ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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次話は明日の10時に投稿します。


第十一話: マチュとニャアン3

訓練用模擬戦フィールドに、4機のゲルググが展開する。

 

対峙するのは、アナベル・ガトー直属の訓練生、ロニ・ガーベイとバーナード・ワイズマン。対するは、新参の少女マチュとニャアンのペアだ。

 

マチュのゲルググが、どこかぎこちない滑らかさでフィールドを進む。ジークアクスとは異なる操縦感覚に、まだ完全には適応しきれていない様子が窺える。

 

「やっぱりサイコミュってのがないと、思った通りには動いてくれないのか……」

 

操縦桿を握りしめたまま、マチュが小さく呟く。

 

その隙を逃さず、ロニのゲルググがビームライフルを撃ちながら、鋭く距離を詰めてきた。

 

「訓練が始まってから試し運転とは、余裕だな!」

 

通信越しに、ロニの怒気を含んだ声が響く。

 

マチュは紙一重でビームをかわしながら応じる。

 

「別に余裕じゃないよ。必要だからやってるだけ」

 

「減らず口を!」

 

ロニはさらに加速、接近戦に持ち込む。マチュはビームライフルは避けたものの、ロニの蹴りをまともに受け、勢いよく弾き飛ばされた。

 

ニャアンのゲルググから、大きく引き離される。

 

「マチュ!」

 

ニャアンが焦ってマチュの方へ向かおうとするが、その進路をバーニィのゲルググが塞ぐ。

 

「悪いが、通せないぜ」

 

盾を構えて立ちはだかるバーニィ。ニャアンは怒りを込めてビームライフルを放つが、バーニィは軽やかにそれを避けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロニのゲルググがマチュを追い詰めていく。通信越しに、彼女の容赦ない声が響く。

 

「アムロ・レイを倒すとかほざいてたな。この程度でか?」

 

マチュは苛立ちをにじませながらも、冷静に応じる。

 

「うるさいな。あんたに関係ないでしょ」

 

「……そうだな。関係ない。だが、私に負けるような奴が連邦の頂点に勝てるとは到底思えない。分かったら、さっさと諦めて引き下がれ」

 

「うるさい。――大体わかってきたとこだよ、この機体の使い方が」

 

言葉通り、マチュのゲルググはロニの猛攻をいなし始めていた。

 

「マニュアルも読んでない女が、何がわかったって?」

 

ロニが更なる追撃を仕掛けたその瞬間――

 

「こういうことだよ!」

 

マチュがビームサーベルで激しく斬り結ぶ中、突然ロニの片腕を掴み、ゲルググごと巴投げをするように投げ飛ばす。

 

「なにっ!?」

 

思わずロニが驚きの声を上げる。

 

「――あんたは後回し」

 

マチュはそう言い放ち、全推力でニャアンの元へと機体を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ニャアン vs バーニィ】

 

一方その頃、ニャアンはバーニィのゲルググに苦戦を強いられていた。

 

「こいつっ!」

 

ビームライフルを連射しつつマチュの方へ行こうとするも、バーニィは冷静に回避と防御を繰り返し、ニャアンを寄せつけない。

 

そのとき、通信にマチュの声が割り込む。

 

「ニャアン! 合わせて!」

 

「マチュ!」

 

ニャアンは瞬時に、マチュの意図を読み取った。

 

「はあ!? ロニが抜かれたのかよ!?」

 

バーニィが焦りの声を上げた、その刹那――

 

「やあっ!」

 

マチュがビームサーベルをバーニィに向かって投げ放つ。

 

「そんなの当たるかよ!」

 

余裕でかわした……そのはずだった。

 

「はぁっ!!」

 

ニャアンが、自身のビームサーベルで投げられたサーベルを“スマッシュ”のように打ち込む。

 

軌道が激しく変化し、加速したビームサーベルがバーニィのゲルググに突き刺さった。

 

「うそっ……!?」

 

串刺しになったバーニィ機は撃墜判定。機体が沈黙する。

 

「そんなん……ありかよ……」

 

バーニィは唖然と呟いた。

 

そのとき、ロニが戦域に追いついてくる。

 

だが、目にしたのはすでにバーニィが沈黙し、自身が2対1で包囲された最悪の状況だった。

 

「貴様らぁ……!」

 

ロニは怒りに震え、全身から気迫をにじませる。

 

「――そういうわけだから、次はお前だよ」

 

マチュは冷たい声で告げた。

 

ジオンの訓練生が誰も見たことのない連携――

 

マチュとニャアンの“異端の戦法”が、ジオン正規訓練生の矜持を、いま打ち砕いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦を終えた4機のゲルググが、訓練用ハンガーへと帰還する。静かに着地した機体のコクピットから、マチュ、ニャアン、バーニィ、ロニが次々に降り立った。

 

出迎えたのは、歴戦の指揮官――アナベル・ガトー。

 

その眼差しは、模擬戦の敗者であるバーニィとロニに向けられ、一瞬、鋭い怒気が走った。しかし、それはほんのわずかな瞬間。ガトーはそれを抑え込み、すぐに視線をマチュとニャアンへと移す。

 

(この二人が……ニュータイプであることは、疑いようがない。それも、相当な適性だ)

ガトーは心中でそう呟き、冷静に現実を受け止めていた。

 

マチュは汗ひとつ拭わず、当然のように口を開く。

 

「それで? 勝ったけど、次の訓練は?」

 

ガトーは腕を組んだまま静かに答えた。

 

「総当たり戦を行う。全12名、6ペアによる模擬戦だ。貴様らは一回休みだ」

 

「そう」

マチュはあっさりと返事をすると、すぐ近くの大型モニターの前に座り込んだ。そこでは、これから始まる総当たり戦の様子が中継される予定だった。

 

「私も……」

ニャアンも静かにマチュの隣に腰を下ろした。

 

 

 

その頃、バーニィが気まずそうにガトーへと頭を下げた。

 

「す、すみません、少佐。負けてしまって……」

 

ガトーは無言で二人を見つめ、やがて口を開く。

 

「構わん。貴様らが日頃、訓練を怠っていないことは分かっている。……あの二人が“例外”だっただけだ」

 

バーニィはほっと息をつき、胸を撫で下ろした。

 

だが――

 

「それはそれとして、敗者にはペナルティがある。ドック2周!」

 

「りょ、了解でありますッ!!」

 

気合いを入れ直すようにバーニィが敬礼し、走り出していく。

 

一方、ロニは、まだ先ほどの敗北の余韻を引きずったまま、じっとガトーを見つめて問いかけた。

 

「少佐。……あれが、ニュータイプという奴なのですか?」

 

ガトーは短く、だが重みのある言葉で頷いた。

 

「――恐らくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【場所:ア・バオア・クー要塞/食堂】

 

ジオンの軍用食堂。銀色のトレイに並ぶ食事を前に、マチュとニャアンが向かい合って座っていた。二人の会話は、自然とさきほどの模擬戦の話に戻る。

 

「模擬戦……あの後も、何とか勝てたね」

ニャアンが箸を止めて、少しほっとした表情で言った。

 

マチュはスープをひと口すすって頷く。

「うん。最初に戦った二人が訓練生の中で一番強かったんでしょ? だから、あの二人に勝った私たちにビビってた。相手が」

 

ニャアンが声をひそめるように問いかけた。

「でも……マチュ、さっき出撃前に言ってた“死に近づく”って感覚は、あの戦いで得られたの?」

 

マチュは静かに首を振る。

「あの程度じゃ足りない。今の私には、あの少佐と一対一でやらせてもらわないと……次、頼んでみるつもり」

 

「えっ……!」

ニャアンは目を見開き、周囲に聞こえないように身を乗り出した。

 

「そ、それはやめた方がいいよ! あの人、“ソロモンの悪夢”って呼ばれてた人だよ!? 生きて帰れる気がしないんだけど……」

 

マチュは少しだけ口元を緩め、しかし目は真剣なままだった。

「悪夢なんかにビビってられないよ。私たちが倒したいのは、“白い悪魔”なんだから」

 

その時、隣の列からふたり分のトレイを持った影が近づいてきた。ロニ・ガーベイとバーナード・ワイズマンだ。

 

「“悪夢”なんかとは、大きな口を叩くじゃないか」

ロニが淡々とした声でそう言い、マチュの隣に無言でトレイを置いて座る。

 

ニャアンは一瞬びくっとして、慌てて周囲を見渡す。聞かれていたとは思っていなかったらしい。

 

マチュはロニの存在に気づいても、動じずに言葉を返す。

「……他にも席は空いてるけど?」

 

「いやぁ、基地で浮いてる“君たち”と、少し話してみたくてね」

バーニィが軽い調子で笑う。

 

だが、マチュの返答は素っ気なかった。

「仲良くしに来たわけじゃないけど」

 

ロニは表情を崩さないまま、真っ直ぐマチュを見つめる。

「それで、私たちに勝ったからって、次は少佐に挑む? “白い悪魔”の前座扱いってわけだ」

 

ニャアンが慌てて割り込む。

「ち、違います! 下に見てるとかじゃなくて……その……白い悪魔が強すぎて、どうしても目が行っちゃって……!」

 

「そうね。下には見てないよ。少なくとも、あなたのことは」

マチュが淡々と答えた。

 

ロニの眉がわずかに動く。

「……なに?」

 

マチュはスプーンを止め、ロニに視線を向けた。

「今日の模擬戦に出てた訓練生の中で、実戦経験があるやつは少なかった。でも、その中で警戒したのは、あなただけだった。ゲルググでの一対一なら……半分くらいは負けてたと思う」

 

ロニは一瞬目を細め、そして言った。

「最初に私が“マブ”から引き離した時……あれ、わざと受けて離れたな?」

 

マチュはにやりと笑う。

「正解。そうして分断されたように見せて、ニャアンと合流した。あんたのパートナーの優男を倒して、2対1に持ち込んだってわけ」

 

「だから」

「次は、一対一でやってみるのも悪くないね」

 

食堂の空気に、ふと緊張が走った。

それは戦闘訓練ではない、静かな火花だった。だが、それがやがて本物の戦場へと向かっていくことを、誰もが無意識に感じ取っていた。

 

マチュは、そんな空気も意に介さず、箸を止めたままロニを見据える。

「あんたもニュータイプなんでしょ? なんでサイコミュ使ってないの? ジークアクスのサイコミュ以外にも、普通に使えるやつあるんでしょ?」

 

唐突な問いに、ロニはわずかに目を伏せ、それから無表情で答える。

「……ギレン総帥は、ニュータイプの存在は認めても、つい最近まで“わざわざ特別装備を与えるほどの価値”は無いと判断していた。だから、ニュータイプ用のサイコミュ機は、本国の一部でしか生産されていない」

 

マチュはスープをひと口すすりながら、軽く鼻を鳴らす。

「ふ〜ん。派閥争いってやつか。……まあ、そのおかげで私たちが勝てたってわけね」

 

ロニは無言でマチュを見つめ返す。その視線は刺すようだったが、マチュは笑って言い返した。

「気にしないでよ。あんたにサイコミュがついてたら、たぶんゲルググじゃあ勝てなかった。だからちょうどよかったんだよ」

 

「……」

ロニは何も言わず、トレイの上の食事をゆっくりと口に運ぶ。無言のまま――だが、その背筋はわずかに硬直していた。

 

バーニィが場の空気を和らげようと、苦笑いで口を挟む。

「いやぁ、でも実際、ニュータイプってのはよくわからんな。俺たちオールドタイプには見えないもんが見えてんのかね?」

 

「そうでもないよ」

マチュが意外なほど真面目な声で答える。

「ただ、“死ぬかも”って時に、何かがひらめくだけ。体が先に動く……っていうより、“その瞬間だけ、何でもできる気がする”って感じ」

 

ニャアンが頷く。

「マチュ、時々そうなるの。顔つきも変わるし、動きも……。なんか、見えないものを見てるみたいになる」

 

「そりゃあやっぱ、ニュータイプってやつだな」

バーニィは半分呆れたように笑ったが、少しだけその笑みに混じるのは、敵味方を越えた一種の尊敬だった。

 

そしてロニも、口元をわずかに引き締めると、マチュをまっすぐ見た。

「一対一……やるときは、逃げるなよ」

 

「そっちこそ」

マチュもまた、ロニの視線を受け止め、短く返した。

 

四人の間に流れる空気は、さっきまでと違っていた。

ただの訓練生ではない、これから戦場の最前線を生きる兵士たちとして――それぞれが、互いの力を測り合いながら静かに食事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【デラーズ執務室】

 

ア・バオア・クーの司令区画。その一角にあるデラーズの執務室では、ホログラムモニターにジオン総帥ギレン・ザビの姿が映し出されていた。

 

その脇に立つガトーが、きびきびとデータを送信する。

 

「これが本日の訓練結果です」

 

ギレンは腕を組みながら、模擬戦のデータを目で追う。やがて、低く、冷徹な声が発せられた。

 

「なるほどな。今の段階では……サイコミュなしでも訓練生に勝てる程度か」

 

「しかし、あの成長は異常です」

ガトーは、マチュの戦闘能力に確信を持っていた。

 

「何人かニュータイプ候補を指導したことはありますが、乗ったこともない機体に数分で適応し、勝利を収めるなど……前例がありません」

 

ギレンは口の端をわずかに吊り上げた。

 

「誰も起動できなかった“オメガ・サイコミュ”を作動させたのは、伊達ではなかった、ということだろうな」

 

少し間を置いて、ギレンは別の報告へと移った。

 

「数日後に、グラナダから《ジフレド》と《ジークアクス》の修理パーツが届く。必要なデータもすでに送ってある。ア・バオア・クー内での修復作業も、これで可能になるはずだ」

 

ここでデラーズが通信に割って入る。

 

「あの女狐の巣の残党どもが、よく素直にパーツを差し出しましたな」

 

ギレンは嘲笑の気配すら見せず、冷静に答えた。

 

「“妹”に真の忠誠を捧げていた連中は、ごく一部。大半は、あの女と共に沈んだ。残った者だけで国家規模の反逆など、起こしようがない」

 

その声には、ジオン本国の支配を完全に掌握した男の、自信と冷酷さが滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話題は、地球連邦軍の艦隊へと移った。

 

「それで――」

デラーズが慎重に問いかける。

 

「地球から上がってくる連邦艦隊に対しては、どうなされますか?」

 

ギレンの返答は、迷いのないものだった。

 

「迎撃艦隊を送った。ビグ・ザム5機を含む艦隊だ。数で劣っていても、あの兵器の前では連邦の艦など塵に等しい」

 

ガトーが、用心深く補足を入れる。

 

「では、あの少女たちの訓練優先度は――」

 

ギレンは即座に否定する。

 

「いや。優先度は最上位のままだ」

 

その声には、確固たる戦略的意志が宿っていた。

 

「アムロ・レイのアレックス戦闘映像は確認済みだ。……さすがにビグ・ザムが破れるとは思わんが、脅威にはなり得る。あの二人に《ジークアクス》と《ジフレド》を与え、取得した運用データはそのまま、我らが“クローンニュータイプ部隊”の機体調整に流用できる。迎撃部隊に送った1人のニュータイプのデータと合わせれば充分な改良が見込めよう」

 

ガトーは、総帥の言葉に深く頷いた。

 

「了解しました。パーツ到着次第、すぐにデータ収集に取りかかります!」

 

訓練ではなく“実験”として。

 

少女たちの存在は、すでにジオンの未来を左右する鍵として、静かに動き出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ドック内格納庫】

 

数日後、グラナダから輸送されてきた補修パーツによって、ジークアクスは完全に修復されていた。

再び白い輝きを放つ機体を前に、マチュは真っ直ぐにガトーへと詰め寄る。

 

「次の訓練だけど、実戦形式でお願いしたいんだけど」

 

その目は真剣そのもので、わずかな迷いもなかった。

 

ガトーの眉が僅かに動く。「……実戦形式だと? 模擬戦のような安全装置は働かんぞ。命を落とす可能性すらある。貴様は総帥直々に“鍛える”よう命じられたニュータイプだ。総帥の命も無しに危険に晒すわけにはいかん」

 

だが、マチュはまったく臆さなかった。

その瞳は揺るぎない決意で満ちていた。

 

「白い悪魔は、やったよ」

静かに、しかし確かな殺気を宿して告げる。

「あいつは、私を殺すこともできた。でも、殺意がなかったから見逃しただけ――あんたは、できないの?」

 

一瞬、ガトーの目に鋭い光が走る。

それは、ジオンのエースとしての矜持を刺激する挑発だった。

 

「……よかろう」

 

長い沈黙の末、ガトーはゆっくりと頷いた。

 

「ただし、後悔はするな。これは模擬戦ではない。命のやり取りになるぞ」

 

【ドック外・通路】

 

「マチュ、本当にやるの?」

整備区画の前で、ニャアンが不安げに問いかける。

 

マチュは小さく頷いた。

「分かるんだ。アムロ・レイは、今もどんどん上に行ってる。このままじゃ、背中すら見えない」

 

「それは……」ニャアンが言葉を詰まらせる。

 

「私は、シュウジの仇を取る。そのために、あいつに追いつく」

 

その言葉には、覚悟だけでなく、焦りと執念の色も滲んでいた。

 

 

 

【演習フィールド】

 

宇宙空間に設けられた訓練フィールド。

その中央で、2機の影が対峙する。

 

一方は、ジオンの英雄アナベル・ガトーが駆るカスタムゲルググ。

もう一方は、修復されたジークアクス――マチュの愛機だ。

 

双方とも、装備はビームライフルにシールド、そしてビームサーベル。

模擬戦用の制限は外され、実戦同様の火力が許可されている。

 

「行くよ、ジークアクス!」

 

マチュの声と共に、オメガサイコミュが点火。

ジークアクスの機体が、紅い光を帯びて戦場を駆ける。

 

だが――。

 

「甘い!」

 

ガトーのゲルググが即座に対応する。

その動きは一分の隙もなく、まるでマチュの意図をすべて見透かしているかのようだった。

 

ジークアクスのビームライフルはかすらず、

逆にガトーの反撃がマチュを追い詰めていく。

 

「ッ……!」

 

距離を詰めた瞬間、ビームサーベルがジークアクスのコクピットギリギリを掠める。

ビームライフルの閃光が、頭部カメラの数ミリ先をえぐる。

 

「――っ!」

 

マチュは何度も何度もガトーの攻撃に打ち据えられ、

蹴られたジークアクスが岩場へ叩きつけられるたび、身体が痛みすら感じた。

死が、皮膚をなぞるように近くにある。

 

 

 

だが――その極限状況こそが、彼女の力を引き出していった。

 

ジークアクスとマチュのリンクは急速に深化し、

オメガサイコミュの同調率が跳ね上がっていく。

 

「……痛い、でも……わかる……っ」

 

蹴られた衝撃が、まるで自分の脚に食らったように鮮明に伝わる。

だがそれと同時に、ジークアクスの重心、応答速度、関節の稼働角度――

すべてが指先に吸い付くように感じられ始める。

 

まるで自分自身が“機体”になったかのように。

 

自我と機体の境界が溶け出し始めていた。

 

 

 

マチュの“覚醒”が、そこには静かに、だが確かに始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【演習管制室/中継モニター前】

 

「……マチュ!」

モニターを食い入るように見つめながら、ニャアンが思わず声を上げた。

 

画面に映るのは、マチュのジークアクスが、ガトーのゲルググに圧倒されている姿だった。

格闘戦では蹴り飛ばされ、射撃戦では狙撃すれすれの距離で躱され、

頭部とコクピット周辺を何度もギリギリでかすめるビームが火花を散らす。

 

「やっぱり……いきなり“ソロモンの悪夢”となんて無理だったんだよ、マチュ……」

ニャアンの声には、心配と悔しさが入り混じっていた。

 

「当然だ。少佐は、赤い彗星が消えたジオンで“灰色の幽霊”と並ぶ最強のエースパイロット。

たかが十回程度ガンダムに乗ったくらいで、勝てるわけがない」

 

「うわぁ……」バーニィが顔をしかめる。

「あの人、容赦なさすぎだって……! これもう殺る気じゃん……!」

 

「あの女が望んだことだ。こうなることは、本人も分かってたはずだ」

 

「……マチュ……」

言葉を失い、ただモニターに映るマチュの姿を見つめ続けるニャアン。

そこに映っていたのは、“試合”ではなく、もはや“狩り”だった。

 

 

 

だが、数分が経った頃――

戦況が、変わり始める。

 

「……あれ?」

バーニィが目を見開いた。

 

赤い光。

ジークアクスのデュアルアイが、一際強く赤い光を放ち始める。

 

「動きが……変わった……?」

ロニの目にも、明らかな“変化”が映った。

 

ジークアクスが鋭く切り返し、ガトーのゲルググの動きに正確に食らいついていく。

ただ翻弄されていた動きから、明確な“意志”を持って戦うそれへ――。

 

「……死に触れて、進化してるの……?」

ニャアンが、ほとんど息を呑むように呟いた。

 

 

 

【演習フィールド/宇宙空間】

 

「……やれる……!」

マチュの額には汗が滲んでいたが、瞳には光が宿っていた。

 

「ジークアクスと私が、一つになってる感覚が分かる。

これなら……パイロットとして格上の相手でも、渡り合える!」

 

ジークアクスが閃くように突進し、ビームサーベルを振るう。

ガトーも応じ、激しい鍔迫り合いが宇宙に火花を散らす。

 

マチュは蹴り、殴り、サーベルを振るい、

一瞬の隙にビームライフルを構え撃ち込もうとする。

 

「腕では、勝てない。でも――

機体性能と、思考による反応速度なら、私が上……!

オールドタイプのあんたに、これはできないでしょ!」

 

 

 

その戦いぶりに、ガトーが笑った。

 

「なるほどな……ニュータイプが、真に自分と機体を一体化できるサイコ・マシンに乗った時、こうも変わるか」

 

「ゲルググで貴様の動きについていけなくなるとは……。確かに雲泥の差だ」

だが――

ガトーの眼光が鋭さを増す。

 

「だがな!」

その瞬間、ガトーのゲルググが体勢を低く構え、ジークアクスの右腕を狙って飛びかかった。

 

「この名を、安く見るなよ――! “ソロモンの悪夢”の名をなッ!」

 

シールドがジークアクスのサーベルを叩き落とし、

ガトーが抜いたビームサーベルが、そのままマチュのビームライフルを一刀両断にする。

 

「ッ――!」

 

次の瞬間、ガトーのサーベルが、ジークアクスのコクピットギリギリへと突きつけられた。

警告音が機体に鳴り響く。訓練判定システムが、敗北を告げていた。

 

「……終わりだ」

ガトーが低く、重く告げた。

 

 

 

モニターを見つめていた3人の口からも、息を呑む音だけが漏れる。

 

その戦いは――敗北で終わった。

だが、そこには確かに、“一歩”前進したマチュの姿があった。

 

 




☆9評価ありがとうございます! サンシタさん


マチュとニャアンのニュータイプレベルは逆シャアのクェスと同レベルと設定しました。シミュレーターで初めてやっただけでかなりスコア取れて、初のアクトザク搭乗で自由自在に操れるあの宇宙世紀有数のガキ系ニュータイプと。
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