ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第十話: マチュとニャアン2

【場所:ア・バオア・クー要塞/モビルスーツドック】

 

翌朝。モビルスーツドックの一角には、訓練用ゲルググが数機、整然と並んでいた。その前に立つアナベル・ガトー少佐の表情は、鋼のように険しい。

 

やがて、ドックの入り口から二人の少女が現れた。ニャアンは、用意されたジオン製のパイロットスーツをきちんと着こなしていたが、マチュの姿は明らかに異質だった。

 

鮮やかなピンクのパイロットスーツ――到着時から着ていたそのままの格好である。

 

ガトーの顔がピクリと動き、次の瞬間には怒声が飛んだ。

 

「貴様、何だそのパイロットスーツは!? 渡したジオンのスーツはどうした!?」

 

だがマチュは、あくまでも涼しい顔で言い返す。

 

「ジオンのスーツなんてダサいから、着ない。」

 

あまりにもあっさりとした返答に、ガトーは怒りのあまり言葉を失った。

 

口を開いたまま固まる彼の横で、ニャアンが慌ててマチュに囁く。

 

「やっぱりまずいよ、マチュ! 今からでも着替えた方が――!」

 

しかし、マチュはひらりと手を振った。

 

「いいよ。機能は変わらないし。」

 

その時、ガトーはふと周囲の妙な静けさに気づいた。視線を向けると、ドックの隅で訓練生たちが揃って気の抜けた顔でマチュを見つめていた。

 

明らかに、ピンクスーツの“女子高生”姿に目を奪われている。

 

「貴様ら一体なんだその緩んだ顔は!!」

 

怒声が轟いた瞬間、訓練生たちは慌てて背筋を伸ばし、口々に叫んだ。

 

「はっ! 少佐! 何も見てません!!」

 

「ならばドックを10周して来い!!」

 

「そんな……!」

 

「それとも、私と組み手をしてみるか?」

 

「喜んで走らせていただきます!!」

 

次の瞬間、訓練生たちは蜘蛛の子を散らすように走り出した。ドックの外には足音だけが響いていく。

 

ガトーは眉間を揉みながらため息をつくが、その隣でマチュは相変わらずの態度だった。

 

「――あのサイコミュの起動条件、分かってないんでしょ? なら、私の状況も変えない方がいいと思うけど?」

 

「何だと……?」

 

「スーツ変えさせて起動できなくなったら、そっちがあの“眉無し”に説明してね?」

 

あくまでも淡々とした物言いに、ガトーの顔がみるみる険しくなる。

 

「貴様が総帥から“鍛えろ”と命じられていなければ、宇宙に放り出しているところだ……!」

 

「そりゃどうも。ヘルメットは付ける。それでいいでしょ?」

 

マチュは飄々と答え、ヘルメットを脇に抱えた。

 

ガトーは深く深く、ため息を吐いた。この娘の扱いは……並大抵では済まなそうだった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「それで貴様らのモビルスーツ搭乗経験は?」

 

気を取り直したように、ガトーが尋ねる。

 

ニャアンが緊張しながら答えた。

 

「わ、私はプチモビに一回と……ジークアクスに一回です」

 

マチュは腕を組み、真顔で言い放った。

 

「ザクに一回。ジークアクスには十回くらい乗った。」

 

ガトーの眉間に深い皺が刻まれた。

 

「……素人とは言わんが、訓練生以下だな。」

 

「でもさ、重要なのは敵を倒せるかどうか、でしょ?」

 

その開き直ったような態度に、ガトーは再び怒鳴りたくなるのを抑えた。

 

「……まあいい。次に渡しておいたゲルググのマニュアルだが、どれほど理解した?」

 

ニャアンが必死で答える。

 

「私は……一応、一通り目は通しました!」

 

マチュは迷いなく言い切った。

 

「あんなのいらない。」

 

「なに?」

 

「ジークアクスに乗った時だって、マニュアルなんか読んでないし。さっさと乗せてくれない?」

 

その発言に、ガトーの理性がギリギリで踏みとどまった。

 

――ダメだ、こいつは口で説得しても分からん。

 

そう判断した彼は、ドックの隅で控えていた訓練生の中から、二人の少尉に目を向けた。

 

「……バーニィ、ロニ」

 

呼ばれたのは、マチュを見てデレデレしていた青年、バーナード・ワイズマン。そして、真剣な面持ちで一部始終を見守っていた少女、ロニ・ガーベイ。

 

二人が即座に姿勢を正し、敬礼する。

 

「貴様ら、マブ戦でこいつらと当たれ。訓練の重要性というものを、実戦で叩き込んでやれ」

 

バーニィはマチュを一瞥して複雑そうな顔を浮かべる。ロニは何も言わず、静かに頷いた。

 

空気がピンと張り詰める。次の瞬間には、実戦形式の訓練が始まるのだ。

 

少女たちと、ジオンの“現実”との初対面が。

 

 

 

――その火蓋は、もうすぐ落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

訓練開始の時間が迫る中、ゲルググのコクピットには出撃前特有の静けさが満ちていた。

 

バーナード・ワイズマンは操縦席に腰を落ち着け、目の前のモニターに映し出される訓練用ターゲットを漫然と見つめていた。すぐ隣には、同じく起動待機中のゲルググに搭乗したロニ・ガーベイの姿がある。

 

通信チャンネルを開き、バーニィが軽口を叩く。

 

「少佐が怒るのもわかるけどさぁ……素人の女子高生相手に模擬戦やるなんて、気が引けるなぁ。」

 

返ってきたロニの声は冷ややかだった。

 

「相変わらず、お気楽ですね、先輩。」

 

「うお、辛辣だな……」

 

「でも本気でそう思ってるなら、危ないですよ。こんな時期に、よく分からない素性の2人がガトー少佐の直轄で訓練なんて、どう考えても異常です」

 

バーニィはモニターを見ながら眉をひそめた。

 

「まあ確かに、普通じゃないとは思うけどさ……もしかして、どっかの高官の娘とか?」

 

「――この間、スクランブルがかかったでしょ?」

 

ロニの声に、わずかな苛立ちが混じる。

 

「あの時、スペースグライダーに乗ってた2人です。」

 

「はあ!? マジで!?」

 

驚愕したバーニィが目を見開いた。

 

「我が軍の新型モビルスーツを奪って半壊させといて、アムロ・レイを倒してやるから治せとか言ってたらしいです。」

 

「何じゃそりゃ!?よく銃殺されてないな。」

 

「昨日は独房入りしたはずなのに、次の日にガトー少佐の元で訓練生入りって、普通じゃないですよ。」ロニの声には、深い警戒の色が滲む。

 

「それってどれくらい?」

 

「それこそ、総帥でも動かないとあり得ないレベルです。」

 

「話が天の上すぎて理解できない……。」

 

「理解はしなくていいです。ただ、舐めてかからないでください。」

 

コクピットの計器類が静かに稼働音を立てる中、バーニィは目の前の女子高生の背後にある、見えない力関係をぼんやりと感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲルググのコクピット。整備音が微かに響く中、マチュは操縦桿に手を添えたまま、出撃ゲートを映すモニターをじっと見つめていた。

 

隣の機体に搭乗したニャアンが、少し迷ったように口を開く。

 

「ねぇ、マチュ。……なんでここに来てから、そんなに相手を怒らせるようなことばっかり言うの?」

 

その声には、困惑と心配が混じっていた。

 

マチュは軽く息を吐き、ヘルメットの内側でつぶやく。

 

「別に、怒らせたいわけじゃない。でも……ニャアンには謝っとく。ごめんね」

 

その素直な言葉に、ニャアンは少し驚いたように眉を上げた。

 

「何か、理由があるんだよね?」

 

「……うん」

 

マチュは視線を前方から外さないまま、静かに言葉を紡ぐ。

 

「普通にマニュアル読んで、普通に訓練してるようじゃ、ダメなんだ。……それじゃアムロ・レイには勝てない」

 

ニャアンは、言葉を失ったままマチュの横顔を見つめる。

 

「……それは……」

 

マチュの声は落ち着いていたが、その奥に宿る決意は、揺るぎないものだった。

 

「あんなに強かったシュウジでも、ほとんどダメージを与えられなかった。だから、普通じゃない“何か”が必要なんだよ。――異常な手段が、ね」

 

「異常って……どんな?」

 

マチュはしばしの沈黙の後、低く答える。

 

「――死ぬような目に遭えばいい」

 

「……っ!?」

 

ニャアンは思わず息を飲んだ。

 

「本当に死ぬ気はないよ。でも……私がきっかけを掴んだのは、いつも死の近くか、シュウジが近くにいた時だった。今、もうシュウジはいない。なら、死に触れて、自分できっかけを掴むしかない」

 

その声は、自分自身への言い聞かせにも聞こえた。

 

ニャアンは、胸の奥に重く沈むような何かを感じながら、言葉を絞り出した。

 

「それが、マチュがニュータイプとして成長する方法なの?」

 

「今の私には、これぐらいしか思いつかないんだ」

 

マチュはそう言って、再び前方のモニターに視線を戻した。出撃のカウントダウンが、静かに始まっていた。

 

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