ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
Zガンダム搭乗まで ― アルレットの説明
【ホワイトベースJr./第1格納庫】
パイロットスーツに着替え、更衣室から駆け戻ってきたニャアンを、アルレットが勢いよく迎えた。
「ニャアンさん! こっちです、急いで!」
整備員を押しのけるようにして、アルレットは格納庫の奥へ走る。
そこに鎮座していたのは――青と白の機体。
ニャアンは思わず足を止めた。
「え……これ、アレックスじゃない……別の新型ですか?」
「ええ、まあ……“新型”といえば新型ですね……」
アルレットが微妙な顔をする。
高性能だが整備性が悪く、倉庫で埃を被っていた事実は――さすがに言いづらいらしい。
「この機体は Zガンダム。可変機で、“ウェイブライダー”形態ならアレックスを乗せて高速移動できます! 今すぐマチュさんの戦線に加勢できます!」
「私でも……使えますか?」
「もちろんです! このZには バイオセンサー と サイコフレーム があります。操縦の大半を補助してくれますし……ジオンのサイコマシンを乗りこなしたあなたなら問題ありません!」
アルレットがそう太鼓判を押すのを聞き、
ニャアンは迷いを飲み込んだ。
「分かりました! 行きます!」
アルレットはzガンダムの出撃を見送りながら、以前ムラサメ博士と話していたのを思い出した。
“ニュータイプがバイオセンサーを使えば、いつか予期しない現象が起きるのでは?”
史実のZガンダム――
死者の意志の器となり、戦闘後にパイロットが廃人になる危険性。
それを知らずともサイコミュという装置の未知からアルレットは可能性に辿り着き、ムラサメ博士に尋ねたことがある。
『サイコミュからビット制御を外した“簡易サイコミュ”としてのバイオセンサーなら、確かに危険はあり得る。
だが、我々とテムレイが作ったバイオセンサーは違う。
パイロットの精神に有害な干渉が起きると、
補助AIが“フィルター”を作動させ、心身を守る』
つまり――
本来なら安全で、暴走などありえない。
はず、だった。
戦場は一瞬、静止した。
ハーディを捕らえ、戦況が収束に向かう――
誰もがそう思ったその刹那。
Zガンダムの胸部から、青白い光が“溢れた”。
ニャアンが息を呑む。
「な……に、これ……?」
背筋に這う悪寒。
ニュータイプとしての感覚が、機体内部に“異物”を感じ取る。
赤いガンダムが消滅した時、
宇宙に散ったゼクノヴァ粒子。
その“向こう側とこちら側を繋ぐ粒子”が、
Zガンダムのバイオセンサーにまとわりついていた。
ゼクノヴァは本来――
ニュータイプの能力を引き上げる“光”。
しかし、今回は違った。
ニャアンの精神が、粒子の奔流に触れた瞬間。
――無数の手が彼女を掴んだ。
毒ガスで皮膚が爛れた指。
落下の衝撃で折れ曲がった手首。
熱で黒く炭化した腕。
(やだ……やだ……っ!!)
意識の中に転がり込んできたのは、
サイド2のコロニー落としで死んだアイランド・イフィッシュの住民の怨念。
かつて、ニャアン自身が故郷で見た“地獄”。
それがZガンダムの中で膨張し、
“器”を求めている。
Zガンダムの翼が限界を越えて振動し――
機体はニャアンの意思を離れ動き始めた。
「ッ……う、うごか……ない……!」
その瞳はもう、ニャアンのものではない。
死者を背負ったZガンダムが覚醒した。
Zガンダムは猛禽のような軌道で急降下。
抱えられているハーディのギャンへ一直線にビームサーベルを構えた。
「ひ……っ!?
何だあの動きは……!?
お、俺を殺す気か!!?」
シュウジのアレックスは片腕でギャンを抱え、
もう片腕で必死に避ける。
「マチュ! ニャアンに語りかけるんだ!!このままじゃ彼女自身が無くなる!!」
片腕のジークアクスでZガンダムの背部を掴みながら、
マチュは声を張り上げた。
「ニャアン!! やめて!!
ハーディは捕虜にするの!
殺したら……全部が無駄になるの!」
だが――届かない。
ニャアンの瞳は“紫黒”に染まり、
死者の思念に完全に飲まれていた。
「ニャアン……お願い、聞いて……!」
「ニャアン!! ニャアンッ!!」
返事はない。
Zガンダムはただ――
ジオンの者を“敵”と認識し、処刑しようとしているだけだった。
ニャアンを呼ぶマチュの声を聞きながら、
シュウジは“ただ一人”、この現象の正体を悟っていた。
赤いガンダムが消滅した瞬間に発した――
ゼクノヴァの光。
その粒子がZガンダムに触れ、搭乗者を守るサイコフレームとバイオセンサーを奪い、自らが人形にできる繋ぎとして死者の思念に溢れたバイオセンサーを押し付けた。
“たった一人の女”が彼女に力を与えてしまった。
――ララァ。
彼の言葉は、深い絶望と痛みに満ちていた。
「……ララァ……
そこまで、僕が疎ましいのか……」
その呟きは、
胸を裂くような罪悪感と憎しみと愛情の混じった声だった。
だが、止まっている暇はない。
ニャアンを殺せない。
ハーディを殺させてもいけない。
「マチュ、ニャアンに声をかけ続けて!
こっちは……僕が何とかする!」
しかし、Zガンダムは今――
神にも等しい力の供給を受けている。
ニャアン自身の力ではない。
ゼクノヴァと、“向こう側のララァ”の影響。
捕虜を抱え、ニャアンを殺さず、しかもZを無力化――
これはシュウジですら無茶な条件だった。
彼はただ、
紙一重で回避することしかできなかった。
艦内 ― アルレットとテム・レイ、Zガンダムの異常を目撃する
【ホワイトベースJr./ブリッジ後方オペレーションルーム】
マチュ救出戦が一段落し、戦域の映像を確認していたアルレットは、
モニターの片隅で“青い影”が震えるのを見逃さなかった。
最初は微細な振動。
しかし次の瞬間、Zガンダムはまるで獣が飛びかかるようにスラスターを噴き上げ、
不自然な挙動で弾かれたように軌道を跳ね上がった。
「……っ!? 今の動き……!」
機械の声が聞こえるニュータイプ――アルレットの耳に、
Zガンダムの内部から“悲鳴”が響いた。
機械の悲鳴ではない。
――死者の、声。
「先生! おかしいです!
Zガンダムが……今、死者の思念の“器”になりかけています!!」
叫ぶように報告すると、隣でデータをまとめていたテム・レイが顔を上げた。
「……何だと?」
即座に艦内メインコンピューターへアクセスし、
Zガンダムのサイコウェーブの状態を解析する。
しかし、すぐにテムレイの顔が凍りついた。
「馬鹿な……!?
搭載されているはずのサイコフレームが、無い……?」
アルレットは息を呑んだ。
「そんな……Zガンダムはサイコフレーム込みの構造で――」
「それだけじゃない!」
テムレイは画面を食い入るように見つめ、
震える指で数値を指差した。
「内蔵されているバイオセンサーが……
私たちが作った“補助AIとしてのバイオセンサー”じゃない。
フィルター機能が存在しない……これは……」
言葉を詰まらせながらも、理解してしまった。
「“純粋な簡易サイコミュ”としてのバイオセンサーだ……!」
アルレットは絶句した。
「そんなはずありません!
先生が設計して、私たちが整備したZガンダムは……
あんな危険仕様になるはずがない……!」
だが、画面上のZガンダムは――
死者の叫びに引きずられるように、
青い翼を痙攣させながら軌道を乱していた。
テムレイは奥歯を噛みしめ、震える声で言った。
「……誰かがすり替えたんだ。
バイオセンサーも、サイコフレームも……
しかしいつだ!いつすり替えた!?ここに搬入されてから整備のたびに機体とサイコシステムは確認していたがあんな状態ではなかった……!」
その声には、怒りと焦りと、
そして――
“ニャアンとシュウジが危険だ”という確信が滲んでいた。
とある褐色ニュータイプへの酷いアンチヘイト、改悪がありますがそれでもよければどうぞ。
【宇宙の“裏側” ― その女は見ていた】
星も光も届かない場所。
“こちら側”の宇宙とは構造の異なる、
意志だけが荒涼と渦巻く暗黒の層。
そこに、ひとりの 褐色の女 がいた。
かつて ララァ・スン と呼ばれた存在の――
成れの果て。
彼女は静かに、しかし確かに“見ていた”。
目の前に広がるのは、
暴走したZガンダムと、それを止めようとする少年少女。
そしてギャンを庇いながら必死に揺らぐ軌道を避ける、シュウジのアレックス。
その光景に、女はゆるく微笑んだ。
本当に、愉しそうに。
彼女は知っている。
シュウジという少年が、
どんな絶望の淵にいようと、
どれだけ血を流そうと――
ただ一人の少女を守るために剣を抜いた ことを。
その赤いガンダムを与えたのは他でもない“彼女”で。
彼が死にかけたその瞬間でさえ、
少女を庇い、少女のためだけに生きようとしたことも。
ララァはそのすべてを、
“この宇宙の裏側”から見届けていた。
だが――彼女にとって、
その献身も情熱も全く価値はなかった。
シュウジはただの駒。
シャアが死なない未来へ辿り着くまでに必要な、
「始まりのララァ=本来の自分を殺すための存在」
――それ以上でも、それ以下でもない。
少女を守るために力を使う?
宇宙を救うために戦う?
そんなことに意味はない。
シュウジの魂がどれほど叫ぼうと、
ララァは感情の死んだ目でただ“観測する”だけだった。
彼女はもう、
人間だったララァとは全く別の存在になっていた。
無数の宇宙を創り、
無数の宇宙を壊し、
無数の人間を生み出しては殺してきた。
その目的は――ひとつ。
「シャア・アズナブルが生き残る未来」だけを求めるため。
それだけのために、多くの宇宙の人生を捨て駒にし、
全ての魂を“素材”として扱える怪物になっていた。
そこには悲しみも後悔もない。
ただ、“願い”だけが残り、
その願いに世界ごと従わせる存在へと変質した。
そのララァが、
シュウジがこぼした痛切な声を聞いた。
「……ララァ……
そこまで僕が疎ましいのか……」
その声は、昔なら胸を締め付けたかもしれない。
今は――違う。
褐色の女の唇がゆっくりと持ち上がる。
それはかつての優しいララァの口調そのものなのに、
声音だけが絶対零度の氷のように冷たかった。
「ふふっ……」
「別にあなたがどうしようと……どうでも良いわ?」
冷たい囁きが、宇宙の裏側に響く。
「でも、このまま行くとあなたは――
私が与えた力も経験も、
全部その女の子のために使うのでしょう?」
視界には、アレックスを操りながら
必死にハーディを守り、
マチュとともに暴走Zへ語りかけるシュウジの姿。
「じゃあ……シャアの邪魔になるじゃない?」
彼女にとっては、それだけで“十分な理由”だった。
(殺せば止められるのに……本当に、馬鹿な子)
心の中で、ララァは楽しげに笑った。
「それに――あの子も嬉しいんじゃない?」
Zガンダムのコックピットの奥で、
死者の怨念に飲まれていくニャアンの姿が思い浮かぶ。
「故郷を皆殺しにした敵を殺せる力を、
こうして“与えられる”んだもの」
ひどく優しい言い方なのに、
内容だけが残酷すぎる。
「ああ、でも……」
ララァは冷たい笑みを深めた。
「この戦いが終わったら、
あの子は廃人になるから無理ね。」
少しも悲しまず、
少しも怒らず。
ただ事実を読み上げるだけの、氷の声。
「残念ね?」
そしてララァは、
Zガンダムの殺戮の軌跡を
まるで美しい花が咲くのを見るように、飽きず眺め続けていた。