ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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第三十五話: ザビ家の終わり

【ペガサス級・コロニー落とし直前】

 

 ペガサス級強襲揚陸艦の格納庫に、四機のネモⅡが帰艦してきた。補給作業が進む中、トラヴィスはヘルメットを抱えてブリッジへと向かう。

 

 自動ドアが開くと、そこには艦長席に腰掛ける黒い軍服姿の男――グレイヴ大佐の姿があった。冷たい艦内照明の下、彼の視線はどこか胡散臭く、じっとトラヴィスを見据えている。

 

「無事の帰艦、何よりだ」

 

 艦長席からの言葉に、トラヴィスは肩をすくめ、口の端だけで笑った。

「心にもないことを。……ま、褒めてくれるってんならありがたく受け取っとくさ」

 

「相変わらず失礼な男だ」グレイヴは一拍置いて続ける。「だが、危険な任務を完遂してきた部下を労うのが上官の務めでもある」

 

  傍らのダイバーが保護されたデータを格納した端末を差し出す。やや恭しく手渡されるその器機を、グレイヴは受け取ろうとした――が、先にトラヴィスが手を上げて口火を切った。

 

「おっと、まずは報告を。ア・バオア・クーの出入り口の座標だが、そっちは俺が現地で受け取ってすぐ近場の遊軍機に渡してる。要塞側の出入口はもう各戦隊の手で潰してある。今は釣り用に数箇所残してあるがそれもいずれ潰すだろうよ」

 

 グレイヴが軽く頷くと、トラヴィスは端末をせせら笑うように指で示した。

「で、こっちの端末は容量がでかすぎてそうホイホイ共有できるもんじゃなかった。こっちは……今回の大戦でジオンが実戦運用した大型モビルアーマーの設計・整備データ、運用ログ、それに索敵・通信プロトコルや整備ラインの記録、各種の“ノウハウ”が詰まってる。出入り口だけで良かったんじゃねえかって言う奴もいるだろうが、あんたの本命はこっちだろ?」

 

 グレイヴは端末の画面をちらりと覗き込み、淡々とした口調で言った。

「優秀なハッカーの部下を持つと助かるよ。出入り口情報は重要だが、戦後を見据えるならばこちらの“中身”が肝だ。ゴップ派の色に染まらぬ我々“灰色”の戦果は、こういうところで示さねばならん。戦場での一撃は派手だが、今の上層部は情報を得たものを、軽んじる愚か者はいないからな」

 

 トラヴィスは鼻で笑い、周囲を見回す。

「行きも帰りも護衛が強すぎて文句も言えねえが……こんな任務、ガラハウなら楽勝だったんじゃないか?」と、グレイヴの隣にいるシーマ・ガラハウを見る。

 

 シーマは薄く笑って肩越しに言った。

「まあ、あたしがやってやっても良かったんだがね……」

 

 グレイヴは鋭くトラヴィスを一瞥してたしなめる。

「トラヴィス、貴様は正気か? ガラハウ、そろそろ前線好きを控えよ。君の役目は、戦後のザビ家の“栄光”とやらを打ち砕き、その罪を証言することにこそある。ジオンの実験体が幾ら出るかわからない、あの手の戦場で事故で死なれては困るのだ」

 

「おい、俺たちはその実験体が現れるかもしれない危険な任務をこなしてきたんだぞ?」

 

「それを跳ね返せる護衛を用意したし、労っているだろう」

「安心しろ、以前とは違う。報酬も休暇もちゃんと支給する。」

 

「ホント、ゴップ派に来て、お前って我が世の春を謳歌してるよな」

 

 モニターに、艦内放送が割り込んだ。ギレン・ザビの演説が艦内に流れ、同時に暗い虚空を切り裂くコロニーの影が映る。地球へ向かうコロニーの姿だった。

 

「ありえるとは聞いていたが、まさか本当にやるとは。殲滅戦をやりたいのか、あの連中は。もしバスクがゴップとの政争に勝ってここに出ていたら、連邦の戦力はサイド3への虐殺部隊になりかねなかったぞ」

 

 トラヴィスは嘲るように肩をすくめる。

「独裁者に率いられた集団ってのは分からんね。ダイクンの娘が戦後サイド3を治めると示しているんだから、普通は降伏して命を守るだろうに」

 

「そう考えられないのが独裁の連中だ。ガラハウ、古巣のことだ。お前はどう思う?……ガラハウ?」

 

 普段は冷静なシーマの顔色が、一瞬で落ちていた。彼女はモニターに両手をつき、唇を震わせていた。部屋の空気が凍る。

 

「落ち着け、ガラハウ」

「流石に奴らも今回は適当な廃棄コロニーを使うだろう。毒ガスまで使うとは考えにくい――」

 

 シーマは首を振り、視線を失ったまま呟く。

「廃棄コロニーか……確かに“廃棄”だろうね。あの時代に、コロニーレーザーに改造されて……家も、懐かしい景色も、全部奪われた。連邦が壊して、レーザーに使えないようにしたって聞かされていたから……」

 

 その言葉が、艦橋の数人の頬を引き締めさせた。誰もが瞬間的に、落下するコロニーの名を思い浮かべる。

 

 

 シーマは硬く肩を震わせ、グレイヴに向き直る。

「グレイヴ、作戦具申だ」

 

 グレイヴは一瞬たじろぎ、そして問い返した。

「どんな作戦だ?」

 

 シーマは低く、だが速やかに言葉を紡いだ。――その中身はここでは伏せておく。彼女の声は静かだったが、その一言一言には揺るぎない意志が宿っていた。聞く者の胸に、彼女が抱えた怒りと決意が伝わる。

 

 グレイヴは眉を固く結び、即座に反論した。

「許可できん! 帰り道はどうするつもりだ? お前が内部に入るにしても、出入口を塞がれるのを止められると思っているのか!? 全てを塞ぐぞ、脱出不可能の牢獄になるのだ!」

 

「旗艦遊撃の護衛で動いていたドゥー・ムラサメの戦いを見た。あいつがアレックスでやったことは、アムロ・レイ達が見せたハイパービームサーベルと同等だ。あの娘のアレックスなら、一度塞がれた通路でも切り開く。要塞の入り口をこじ開けることはできる」

 

「待て待て、ガラハウ中佐! 今回の件はグレイヴが正しいぜ。幾ら俺たちがゴップ派になったとはいえ、事前の手回しもなくあの戦力を借りるのは無理がある。カミーユ・ビダンに護衛を頼めたのだって、戦局を左右する情報を得るためだぜ!?」

 

 シーマは鋭くトラヴィスを睨んだ。

「黙りな。あれを――あの“場所”をまた使う連中をあたしが黙って見てると思うか? ギレン・ザビは、自分が死ぬと理解しても大人しくはしない。最後の悪あがきをやるだろう。それを阻止するために、あたしが体を張るってんだよ。行かせな」

 

 シーマはそのまま格納庫へと歩を進める。

 

「マジかよ……グレイヴ、どうすんだ? 無理やり止めるのか?」

 

「海兵隊と本気で殺し合いになるぞ。あの連中はガラハウのためなら喜んで死ぬだろう! 全く……すぐにブレックス准将と通信を繋ぐ。ドゥー・ムラサメの手が空いてなければどうするつもりだ、ガラハウ!?」そう叫びながらグレイヴは通信士に指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ア・バオア・クー・中央管制室】

 血の匂いが充満する管制室。通信士たちの亡骸の中、シーマ・ガラハウは拳銃を握り、ギレンの額に銃口を押し当てていた。

 ギレンは両腕を撃たれ、椅子に縛られるように座り込んでいる。

 

「……何故だ、シーマ・ガラハウ」

 ギレンの声は静かだが、底に硬い響きを宿していた。

「なぜ裏切った」

 

「おいおい」シーマが鼻で笑う。

「心当たりがないとでも言う気かい?」

 

「貴様の“コロニー落とし”時の毒ガス作戦は必要なことだった」ギレンは淡々と告げる。

「戦略的に――」

 

「はぁ?」シーマの眉が吊り上がる。

「だからって、催涙ガスだと騙して現場の兵に使わせ、その後『勝手にやった』と責任を押し付けたあげく、命じたお前らは“スペースノイドの代表”面を続けるってわけか? それが大義だって?」

 

「戦略的判断だ」ギレンは短く吐き捨てた。

「貴様は便宜を図られていたはずだ。階級こそアサクラが上だったが海兵隊の実質的な指揮官はお前だ。望む機体も艦も手に入ったはず。それに、なぜ勝ち戦のジオンを捨て、負けが見えていた連邦に鞍替えした? 合理的ではない」

 

「……本当に分かってないんだな、あんたは!」

 シーマは怒りに任せて銃を突きつける。銃口が強く押し込まれ、ギレンの額から一筋の血が流れた。

 

「父上!」グレミーが思わず叫ぶ。

 

「はっ!」シーマはそちらを振り向き、冷たい笑みを浮かべた。

「隠し子かい? ザビの名を背負わせないとは、どんな裏があるやら。お前ら、そいつを逃がすな」

 海兵隊の部下たちに命じ、再びギレンへ視線を戻す。

 

「……あのままジオンが勝ったとして、あたしたちの居場所があったと思うのか?」シーマの声は鋭く低い。

「お前らザビ家は、誰よりも多くスペースノイドを殺しながら、その代表者を気取ってる連中だ。コロニーで同胞を毒ガスで虐殺した真実は、不都合すぎたんだろうさ。その事実から目を逸らさせるために、あたしたちは絶好のスケープゴートだった! アサクラもキシリアも、部隊ごと私を消すつもりだったんだ!」

 

 ギレンの目に一瞬、陰りが宿る。

(アサクラ……キシリアと通じていたのは知っていたが、そこまで愚かだったか)

 

「だが、それでも飲み込むつもりだった」

「この戦争は始まる前から、もう勝負はついてた。お前らが“ビグ・ザム”なんておもちゃに夢中になってる間に、本家ガンダムの生みの親の技術はどんどん進化してたんだよ。今じゃ量産機でビグ・ザムを落とせる時代だ」

 彼女は鼻を鳴らす。

「この戦いの後で、あんたらザビ家の悪行を証言する役目を、あたしは請け負ってる。ザビ家の栄光なんて、欠片も残させやしない――そう心に決めて戦ってきた。……あのコロニーを見るまでは!」

 

 シーマはギレンの腕を乱暴に掴み、椅子ごと床に引き倒した。

 そして顔を無理やりモニターの方へ向けさせる。

 

「なあ、総帥様」シーマの声は怒りと哀しみに震えていた。

「言ってみろよ。あの落ちてくるコロニーの名前を――」

 

「……マハルだ」

 

「そうさ!」

「あたしたちが、いつか帰ると夢見た故郷だ! 一年戦争の時、あのコロニーは“コロニーレーザー”に改造され、連邦に破壊されたって聞かされてた。レーザーに使うには壊れすぎてたって話を聞いて、もう住めないと悲しんださ。けど、もう戦争に使われることはない、静かに眠ってるって――そう思ってたんだ!」

 

 シーマの拳が震える。

「なのに! リサイクルの精神ってわけかい? あんたにとってゴミでしかない貧民の住処にも、武器にもならないなら、今度はコロニー落としの弾にするってか! ははっ……ふざけんじゃないよ!」

 

 怒号と共に、シーマはギレンの体を掴み、モニターに向かって投げつけた。

 総帥の身体が画面にぶつかり、硬い音を立てて床に崩れ落ちる。

 それでもギレンは、表情を崩さぬまま、冷たくシーマを見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギレンは額に突きつけられた銃口を見据え、薄く笑んだ。

「それで……故郷を奪われた復讐に来たのか?」

 静かだが、底に凍り付くような響きが宿る。

「だが――最後の止めは連邦だぞ。あのコロニーの軌道変更は、核パルスエンジンの暴走などでは――」

 

 その言葉を、シーマの冷たい声が断ち切った。

「知ってるさ」

 彼女は銃を構え直し、目を細める。

「だけど、それが何だい? 今さらあのコロニーに、あたしたちが帰りたいとでも思ってるのか? あんたらが“コロニーレーザー”に改造した時に、家も景色も全部壊したくせに」

 シーマは吐き捨てるように続ける。

「もうマハルは帰る場所じゃない。あたしたちは二度と、あんた達に故郷を使わせたりしない。ザビ家の都合でまた虐殺の引き金にされるくらいなら――ザビ家の歴史に終止符を打つ楔になる方が、まだマシさ!」

 

 彼女はギレンの額に、部下はグレミーの胸元に、静かに銃を突きつける。

「さて、言い残すことはあるかい? 安心しな、親子そろって一緒に送ってやる」

 

 ギレンは、ふっと目を細めた。

 走馬灯のように過去が脳裏をよぎる。戦争に勝ちながら、兄妹同士で骨肉を削った日々。妹を失っても、涙どころか何の感情も湧かなかった瞬間。息子にさえ後継者以上の視線を注げなかった己。

 だがさらに奥に掘り下げると、あった。

 まだ家族が一つで、ダイクンの理想を夢見て、未来を語り合っていた日々。――それは遠い幻のように甘く、痛かった。しかし、今までザビ家として戦ってきた自分が残す言葉は一つしかない。

 

 ギレンは息を整え、最後の言葉を叫んだ。

「……ジーク・ジオン!」

 

「なっ……!」シーマが一瞬、目を見開く。

「ジーク・ジオン!」グレミーも叫んだ。

 

「最後まで……あんたらは!」シーマの目に怒りと哀しみが交錯する。

「いいさ! その言葉、あの世で好きなだけ叫んでろ! ――どうせ、もうあんたらに続く者なんていない!」

 

 銃声が重なり、管制室に短い閃光が咲いた。

 ザビ家の歴史は、その瞬間、静かに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ア・バオア・クー内部 連絡通路】

 

 薄暗い通路を、シーマ・ガラハウと私兵たちが駆け抜けていた。壁の向こうから微かに聞こえる爆発音に、兵の一人が口を開く。

 

「姉御、通路は全部塞いじまったそうですが……俺たちの脱出プラン、あれですよね? ほんとにいけるんですかね?」

 

 シーマは片眉を上げ、肩をすくめた。

「なんだい、信じられないってのかい?」

 

「いや……俺たち、マハルをまた使われたことが許せずに、半ば無理やり出てきちまいましたし……」

 兵は苦笑しながら言葉を濁した。

 

 シーマは一瞬、口元を歪める。

 脳裏に先ほど届いた短い電文がよぎった。――「ドゥー・ムラサメ、脱出支援待機。任務完了後、通信を飛ばせ」。発信者はグレイヴ。彼がゴップ派の上層を動かし、最後の後ろ盾を与えてくれたのだ。

 

「通信はあんた達にも伝えたろ。ジオンの頃の癖かねぇ……その上に、切り捨てられるんじゃないかって疑っちまうのは」

 

「うぐ……やっぱまずいっすかね?」

 

「仲間内で言うだけならいいが、他所で口にするんじゃないよ。連邦はあたしらとの約束をきちんと守ってくれてる。あたしらがいつまでも“疑ってます”なんて態度じゃ、話にならないだろ」

 

「……はい、すみません」

 

 シーマは苦笑し、先を指さした。

「さて、着いたよ。お前ら、乗り込みな」

 

 辿り着いたドックには、数機のネモⅡが並んでいた。隊員たちはすぐに機体へ乗り込み、シーマもコックピットに身を滑り込ませる。

 だがドックの出口は、落石と装甲片で完全に塞がれていた。

 

「さて……」シーマは通信回線を開く。

『こちらガラハウ! 任務完了した。要塞のドック、通路の開通を頼む!』

 

 しばしの沈黙が流れ、隊員たちの間に不安がよぎる。

 ――また切り捨てられたのか。そんな予感が胸を掠めた瞬間、シーマは床を伝わる微かな振動に気付いた。

 

「シ、シーマ様、俺たち――」

 

「バカ、黙れ!」シーマは遮り、耳を澄ませる。

「……モールス信号だ!」

 

 金属の壁を通して届く規則正しい振動。

〈壁破壊する。近くいる?〉

 シーマは機体のマニピュレーターをわずかに動かし、ネモⅡの手で床を何度か叩いた。

〈距離問題なし。どうぞ〉

 

 数秒後、巨大なビームサーベルが岩盤を貫いた。光の刃は横へ、縦へと慎重に走り、四角い穴を切り抜く。

 外から声が届いた。

 

『ごめん! 通信で返したかったけど、さっき倒したムサイがミノフスキー粒子を最大散布してたんだ。岩越しに電波が届くレベルまでまだ下がってないんだよ。――もう出て大丈夫!』

 

 ドゥーの明るい声に、隊の緊張が一気にほどけた。シーマは操縦桿を押し、ネモⅡを出口へ滑らせる。

 

 外には、通常の大きさまで縮んだビームサーベルを、バックパックに格納するアレックス――ドゥー・ムラサメの機体が待っていた。少し離れて、フォウのZガンダム、アスナとエリシアのアレックスも警戒態勢を保っている。

 

「助かったよ」シーマが通信を開く。

 

『こっちこそ。僕らじゃ要塞内でジオン兵のフリなんて無理だからね〜』とドゥー。

 

「この粒子濃度じゃ、岩越しに通信なんて届かないだろうね。……あたしらが来たのに気付いたのは、強化人間の力かい?」

 

『そう!でも位置は大ざっぱにしか分からないからね。ハイパービームサーベルで切って大丈夫か確信がなくてさ。モールス信号を使えばいいって助言してくれたのはエリシアだよ』

 

「軍人なら普通は学んでるから自然と出ます」エリシアが柔らかく笑う。

「ドゥーも、そろそろ軍学校にちゃんと通ったら? 今はムラサメ枠の特別措置なんでしょう?」

 

『え〜、勉強かぁ……教官を倒したら免除にならない? 生身でもモビルスーツでもいいよ』

 

「そんなのゼロさんでも呼ばなきゃ、誰も教えられなくなるわ」エリシアは呆れた声を返した。

 

『……よし!ならゼロに家庭教師してもらうってことで! ――っと、ごめんねシーマさん。他所話で盛り上がっちゃって。僕らもいったん艦に戻るから、一緒に帰ろう』

 

 シーマは短く息を吐いた。

「ああ。そうだね」

 

 ――“一緒に帰ろう”。

 その言葉が、こんなに自然に出てくるのが連邦のゴップ派なのだ、とシーマは思った。

 ジオンの仲間から裏切られ、汚名を着せられた過去の傷が、ほんの少し癒えていくのを感じながら、ネモⅡの操縦桿を静かに握り直した。

 

 

 

だが、ふと疑問が胸を掠める。

(……なんで、あたしはこんな作戦を具申したんだろうねぇ。自分の命を誰かに委ねるような真似を――)

 故郷のマハルをまたも虐殺の道具に使われた怒りは確かに本物だ。だが、ジオンにいた頃の自分なら絶対にやらなかっただろう。

 なぜなら――ジオンなら、この封鎖された要塞の中に自分がいたとしても、絶対に助けてなどくれなかったからだ。不都合な真実を知っている自分を「消せる絶好の機会だ」と笑い、たとえ出口を開けられる者がいたとしても連れては来なかったはずだ。

 

(……ああ。どの口であいつを諌めたんだかね。あたしも結局、連邦が本当にあたしらを使ってくれるのか、口を塞ぐ絶好の機会に見捨てないか――心のどこかで疑ってたんだ。……全く、情けない話さ)

 

 その時、回線がふいに開いた。

『情けなくなんてないよ』

 ドゥーの明るい声が響く。

『それだけシーマさんの心を傷つけたザビ家が悪いんだよ。そんな環境にいたら、僕だって疑うよ』

 

 シーマは息を呑んだ。

(……読まれた、か)

 ニュータイプの力で心を覗かれたことを悟る。だが、不思議と不快感は抱かなかった。

 

『でも、グレイヴ大佐だっけ? あの人がシーマさんを見捨てるなんて、僕にはちょっと思えないな〜』

 

「……ドゥーの嬢ちゃんは知らないだろうが、あいつはね――」

 

『だってさ、僕の位置を確認するから少し待てってブレックス准将が言ったら、通信で怒鳴ったらしいよ?』

 ドゥーは楽しそうに続ける。

『“ドゥー・ムラサメだけじゃない! 同じことができるニュータイプの位置はどこだ!? 一人しかいないのか!?”って。――ただの部下にそこまで言える人、あんまりいないんじゃない?』

 

 シーマはわずかに目を伏せ、口元に苦笑を浮かべた。

(……やれやれ。特殊部隊の長が、部下のことで上官に怒鳴ってどうすんだい……。あたし達も、そろそろその信頼に応えないとね。……前線好きも、少しは控えるとするか)

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