ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【宇宙宙域・サイド6領域外】
ムサイ級巡洋艦から発艦する、九つの影。
そのうち八つは濃紺の機体、古風な騎士のような輪郭を持つ――ギャン。
残る一つは灰青の装甲を纏い、重武装をぎらつかせていた。ケンプファー。
ギャンのコクピットでハーディ・シュタイナー大尉が短く命じる。
「隊列を維持しろ。目標は連邦の追撃部隊ではない。――このムサイを守り抜くことだ」
応答する三つの声。
ミハイル・カミンスキー中尉。酒焼けしたような太い声が無線を震わせる。
「了解。隊長、ケンプファーが前衛を取る。ブースト試験も兼ねる!」
続いてラミレス・ガルシア軍曹が、落ち着いた声で補足した。
「後衛はギャン三機で囲い込み。ハイド・ボンプ展開可能位置を維持。牽制射撃で足止めを行います」
かつてから、サイクロプス隊はこの四人で生き抜いてきた。
ハーディ・シュタイナー、ミハイル・カミンスキー、ガブリエル・ラミレス・ガルシア、そしてアンディ・ストロース。
一年戦争の混乱期を渡り歩き、仲間を失いながらも、最後まで任務を遂行し続けてきた精鋭だ。
その絆は、もはや同胞というより“家族”に近かった。
「……本国に戻れば、ようやく少しはまともな暮らしができるな」
ミハイルが呟くように笑い、ケンプファーの操縦席で軽く首を回す。
「酒も女も、もう軍の割り当てで済ませるのはごめんだ。娘に小遣いでも渡せるぐらい、いい生活がしたいもんだ」
「はっ。報奨金が本当に出るなら、な」
ガルシアが苦笑交じりに返す。その声に、アンディも珍しく明るく答えた。
「この任務が終わったら、俺は地球に行ってみたい。オアフの海が見たいんだ」
そのやり取りを聞きながら、ハーディはヘルメットの内側で目を細めた。
彼らの笑いの裏にあるものを、隊長として知っていた。
それは希望ではなく、ただ“帰りたい”という祈りだ。
戦場に生き続けた男たちが、ようやく人間らしい未来を求めている――そのわずかな光。
(そうだ。俺たちは、この戦争を生き抜いてきた。
最後の任務を果たして、家族のいる場所へ帰るだけだ。
……たとえ、それが叶わないとしても)
ハーディは静かに息を吐き、ギャン・ハクジのシールドを握り直した。
その手に宿る力は、決意とも、諦念ともつかない。
この任務が終わった時、誰がまだ生きているのか――
それを知る者は、まだ誰もいなかった。
ギャンの持つハクジの突撃槍が輝きを帯び、推進ブースターが閃く。
白い蒼炎が宇宙に伸びると同時に、通信が走った。
「――来るぞ!」
レーダーに映る連邦の紋章。その先頭に、白と青の四つの閃光。
アレックス部隊が戦場に現れた。
⸻
【アマラカラ商会・ホワイトベースJr.部隊】
「アレックス隊、敵影確認。識別コードはジオン・サイクロプス隊――」
オペレーターの報告に、艦橋が緊張に包まれる。
発艦デッキから次々とアレックスが射出され、光の線を描いた。
ビットを纏い、ビームライフルを構えるアムロが前に出る。
「サイクロプス隊……。目標は隊長のハーディ・シュタイナー。
やつが持っている“音声データ”を確保する。――絶対に逃がすな!」
ゼロ・ムラサメのアレックスが並走し、短く返す。
「了解。敵は十機、数で押し切れるつもりなんでしょうが――アレックスを甘く見すぎてますね。
近距離だろうが遠距離だろうが、勝つのはこっちです。この程度の数の差なんて意味を成しませんよ」
フォウとドゥーのアレックスが後方に展開、サポート陣形を取る。
その背後、やや遅れて――ジークアクスが浮上した。
修理を終えた真白の機体。マチュが操縦桿を握りしめていた。
(この手で……あいつらを
⸻
【交戦開始】
光の奔流。
アレックス部隊の射撃が連続して放たれる。
超反応のサイコフレームが敵の動きを先読みし、ギャンの隊列を次々に撃ち抜く。
「ギャン一番機、損傷! 二番機――ああっ!」
「くっ……速すぎる!」
一分も経たずして、ギャン六機が撃墜。
アムロが二機、ゼロが二機、フォウとドゥーが一機ずつ。
連邦の勝利は揺るぎないと思われた。
その時だった――。
⸻
「……おかしい。こいつらこれだけ力の差が分かって何故同じ戦術で来る?」
ゼロが計器を睨む。
だが、次の瞬間、ホワイトベースJr.から通信が割り込んだ。
『こちらホワイトベースJr.! 至急応答を! サイド6宙域に向けて、別方向から四機のザクが接近中! 装備は――核弾頭!』
「なっ……!? 核だと!?」
アムロの声が硬直する。
マチュの心臓が跳ねた。耳鳴りのように、母の寝息が頭に響く。
(大統領を殺して、次はサイド6ごと消す気……!?)
怒りが視界を真っ赤に染める。
「……最低だよ、あんたら……! 金貰って殺して、それでも足りないの!?」
スロットルを握る指が震えた。
怨嗟がサイコミュを通して伝わり、ジークアクスのサイコフレームが共鳴音を発する。
⸻
アムロは短く息を吸い、判断を迫られる。
「選択だ……。このままハーディを追って“音声データ”を奪うか、サイド6を守るか……」
戦略的に考えれば、捕縛だ。
キシリア直属の命令記録があれば、各サイドで様子見をしているスペースノイドにジオンの現実を思い知らせることができる。
だが、背後のコロニーには、まだ生きている人間がいる。
マチュが叫ぶ。
「わかってる……あいつらを狙うべきだって分かってる! でも、お願い……サイド6を守って!」
一瞬の沈黙の後、ゼロが声を張る。
「それをやると、今度はホワイトベースJr.が危ない! 君たちだけでギャン5機とケンプファーを抑えられるのか!?」
アムロの声が割り込む。
「敵は六機。君は――一人で三分、生き残れ。
三分あれば、援軍を寄こす」
「アムロさん!?」ゼロが叫ぶ。
「やる!」マチュの返答は早かった。ためらいもない。
アムロは短く息を吐いた。
「……分かった。ゼロ、ドゥー、フォウ! サイド6に引き返して核を止めるぞ!」
四機のアレックスが同時に反転。
スラスターが閃光を放ち、サイド6方面へと全力加速する。
宇宙を裂く閃光が、まるで信念の軌跡のように伸びていく。
⸻
「援軍? ……いや、了解しました。サイド6に向かいます」
「頑張ってね、マチュ。憎しみを力にするのはいいけど、囚われちゃダメだよ?」
マチュは苦笑しつつ
「思いっきり囚われてると思うけど……努力するよ」
フォウが微笑を残し、スラスターを噴かす。
四つの光が遠ざかる中――残されたのは、マチュと三機のネモ、そして五機のギャンとケンプファー。
マチュは息を整え、呟いた。
「……三分。たった三分でいい。
シュウジがいなくたってそれぐらい!」
ジークアクスのバーニアが紅く閃き、戦場へと突っ込む。
――怨嗟と誇り、その両方を燃料にして。
【ジャブロー/整備区画・夜】
机の上には、開かれた整備図面と散らばる工具。
リタ・ベルナルは両手でこめかみを押さえ、机に項垂れていた。目の下には深いクマ。
「……昨日はバンシィの武装調整をようやく終わらせたんですよ。家に帰ったら朝日が差してました。で、三時間寝たらHiνのバズーカの有線微調整で呼び出されて、終わればフェネクスの推進系の修正……ふふふ」
リタは自嘲気味に笑い、膝に落とした手を握りしめる。
その手の震えが、過労の限界を静かに語っていた。
「実は、まだジオンのスパイが潜んでて、私を過労死させる陰謀でもやってるんじゃないですか? だったらもう、スパイ狩りの尋問官でもなんでもやりますよ、私」
助手のエドが顔を覗き込み、心配そうに言う。
「……大丈夫ですか、リタさん?」
「これが大丈夫に見えます?」
顔だけ向けて答える。
「見えないですね」
「本来ならアムロさん、ゼロ、カミーユと私の4人で分担するスケジュールなんです。あの人たちがいれば、私はこんなに酷使されないのに」
リタは机に突っ伏したまま、ため息をつく。
「上が焦ってるんですよ。フル・サイコフレーム機は“旗頭”です。早く完成させろって圧がすごいんです」
エドが端末を叩きながら、低く答える。
「ジオンが宇宙で動きましたからね。シイコさんを狙った特殊部隊を“アマラカラ商会”が撃滅したって話です。こっちは民間企業を装って、ジオン側に戦争の口実を作らせないように立ち回ってますけど、向こうは独裁国家。ザビ家が命じれば即・戦争です。上層部が焦るのも無理ないですよ」
「……“ジャンク屋”って名目のホワイトベースJr.ですよね。アムロさん、カミーユ、ムラサメ一家が乗って宇宙に行くって聞きました」
リタは頬を膨らませ、恨めしそうに言う。
「私もそっちが良かったなぁ……今から行っちゃダメですか?」
「無茶言わないでください。技師側はテム・レイ博士とアルレットが行っちゃって、パイロット側もアムロ、カミーユ、ゼロの三人が抜けてるんです。フル・サイコフレームなんてニュータイプ専用のハイエンド機をテストできる人材、技師もパイロットもスカスカですよ。リタさんまで抜けたら、完成どころか開発止まりますって」
リタは薄く笑った。
「四機分のテストパイロットを一人でやれって……本気で私を殺す気ですよね、これ。
でも、まあ仕方ないか。だって――ジオンにも“サイコフレーム”があるって分かっちゃいましたもんね」
彼女の声が一瞬、冷える。
その横でエドが眉を寄せた。
ジオンの鹵獲機――ジークアクス。
ホワイトベースJr.でテム・レイが修理の片手間に解析したその機体から、驚くべき事実が判明していた。
ジオンはすでにサイコフレーム技術を持っていたのだ。
サイコフレームは、リタの“未来知識”とムラサメ博士の研究が結実した新型サイコミュ。
それと同等の技術が敵にも存在する――それは、連邦の優位を根底から揺るがす脅威だった。
同時期に鹵獲したプロトタイプキュベレイには通常のサイコミュしか搭載していなかったことから、そう数がある訳ではないと思われるが、対抗手段を欲するのは自然なことだった。
「そりゃ上が焦るのも当然ですよね……。でも、まさか“代わりの機体”を現場に送るなんて話まで出てるとは」
エドが首をかしげる。
「何を送ったんです? ナラティブとか?」
「ナラティブは、ようやくニュータイプとして戦うと決めた“あの人”のための最終調整中です。動かせません」
リタは目を細め、どこか遠くを見るように続けた。
「だから、別の機体を送りました。丁度いいのが一機、眠ってたんです。可変機構を持った高性能試作機。フランクリン技師が息子の“可変機が欲しい”って無茶ぶりに応えて造ったのに、テストしかできなかった可哀想なガンダムをね」
エドが目を丸くする。
「……Zガンダム、ですか?」
「そう。あれなら色々使えます。支援にも索敵にも、補助戦にも」
リタは肩をすくめる。
「ただ、シイコさんはドミトリーで退職作業やらモスクハン博士のスカウトやら、向こうで昏睡状態になってしまった女性の病院からの移送手続きやらで少し降りてるみたいで……勿論エコーズの護衛つきですけど。その上でホワイトベースjrは追跡に出るって話で、届いた時に全員出払ってたら……せっかくのZが倉庫の肥やしですよ。」
そこでリタは何となく思いつきを話すように呟く
「正規パイロットが全員出撃してて、偶然ニュータイプの素質がある志願兵が乗る事になったりして……」
エドが苦笑する。
「まさか、そんな都合のいいこと……アニメや漫画じゃあるまいし」
「ですよね……」
リタは小さく息を吐き、立ち上がった。
「突拍子もない話です。……じゃあ、作業に戻りますか。過労死する前にフルサイコフレーム機の子たちを完成させないと」
エドはリタの隣で工具を片付け、次の作業端末に歩みかけた。
その瞬間、ふと足が止まる。
(……志願兵が、Zに乗るかも?)
あまりにも突拍子もない話だ。
Zガンダムは可変モビルスーツとしては現在でも傑作機と言って良い。しかし、性能と引き換えの複雑すぎる制御系は、熟練のパイロットでも訓練なしではまともに動かせない。
ましてや“志願兵”など――。
"思考と直感で操ってしまえる高レベルのニュータイプを除けば……"
そして、リタ・ベルナルはただのテストパイロットではない。
未来を見ることができる、連邦でも片手で数えられるほどの“本物のニュータイプ”だ。
彼女の冗談めいた言葉の中に、時折、ぞっとするほどの現実が潜んでいることを、エドは何度も見てきた。
(まさか……いや、まさかそんな偶然があるわけ……)
胸の奥が冷たくなり、背筋を汗が伝う。
考えかけたその時――
「エドさ〜ん? 手、止まってますよ〜?」
リタの声が飛んできた。
顔を上げると、彼女はもう次の機体のコンソールを開いていた。
薄い笑みを浮かべながらも、その眼差しの奥には疲労と、何か別の光が宿っている。
エドは息を吐き、頭を振った。
「……はいはい、今行きますよ」
思考をいったん切り離し、彼はリタのもとへ駆け寄った。
足音が響くたびに、胸の中で同じ祈りがくり返される。
(どうか――俺の思い過ごしであってくれ)
工具の音が、夜のジャブローに静かに溶けていった。
70-90さん誤字報告ありがとうございます!
やっぱり旧作のキャラたちを軸にした方が書きやすい( ; ; )
マチュとニャアンの話を書くのとリタの話を書くのでかける時間が全然違う。2人が敵側にいる時はスラスラ思い浮かんだんですが。