ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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1800ごろのはずがだいぶ遅くなって申し訳ない。


第三十一話: 星二号作戦11

【ジャブロー・ゴップ執務室】

 

 厚い扉が閉じられた執務室の中央に、モニターが据えられている。

 そこに、ギレン・ザビの演説が映し出されていた。

 高圧的な声音で「地球人類の抹殺こそが、新しき未来を切り開く唯一の道である!」と宣言する彼の姿に、室内の空気は一瞬にして凍りつく。

 

 セイラ・マス――いや、アルテイシア・ソム・ダイクンは、膝の上で両手を固く握りしめた。爪が白くなるほどだ。

 その背後で、ランバ・ラルが黙って立ち、静かに主の様子を見守っている。

 

 やがて、モニターの音声が途切れ、ゴップは深く息を吐いた。

「正直に言えばね、私は半分半分だと思っていたのですよ」

 

「半分?」ランバ・ラルが眉を寄せる。「コロニー落としをするか、しないかということですか?」

 

「それもありますが――」ゴップは椅子に深く腰を掛け直した。

「ギレン・ザビが、素直に敗北を受け入れるかどうか、という意味でもあります」

 

 セイラとランバ・ラルが同時に首を傾げる。

 

「それは……どういうことです?」

 

「今回の大戦はね、始まる前から“連邦の勝利”で決まっていたのです」

 ゴップは淡々と告げ、机上の端末に指を滑らせた。

 

 壁のスクリーンに、両軍の損耗率を示すグラフが映し出される。

 一番上には主力量産型モビルスーツの数――連邦のネモⅡと、ジオンのゲルググが並んでいた。

 開戦初期はゲルググが数で優勢だったが、戦闘が続くにつれて急速に数を減らし、やがてネモⅡが圧倒する曲線を描いている。

 

「ご覧の通りです。主力兵器の性能差は歴然。連中もそれを理解して、ニュータイプ用の大型モビルアーマーや量産型キュベレイを投入しましたが……せいぜいネモⅡを三〜五機落とせれば上出来。その直後に、こちらのエースに撃墜されている」

 

「ガンダムタイプの被撃墜報告がゼロ、というわけですな」

 ランバ・ラルの声には、わずかな驚きが滲んだ。

 

「その通りです」ゴップは頷く。

「唯一、旗艦への奇襲時は危なかった。“クィン・マンサ”と呼ばれる化け物モビルアーマー二機と、量産型キュベレイ十機、それに上位機マグナ・マーテル三機まで差し向けられた。誰かしら落とされてもおかしくなかったのに……まさかヤザンの応援が来る前に、自力で退けるとは」

 

 ゴップの目が細まる。

「アムロ・レイ達から“ドゥーやフォウがサイコガンダム以外に乗りたいと言ったら希望を聞いてやってほしい”と頼まれた時、上層部は戸惑いましたが、彼らの慧眼は確かでした。まさか、ドゥー・ムラサメがクィン・マンサを含む七機を相手に、単独で勝ち切るとは……」

 

「一対七で!?」セイラは思わず身を乗り出した後、後ろのランバラルに目線を向ける。「ランバ・ラル?」

 

 ラルは口髭を撫で、苦笑した。

「このランバ・ラル、アルテイシア様をお守りする殿としての務めを全うする覚悟はありますが……さすがにその条件では勝ち目は薄いでしょうな」

 

「“壁”を越えた者と、それ以下の差は想像以上に大きいようです」ゴップは軽く肩をすくめる。

「とはいえ、仮に旗艦が落とされたとしても――」

 

「戦況は変わらない、と?」セイラが問い返した。

 

「ええ。我々は経験があります。旗艦を落とされても、そのまま戦うことに慣れていますから」

 ゴップはわずかに笑い、ぼそりと呟く。

 

「レビルの奴の頃なぞ、宇宙で二度も旗艦を失っているのですよ」

 ゴップはわずかに口元を緩めたが、その目はどこか寂しげだった。

 

「一年戦争の最初は捕虜にされ、三度目は前線に辿り着く前にコロニーレーザーに消されてしまった……。まったく、もう少し前線で“旗艦”の役目を果たしてくれても良かったのに」

 

 小さく吐息をつき、彼は首を振った。

「――まあ、あなた方には無関係な話でしたな」

 

 そして表情を引き締めた。

「要塞に連邦軍が取り付き、ザビ家の切り札ビグ・ザムは全滅。――これでは、どうしようもない」

 

 彼は指先でデータを閉じると、静かに言葉を続けた。

「そして、これは開戦前から予想できたことでもあります。つまり残るは、ギレン・ザビがどう動くか。通常戦力では勝てない。ではどうするか……」

 

「地球にコロニーを落とし、前線の兵を分断させる――」ランバ・ラルが低く呟いた。

 

「その通りです」

「彼の狙いはそこにあったのでしょう。しかし、我々が阻止に出したのはたった六機の精鋭だけです」

 

「たった六機、と言いたいところですが……」セイラはゆっくりと息を吐いた。「あの人たちなら、十分なのでしょう。そこにアムロもいるのですね?」

 

「ええ。作戦自体、彼の提案です」

 ゴップはセイラをまっすぐ見据えた。

「アルテイシアさん、よろしいですね? ――あなたの配下であるシャリア・ブルからの情報では、ア・バオア・クーの内部にはザビ家とその狂信者しか残っていない。ダイクン派と疑われた兵士たちは、本国に人質を取られ最前線に送られている。彼らを一刻も早く投降させるためにも、アムロ大尉の“カウンター作戦”は最良の選択です」

 

「構いません」

「私に遠慮する必要はありません」

 

「おや、手心を望まれると思っていましたが」

 

「ようやく理解しました」セイラは視線を落とし、拳を開いた。

「彼らにとって“コロニー落とし”という禁じ手は、あまりに軽い。負けを認めたくない、その一点だけで選べる人々に、手心など不要です。ただ……前線の兵たちについては、可能な限り救ってください」

 

「もちろんです」ゴップは即答した。

「降伏は、いつでも受け入れる用意がありますよ」

 

 セイラは小さく頷き、ランバ・ラルは静かに背筋を伸ばした。

  戦場の最前線では、六機のガンダムが決死の戦いに挑んでいる――その重みを、三人は確かに共有していた。

 

「しかし、アムロ・レイの言う“カウンター作戦”……」

 

「ザビ家がこうした戦略に出た以上、奴らをア・バオア・クーに閉じ込めるのが肝になると思いますが、全てのドックを封鎖するなど可能なのですか? シャリア・ブルや私が持って来た情報で、せいぜい六割が明らかになった程度でしょう」

 

 ゴップは腕を組み、苦みを含んだ笑みを浮かべた。

「その節は助かりましたよ。そして――可能です。連邦の諜報部は、奴らのように人質作戦や内戦のために人員をすりつぶすような真似はしていません。敵を相手に全てのリソースを注ぎ込んでいるのでね」

 彼は軽く端末を操作し、ア・バオア・クーの図面を映し出す。

「一応、締めに潜入工作が得意な部隊を取り憑かせています。コロニー落としが予想されていた以上、前もってね。――もっとも、その部隊の護衛を任された彼は、内心ではかなり嫌そうでしたが」

 

 ゴップの言葉に、セイラが小さく首を傾げた。

 

 そこで――場面は、戦いが始まる前へと遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジャブロー/連邦軍会議室】

 

 会議卓に並ぶ面々を前に、ブレックス准将がスクリーンを指し示した。そこには、ア・バオア・クーの各戦域に割り当てられたパイロットの名が映っている。

 

「――というわけで、新型ガンダムを受け取る諸君には、それぞれ要塞の各フィールドで暴れてもらう」

 ブレックスの声は落ち着いていたが、その奥に鋭い緊張が潜んでいた。

「奴らが出してくるニュータイプ用モビルスーツやモビルアーマーは、即座に駆けつけて叩いてくれ。ネモⅡはゲルググはもちろん、カスタムゲルググ相手でも性能面で優位にある。悪あがきのサイコミュ機を潰せば、決着はさらに早くつくはずだ」

 

 モニターを見つめていたアムロが、ふと問いかけた。

「了解です。しかし准将、俺やヤザン、ゼロ、それにリタの名前はありますが……カミーユがいません。カミーユはどこに?」

 

「ああ、それはな」ブレックスは顎に手をやり、わずかに視線をそらした。

「カミーユ君、君にはある部隊を要塞内部まで護衛してもらう。だから開戦したら、敵の層が比較的薄いエリアから突入することになるだろう」

 

「ある部隊……ですか?」

 

「――スレイヴ・レイスだ」

 

 カミーユの表情が一瞬固まった。

「スレイヴ・レイスって……確か、派閥を変えてきたグレイヴ大佐の部下ですよね?」

 少し間を置き、深く息を吐く。

「………………了解しました」

 

(だいぶ間があったな)ゼロがちらりと視線を送る。

(まあ、カミーユなら嫌だろうさ)ヤザンが口角を上げた。

(口に出さなかっただけ成長だ)アムロは静かに思う。

(そうですね。昔のなんたらメサ中尉を殴った頃なら“嫌です!”って即答してましたよ)リタは微笑を浮かべた。

 

 ブレックスはわずかに肩をすくめた。

「カミーユ君、君の気持ちは理解できる。グレイヴの奴は、アムロ達のアレックスの力を見て勝てないと悟ったから派閥を変えたような男だ。信用できないのも当然だ。あいつはどの面下げてこっちの派閥にいるんだ――ゴップ提督の後を継ぐ者は大変だな。あんな男を影として抱えねばならんとは。全く同情するよ」

 

「准将、本音が漏れてますよ」隣のヘンケンが苦笑交じりに小声で制した。

 

「おっと、失礼」ブレックスは咳払いし、気を取り直した。

「ともあれ、グレイヴはさておき、その部下《スレイヴ・レイス》には連邦でも有数のハッカーがいる。同等の腕を持つ者もいるにはいるが……まだ子供で、戦場には出せない。だからこそ、そのハッカーをア・バオア・クーの奥まで運ぶ役が必要なんだ。――君なら任せられると思った」

 

 カミーユは深く息を吸い、真剣な瞳で頷いた。

「分かりました。その人たちを守って連れて行くことが、全体の役に立つなら……俺も全力を尽くします」

 

 

 そして時系列は開戦直前まで進む――。

ペガサス級強襲揚陸艦の機密会議室では、グレイヴが地図を示しながらスレイヴ・レイスへ任務を告げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ペガサス級強襲揚陸艦・機密会議室】

 

 厚い防音扉の向こう、会議室の空気は緊張に張り詰めていた。

 テーブルの端に肘を預け、グレイヴが端末を操作しながら視線を上げる。

 

「――と言うわけだ」

 スクリーンに、ア・バオア・クー周辺の立体地図と、いくつもの赤いポイントが浮かび上がる。

「君らには《ダイバー》のハッキング能力を使って、要塞内部のドックや連絡ゲートの数を調べてきてもらう。あそこを完全に封鎖しなければ、ザビ家もその信奉者も根絶できん」

 

 重たい沈黙の中、トラヴィスが口を開く。

「また潜入任務か? ジオンのゲルググにでも乗って行けってか?」

 

 グレイヴは苦笑を浮かべ、首を振った。

「それはバスクや旧派閥が好むやり口だ。我らは“輝かしいゴップ派閥”だぞ? そんな無駄な真似は要らん」

 

「じゃあどうやって、俺たちをア・バオア・クーの中まで連れて行くんだ?」

 トラヴィスの眉がひそめられる。

 

 グレイヴは指でスクリーンを操作し、一枚の映像を映し出した。

 そこには、戦場を真っすぐ突破していくユニコーンガンダムの姿――カミーユ・ビダンの機体だ。

 

「答えは簡単だ。カミーユ・ビダンの後ろをついて行け。敵は全部、あのユニコーンが薙ぎ倒す。きれいになった道を、君らは静かに進めばいい。ガンダム乗りの他のメンバーは戦況に応じて戦線を移動するが、カミーユだけは要塞の中枢まで突き進む。一応、カミーユが抜ける可能性も示唆されているが」

 

「おいおい、カミーユ抜きで行く羽目になったら、さすがにきついぞ?」

 トラヴィスのぼやきに、グレイヴは肩をすくめる。

 

「心配するな. 最悪の場合でも、君らを取り付かせてから抜けるよう話は付けてある」

 彼は端末に指を滑らせ、ネモⅡの仕様データを呼び出した。

「それに君らの機体は、ユニコーンを見失わない程度にスラスターを強化済みだ。ゲタも用意してある。最低限の足回りは確保してあるから安心しろ」

 

 フレッドが腕を組んで笑う。

「なるほどな。じゃあ俺たちは、英雄様の影で地味に仕事をするってわけか」

 

「影の仕事こそ、歴史を変えるんだ」

 

「まあ安全が確保されてるって言うならア・バオア・クーの内部情報調べ尽くしてきてやるさ」

 

 四人が会議室を出ていくと、グレイヴは一人、暗くなったスクリーンを見つめた。

 彼の表情に、わずかな陰りが差す。

 

「……コロニー落としを、奴らが本当に仕掛けると上は確信している。だからこそ、カミーユ・ビダンまで使って逃げ道の封鎖を図る……」

 独り言のように、低く呟く。

「戦争は政治の延長――そのはずだ。だが、ここまで来ると“種の根絶”すら頭をよぎる。……」

 

 グレイヴは息を吐き、立ち上がった。

 格納庫では、出撃準備を整えるスレイヴ・レイスの四人の姿があった。

 

「行け。――歴史の影に名を刻むのは、いつだって無名の兵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【宇宙空間・ア・バオア・クー接近宙域。コロニー落としが実行される1時間前】

 

 漆黒の宇宙を、ゲタに乗った四機のネモⅡが滑るように進む。

 その先では――緑色の残光を引きながら、ユニコーンガンダムが圧倒的な速度で戦場を切り裂いていた。

 

「……いくら“ついて行け”って言われたってよ、多少は援護がいると思ってたんだがな」

 トラヴィスがシートに体を預け、ため息を漏らす。

 

「ものの見事に残骸しかないな」

 リッパーが前方の光景を見て呟いた。

 

 視線の先には、ユニコーンの凄絶な戦いぶりが広がっていた。

 ビーム・マグナムの一撃でムサイ級を沈め、超高速で迫るビグロはハイパービームサーベルで両腕のクローを断ち、そのままユニコーンの蹴りを受けて吹き飛ぶ。

 機体は制御を失い、ちょうど近くを編隊で通過していたゲルググ四機の中央へと突っ込んだ。

 次の瞬間――バルカンの連射が損傷部を貫き、ビグロは轟音と共に爆散。巻き込まれたゲルググたちは、爆炎の中で一斉に光と化した。

 

さらに“ガンダムを撃墜して名を上げよう”と群がるゲルググたちは、フィン・ファンネルが自在に飛び交い、次々と火花に変えられていった。

 

《鬱陶しい。アムロさんやゼロ相手じゃなければ勝てると思ってるのかこいつらは、こんな動きをヤザンさんの教導でやったら、カイさん達だから冗談で済んだジャブローじゅうのトイレ掃除が現実になるぞ》

 

 

 

「……そりゃあ、こんな怪物がいる派閥を敵に回そうなんて思う奴はいないわな」

 トラヴィスは苦笑混じりに呟く。

 

「グレイヴは正しかったわね」

 ダイバーが軽く肩をすくめる。

「もしバスク派閥に残ってたら、こいつらに喧嘩を売らされる羽目になってたんでしょう?」

 

「勘弁してくれよ」ボマーがぼやく。「絶対いやだぞ、あんなの相手にするなんて」

 

 そんな会話を遮るように、通信が飛んできた。

《こちらカミーユ・ビダン。ア・バオア・クーへの道と、ドック内の敵の排除を完了した。あなた達の“移送任務”は、これで完了でいいですね?》

 

「道はともかく、要塞内部までって……」

 

 その時、要塞内から飛んできたビームサーベルが、バックパックに1人でに収まるのが見えた。

 要塞のドック内部は、すでに静寂に包まれていた。モビルスーツもムサイも――すべてがビームサーベルの残光に刻まれ、無力化されていた。

 

「マジかよ……」トラヴィスは頭を振った。

「いや、移送の協力に感謝する」

 

《任務なので》カミーユの声は、淡々としていた。

《あなた達の帰路は“不死身の第四小隊”が引き受けます。――じゃあ、俺はこれで》

 

 緑色の残光を尾に、ユニコーンは次の戦場へと飛び去っていった。

 

 トラヴィスはしばし無言でその光を見送り、ぼそりと漏らす。

「……俺たち、嫌われてるか?」

 

「警戒されてるんじゃない?」ダイバーが軽い調子で答える。

「白だらけのゴップ派閥に、いきなり入ってきた“真っ黒な”グレイヴの部下だもの。まあ、ちゃんと守ってくれたあたり、グレイヴが変なことさえしなければ大丈夫よ」

 

 彼女はゲタの上からネモⅡを降ろし、機体を跪かせた。

「じゃあ機体を降りて、ドックの情報を抜くわ。その間、しっかり守っててね」

 

「おう、任せろ」

 トラヴィスは頷き、ビームライフルを構えた。

 静まり返ったア・バオア・クーの外壁を前に、スレイヴ・レイスはゲタを停止させた。

この先は、銃火ではなく知恵の勝負だ。

 

ダイバーが端末を起動し、ヘルメットの奥で鋭い視線を走らせる。

連邦でも屈指のハッカーの本領が、いままさに発揮されようとしていた。

 

 




ノア・Tさん誤字報告ありがとうございます!

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