ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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久しぶりの祝日ありの連休!書かずにはいられない!みたいなテンションで書ききったので作者の趣味がだいぶ入ってます。


第26話(new)

【ホワイトベースjr・居住ブロック】

 

 艦内の小さなラウンジには、静かな機械音だけが流れていた。

 

 壁面モニターに映し出されているのは、サイド6の緊急特別放送。

 崩壊した行政区画、燃え跡の残る街路、避難民たちの列――。

 

 その光景を、マチュは無言で見つめていた。

 

 隣ではニャアンが膝を抱え込むように座り、シュウジは壁にもたれたまま腕を組んでいる。

 

 数秒後。

 

 画面が切り替わり、演台に立つ男の姿が映った。

 

『サイド6臨時政府代表、ならびに暫定大統領代行を務めます。カムラン・ブルームです』

 

 室内の空気がわずかに張る。

 

 以前まで主席補佐官としてベルガミノを支えていた男。

 疲弊は隠せていなかったが、その目は死んでいなかった。

 

『まず初めに――今回のテロによって命を落とされた全ての市民に哀悼を捧げます』

 

 深く頭を下げる。

 

『そして……これまでサイド6政府が発表していた内容には、重大な虚偽が含まれていました』

 

 記者たちがざわめいた。

 

 マチュの指先がわずかに強く握られる。

 

『ベルガミノ前大統領の死は、難民による単独テロではありません』

 

 カムランは言った。

 

 一切迷わず。

 

『ジオン公国軍、ならびにキシリア・ザビ派による政治工作です』

 

 ニャアンが息を呑む。

 

 モニター越しでも、会場が凍りついたのが分かった。

 

『さらに、先日拘束された特殊部隊“サイクロプス隊”隊長、ハーディ・シュナイター大尉の証言と記録媒体により――』

 

 画面に切り替わる。

 

 拘束されたハーディ。

 そして、再生される音声。

 

『――現大統領には退場してもらう。事故でもテロでも構わん』

 

 女の声。

 

 聞き間違えるはずもない。

 

『責任は難民にでも押しつければよい』

 

 キシリア・ザビ。

 

 報道陣がどよめく。

 

 誰かが叫んでいた。

 

『本物なのか!?』

『ジオン側は認めているのか!?』

 

 だがカムランは静かだった。

 

『音声解析は複数機関で完了しています。偽造の痕跡は確認されていません』

 

 その言葉に、マチュは目を閉じた。

 

 脳裏をよぎる。

 

 瓦礫。

 血。

 崩れた天井。

 動かない人々。

 

 そして――病院のベッドで横たわる母。

 

 あの日。

 自分は確かに聞いたのだ。

 

 サイクロプス隊の男たちの思考を。

 

 “命令だった”

 “キシリア様のため”

 “口封じされる前に証拠を残す”

 

 あれは幻なんかじゃなかった。

 

「……ほんと、だったんだ」

 

 掠れた声が漏れる。

 

 ニャアンがそっとマチュを見る。

 

 だが、かける言葉は見つからなかった。

 

 画面の中でカムランは続ける。

 

『ベルガミノ前大統領は、すでにジオンの強い政治干渉下にありました』

 

『我々は中立を掲げながら、その実態は徐々にジオンへの依存を深めていた』

 

『そして今回――その歪みは、最悪の形で表面化したのです』

 

 苦しげだった。

 

 だが逃げてはいない。

 

『私はこの責任を、政府の一員として重く受け止めています』

 

 会見場は静まり返っていた。

 

『その上で、サイド6政府は正式に声明を発表します』

 

 一呼吸。

 

『サイド6は、現時点をもって従来の完全中立政策を維持不可能と判断しました』

 

 シュウジの目が細くなる。

 

『これよりサイド6は、暫定的に地球連邦政府との安全保障協定締結に向けた交渉へ入ります』

 

 記者たちが一斉に立ち上がった。

 

『連邦入りだと!?』

『中立放棄ですか!?』

『ジオンとの戦争になるぞ!?』

 

 怒号の中。

 

 カムランは静かに言った。

 

『ええ。戦争になります』

 

 その一言で、逆に会場が静まった。

 

『ですが――既に我々は巻き込まれていた』

 

『中立を掲げていても、人は殺された』

 

『黙っていても、利用された』

 

『ならば、少なくとも市民を守るための選択をしなければならない』

 

 疲れ切った顔だった。

 

 それでも、その瞳だけは真っ直ぐ前を向いていた。

 

『なお、私の大統領就任はあくまで臨時措置です』

 

『混乱が収束し、新たな選挙体制が整い次第、私は職を退きます』

 

『これは権力のためではない』

 

『――サイド6を、生き残らせるための決断です』

 

 放送が終わる。

 

 ラウンジに静寂が落ちた。

 

 誰もしばらく口を開かなかった。

 

 やがて。

 

「……サイド6、戻れなくなっちゃったね」

 

 ニャアンが小さく呟く。

 

 マチュは答えなかった。

 

 ただ画面の消えたモニターを見つめ続ける。

 

 自分の故郷。

 

 逃げ場だったコロニー。

 

 中立だった場所。

 

 それが今、戦争の側へ立とうとしている。

 

 その現実が、胸に重く沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【サイド6 大統領府】

 

 記者会見を終えたカムランは、報道陣の喧騒から逃げるように大統領執務室へ戻った。

 

 重厚な扉が閉まる。

 

 ようやく静寂が戻ると、首元を締め付けていたネクタイを緩め、そのまま椅子へ倒れ込むように腰を下ろした。

 

「はぁ……」

 

 肺の底に溜まっていた空気を吐き出すような、大きなため息。

 

 ほんの数日前まで、自分は主席補佐官だった。

 

 それが今では、サイド6臨時大統領。

 

 誰も望まず、誰も引き受けたがらなかった席。

 

 そんな重責が突然、自分の肩へ落ちてきたのである。

 

「あなたはこのサイド6の大統領になったのですから、そんなため息は困りますね。」

 

 横から淡々とした声が掛かった。

 

 振り向くまでもない。

 

 秘書官の声だった。

 

 カムランはさらに顔をしかめる。

 

「なら君が大統領になればいい。」

 

 力なく天井を見上げる。

 

「こんな罰ゲームみたいな役職、譲れるものなら譲りたい。」

 

 秘書官は肩をすくめた。

 

「罰ゲームとはまた。」

 

 その声音には苦笑すら混じっていない。

 

「議員どもは、戦後のあなたの後釜に自分が座ろうと、今から躍起になっていますよ。」

 

 その言葉に、カムランは呆れたように鼻で笑った。

 

「馬鹿なことを。」

 

 ゆっくりと椅子へ深く身体を預ける。

 

「まだ戦争は始まってもいないのに、もう終わった後の算段とは。」

 

「彼らは連邦の元で、また美味い汁が吸えると思っているのでしょう。」

 

 秘書官は冷ややかに答えた。

 

「無駄なことを。」

 

「今の連邦は徹底した実力主義です。戦前のように賄賂でどうにかなると思っているのなら……戦後、嫌というほど思い知ることになるでしょうね。」

 

 そう言って、一冊の分厚い紙束を机へ置く。

 

 鈍い音が執務室へ響いた。

 

 その厚みだけで嫌な予感がした。

 

「……後でデータにして渡してくれ。」

 

 カムランは見る気すら起きず手を振る。

 

「今日はもう帰って寝たいんだ。」

 

「無理ですね。」

 

 即答だった。

 

「この書類は今日の日付が変わる頃には回収されますので。」

 

「……はっ?」

 

 思わず椅子から身を起こす。

 

 何気なく紙束へ視線を落とした瞬間。

 

 得体の知れない寒気が背中を走った。

 

 恐る恐る一枚目をめくる。

 

 そこに並んでいたのは――

 

 議員たちの収賄。

 

 裏献金。

 

 脱税。

 

 政治資金の横領。

 

 親族企業への利益供与。

 

 愛人への口止め料。

 

 違法な土地取引。

 

 密輸組織との癒着。

 

 さらにはジオンとの裏取引に至るまで。

 

 どれも一つ流出するだけで政治生命が終わる代物だった。

 

 いや。

 

 政治生命だけでは済まない。

 

 マスコミが見れば、役員報酬も社員の給料も削ってでも買い取ろうと躍起になる。

 

 そんな爆弾ばかりだった。

 

 ページをめくる手が震える。

 

「……これを、どこで?」

 

 秘書官は静かに首を横へ振った。

 

「どこで、ではありません。」

 

 一歩だけ前へ出る。

 

「違うでしょう。カムラン大統領。」

 

 静かな口調。

 

 それなのに、妙な圧力があった。

 

「あなたは『誰から』と聞くべきです。」

 

 カムランは目の前の男を見つめた。

 

 ユズリハ主席秘書官。

 

 ほんの数日前までは、彼は主席補佐官だった自分の下で働く一人の外交官に過ぎなかった。

 

 しかし、ベルガミノ前大統領暗殺のテロは、政府中枢にも甚大な被害をもたらした。

 

 議員や官僚はもちろん、その家族まで犠牲となり、重傷者も少なくない。

 

 心身ともに職務を続けられる者は、日に日に減っていった。

 

 その中で、彼だけは違った。

 

 妻もまた外交官として働く優秀な人物だったが、テロに巻き込まれ、命こそ助かったものの左腕を肘から先ごと失い、今なお意識は戻っていない。

 

 同僚たちは皆、彼を気遣っていた。

 

「有給もかなり残っている。奥さんについていてあげたほうがいいんじゃないか?。」

 

 誰もがそう勧めた。

 

 だが彼は静かに首を横へ振った。

 

「命をなくした方が大勢いるのに、自分だけが休むわけにはいきません。」

 

 そう言って一度言葉を切り、

 

「幸いにも治療のできる転院先は見つかりました……。自分は家族のためにも働きたい。」

 

 そう答えた。

 

 以来、彼は以前にも増して仕事へ打ち込み、自らの業務だけではなく、家族を失い職務に集中できない同僚たちの仕事まで引き受けた。

 

 昼夜を問わず政府中枢を駆け回り、混乱する各部署を繋ぎ合わせるその姿を見て、誰もが思った。

 

 ――今、この役目を任せられるのは彼しかいない。

 

 主席補佐官だったカムランが臨時大統領へ就任すると同時に空席となった主席秘書官の座へ、ユズリハが任命されたのは、ごく自然な流れだった。

 

 その姿を見ていたからこそ。

 

 今、目の前にいる男が纏う空気に、カムランは違和感を覚えた。

 

 悲しみではない。

 

 怒りでもない。

 

 もっと冷たく。

 

 もっと底知れない何か。

 

 カムランはゆっくりと口を開く。

 

「……ユズリハ主席秘書官。」

 

 秘書官は静かに視線を返した。

 

「これを誰から渡された?」

 

 数秒の沈黙。

 

 やがて男は、わずかに口角を上げた。

 

「連邦からですよ。」

 

 その笑みには温度がなかった。

 

「決まっているでしょう?」

 

 極寒の氷原を思わせるような冷たい瞳が、まっすぐカムランを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カムランは分厚い書類を机へ置いた。

 

「……これを私にどうしろと?」

 

 ユズリハは即座に答えた。

 

「簡単ですよ。」

 

「これを使って使えない議員を全て排除してください。」

 

「そして親連邦派だけで議会を固めるのです。」

 

 淡々とした口調だった。

 

「ジオニズムも、スペースノイド至上主義も捨てる。」

 

「対ジオン戦争へ向かう連邦にとって、最初に中立を捨てたコロニーとして恥ずかしくない国家を作りましょう。」

 

 カムランは顔をしかめた。

 

「それでは独裁国家になる!」

 

「戦争中だけです。」

 

 間髪入れず返ってくる。

 

「戦争が終われば、また日和見主義者が議員になります。独裁など放っておいても終わりますよ。」

 

「しかし……」

 

 カムランは言葉を詰まらせた。

 

 それは市民の意思を踏みにじる行為ではないのか。

 

 民主主義を守るために、民主主義を壊していいのか。

 

 その葛藤を見透かしたように、ユズリハは静かにスマートフォンを取り出した。

 

「よく考えてください。カムラン臨時大統領。」

 

 モニターへ映像が投影される。

 

 宇宙空間。

 

 サイド6へ向けて放たれる核ミサイル。

 

 それを護るように飛び出す白いアレックス。

 

 そして核を撃墜する閃光。

 

 カムランの顔色が変わった。

 

「馬鹿な……!」

 

 思わず立ち上がる。

 

「この映像は全て差し止めたはずだ!」

 

 あの日。

 

 この映像は封印された。

 

 ジオンの蛮行を証明する決定的証拠。

 

 しかし同時に、市民の反ジオン感情を制御不能にしかねない危険な映像でもあった。

 

 閲覧した者には全データの削除を命じ、万一に備えて独立端末へ一本だけ保存した。

 

 その端末は――今も自分が保管している。

 

「確かに、この映像を公開すれば連邦入りへの支持は得られる。」

 

 カムランは苦々しく呟く。

 

「しかし、それだけでは済まない。」

 

「当然だ。」

 

「自分たちの命を、コロニーごと核で吹き飛ばそうとした連中を許せる人間などいるはずがない。」

 

「必ず報復を求める声が溢れる。」

 

 鋭くユズリハを見る。

 

「……まさか、それを狙っているのか?」

 

「いいえ。」

 

 ユズリハは静かに首を振った。

 

「狙ってはいません。」

 

「利用してください、と申し上げているだけです。」

 

「我々はジオンにとって、容易く切り捨てられる存在だった。」

 

「スペースノイドの代表を名乗る国家が、連邦の戦艦一隻を沈めるためだけに、一つのコロニーを核で消そうとした。」

 

「その程度の理念だったということです。」

 

 一歩だけ近づく。

 

「その現実を理解した上で、この国の未来を決めなければならない。」

 

 冷え切った瞳がカムランを射抜く。

 

「私は期待しています。」

 

「臨時大統領としてではなく――」

 

「戦後も、サイド6の大統領として立ち続けるあなたに。」

 

 カムランは苦笑した。

 

「……まるで君はフィクサーだな。」

 

「君の上司は、いつからジャブローのモグラになった?」

 

 ユズリハはわずかに目を細める。

 

「妻を殺しかけたテロの実行犯を糾弾するどころか、歓迎していた者たちを上司として仰げと?」

 

「ご冗談を。」

 

 その声には怒気すらなかった。

 

「私はサイド6の国益のために動いているだけです。」

 

「連邦という旗の下で?」

 

「ジオンの旗の方がよろしいですか。」

 

 一拍置く。

 

「それとも、塵紙のように捨てられた中立でしょうか。」

 

 カムランは何も言えなかった。

 

 反論できない。

 

 いや、したくても言葉が見つからない。

 

 ユズリハは最後に静かに言った。

 

「覚悟を決めましょう、大統領。」

 

「これは政治の延長としての戦争ではありません。」

 

「ザビ家と、それを崇拝する者たち。」

 

「そして、それ以外の人類。」

 

「これは――生き残るための殲滅戦争なのです。」

 




マチュの親父さんがとんでも無いことに。でも仕方ない。カムランさんのあの苦労人イメージを見てたらつい部下に恐ろしいフィクサー系秘書を置いてさらに苦労させたくなっちゃったんだから!
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