ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【場所:ア・バオア・クー要塞/独房エリア】
金属の冷たい壁に囲まれた独房の中で、マチュとニャアンは向かい合って座っていた。手錠が冷たく肌に食い込む。
ニャアンが、不安そうに顔を歪めてマチュに尋ねた。
「マチュ。わたしたち、捕まっちゃったけど大丈夫かな?このまま殺されたり……。」
マチュは落ち着いた声で答えた。その瞳の奥には、変わらぬ決意が宿っている。
「大丈夫。殺すならその場で撃ち殺してる。私たちにジークアクスのことを聞くまでは殺さないはず。」
「そう……だよね。」
ニャアンは、わずかに安堵の息を漏らした。
マチュは視線を下げ、自らの手錠を見つめながら、静かに言った。
「巻き込んでごめん。いざという時は、ニャアンは私のことなんて気にせず、自分が生き残ることだけ考えていいから。」
その言葉に、ニャアンは顔を上げた。
「私、そんな薄情じゃないよ! シュウちゃんを殺したアムロ・レイにマチュが復讐するっていうなら、ちゃんと手伝うよ!」
マチュは顔を上げ、ニャアンの真剣な瞳を見つめた。
「ごめん。……ありがと。」
その時、独房の扉が金属音を立てて開いた。デラーズが二人の部下を引き連れて立っている。
「2人とも、出ろ。」
部下二人が独房の鍵を開ける。マチュはデラーズを真っ直ぐに睨みつけながら独房から出てきた。ニャアンは怯えた表情で、おずおずと後に続く。
マチュはデラーズを見据え、挑発するように問うた。
「あんたたちのボスからの呼び出し?」
デラーズはマチュの態度に一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに無表情に戻した。
「ついてくれば分かる。」
デラーズはそう言って、通路の先へと歩き出した。銃を下げた部下達は、いつでも発砲できるよう銃口を下げたまま、マチュとニャアンの前後に立ち、彼女たちを連れて行く。冷たい通路に、四人の足音が響いた。
【場所:ア・バオア・クー要塞/デラーズ執務室】
デラーズの執務室の扉が開かれ、マチュとニャアンが中に案内された。部屋の中央には大型モニターが設置され、そこにはジオン総帥ギレン・ザビの顔が映し出されている。隣にはグレミー・トト、そしてセシリア・アイリーンの姿もあった。
「ジオンの総帥……」
ニャアンが怯えながら、マチュの影に隠れるように呟いた。
ギレンの冷徹な視線が、モニター越しにマチュを射抜く。
「お前達だな?ジークアクスを我々から奪っておいて、半壊させた上に治せなどとのたまっている輩は。」
マチュは一歩も引かず、ギレンの視線を受け止めた。
「そうだよ。私がアムロ・レイを殺してやるから、さっさとジークアクスを修理してって言ってるの。」
ギレンは鼻で笑った。
「お前に任せる理由がないな。我が方にも優秀なパイロットもニュータイプもいる。そちらに回せばいいだけだ。」
その言葉に、マチュは苛立ちを露わにした。
「大人って周りくどいやつばっかり。」
デラーズが鋭い声で叱責する。
「貴様、総帥に何という口の聞き方を!」
しかし、マチュはデラーズを無視し、ギレンを挑発するように言った。
「あんた達の選んだパイロットはジークアクスのオメガ・サイコミュを起動出来なかったんでしょ。だから私に盗まれたりするんだよ。」
ギレンの目が微かに細められた。
「お前なら起動できるとでも?」
「私が乗ればいつでも起動する。隣のニャアンも一度乗ったけど起動出来たよ。」
通信の先のグレミーが、驚きを隠せない声で叫んだ。
「何だと!?」
「ジオンってロクなニュータイプがいないんじゃない?私たち、初めて乗った時から使えた機能を全然使えないんだから。」
その言葉に、部屋の片隅に控えていたガトーが怒りを爆発させた。
「貴様!黙って聞いていれば!」
ガトーはマチュに掴みかかろうと、猛然と近づいてくる。
「待て。ガトー少佐。」
ギレンの静かな声が響き、ガトーの動きを制した。
ガトーは即座に停止し、敬礼する。
「は!失礼しました。」
ギレンは再びマチュに視線を戻した。
「貴様が仮にオメガ・サイコミュを起動出来たとしても、それがジークアクスを任せる理由にはならんな。」
「何で!」
「機体を半壊させていたな?やられたのは、お前が殺したがっているアムロ・レイにだろう?何故それで自分なら殺せるなどと言える?」
ギレンの核心を突く問いに、マチュは言葉を詰まらせた。
「それは!」
「やられた相手を殺すと言い張る根拠は、どこにある?
“それでも私はやれる”と――
そう叫ぶだけの子供に、我が軍の資産を委ねる理由は、どこにもない」
その小さな体が震えたのは、怒りか、悔しさか。
だが、今のところは――そのどちらであっても、ギレンの論理を打ち破るには足りなかった。
ギレンの問いに、マチュは一瞬言葉を詰まらせた。
だがすぐに、鋭くギレンを見返し、その瞳には一切の迷いがなかった。
「さて、大佐。重要機密を盗んだ上で半壊させた他国の人間に、我々がすべきことは何だ?」
ギレンが静かに問いかけると、モニター越しのデラーズはすぐさま背筋を正し、冷酷な定型を返した。
「は! 尋問で情報を搾り取った上で銃殺かと。」
その言葉に、ニャアンが思わず悲鳴を上げた。
「そんな……!」
しかしギレンの表情に変化はない。
冷たく、感情のかけらもない声で、さらに言い放つ。
「難民の女とサイド6の学生。……躊躇う理由はないな。」
だが次の瞬間、マチュが皮肉を込めた一言でギレンの言葉を切った。
「周りくどいって、さっき言ったんだけど?」
ギレンの目が微かに細められた。興味の色が一瞬だけ混じったようにも見える。
「殺すのも拷問するのも、あんたは部下に命令するだけでいいでしょ?
目の前にわざわざ連れてくる理由なんてない。」
その声は挑戦的だったが、決して感情的ではない。
むしろ、状況を冷静に読み切った者の確信に満ちていた。
「……自分には利用価値があるから、殺されないと?」
「違う? 連邦との戦争が始まって、戦力がいくらあっても足りない状況で、
怪しい女二人に、忙しい総帥様がわざわざ通信で話すなんて――
私たちに、利用価値があるからでしょ?」
ギレンの口元がわずかに動いた。皮肉とも、評価とも取れるごく小さな笑み。
「……軍からモビルスーツを盗んだというから、どんなバカかと思っていたが。
――頭は悪くないらしいな」
マチュはふん、と鼻を鳴らす。
「でも、さっきのあんたの言うことも正しい。
私にアムロが殺せるなんて、あんたたちから信じられないのも理解できる」
ギレンの視線が静かに、しかし鋭く突き刺さる。
「なら、どうする?」
マチュは躊躇わなかった。
呼吸も乱さず、即座にその答えを叩きつける。
「私をパイロットとして鍛えて」
部屋の空気が一瞬、静止したように凍りつく。
その沈黙を破ったのは、デラーズの隣に控えていたガトーだった。
「なに!?……貴様ッ!」
彼が憤怒に駆られ詰め寄ろうとしたその瞬間――
マチュは横目で一瞥しただけで、再びギレンに正面を向き直った。
「アムロ・レイと戦ったから分かる。
あいつはニュータイプだから強いんじゃない。
ただのパイロットとしても――はるかに格上だった」
ギレンは挑むように問いかける。
「貴様が付け焼き刃で鍛えて勝てるとでも?」
「可能性はあると思うけど?
ただニュータイプってだけでも駄目。
パイロットとして強いだけでも駄目。
ニュータイプである上で、パイロットとしても強くなきゃ、あいつには勝てない」
その言葉に、セシリアもグレミーも無言のまま表情を引き締める。
「どっちかで勝てるやつがいるなら、そいつはある意味アムロ・レイ以上の化け物だよ。
どうせジークアクスのバトルログは見たんでしょ?」
一瞬、デラーズが唸るような声を漏らした。
「……む」
たしかに。あのガンダムの戦闘記録――
常軌を逸した機動、サイコミュの挙動、パイロットの反応速度――
それらは確かに“只者ではない”ことを物語っていた。
ギレンは沈黙のまま、マチュの目をじっと見据えた。
そして――静かに口を開いた。
「……いいだろう。
貴様を、ジオンのパイロットとして――認めてやろう」
「総帥!?」
通信の向こうで、グレミーが思わず声を上げた。
だがギレンは一顧だにせず、マチュに告げた。
「その上で。ジークアクスの修理部品と、その2号機ジフレドは――グラナダにある。
届いて修理が完了するまでの間、そちらのゲルググに乗って、
ガトー少佐の下で訓練を受けろ」
言葉を区切って、ギレンはニャアンにも視線を向けた。
「そちらの“難民の女”も、オメガ・サイコミュを起動したのだったな?
ならば――ジフレドに乗ってもらう」
その命令は、あくまで理性に基づいた判断だった。
だがその裏には、“最小のコストで最大の成果”を求めるギレンらしい冷徹な選択が滲んでいた。
(――使えるなら使う。使えないなら切り捨てる)
ザビ家総帥のやり方に、情はなかった。
だが、マチュの反骨と執念は――その合理の中に、一条の価値を見出させたのだった。