ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第12話

ジークアクスのコクピットは、冷たい金属とランプの光だけが支配していた。マチュは右手に志願届けを握りしめ、左手でヘルメットのバイザーを下げた。外へ出ればもう後戻りはできない——そう自分に言い聞かせながら、彼女は整備用トンネルを抜けて宇宙へと出た。

 

(どこへ行けばいいんだ……ホワイトベースJr.は移動してるはずだし、方向が分からなきゃただの流れ星になるだけだ)

 

そう思案していると、ジークアクスの計器パネルの小さな表示が、静かに明滅して方向を示した。ホワイトベースJr.の識別符号――識別アイコンが、微かな点滅で彼女に道を教えている。マチュは一瞬、首をかしげた。ジオンから奪った機体だが、未だこんな機能があったのか。あるいは——限りなく近い誰かの場所を探知したのかーー

 

(なんでもいい。行けるなら行くしかない)

 

彼女はハンドルを引き、スラスターを一気に吹かした。宇宙の闇を切り裂くようにジークアクスは加速する。遠方に、白く明滅するふたつの機影が浮かび上がった。それは、迎撃に出た二機のアレックス――ゼロとカミーユだった。

 

「そりゃ出てくるよね……」マチュの心臓は高鳴った。数日前のことが脳裏をよぎる。自ら捕虜になりながら理由を黙して逃げ出した──その行為が、彼らにどう映るかは想像に難くない。

 

だが、マチュには秘策があった。ジークアクスの腰部には、ビームライフルをマウントするためのコネクターがある。いま、その銃は手にしていない。だから彼女はそこに、拾ったコロニーの鉄骨の切れ端を差し込み、先端に白い布を巻きつけていた。即席の白旗──とはいえ、ただの鉄棒と布切れにすぎない。それでも機体はそれを高々と掲げ、降伏の意を示すようにゆっくりと振ってみせた。

 

「どうだ、これでわかるだろう?」心の中で自分に言い聞かせる。相手がニュータイプだろうと、人の所作には意味がある。投降の意志を示すものだと理解してもらえるはず——そう信じて。

 

アレックスの一機が距離を詰め、冷たい無線が割り込む。

「停止しろ。識別符号、名を名乗れ」

 

マチュは息を呑む。だが言葉は要らない、白旗を翻す行為で伝えたいことは伝わるはずだ——彼女はゆっくりと機体の姿勢を崩し、敵意のない態度を取った。

 

二機のアレックスの機内では、短い会話が交わされているのが見えるモニター越しでも伝わった。

 

「ゼロ、あの旗、撃ち抜いたらダメですか?」

 

「いや、ダメだからな。白旗だぞ、白旗。」

 

「俺、さっきの件でブライト艦長にもダグザ中佐にも散々説教くらったんですよ。あの子、捕虜として艦に入れたのに脱走して?また艦に入れろって意思表示なのか?今度は始末書じゃ済まないでしょ、俺が独房行きになったら本気で割に合いませんよ」

 

「気持ちは分からんでもないが……」

 

「はぁ……あの子、ちゃんと母親と話せたのかどうか」

 

その「母親と話せたのかどうか」という短い呟きに、カミーユの感応がふと伸びた。彼のニュータイプ的直感は、マチュの心の奥へと滑り込む。映像のように、断片がカミーユの意識に重なっていった。

 

(マチュの記憶──病院の白い蛍光灯、病室のベットで左手部分の凹んだ布団、心電図の針の細かな震え。医師が淡々と告げる言葉。「意識が戻らない可能性があります」──通り過ぎる一台の車。車の中で笑い、酒臭い声を上げる男たち。瓦礫の中に倒れていた母。男の足が踏みつけられる──ミーシャの酔った足。命令を下す浅黒い男の横顔。キシリアの名。怒り。復讐──)

 

カミーユは、マチュの記憶の残滓を受け止めながら、自分の胸の中で言葉を噛み砕いた。あの若さで抱えているものが、ただの反抗や「特別になりたい」という軽い願いでは無くなっていることが、鮮やかに伝わってくる。冷たい復讐の炎と、母を助けたいという温かい理性が同居している——矛盾した二つの力が彼女を突き動かしているのだ。

 

(ただ特別で居たいだけだったさっきまでと、随分違う。)

 

カミーユの胸のなかで、苛立ちはしだいに別の感情へと姿を変えていった。思考は自然とあのときへと戻る――シイコを助けに出たあの時。アムロが電流を浴び、死の淵に立たされた恐怖の中で、カミーユはジオンに「勝つ」ではなく「殺す」方向へ突き進もうとしていた。ゼロと並んで、敵艦の乗組員を皆殺しにするつもりでいた。もしあのときフォウやドゥーが彼らを止めてくれなかったら、今ここにいる自分は別人になっていただろう──そのことを、彼ははっきりと自覚していた。

 

その自覚が、胸の奥に刺さる小さな針のように痛む。自分の過去の暴走と、それを止めてくれた仲間たちへの感謝。だからこそ、今目の前にいるこの少女の復讐心や救いたいという思いを、安易に否定することはできなかった。自分がかつて走り抜けた過ちを繰り返させないためにも、できる限りの手助けはしたい——そう思いを固める。

 

(何ができる? 尋問を止めさせることはできない。けれど、彼女を殺すつもりは僕らにない。情報を集め、正しい手続きを踏むことで、無駄な流血を減らすことはできるはずだ。医療援助だって、窓口だって作れる。……個人的に助けられることは何か。まずは安全に艦内へ導き、その後で父親や医師と交渉する手助けをする。たとえ小さな一歩でも、彼女の母を救う可能性になるかもしれない)

 

カミーユはわずかに肩をすくめ、ゼロに小声で囁いた。

「ゼロ、あの子、色々あったみたいだ。俺たちで牽引しよう。——そして、出来ることを探るよ」

 

ゼロが無線の受話器を押し返す。機体越しの声は冷静だが、どこか含みがあった。

「了解。牽引に入る、カミーユ。警戒しろ、だが撃たないこと」

 

通信が切れ、アレックスはジークアクスとの小距離を保ちつつ、牽引処置のための位置取りに入った。カミーユの機体がゆっくりと繋索器を展開し、安全な距離で確実に接近していく。

 

マチュは胸の中で小さく息を吐いた。白旗が通じたらしい。だが、次に来るのは尋問と説明——そして、志願届けを押してくれた父への約束を果たすための、もっと厳しい道だ。彼女は握りしめた志願届けにもう一度視線を落とし、静かに覚悟を固めた。

 

(母さんを、絶対に助ける。あいつらを……許さない。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マチュがジークアクスのラダーを降りきると、ダグザ中佐がすっと近づいてきた。彼の足音が金属床に低く響く。

 

マチュはためらわずに両手を差し出す。淡々とした声が、格納庫の喧騒に紛れて冷静に響いた。

「手錠? はい、どうぞ。早くしてくれた方がありがたいんだけど?」

 

ダグザは眉を寄せて、軽く問いかける。

「何のつもりだ?」

 

「捕虜が自分から脱走したんだから、手錠をするでしょ? あなた達の手続き通りにしてくれれば、大人しくする。母さんを助けたいからね」

 

(復讐も、交渉も、どっちも必要だ。今は冷静にやる。感情のまま暴れたら、母さんの命が遠のくだけだ。)

胸の奥で固く決めたその思いは、声には出さずにマチュの表情だけを鋭くした。

 

ニャアンが慌てて割って入る。

「なにそれ! マチュに手錠なんて、どうしてそんなことするの!?」

 

マチュはちらりとニャアンを見て、微かに笑みを作る。

「脱走しちゃったからねぇ。それに、ニャアン……これ、艦長さんに渡してくれる?」

 

そう言って差し出したのは封筒。ニャアンが戸惑いながら受け取ると、マチュは続けた。

「中身は私の志願届。私も志願するからさ、連邦軍に。母さんを地球の病院に送るための交渉材料になるはずだし、それに――やることはやるよ。キシリア・ザビとサイクロプスには、必ず償わせる」

 

ニャアンは封筒をぎゅっと握りしめ、目を見開いた。

「えっ、ほんとに? 志願するって……どういうこと?」

 

マチュは目をそらさず、静かに言った。

「聞いてくれれば分かる。今はとにかく、行って。艦長さんに渡してきて」

 

ダグザはマチュの両手首に手錠をはめながら、小さくため息をついた。

「お前のやり方はどうあれ、母親を助けたいというなら、こちらも出来る限りはやる。だが行動は見られている。規則違反を繰り返せば、誰も助けてくれなくなるぞ」

 

マチュは手錠の冷たさを感じながら、ただ一言だけ呟いた。

「分かってる。だから今は、大人しくしてる」

 

その目は怒りを鎮めたわけではなかった。鎮めたように見せているだけで、奥底では復讐の炎が静かに燃えているのを、ダグザもニャアンも読み取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ホワイトベースJr./取調室】

 

金属の椅子と無機質な壁が、重苦しい静寂を閉じ込めていた。

マチュは手錠で椅子に繋がれ、腰にはロープが巻かれている。

その端を握るのは、背後に立つダグザ中佐だ。

彼の無骨な手は、まるで逃亡者の希望そのものを縛めているかのようだった。

 

「私は犬かよ」

マチュは鼻で笑いながらつぶやく。

 

ダグザは無表情のまま返した。

「躾のできてない……いや、出来たふりをする狂犬だな」

 

「うまいこと言うね」

マチュは軽く肩をすくめると、正面のブライトをまっすぐ見据えた。

その瞳には怒りでも恐怖でもない、何かを賭けに出た者の光が宿っていた。

 

ブライトは、彼女の表情を見ても感情を動かさない。

ただ、机の上に両手を置き、静かに言った。

 

「話を聞こう。……君は、何を望む?」

 

マチュはすぐに答える。

「母の地球への輸送。連邦直属の病院に入れてほしいの。爆破テロで左の肘から先が無くなって、後頭部にもダメージがあった。あのままじゃ……目を覚まさない」

 

その声には焦燥も涙もなかった。ただ事実を言うだけの、硬い意志があった。

 

ブライトは腕を組んで少し目を細める。

(ドゥーの様な事情のある子ではない。平穏で暮らせるはずの子供だ……しかし、覚悟を決めた人間の顔をしている。だが、交渉は交渉だ)

 

「……代わりに、君は何を差し出せる?」

 

マチュは間を置かずに言った。

「ジークアクス。あの機体を使って、連邦のために戦う。あと──情報」

 

ブライトの眉が僅かに動いた。

「情報?」

 

マチュは頷き、淡々と続ける。

「私、サイド6でテロを起こした連中を見たの。名前は“サイクロプス隊”。ジオンの特殊部隊。

 彼らが前大統領ベルガミノを殺した。……それも、キシリア・ザビの命令で」

 

「……証拠は?」

ブライトの声が低くなる。視線が一気に鋭さを帯びた。

 

「ある。正確には――“あった”のよ」

マチュは視線を落としながら、静かに続けた。

「隊長のハーディ・シュタイナー。あいつが録音してた。

 “ザビ家の命令だ”って指令を受ける瞬間を。

 下が勝手にやった事だってトカゲの尻尾切りにされないために、自分達が逃げ切るための保険だった。

 私が彼らとすれ違ったとき、それを見た。

 ……私の頭の中にあるの。どの通信経路で、どんな機器に残っているかも。

 だから、私だけがサイクロプス隊を追える。奴らの“気配”を辿って」

 

取調室に、一瞬だけ沈黙が落ちた。

ブライトの瞳がわずかに見開かれ、ダグザが後ろで息を呑む。

 

「君が……ニュータイプだから、か」

ブライトの声は低く落ち着いていたが、その裏には計算が見えた。

(記録媒体の場所まで“見た”……? 彼女の感知精度が確かなら、可能性は高いし確かにサイクロプスを追跡できるかもしれない)

 

マチュは頷く。

「そう。私が感じた気配なら、距離が離れても辿れる。

 奴らは今、本国に戻ろうとしてる。逃げ切られる前に捕まえれば、サイド6をジオンの手から遠ざけられるはず」

 

「……なるほどな」

ブライトは腕を組み、深く考え込む。

艦の任務は、もともとサイド6の中立維持とジオンへの予算供与阻止。

ベルガミノ大統領の死で潰えた作戦が、目の前の少女によって再び可能になる――その構図を、瞬時に頭の中で組み立てる。

 

「一つだけ確認する」

ブライトは目線を上げた。

「君の言葉が真実なら、我々は政治的に非常に大きなリスクを負う。……それでもやる覚悟はあるか?」

 

「ある。お母さんを助けるためなら。……そして、あの連中を絶対に許さないためなら」

 

その瞳には、先ほどまでの特別への憧れではなく、轟々と燃える冷たい光が宿っていた。

ブライトは静かに息を吐き、指先で机を叩いた。

 

「いいだろう。条件を整理する。

 まず、君の母親はホワイトベースJr.の医療班に引き取らせ、可能な限りの治療を行う。

 必要なら、連邦軍の地球直轄医療機関への輸送を検討する。

 ……だが、君は我々の指揮下で動く。独断行動は許さない。いいな?」

 

「りょ〜かい。……命令には従う」

 

ダグザが後ろで苦笑する。

「“従う”ね。さっきまで脱走してた奴の台詞とは思えん」

 

「もう逃げない。逃げる暇なんかないの。時間がないから」

 

ブライトは立ち上がった。

「……君の力、確かめさせてもらう。報告書は俺が上に通す。

 君が言う“サイクロプスの気配”が本物なら、奴らを逃すわけにはいかない」

 

マチュは短くうなずいた。

「お母さんを、必ず助ける。そして、あいつらを──キシリアとサイクロプス隊を、絶対に地獄に落としてやる」

 

その言葉は、年齢に似つかわしくないほど静かで鋭かった。

ブライトは目を細め、ただ一言だけ返す。

 

「……それが、君の戦う理由か」

 

マチュは頷き、静かに見つめ返す。

取調室の冷たい空気が、彼女の覚悟の輪郭をはっきりと浮かび上がらせていた。

 




シュウジ周りの話書くのが難しすぎる。ララァの望む世界を見せてあげたいから、シャアがララァの望む通りに生き抜いてくれる未来に辿り着くまでララァを殺し続けるヤンデレかと思えば、マチュに告白されただけで浄化される系背負うもののないニュータイプの扱いめんどくさすぎる。
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