ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第二十話: シャリア・ブルの新機体

【地球連邦軍本部/応接室】

 

 長い沈黙の後、セイラはようやく口を開いた。

「……納得はできません。だが理解はします。あくまで連邦がその作戦を取るときは、ザビ家の自業自得の時に限るようですから」

 

 その声には怒りと悲しみが滲んでいたが、同時に覚悟もあった。

 

 セイラは振り返り、静かに告げた。

「では――シャリア・ブルをアムロの近くに置いてください」

 

「アルテイシア様、何を仰るのです!」

 シャリアは思わず声を荒げる。だがセイラは首を振った。

 

「あなたであれば、アムロの足手纏いにはならないでしょう」

 

 ゴップが渋い顔をする。

「だが、彼に我々の信頼はまだありませんよ。我々が信頼しているのは、危険もあったろうに自ら私の元まで来た、あなたただ一人です」

 

 セイラは皮肉めいた微笑を浮かべた。

「そもそも私がここに来る決意をしたのは、この男――シャリア・ブルの説得と、悪辣な脅迫の賜物ですよ。この男が不用意な気を起こしても、アムロなら容易く倒せるでしょう」

 

 ゴップは眉を上げる。

「彼に何をさせたいのですか?」

 

「私が前線に出て声を上げられれば良いのでしょう。ですが、それはできないのでしょう?」

 

「当然です!」ランバが声を張った。「あなたの代わりはいないのですから!」

 

 セイラは頷き、毅然とした声で続けた。

「ならば――灰色の幽霊、シャリア・ブル中佐。あなたが私の名を背負い、前線で戦ってください。アムロと共に戦えば、あなたの戦いには意義が生まれる。連邦軍人には、元スペースノイドでもコロニー落としを許さずに立ち上がる者がいると示せる。ジオンの人間には、元ジオンでも努力すれば信頼を預けてもらえると示せる。……少しでも、コロニー落としなどという破滅への道を行かせない努力をしなければなりません」

 

 ゴップは心中で考える。

(……さて。灰色の幽霊をアムロの側に置くのは問題ない。この男は確かにジオン最強のニュータイプだが、“最強の三人”にキケロガのバトルログを見せて勝てると言われている。彼女がこちらの作戦を理解した以上、こちらも歩み寄る姿勢を見せる必要がある)

 

「しかし」シャリアが低く反論する。「私はキケロガを持ち込んでいません。戦おうにも機体が――」

 

 セイラは即座にゴップを見た。

「ゴップ元帥。用意していただけますか? 彼が乗る機体によって、今後のスペースノイドは“自分が連邦に入った時どう扱われるのか”を見る目安になります。……下手な機体は渡さないでしょう?」

 

 ゴップは苦笑し、机の引き出しから極秘資料を取り出した。

「これは手厳しい。……良いでしょう。元モビルアーマー乗りのあなたに相応しい機体があります」

 

 資料を机の上に置くと、三人は思わず身を乗り出した。

 

「試作型宇宙拠点防衛戦用モビルスーツ――デンドロビウム?」

 シャリアが驚きの声を漏らす。

「……なんですこれ? モビルスーツに見えないんですが?」

 

「コアユニットはアレックスです」ゴップが答える。

「モビルスーツの定義に合っているかどうかは知りませんがね」

 

「ジェネレーター出力――38900Kw!? スラスター総推力2265000Kg!? ……恐ろしい化け物機体ですな」

 

 セイラは目を細め、冷静に言葉を紡ぐ。

「……確かに、これなら文句のつけようもありません。ですが、何故これをアムロやその教え子に渡さないのです?」

 

 ゴップは肩をすくめて答えた。

「アムロの“教え子”だからですよ。アムロ大尉はああいう無駄にでかい機体が嫌いなんです。整備性も悪く、的も大きい機体など、テストくらいしか乗ってくれません。ヤザンやゼロも同じ理由で乗りたがらず、弟子達も皆同様です。現状、あれを乗りこなした上で乗ってくれるのは“不死身の第三小隊”の弟子筋、コウ・ウラキ中尉くらいでしてね。……折角二機作ったのに一機余ってしまった」

 

ゴップは内心で小さく息をついた。

(デンドロビウムは確かにカタログスペックでは連邦の機体でも最上位だ。だがiフィールドジェネレーターを潰された瞬間、あの巨体で敵のビームを全て避けねばならなくなる。そんな芸当、ニュータイプでもそうそう出来ん。ましてスラスター出力だの推力値だの――フルサイコフレームのガンダムタイプが本気を出せば、数値上の性能など飾りに過ぎん。……アムロやその弟子が乗りたがらないのも無理はない)

 

「――故に、その一機。ニュータイプ仕様のインコム装備型を、あなたに預けましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミナレット宙域/テストエリア】

 

 漆黒の宇宙に、白銀の巨影が浮かんでいた。

 推進剤の閃光を散らしながら、試作兵器《デンドロビウム》は悠々と進む。

 

 その中核にはガンダムNT-1――《アレックス》が鎮座し、両肩から伸びる巨大な武装コンテナには、ビーム兵器やミサイルポッドがぎっしりと詰め込まれていた。

 シャリア・ブルはコックピットに身を沈め、数値の流れるモニターを眺めながら小さく鼻で笑う。

 

「これを“宇宙拠点防衛用”などと銘打った開発者の正気を疑いますね……。どう見ても、拠点“殲滅”用の機体ではありませんか」

 

 その皮肉に答える声が、突如通信回線に割り込んできた。

 

『後半は賛成だが、前半は賛成しかねるね』

 

「……?」

 

 振り返るようにモニターを切り替えると、そこには一機のアレックスが映し出されていた。カラーリングは異なれど、そのパイロットの声は忘れようもない。

 

「……キシリア様の下から少女を誘拐し、そのまま逃げ去ったと聞いていましたが。やはり生きていましたか――ジョニー・ライデン少佐」

 

『誰だ? そいつは』

 映像の中で金髪の男が口の端を吊り上げる。

『俺は“レッド・ウェイライン”。少女誘拐の末に逃げたロリコンなんて、知らんね』

 

 シャリアは肩をすくめ、わざとらしく溜息をついた。

「……イングリッド0とユーマ・ライトニングを連れていながら、よく言えたものです」

 

『細かいことを気にするなよ。……あんただって、人の立場をどうこう言える立場か?』

 

「ごもっとも」

 小さく笑った後、シャリアは問いを戻した。

「それで、私の話の“前半”に賛成しかねるとは?」

 

 ジョニー――いや、レッド・ウェイラインはにやりと笑みを深める。

『一年戦争中の話だ。連邦の拠点近くにいた艦隊を、オールレンジ攻撃でボロカスにしていった化け物が敵にいた。……“赤い彗星”と“灰色の幽霊”。そんな異名までついた化け物共にな』

 

「……そんな恐ろしい敵がいたのですか。怖いですねぇ」

 わざとらしく肩を震わせてみせる。

「私はむしろ、“真紅の稲妻”と呼ばれたエースパイロットの方が怖いですが。最近では“ロリの為に全てを捨てた真の男”なんて異名をもらっているとか」

 

 ――自分が「灰色の幽霊」であることを棚に置き、平然と白々しい台詞を口にする。

 

『……“ロリの為”とか言うな』

 ジョニーの声が一段低くなった。

 

 すぐに話題を切り替えるように、彼は続ける。

『連邦は一年戦争中、ジオンの《ビグロ》を入手した。その結果、推力136,100kgを誇る化け物モビルアーマーをジオンの“モビルアーマーの基礎”だと認識したんだ。……そんな推力を持つ敵が味方の砲撃の届かない遠距離からオールレンジ攻撃で殲滅してくる。だったら、そいつに勝つために必要なのは何だ?』

 

「……敵の攻撃を受ける前に、敵を殲滅する機体」

 

『そうだ。しかも、殲滅後に味方拠点が攻撃されていても、救援が間に合う推力を備えた機体だ。……やむなし、ってやつだろ』

 

 モニター越しに、レッド・ウェイラインの声は妙に楽しげに響いた。

 

 シャリアは無言で手元のスロットルを押し込み、デンドロビウムを旋回させる。莫大な推力がコックピットを押し潰すように襲いかかった。

 ――なるほど。確かに、これは「拠点を守る化け物」だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プラント艦《ミナレット》内部】

 

 シャリア・ブルがデンドロビウムを降り、通路を歩き出す。

 ミナレット内部は、まるで巨大な工場そのものだった。モビルスーツの関節部、艦艇のパーツと思しきブロック、そして連邦式の新型ジェネレーター。機械の唸りと、溶接の閃光が止むことなく続いている。

 

 ――違和感。

 本来はジオンの艦であるはずのここで、作られているのは連邦製のパーツばかり。

 

「……これだけの生産設備を工場ごと連邦に亡命させれば、キシリア様の激怒も……まあ、納得ですね」

 

 独り言のように洩らした声が、鋼鉄の通路に響く。

 キマイラ隊の六割が亡命したと知ったときのキシリアの怒りを、シャリアはよく知っていた。彼女の怒りに周りのものは気が気でなかった。かつてのジョニーの部下達が、ジョニーの名声を地に落とすことで、周りに当たり散らすことこそなかったが、、その首に賞金をかけ、「見かけたら許可を求める必要はない。殺せ」と灰色の幽霊である自分を含むエースパイロットにまで命じていたほどだ。

 ――おそらく今も、キシリアの機関はジョニーを探し出し、見つけ次第殺せと厳命されているだろう。

 

「あなた達はどう思いますか……ユーマ・ライトニング、イングリッド0」

 

 振り返った先には、少年少女だった頃よりも逞しく成長した二人の姿があった。

 

 ユーマは鋭い視線でただシャリアを観察し、無言を貫いている。

 

「……おやおや、疑われていますか?」

 軽く両手を広げて見せるシャリア。

 

 ユーマは口を開いた。

「ギレンとキシリアの間でコウモリやってたあんたが……今度はダイクンの娘の旗の下、連邦軍で戦う? そんな奴、信用できると思うのか。あんたの言葉は軽すぎる」

 

「あなた達の隊長と違いは無いと思いますがねぇ」

 

「ジョ――むっ!」

 

 イングリッドの鋭い視線が横から突き刺さり、ユーマは慌てて自分の口を押さえた。

 

「……レッド・ウェイラインは“連邦工兵隊所属、開発支援技術士官の少尉”。裏切りなんて身に覚えのない言いがかりよ」

 

「まずそこを認めてもらわなければ、理解を求めようがありませんが……」

 

 その時、通路の奥から聞き慣れた声が響いた。

 

「……その“ジョニー・ライデン”とあんたの何が同じなんだ?」

 

 レッド・ウェイライン――かつて“真紅の稲妻”と呼ばれた男が、姿を現した。

 

 シャリアは振り返り、静かに答えた。

「自分の信念に従って行動している点が、同じだと思いますよ。世間の噂で揶揄ったのは謝りましょう。……キマイラ隊の第一小隊が家族のような関係だったのは知っています。彼は娘のためにジオンを捨てた。……いえ、キシリア様に娘を生贄にされかけるという裏切りを受けたから、捨てざるを得なかった」

 

 ユーマとイングリッドが息を呑む中、シャリアは続けた。

「私は家族のためではありませんが、卑劣な事をしているつもりはない。ザビ家のお二人に実権を握らせたままでは必ず虐殺が起きる。ならば……」

 

「――両者とも同時に殺してしまえばいい、か?」

 

 レッドの口から洩れたその言葉に、ユーマとイングリッドが驚愕に目を見開いた。

 

「……そのつもりでした。イングリッド0、あなたがコアパイロットとなるはずだったジフレドで操る兵器――《イオ・マグヌ゙ッソ》が完成すれば、ザビ家の二人が揃う。……その時、私が二人とも抹殺する。後のことはアルテイシア様に託し、次の大戦を防ぐつもりでした」

 

 イングリッドは目を細めて問い詰める。

「それが何で、今は“連邦のパイロット”やってるわけ?」

 

 シャリアは小さく微笑み、言葉を返した。

「……アルテイシア様に諭されたのですよ。暗殺の果てに“ダイクンの娘”が玉座に座ったところで、戦いは終わらない。今度は“ダイクン派”と“ザビ派”の内戦になるだけだと」

 

 その言葉に、レッドが重々しく頷いた。

「だろうな。ザビ家に心酔する連中は、ザビ家を殺したあんたが“ダイクンの娘とは無関係”だと主張したところで、従いやしない……」

 

 工場の機械音が、再び会話を覆い隠すように響いた。

 

 シャリア・ブルは、腕を組んで一息つくと、レッド、ユーマ、イングリッドの三人へ静かに言葉を投げかけた。

 

「だから私は方針を変えました。連邦の旗のもとでザビ家を打倒し、その後――アルテイシア様を首相としたスペースノイド政府を築く。そして連邦と共生の関係を結ぶ。それが、私の目的です」

 

 ミナレットの生産機械が吐き出す騒音の中でも、その声ははっきりと響いた。

 

 ユーマは鼻で笑ったが、鋭さは弱まっていた。

「……経歴は好きじゃない。ギレンとキシリアの間を渡り歩いてた奴なんざ、どうにも信用しにくい。でも……ダイクンの娘を裏切る気はなさそうだな」

 

 イングリッドも無言で頷いた。彼女の目は冷ややかだったが、その奥には「一応の納得」があった。

 

「おや、それは嬉しい評価ですね。嫌われても構わない。だが、信用はしていただきたい」

 シャリアは肩を竦めて笑う。




キケロガでギャンとやり合うような超機動してたんだからデンドロビウムも使いこなしてくれるでしょう!ということでシャリア・ブルはデンドロビウムに乗せます。

明日も1800ごろに投稿します。
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