんと“親”してくれてるんでしょ?

 さっきずいぶん感情移入してたわね」

 

カミーユは小さく息をつき、苦笑する。

「多分、あの子も生まれつきのニュータイプなんですよ。

 人の心に収めた悪意とか、言わなかった言葉を、全部感じ取ってきたんでしょうね」

 

「同族意識、ってわけね。……生まれつきのニュータイプは大変ね」

 

「慣れましたけどね。でも、高校生の頃はきつかった。

 “分かるのに、分かってもらえない”。その孤独は……想像以上ですよ」

 

シイコの表情が少し和らぐ。

「だからあの子も、“普通”を見下してたのね」

 

「ええ。

 血の繋がりがあっても感覚を共有できない。それが続けば、親への隔意も強くなる。

 そんな中で、“自分と同じ”ニュータイプ――あの赤いガンダムのパイロットに出会った。

 それだけで、世界の中心が変わるんですよ」

 

シイコは軽く息を吐き、少し茶化すように言う。

「ニュータイプ専用の子育てマニュアルでも、作ったほうがいいかもね」

 

カミーユは笑いながら肩をすくめた。

「難しいですけど、ないよりマシですよ。

 ……僕の親父もテム・レイ博士に技術競争で叩きのめされて、愛人に捨てられなきゃ、今も外で浮気してたでしょうし」

 

「まあ……そういう可能性も、あるわね」

 

「優しい表現ありがとうございます」カミーユは苦笑し、廊下の自販機からコップを二つ取り出す。

「彼女も、どう生きていくにせよ、世界はオールドタイプのほうが圧倒的に多い。

 ――付き合い方を考えなきゃ、果てはテロリストか指名手配犯です」

 

シイコは笑みを浮かべる。

「経験者は語る、ってやつね。――でもあなた、高校生の頃はそんなに両親と隔たりがあったのね。そこまでとは知らなかったわ」

 

カミーユは小さく息を吐く。

「まあ……シイコさんに会ったのは、親父がテム・レイ博士に負けて、愛人が離れていった後ですから」

 

「きっかけはそれだけ?」

シイコは笑みを浮かべたまま、わずかに首を傾げる。

その視線には、冗談めかした優しさと――ニュータイプ特有の“探るような気配”があった。

 

(……ニュータイプ能力、全開で使いすぎですって)

カミーユは内心でため息をつきながら、コップを彼女に手渡す。

 

「ジェリド・メサ中尉に、“フォウを失敗作だ”って馬鹿にされた時です。

 あの人を殴り飛ばしたあと、自分も怪我をして……。

 そのとき、お袋も親父も――本気で俺を心配してくれてるのが分かったんです」

 

淡い照明の下で、カミーユの瞳がわずかに揺れる。

過去を見つめ直すような穏やかさがそこにあった。

 

「だから……“これから”の親父たちを見ようと思ったんです」

 

シイコはその言葉に小さく頷き、柔らかい声で返す。

「なるほどね……。――バイトさんにも、届けばいいわね」

 

カミーユはわずかに笑みを浮かべた。

「ええ。……届いてくれるといいです」

 

シイコはコップの中の飲み物を見つめ、静かに息をついた。

「さて――飲み物も入ったし、戻りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 




原作マチュは型にハマるのが嫌で嫌で仕方ないイメージですが、この世界でそれだと生きていけないので多少改変してます。実際最後どういう扱いなのか。指名手配は解けてないけど地球に降りてるあたりジークアクスが貸されたままなのか、ジオンの外部協力者的な扱いで給料出てるのか。もうちょい設定開示して欲しかった。

一時期令和のカミーユとか呼ばれてたマチュに本家のカミーユに言わせてみたかったセリフをだいぶ消化できました。
特にこれは言わせたかった。
「そもそも“普通の親”ってなんだ? 君をちゃんと見てくれる、愛してくれる両親に何の文句がある?」

まあ原作カミーユが、実際まともな両親に愛されてるのに行きすぎた反抗期のニュータイプの子供に何いうかは分からないですが、ここだとこんな感じです。
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