ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第二十九話: 星二号作戦9リタvsセリーヌ  ゼロvs NT-001

 金色の閃光が乱舞し、量産型キュベレイの残骸が次々と宇宙を漂う。

 リタのフェネクスは損傷こそないものの、その動きには焦燥が滲んでいた。

 

(……妙だ。どれも操縦は稚拙、でも――連携が異様に噛み合ってる……まるで、視界や思考が繋がってるみたい)

 

 ファンネルを撃ち落としつつ疑念を抱くリタの耳に、狂気を含んだ声が届いた。

 

「気になるのね? こいつらの動きがやけに上手いのが」

「……別に。大した脅威じゃないので」

 リタは努めて冷たく返す。

 

 だがセリーヌは愉悦を隠さず語り始めた。

 

「まあ聞きなさいよ。“リンク・サイコミュ”ってのがあるのよ。機体同士のサイコミュを同調させて、能力を引き上げるシステム」

「それを使ってるんですか?」

「いいえ。そんな玩具は要らないわ。だって……頭に直接書き込めばいいんだもの!」

 

 ぞっとする声色でセリーヌは続ける。

 

「こいつらの思考を極端に下げて、サイコミュにAIを直結させた。AI同士を並列起動すれば、パイロットなんてただのパーツよ! リンク・サイコミュなんて無くても同じことができる! まあ……稼働時間は一時間ももたないけどね」

 

 リタの胸に、燃えるような怒りが走った。

「……っ!」

 

 フェネクスのツインアイが強烈に輝き、サイコフレームが赤と緑の混じる光を放つ。

「あなた……だけは……絶対に落とす!」

 

 ビームマグナムの閃光が走り、量産型キュベレイの一機を粉砕する。

 さらにアームド・アーマーDEが連動し、敵のファンネル群をまとめて焼き払った。

 

 残る敵は六機。ファンネルも初めの十分の一にまで減っている。勝敗は時間の問題だった。

 

 ――その時。

 

「……はぁ?」

 セリーヌが、不意に低く吐息を漏らす。

 狂気じみた笑みが消え、冷たい殺意が滲んでいた。

 

「……?」

 リタは即座に狙いを定め、残りの量産型を撃ち落とそうとする。

 

 しかし、セリーヌの声が先に響いた。

「私の作品のくせに……敵の強化人間に靡く? 許すわけないでしょう……」

 

 その瞬間、残った四機のキュベレイが一斉にリタへ殺到する。

「っく!」

 リタは迎撃に追われ、セリーヌを追えない。

 

 クィン・マンサは残骸の影を抜け、巨体とは思えぬ加速で宙域を離脱していく。

 

(待って! どこへ――!)

 リタの焦燥を背に受け、セリーヌの影はゼロとNT-001が交戦する戦場へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宙域に、黒金の巨影と異形の機影が交錯する。

 ゼロ・ムラサメの〈バンシィ〉。

 対するは、少女NT-001の操る《マグナ・マーテル》。

 

「……ねえ」

 通信が割り込んだ。無機質で、それでいて幼さの残る声。

「どこを狙ってほしい?」

 

 次の瞬間、マグナ・マーテルのファンネル群が解き放たれ、バンシィの周囲に蜘蛛の巣のような弾幕を張り巡らせた。

「うふふふ……どこに逃げたって無駄よ!」

 

 だが、ゼロは僅かな姿勢制御だけでビームの雨を掻い潜る。逆に、ビーム・マグナムを構えて撃ち放つ――だが、その狙いはマグナ・マーテルそのものではなかった。

 

 閃光が走り、射線の延長上にいたゲルググが一機、爆散する。

 

「なっ……!」

 NT-001は自分が避けた一撃が、味方を撃ち抜いたことに気づき、わずかに動揺した。

「お前なんか……お前なんかぁっ! 消えてしまえぇぇぇっ!!」

 

 怒号と共に、マグナ・マーテルのアクティブ・カノンが火を噴く。だが、ゼロはIフィールドを展開することなく、機体を大きく捻りながら回避した。

 その砲火は、背後にいた味方機を直撃し、爆炎を撒き散らす。

 

 ゼロの声が冷静に響いた。

「……狙いが甘いな」

 

「こんなのっ……ただのまぐれに決まってるわ!」

 NT-001はヒステリックに叫び、再びファンネルを展開した。だが、彼女の動きはすでにゼロの掌の上にあった。ビーム・マグナムを撃つタイミング、ファンネルの散布角度――全てを、ゼロは意図的に操り、彼女自身に「戦えている」と錯覚させていたのだ。

 

 実際には――圧倒的な差が、二人の間には横たわっていた。

 

 バンシィのコクピットで、ゼロは小さく息を吐いた。

(……そうか。この違和感の正体は……)

 

 目の前の少女は、確かに強い。だが、その力は「本人の意思」で得たものではない。薬物と手術で無理やり引き出された、歪な強化の産物。

(彼女は……俺と同じだ。過去の俺と……同じ、“誰かの道具”にされただけの被害者……)

 

 ゼロの心に、苦い記憶が蘇る。

ムラサメ研究所。自分もまた、人間としてではなく「強化された兵器」として扱われた日々。

 その記憶が、今の戦いの光景と重なっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ア・バオア・クー宙域/Eフィールド】

 

 光と閃光が錯綜する戦場において、ゼロ・ムラサメの〈バンシィ〉と、NT-001の《マグナ・マーテル》が対峙していた。

 

「君は……ジオンの強化人間だね?」

 ゼロの問いかけに、少女の声が返る。

 

「そうよ……あなたも連邦の強化人間でしょ? 私と同じ。ニュータイプを恐れてモルモットにする連中の道具……」

 

「昔は僕もそうだった……でも今は違う。連邦は強化人間をもう作らない。だから――モルモットなんて必要としていない」

 

 その言葉に、NT-001の感情が激しく揺れ動く。

「モルモットじゃない、ですって……!? これだけの力を、あなたは自分で努力して得たって言うの!? 私たちは……体を改造されて、薬物漬けにされて……いつ処分されるかに怯えて戦ってるのに!」

 

 彼女の怒声と共に、マグナ・マーテルの火力が増大する。しかしその怒りは攻撃を単調化させ、ゼロにとってはむしろ利用しやすいものへと変質していく。ビーム・マグナムの照準を外し、避けさせた先でジオン機を撃破し、さらには彼女のアクティブ・カノンを回避することで同士撃ちを誘発する――。戦況は冷徹に傾いていった。

 

「悪いけど、僕にも背負うものがある。君を説得して人間として生きていいって信じさせるには、僕の命を差し出す覚悟が要る……だが、仲間も、家族のような子も、弟子たちもいる。そんな無茶はできない。だから君自身が決めるんだ。これからどうするのか、どうしたいのか。」

 ゼロの脳裏には、ドゥー・ムラサメの世話をする自分に「ムラサメのお兄ちゃん」とフォウがからかい混じりに言った姿が過る。血の繋がりはなくとも、確かに結ばれた絆が、彼を支えていた。

 

 その心を感知したのか、NT-001の声が震えた。

「なぜ……同じ強化人間なのに、こんなにも私とあなたは違うの……?」

 

「過去が違うだけだ。……だが、ジオンの強化人間への扱いはよく分かった。投降すれば悪いようにはしない。君の体の治療も、ムラサメ博士なら可能だ」

 

「治してくれるの……? ただの消耗品のモルモットの私を……?」

 

「これからは、人間として生きていけばいい」

 

 ゼロはそう言いながら、バンシィの右腕を差し伸べた。

 その仕草に、NT-001――いや、少女は確かな救いを見出したように見えた。マグナ・マーテルの巨大な腕もまた、彼に向けて伸ばされる――。

 

 だが、その瞬間。

 

「所詮、プロトタイプはプロトタイプか……。偽物同士で傷の舐め合い? 人間として生きる? そんなこと、許すわけないでしょうが!」

 

 セリーヌ・ロムの嘲笑が宙域を裂いた。次の瞬間、特定電波が放たれ、NT-001のスーツに仕込まれた制御装置が作動する。

 

「――ああああっ!!」

 少女の絶叫が響いた。パイロットスーツから、容赦ない電流が彼女の肉体を苛む。

 

「セリーヌ・ロム……! お前は!」

 ゼロが叫ぶ。

 

「強化人間はニュータイプを前にした時、相性次第で裏切る可能性が高い……。ええ、聞いていたわ。まさか、強化人間同士でも裏切るなんてね。だけど、そんなことはさせない。……NT-001、聞こえる? あなたに真実を教えてあげる」

 

 苦悶の中、少女はその声に耳を傾けた。失われた記憶、その欠片に触れられるのではないかと、希望にも似た感情が脳裏をかすめたのだ。

 

「……あんたの本当の名前は、レイラ・レイモンド。サイド2の8バンチコロニー――アイランド・イフィッシュの生き残りよ。親を亡くして難民をしていたあなたを、私が拾ったの」

 

 衝撃。レイラはその名を聞いた瞬間、心の奥底から押し潰されるような感覚を覚えた。忘れていたはずの映像が、断片的に蘇る。

 

 ――優しい父と母の笑顔。

 戦争の影が迫り、高騰していたろうに旅券を自分のために用意してくれた夜。

 

『戦争なんて、そうそう起こらない。私たちもすぐ追いかける。向こうで、いい子で待っていなさい』

 

「ほんとう……?」幼い自分が震えながら問う。

 

『ええ。だから、良い娘で待っててね』

 

「うん……」

 

 泣きながら頷き、両親と抱き合い、船に乗った。

 

 しかし、中立コロニーのホテルで荷を解いた時――そこにあったのは銀行通帳、貴金属。どう見ても「短期の滞在」に必要なものではなかった。

 

 胸騒ぎのまま、テレビをつける。

 

『速報です! ジオン軍はサイド2・アイランド・イフィッシュに毒ガスを散布! 住民を虐殺した後、コロニーを地球へ落としました!』

 

 レイラの思考は止まった。

 

(……サイド2? 私がいたコロニー郡だ……)

(……アイランド・イフィッシュ? お父さんとお母さんが、まだ残ってる……あのコロニーだ……)

 

 理解は、拒絶に変わる。

 現実を受け入れられず、ただ――心の奥で壊れた声が繰り返す。

 

(……嘘だ。そんなの……嘘に決まってる……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリーヌ・ロムの指先が、無造作に二つのスイッチを押し込んだ。

 一つは、強制的にレイラを従わせるための電流制御。

 もう一つは――裏切りを察知した強化人間の機体に仕込まれた、最悪の“処分装置”。核動力炉を臨界に追い込み、爆発で裏切り者と敵をまとめて葬り去るためのシステムだった。

 

 それは、ジオンがニュータイプや強化人間を「駒」としか見ていない証だった。

 もしアンネローゼが投降を選んでいたなら、やはりその瞬間に爆散していたことだろう。

 

「アハハハ! 私だけ死ぬなんて冗談じゃない! 裏切る失敗作も! 連邦のニュータイプも! 強化人間も! みんな一緒に死ねばいいのよ!」

 セリーヌの狂笑が、宙域を震わせた。

 

「もう黙って!」

 リタが叫び、フェネクスが両腕のビームサーベルを展開。

 金色の光がクィン・マンサを切り裂き、その巨体は爆炎に呑まれて爆散した。

 

「ごめんなさい! ゼロさん、レイラさん! 私が……セリーヌに時間をかけたから!」

 リタの悔恨の声に、レイラは微笑を浮かべてかぶりを振った。

 

「いいの……最後に記憶を取り戻せただけでも……」

 

「なら早く脱出しろ!」ゼロが怒鳴る。「バンシィとフェネクスなら君を拾って爆発の範囲外にだって――!」

 

「脱出はできないの」レイラの声は静かだった。

「コクピットにロックがかけられてる……裏切る可能性のある私を“爆弾”にするための仕組み……」

 

「そんな……!」リタの瞳が揺れる。

 

 レイラはゼロを見つめた。

「ゼロ……“人間として生きていい”って言ってくれた。あの言葉、嬉しかった。だから、もういいの……逃げて」

 

 だが、ゼロは首を横に振った。

「さっき僕は、君に命を預けられなかった。それは……結果が僕以外の行動で決まるからだ。だが、今は違う。君を救わずに逃げれば、味方に大損害が出る。――だから、命を賭ける。結果として君が助かるなら、それでいい」

 

 バンシィの双眸が緑に輝いた。

「リタ! 手を貸せ!」

 

「は、はい!」

 

「ゼロ……無理よ! ロックは……!」

 

「ロックは外さない。君だけを助け出す。――レイラ、シートの後ろに移動しろ」

 

 彼女は涙を浮かべつつも頷いた。

「……わかった」

 

 シートの背後に身を寄せ、目を瞑る。ニュータイプの感覚で、バンシィがビームサーベルを構えたのを悟る。

 

――ゼロ視点

 

(出来るはずだ……バンシィ。僕を導け!)

 

 ゼロの心の声に応えるように、バンシィのフル・サイコフレームが眩く輝いた。

 緑光が迸り、ビームサーベルがマグナ・マーテルのコクピットを切り裂く。

 

「ゼロさん!? 何を――!」

 リタの声を無視して、バンシィのマニピュレーターが内部へと突き入れられる。

 

 そして――震える腕で必死にしがみつくレイラの姿を掴み出した。

 その身体を自機のコクピットへと引き入れる。

 

「……出してくれてありがとう! でも……マーテルは!? もう数十秒で臨界に達するのよ!」

 

「ここからはリタと二人がかりだ」ゼロは短く告げる。

「リタ! やることは分かってるな!」

 

「ああもう! やりますよ!」

 

 バンシィとフェネクスは、爆発寸前のマグナ・マーテルに両手をかざした。

 次の瞬間、緑と金のサイコフレームの光が溢れ、マーテルを包み込む。

 

 推進剤を使わず、衝撃すら与えず――まるで光に抱かれるように、機体はア・バオア・クーの方角へ高速吸い込まれていった。

 

「なっ……何それ!?」レイラが息を呑む。

 

「ジオンのこういう作戦に、カウンターとして作られたもの。サイコフレームの力だ」

 

ジオンの機体のために臨界寸前の機体は迎撃されることもなく、要塞のドックに辿り着いた。

 

 やがて、臨界に達したマグナ・マーテルは――要塞内部で爆散した。

 ドック一つと周辺施設を消し飛ばす大爆発。だが、連邦側への被害はゼロだった。

 

「……生きていいんだ、レイラ。これからは、人間として」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ア・バオア・クー/管制室】

 

「報告!」通信士の声が震えていた。

「ビグ・ザム五機……すべて撃墜されました! 撃破したのは、敵のヤザン・ゲーブルが乗ると思われる白い新型ガンダムタイプです!」

 

「な、何だと!?」グレミー・トトの顔色が変わる。「五機……すべてだと!? あのビグ・ザムを……!」

 

通信士は言葉を継ぐ。

「さらに――残存していた第八号機は一機のアレックスに、第九号機はアレックスとネモⅡのマブに、第十号機はネモⅡ三機の連携により撃破されました……」

 

「馬鹿な……!」グレミーの声は裏返っていた。

「艦隊すら沈められるモビルアーマーが、ガンダムですらない量産型に……!」

 

「……最後の一機はどうなっている!?」

通信士が青ざめたまま答える。

「い、今、黄金のガンダムタイプと交戦中のようです……! ――いえ、撃墜が確認されました!」

「ルナツーすら落としたビグ・ザムが……全滅だと……」グレミーは絶句し、指先を震わせた。

 

ギレンは椅子に深く身を預け、冷ややかな眼差しでその報告を聞いていた。

(……やはり、か)

 

彼の脳裏に描いていた戦略図が音を立てて崩れる。

本来なら――ビグ・ザムを艦隊戦力にぶつけ、新型モビルアーマー《ノイエ・ジール》や《クィン・マンサ》でガンダム部隊を撃滅する。それが今回の作戦の肝であった。

 

(だが現実は……モビルスーツの設計技術、そしてパイロットの練度。すべてにおいて連邦に後れを取っているということだ)

 

彼は鼻で笑うように短く息を吐いた。

(“ジオンの技術は連邦の十年先を行く”――などと嘯いた技術者どもに発破をかけるのが、あまりにも遅すぎたな)

 

机上に広げられた資料へと視線を落とす。そこには――キシリア機関からもたらされた連邦の最新報告書があった。

“連邦のガンダムは、ジオンのカスタムゲルググはおろか既存のモビルアーマーですら太刀打ちできない性能を持つ”――そう明記されていた。

 

妹キシリアの死後、一部の狂信者を除く彼女の部下たちは、揃ってこの情報をギレンに提出してきた。

(……奴らもようやく理解したらしい。妹亡き今、私が敗れればジオンそのものが終わると)

 

だが、彼の心に去来したのは感謝ではなく、冷淡な嘲りだった。

(今さら気づいても遅い。諜報部を大勢すり潰して“英雄の妻”を分断し、人質戦法などという姑息な策にかまけていたとは……眩暈がするわ)

 

資料の端を指先でなぞりながら、ギレンは冷然と吐き捨てるように思考した。

(そんなことに時間と人材を費やすくらいなら――全軍に情報を共有し、いかに勝つかを考えるべきだったのだ)

 

ギレンはそこで思考を切り上げ、心に渦巻いた妹への罵声を収めた。

今この場で必要なのは過去を咎めることではない。怯えと混乱に沈む将兵を、再び己の覇道へと引き戻すことだった。

 

視線を上げると、報告に声を震わせていた通信士と、その隣で血相を変えていた息子――グレミーが目に入る。

 

「落ち着け、グレミー」

その声音は冷徹でありながら、確固たる自信に裏打ちされていた。

「ビグ・ザムが敗れたとて、我々はまだ切り札をすべて切ったわけではない」

 

「……はっ!」

父の声に、グレミーは呼吸を整える。蒼白だった顔に血色が戻り、敬礼と共に応じた。

「閣下!」

 

ギレンはゆっくりと頷き、管制室全体を見渡した。

「だが、認めざるを得ないのも事実だ。連邦の戦争準備は我らを上回っていた。エースを乗せたカスタムゲルググも、ニュータイプに託したクィン・マンサも敗北した。――ことここに至っては温存はできん」

 

言葉を切り、鋭い眼差しで全員を射抜く。

「最後の切り札を切るぞ。アサクラに通信を飛ばせ。核パルスエンジンを始動せよ、とな。」

 

その一言が管制室に響いた瞬間、誰もが息を呑んだ。

だが凍りついたのは恐怖ではなく、むしろ暗い宙域に射す光を見たかのような恍惚だった。

 

通信士の目は一瞬揺らぎ、すぐに熱を帯びた輝きに変わる。

グレミーの蒼白だった頬にも、血の気と共に陶酔めいた紅が差す。

 

「……はっ! 閣下、直ちに交信を確立いたします!」

その声には、単なる命令遂行ではなく、“選ばれし者の使命”を授かった者の高揚が宿っていた。

 

将兵たちは皆理解していた――“最後の切り札”が意味するところを。

しかし誰ひとりとして止めようとはしない。

むしろそれこそが敗北を覆し、ジオンを勝利へと導く唯一の道だと信じて疑わぬ顔ばかりだった。

 

ギレンは満足げに小さく頷くと、冷ややかに命じる。

「全軍に演説をする。私の元へ通信をつなげ。」

 

歓喜を噛み殺すように、将兵たちは持ち場へと散っていった。

その瞳には理性ではなく、総帥ギレン・ザビへの絶対の信頼が宿っていた。

 

――その盲目の代償を、彼らが知るのはまだ先のことだった。




☆8評価ありがとうございます! わけみたまさん

レイラについては独自設定過多です。しかし、gジェネアドバンスやり込んだ勢としては彼女を出さずにはいられないのです!
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