ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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2ヶ月も開けてしまい申し訳ない。実生活が色々変化してしまい前のような投稿は難しくなってます。
間隔は開くかもしれませんが投稿は続けるつもりです。


第16話 タマキ・ユズリハの病室 

【サイド6 タマキ・ユズリハの病室】

 

病室の外は、異様なほど静かだった。

消毒薬の匂いと、機械の低い作動音だけが、現実を淡々と告げている。

 

ベッドの上で眠る妻――タマキ・ユズリハは、未だ目を覚まさない。

左腕は肘から先が失われ、白いシーツの上に置かれた包帯が、痛々しいほど目に入る。

 

ユズリハは、その姿を見つめる視線を一度だけ伏せた。

 

(……踏まれた、とマチュは言っていたな)

 

気絶していた妻の後頭部を、ジオンの兵が踏みつけた。

「地面と髪色が同じで、分からなかった」――

その言葉を、娘は憎悪と母への思いの狭間で告げてきた。

 

だからこそ、彼はもう、迷わなかった。

 

書類にサインを終え、差し出す。

 

「……これで、いいですね」

 

後ろに控えていたエコーズの隊員が、封筒を受け取る。

それを確認してから、シイコ・レイが頷いた。

 

「ええ。これで奥様のジャブローへの移送手続きは完了です」

 

最先端の連邦系医療施設。

本来、一般市民が簡単に入れる場所ではない。

 

それが可能になった理由を、ユズリハは痛いほど理解していた。

 

シイコは、一呼吸置いてから、もう一枚の書類を差し出す。

 

「そして……こちらが、もう一つ」

静かに机の上へ置かれる紙。

「娘さん――アマテ・ユズリハさんが、連邦軍に志願する件についての最終確認書類です。

 よろしいですね? ユズリハさん」

 

ユズリハは俯いた。

その背中は、ひどく疲れて見えた。

 

「……ええ」

声は低く、かすれている。

「娘が、自分で決めたことです」

 

その時、控えめに口を挟む声があった。

 

「で、ですが……」

ナースが不安そうに言葉を選ぶ。

「未成年の娘さんの志願と引き換え、というのは……

 いっそ、ジオン側に医療協力を頼むという選択肢も……」

 

「君!」

 

担当医が慌てて遮る。

(あのテロの裏を知らないにしても、なんてことを……)

 

だが、止めるより早く――

ユズリハが顔を上げた。

 

先ほどまでの悲痛そうな表情は、消えていた。

感情を削ぎ落としたような無表情で、ナースを見る。

 

「……ジオンに?」

静かな声だった。

「妻を、こんな目に遭わせた相手にですか」

一拍置いて、続ける。

「その相手に、“治してください”と頼みに行けと?」

 

ナースは戸惑い、視線を泳がせる。

 

「え……? でも、あのテロは……難民の抗議活動だと、ニュースで……」

 

「難民が」

シイコが、淡々と割って入った。

「大統領が滞在している場所に爆弾を仕掛けられるほど、

 中立コロニーの警備はザルだった、と?」

 

その一言で、ナースの顔色が変わる。

 

ユズリハは、静かに言葉を重ねた。

 

「娘が、聞いたんですよ」

視線は妻に向けられたまま。

「気絶している妻を踏みつけておいて、

 “地面と髪色が同じだったから分からなかった”と酒に塗れて宣う、

 ジオンの特殊部隊の言葉をね」

 

ナースは、血の気を失った顔で頭を下げた。

 

「も、申し訳ありません……! 本当に……!」

 

深く下げられた頭を見て、ユズリハはゆっくりと息を吐いた。

怒りは、すでにどこかへ消えていた。

 

(……この人が、ジオンと繋がっているわけじゃない)

 

ただ、未成年の娘が志願する現実に、耐えきれなかっただけだ。

 

「構いませんよ」

ユズリハは穏やかに言った。

「ジオンが“スペースノイドの代表”を名乗っているプロパガンダを、

 信じている人が一定数いることは……仕事柄、よく知っていますから」

 

シイコが、少しだけ眉を上げる。

 

「宇宙だと……やっぱり、そんな感じなんですか?」

 

「ええ」

ユズリハは頷く。

「地球にいる連邦軍の方々には、分かりにくいかもしれませんが」

 

(私が恨みを捨てて頭を下げたとしても娘が奴らの検査を逃れられるとは思えない。彼女にも伝えておこう)

 

「あなたに子供がいるから出た言葉だとは思いますが……

 ジオンに関わるのは、やめておいた方がいい」

 

ナースは戸惑いながら尋ねる。

 

「そ、そうなんですか?

 フラナガン・スクール……とかいう学校や、大学への留学制度もあると……」

 

ユズリハは、静かに首を振った。

 

「建前です」

即答だった。

「前大戦で減った人口の補充などと言っていますが、

 実際は無意識レベルでの洗脳教育と、ニュータイプの発掘が目的ですよ」

 

一瞬、言葉を区切り――

 

「……私の娘は、おそらく引っかかる」

 

シイコは、そこで理解したように息を吸った。

 

「……アマテさんが、ニュータイプであることを

 ご存知だったんですね」

 

「ええ」

ユズリハは、わずかに目を細める。

「あの娘の感性は、我々オールドタイプとは……あまりにも違いすぎる」

 

ベッドの妻に視線を戻す。

 

「妻は……だからこそ、戦場に引き込まれないよう、

 “普通の道”を歩いてほしかったようです」

小さく息を吐く。

「それが原因で、溝も生まれていた……」

 

そして、静かに続けた。

 

「しかし……クランバトルなどという賭け試合にまで出ていたとは。

 よほどのきっかけが、あったのでしょうね」

 

その言葉に、シイコは一瞬だけ視線を逸らした。

 

(……多分、シュウジ・イトウ)

(つまり、男との出会い)

(マチュちゃん……そこまでは話してないのね)

 

――だが、それを口にすることはなかった。

 

病室には再び、機械音だけが流れる。

ユズリハは、眠る妻の手にそっと触れた。

 

「……少しだけ、待っていてくれ」

誰に言うともなく、呟く。

「アマテは……戻ってくる」

 

その言葉は、祈りに近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユズリハは、しばらく沈黙したまま妻の寝顔を見つめていた。

それから、思い出したように口を開く。

 

「……話を戻して、補足をさせてください」

 

ナースと担当医、そしてシイコの視線が集まる。

 

「フラナガン・スクール」

 

「戦前の実験施設とは違い、ニュータイプに危険な薬物などは使わず、

 安全に能力の鍛錬が積める“学校”だと、ジオンは広報していますが……」

 

そこで一拍、間を置いた。

 

「おかしいとは、思いませんか?」

 

ナースは思わず聞き返す。

 

「……違うんですか?」

 

「戦中」

ユズリハは静かに続ける。

「被験者の命を危険に晒す実験下であっても、

 戦場で実際に戦果を挙げられるニュータイプは希少だったそうです」

 

その言葉に、医者が小さく眉を動かす。

 

「それが」

ユズリハは視線を上げる。

「戦後になった途端、学校を開けるほどの候補者を集められて、

 しかも戦中ほどの危険性もない、と?」

 

かすかに、鼻で息を吐いた。

 

「……そんな都合のいい話が、あるわけがない」

 

ナースは口を噤む。

 

「危険性を隠すのが、上手くなっただけでしょう」

ユズリハは続ける。

「そして“数”については……今のコロニー全体が、答えを出しています」

 

ナースが首を傾げる。

 

「……今の、コロニー?」

 

「ええ」

ユズリハはゆっくり頷いた。

「各コロニーには、難民が大勢います。

 その中で、何人かが消えたとしても――」

 

一瞬、視線を巡らせる。

 

「我々は、気付けない程度には」

 

ナースの背筋が、ひくりと震えた。

 

「まさか……」

声が掠れる。

「難民の中から、ニュータイプ候補者を……?」

 

「去年のフラナガン・スクール卒業生代表のスピーチを、聞きましたか?」

 

ユズリハは問い返す。

 

「『ルウムで難民となった僕は、ジオンに拾われることで真っ当な生活と仕事を得ました。

 ジオンには感謝しかありません。他の同胞が安心して来られるように頑張ります』」

 

淡々と、しかし正確に再現する。

 

「……おかしいと思いませんか?」

 

ナースは思案する。

(おかしい……? でも、言葉自体は……)

 

その瞬間――

内臓を氷水に沈められたような寒気が走った。

 

「……ルウム?」

 

ぽつりと漏れる。

 

ユズリハは、静かに頷いた。

 

「ええ。ルウムです」

声に、わずかな重みが宿る。

「一年戦争で、ジオンによって壊滅させられたコロニー」

 

ナースの呼吸が浅くなる。

 

「そこに住んでいた子供が……」

ユズリハは続ける。

「親も、兄弟も、友人もいたであろう故郷を滅ぼされて――

 その“犯人”に、感謝している」

 

短く、言い切った。

 

「洗脳教育でもなければ、あり得ないでしょう」

 

ナースの手が、無意識に震えた。

(娘のために……と思って、集めていた資料……)

 

家で、娘はそのパンフレットを見て、未来を想像しているかもしれない。

その現実が、胃の奥を掴む。

 

今すぐにでも、

フラナガン・スクールなどという、

悪意を周到に隠した施設のパンフレットを――破り捨てたくなった。

 

「中立と、我々がいくら言っても」

ユズリハは静かに畳みかける。

「ジオンは、自分たちの秘密部隊を入れてきています」

 

シイコが無言で頷く。

 

「ザビ家麾下のSSがいる、という噂や影は、珍しくありません」

ユズリハは続ける。

「そういう連中の仕事が、

 “中立コロニーで起きた厄介事の後始末だけ”など……あり得ない」

 

わずかに、声が低くなる。

 

「おそらく」

「難民の中から適性のありそうな者を見繕い、

 “恩”という鎖で縛り、

 “真っ当に見える暮らし”という飴で、飼い慣らしているのでしょう」

 

ナースは、何も言えなかった。

 

「連邦という傘を取り払い」

ユズリハは、静かに結論を告げる。

「雨に濡れた子供に、我が物顔で傘を差し出し――

 自ら望んだのだと錯覚させて、兵隊に仕立て上げる」

 

一拍。

 

「これが、“スペースノイドの代表”ですか?」

 

最後に、ほんのわずかだけ皮肉を滲ませる。

 

「……我々、外交官がまず最初に覚えるのは」

ユズリハは淡々と締めくくった。

「奴らとの外交で、感情を一切、表に出さない練習ですよ」

 

 

 




☆8評価ありがとうございます! ライシュさん



本編でエグザベ君がルウムの難民なのになんであんな嬉しそうにジオンに拾われたことを語るのかと考えてたら思い浮かんだ点です。洗脳教育でもなければあり得ないんじゃ無いかと。
そうじゃなければ親兄弟を殺した仇に仕えて喜びを見出す筋金入りになっちゃうし。
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