ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第十八話: 星二号作戦に向けて

【場所:旗艦アレキサンドリア/第1戦略会議室】

 

 艦内の中枢――戦略会議室に集う重鎮たちの視線は、静かに一点を注いでいた。

 

 ブレックス・フォーラ准将、エイパー・シナプス大佐、ブライト・ノア少佐、ヘンケン・ベッケナー中佐、その他にも歴戦の艦長達――

 そして、その中で階級からすれば浮いてもおかしく無いのに、誰も違和感を覚えず自然にいるのは、先の戦で最も鮮烈な戦果を上げた男――アムロ・レイ大尉。

 

 壁面のモニターには、地球・ジャブローからの通信映像が映し出されている。

 画面の中には、ゴップ元帥の姿。隣には、アーガマに随行していたテム・レイの姿もあった。

 

『さて諸君――まずは軍功を称えよう』

 

 ゴップの声が、どこか和らいだ響きを持って広がった。

 

『こちらの艦の被害ゼロ。敵艦は一隻たりとも逃さず撃沈、または鹵獲。これほどの戦果、旧世紀の記録を含めても例がない。大変よくやってくれた』

 

「ありがとうございます、提督」

 

 ブレックスが丁寧に頭を下げる。

 

「これは兵士一人一人の努力の結晶です。戦後は、彼らに見合う褒賞をお願いいたします」

 

『もちろんだとも』

 

 ゴップが頷いたあと、ふっと表情を引き締めた。

 

『さて……次の目標は、“ア・バオア・クー”だな』

 

「はい」

 

 ブレックスが即答する。

 

「敵は、かの要塞へ戦力を集中させています。次こそが決戦の地となるでしょう」

 

『ふむ。こちらの補充はどれほどかかる?』

 

 問われて、横の映像のテム・レイが応じた。

 

『先の大戦果を見て、中立コロニー各所が我先に支援物資を送ってきています。宇宙ドックの使用許可も相次ぎました。旧式サラミスの部品が大半ですが、互換性を進めていたので実用上は問題ありません。このまま進めば、補充は数日以内に完了可能です』

 

『……それは助かる』

 

 ゴップが満足そうに頷き、次の話題へと移る。

 

『聞くところによれば、今回の作戦――艦隊の多面展開とガンダム部隊の一点突破――は、アムロ大尉の献策だったそうだな?ア・バオア・クー戦について献策はあるかね?』

 

 全員の視線が、アムロへと集まる。

 

 それでも彼は、薄い微笑を浮かべ、淡々と口を開いた。

 

「申し訳ありません、提督。自分は戦術の経験はあっても、戦略は大雑把な理解しかしていません。要塞の攻略など、“最初に大砲を撃ち込めばいい”程度の認識です」

 

『……ふむ、それは残念だな』

 

 ゴップがわずかに口をすぼめる。

 

 だがアムロはそこで言葉を切らなかった。

 

「ただ――敵が“ビグ・ザム”をどう使うかで、いくつか予想していることがあります」

 

『聞こう』

 

「今回の戦闘で、敵は理解したはずです。“ビグ・ザム”を盾にしても、我々の新型ガンダムの前では意味を成さないと。ならば彼らは、別の手段で我々の進撃を“止めに”くるでしょう」

 

「足止めか……?」

 

 ブライトが眉をひそめる。

 

「敵のエースによる迎撃か?」

 

「そんな常識的な手段なら助かります」

 

 アムロの声音がわずかに低くなる。

 

「我々はエースを倒し、ビグ・ザムを撃破する。それで済みます。だが――そう“単純”ではない可能性があります」

 

『異常な手段をジオンが取ると?』

 

 ゴップの声も、わずかに重みを増した。

 

「彼らは、敗北寸前でも“特攻”を命じられる集団です。今回のコンスコン艦隊の例からも、それは明らかです」

 

「確かにな……」

 

 ブレックスが頷く。

 

「あれだけ戦局が明白だったにもかかわらず、降伏してきた者はわずかだった」

 

「そこで俺が提示したいのは、“コロニー落とし”の可能性です」

 

 その瞬間、室内の空気が凍りついた。

 

 誰もが――直感的に、その言葉の持つ意味の重さを理解したのだ。

 

「……馬鹿な!」

 

 最初に声を荒げたのはシナプスだった。

 

「奴らとて、一年戦争でどれだけ死んだか分かっているはずだ。あれを、またやるなど……!」

 

「ゼクノヴァを兵器に利用しようとした連中です」

 

 アムロが即答する。

 

「幸いにも、サイド6に連邦の力を示し、資金提供を断たせたため計画は止まりましたが――それならば“代わり”として、コロニー落としを選んでも何ら不思議ではない」

 

「……」

 

 誰も反論できなかった。

 

「一年戦争で最前線に出なかった自分と違い、ここにいる皆さんは連中の“大量虐殺の引き金の軽さ”と、“それを正義と呼ぶ思想”に、実際に向き合いました。その記憶を持つ皆さんなら、俺の懸念が絵空事ではないと分かるはずです」

 

「……それは……」

 

 シナプスは言葉を飲み込む。

 

『確かに……それが真実なら、絶対に許してはならない』

 

 ゴップが重く言った。

 

『君たちの艦隊の火力と、ガンダムの力で、コロニーを破壊できるか?』

 

「はい、可能です」

 

 アムロは即答する。だが――。

 

「ただし、“戦闘中に行われた場合”は、保証できません。戦力が分断されたら、間に合わない可能性もある」

 

 一瞬、誰も彼の意図を理解できなかった。

 

 だが――。

 

「まさか……!」

 

 ブレックスが、鋭く顔を上げる。

 

「“ア・バオア・クー戦の最中”にコロニー落としを行うつもりか!?」

 

「可能性の話です」

 

 アムロは冷静だった。

 

「だが、最悪の状況は常に想定しておくべきです」

 

『……言いたくはないが……奴らにとってコロニー落としは、“人を殺しすぎた作戦”ではない。『ジャブローを潰せなかった』作戦だ。』

 

 ゴップが、続けて言う。

 

『捕虜の中には「コロニー落としでの被害なんて軽微なモノ、オーストラリア大陸の16%は消失したが他は衝撃波と津波が太平洋沿岸を襲っただけ、極地の氷は溶けたが海抜上昇はわずか10m」などと宣う連中もいたという。地球暮らしの連中は宇宙をわかっていないなどというが、ならば奴らこそ地球のことを何もわかっていない』

 

「そう。だからこそ問題なのです」

 

 アムロの声が一層冷たく、静かになる。

 

「奴らは、あれがどれほどの被害を出すか理解していない。だから“軍事戦略の一手”として、平然と取り入れられる。そして……仮に我々がジオンを倒しても、その思想は残り続ける。残党による再三のコロニー落としは――未来の常態になりかねない」

 

「……最悪の未来だな」

 

 ブライトの呟きが、誰よりも現実味を帯びて響いた。

 

「だからこそ、俺が欲しいのは“許可”です」

 

『許可?』

 

 ゴップが聞き返した瞬間、全員が――その続きを察した。

 

 まるで未来を“予知”しているかのような口調に、一同は背筋を凍らせた。

 

 この先に起こることを全て知って、連邦の意思のもとにザビ家の企みを全て破滅させようとしているのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【旗艦アレキサンドリア/第1戦略会議室】

 

 沈黙が数秒、会議室を支配した。

 

 それは誰もが内心で予想しながらも、誰一人として言葉にできなかった未来の“可能性”だった。

 

 その最悪を、アムロ・レイははっきりと口にした。

 だからこそ、全員が逃げられなかった。

 彼の言葉が、現実になるかもしれないという“重み”を。

 

『……いいだろう』

 

 最初に答えたのは、ゴップ元帥だった。

 

『アムロ大尉。君の提案を認めよう。ただし、実行は敵が“ア・バオア・クー戦時にコロニー落としを行った時"に限る。我々の戦力を分断するためだけにまた数十億を殺すような作戦を取った時、その状況下であれば、君の提案を許可する』

 

 誰も異を唱えなかった。

 

 それは単なる報復ではなく、“次の時代”への布石だった。

 

(こんなことは起きてはならない。だが、もし再び行われたなら――)

 

(その時は、容赦なく牙をむく。それが未来の子供たちを守る一手になるのなら)

 

 誰も口には出さない。だが、将官たちの胸中には一つの祈りが宿っていた。

 

(ジオンの中にも、まだ“良識”が残っていてくれ)

 

(……ただの戦力分断のために、また数十億を殺すなど。そんな狂気が、全体ではないと……)

 

 誰もがそう思いたかった。そう信じたかった。

 

 だからこそ、この会議の空気は、確かに“終わった”。

 

 その空気を感じ取って、ゴップが一息ついた。

 

『……さて、議題はこれで終わりだな。各員、他に何かあるかね?』

 

 その瞬間――通信先のテム・レイが、声を上げた。

 

『議題が落ち着いたところで、私から話したいことがあります』

 

「言ってくれ」

 

 ブレックスが応じる。

 

 テムの表情には、研究者としての真剣な光が宿っていた。

 

『アレックスの件です。新型ガンダムへの機体交代に伴い、4人のアレックスは後任のパイロットに受け継がれる予定でした。しかし――アムロの乗っていたアレックスだけは、それが不可能になりました』

 

 その言葉に、会議室の視線が一斉にアムロへと向けられる。

 

 アムロは困惑を隠さず、目を細めた。

 

「……俺は何もしてないですよ。親父、アレックスに何が起きたんだ?」

 

『マニュアル操作での基本的な稼働に問題はない。しかし、バイオセンサーが完全に起動しない。こちらからのリモート調整も効かない。まるで、機体そのものが外部との“接続”を拒否しているような状態だ』

 

「対策は?」

 

 ブライトが口を挟む。

 

『サイコミュ関連の部品を丸ごと取り外し、新型を再設置すれば――“動かす”ことは可能でしょう。ただしそれは、“アムロの動きを学習したアレックス”ではなくなる』

 

 テムは苦い顔で続けた。

 

『要するに、ハードとしての再生はできても、中身――“魂”は引き継げない。戦力的には大きく落ちます』

 

 アムロは目を伏せ、短く黙考した。

 

 静かな時間が流れる。

 

 やがて彼は顔を上げ、口を開いた。

 

「親父、俺がアーガマに向かう。直接、アレックスを見て、どうするか決めたい」

 

 そしてブレックスに向き直る。

 

「……構いませんか、准将?」

 

 その目には、冷静な光と、かすかな決意の色が混じっていた。

 

 ブレックスは頷いた。

 

「もともと君のアレックスだ。戦力を落とさない案があるなら、任せるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 アムロの敬礼が、静かに会議の終わりを告げた。

 

 その背中を見つめながら、誰もが胸の奥で同じ疑問を抱いていた。

 

 ――“アレックスはなぜ、再起動を拒んでいるのか”。

 

 そして――

 ――それが、これからの戦いの“何”を意味するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アーガマ格納庫】

 

 ガンダム・アレックス――かつてアムロ・レイが搭乗し、数々の戦場を駆け抜けた白と青の機体が、静かにメンテナンスリフトへ固定されていた。

 

 その周囲には、複数の整備員と技術スタッフ、そしてその中心に立つテム・レイと、補佐のアルレット・アルマージュの姿があった。

 

 テムは機体各部の調整を指示しながら、時折自らの手で端末を操作し、アレックスの状態を確認している。

 一方のアルレットも、スーツの袖をまくり上げながら整備スタッフに細やかな指示を出していた。

 

 そして――その様子を少し離れた場所から見つめているのは、カミーユ・ビダン、フォウ・ムラサメ、ゼロ・ムラサメ、リタ・ベルナルの四人だった。

 

「……何で、アムロさんのアレックスのバイオセンサーやサイコ・フレームが動かなくなったんだろうな?」

 

 ゼロが腕を組みながら言う。視線はアレックスの腹部、サイコミュ関連の部品の内蔵部分に注がれていた。

 

「だよね。後任に予定されてたパイロットもがっかりしてたみたいだし」

 

 フォウが続けた。

 

「一応、ニュートラルのアレックスの予備機を回したって話だけど……。カミーユとリタはどう思う?」

 

 そう問われて、ゼロとフォウの視線が自然と隣の二人に集まる。

 

 だが、カミーユとリタの顔にはどこか“痛み”のようなものが浮かんでいた。

 

 フォウが眉をひそめる。

 

「……どうしたの? 何か感じたの?」

 

「分からない」

 

 カミーユが静かに答えた。

 

「アレックスから何かを“感じた”わけじゃない。けど……」

 

「はい」

 

 リタも続く。

 

「“何も感じない”のが――悲しいんです」

 

「悲しい……?」

 

 ゼロが思わず聞き返す。

 

 リタはアレックスに視線を戻し、そっと呟くように語った。

 

「アレックスは、私たちが最も長く乗ったモビルスーツです。だからこそ……長く一緒にいれば、その人の気配、匂い、記憶……そういったものがバイオセンサーを通して“残る”んです」

 

 カミーユが言葉を継ぐ。

 

「今のアレックスは今までと違う。変わってしまったのは、多分シイコさんが亡くなった時だ」

 

 言葉の意味を、ゼロとフォウは理解しようとする。

 

 だが、完全には分からない。

 その感覚――機体の“気配”を感知できない悲しみは、ニュータイプの極致に近い二人だからこそ、感じ取れるものだった。

 

(……この二人は、連邦どころか……世界でも最上位のニュータイプだ)

(俺たちには見えないものを感じてる……それが、もどかしい)

 

 ゼロは静かに息をついた。

 

 そのとき――

 

 格納庫奥のハッチが開き、白と青の重厚な機体がリフトに入り込んできた。

 

「Hi-νガンダム……!」

 

 フォウが目を見張る。その機体から降りてきたのは、言うまでもなく――アムロ・レイその人だった。

 

 彼の姿を認めて、ゼロたちは駆け寄る。

 

「会議、お疲れ様です。アムロさん」

 

 ゼロが挨拶する。

 

「全くだ」

 

 アムロはヘルメットを小脇に抱えたまま苦笑する。

 

「俺は戦略家じゃないのに、“ア・バオア・クーをどう落とすか”なんて聞かれても分からないさ。“最初に大砲をぶちかませばいい”って答えたよ。他に言ったのは、常識ではあり得ないことを敵がやった時の対策ぐらいだな」

 

「アムロさんらしいですね」

 

 カミーユが小さく笑う。

 

「他人事だな……。カミーユ、ゼロ。次は“参考意見”として、君たちも来るか?」

 

「勘弁してくださいよ」

「俺は“最強の3人”なんて呼ばれてませんから。ゼロを連れてってください」

 

「お前といい、昔のフォウといい、君たちカップルは困ったら俺を売るルールでもあるのか?」

 

 ゼロがカミーユの頭を鷲掴みにする。

 

「いててて! すみません! 売ったんじゃなくて、丸投げしたんです! “頼りになる先輩”って思ってるからこそですよ!」

 

「同じことだろ! 全く……」

 

 そう言ってゼロが手を離すと、周囲に笑いが広がる。

 

「じゃあ次の会議、通信でヤザンさんに出てもらうってことで手を打ちましょうか」

 

 ゼロの提案に――カミーユ、フォウ、リタが思わず内心で叫ぶ。

 

 (((あんたも売るんかい!)))

 

 そんな賑やかな空気を切り裂くように、テム・レイが歩み寄ってきた。

 

 隣には、アルレットが控えている。

 

「楽しそうなところ悪いが――アレックスの話をさせてくれるか?」

 

 その声に、一同が静かになる。

 

 アムロの表情も、ひとつ引き締まった。

 

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