ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
と言うわけで闇落ちアムロ世界線でのジオンとの戦争から数年後ある作家の卵の取材記です。
宇宙世紀〇〇XX――。
月のフォン・ブラウン。
1年戦争でジオンが連邦に勝ってからは日に日に軍事色を強める雰囲気が高まっていたが、再度の大戦で連邦がジオンに勝つ数ヶ月前からアナハイムは方針を転換し、軍需を段階的に手放し、本来の産業であるソーラーや民需に力を入れてからは嘗ての月の自由都市らしさを取り戻しつつある月の楽園。
その一角にある出版社に今日は変わった持ち込みがあった
古びた応接室。
壁際のテレビでは、今日もまた“英雄”を称える特番が流れている。
『――連邦反攻の象徴として、
今なお人々の心に生き続ける伝説のニュータイプ、
アムロ・レイ――』
画面の中では、
白いモビルスーツの映像が何度も繰り返されていた。
その前で、
出版社編集部課長・塩野は企画書をめくっていた。
向かい側に座る女学生へ、
値踏みするような視線を向ける。
緊張していないわけではない。
だが、
その蒼い瞳には、
怯えよりも強い熱意が宿っていた。
陽光を受けた金髪が揺れる。
まだ大学生らしい若さを残しながらも、
どこか芯の強さを感じさせる少女だった。
「……キッカ・コバヤシさん、ね」
塩野は感心したように眉を上げる。
「すごい経歴だ。
大学生で新人賞受賞。
文章力も悪くない。
他の“作家の卵”より、
ずっと芽がある」
企画書を軽く叩く。
「この企画だって、
正直かなり面白いよ」
キッカの表情がわずかに明るくなる。
「じゃあ――」
「でも悪いけど、
どこも通さないと思う」
一瞬、
空気が凍った。
「……なんでですか?」
声が強張る。
塩野は肩をすくめた。
「そりゃそうでしょ。
あの英雄――」
そこで、
キッカの目が鋭くなったのを見て、
彼は慌てて言い直す。
「あー……
君にとっては違うんだったか」
企画書を読み上げる。
「"XXX XXの本当の姿”……ねぇ」
その響きを、
どこか苦笑するように繰り返した。
そして後ろのテレビを顎で示す。
『――一年戦争敗北後、
絶望に沈んだ連邦を再起させた救世主――』
『――ザビ家残党を討ち、
人類に平和をもたらした英雄――』
「見なよ。
世間はもう、
“消えた英雄様”を美談にし終わってる」
塩野は鼻で笑う。
「本来なら、
最新鋭機ごと失踪した軍人だ。
言ってしまえば、
機体持ち逃げと大差ない」
だが、
誰もそう言わない。
「“今も宇宙のどこかで
ザビ家残党を狩っている”だの」
「“ジオンがまた
イオマグヌッソ級の超兵器を
隠れて開発してるから、
それを探してる”だの」
「好き勝手言って、
勝手に伝説を作ってる」
今度は机の上の軍広報誌をペンで叩いた。
「そのくせ軍も否定しない。
指名手配もしない。
軍籍剥奪もしない。
完全黙認だ」
「テレビ局が
“英雄特集をやりたい”
って言えば、
関係者への取材許可まで出る始末」
そこで彼は、
少しだけ声を潜めた。
「……もっとも」
「英雄様に批判的な記事を書こうとした、
タチの悪い同業者が、
取材後に何人か消えてるって噂もあるがね」
冗談めかして笑う。
「怖い怖い。
俺みたいな一般市民は、
右に倣えで英雄様を崇めてるのが一番だ」
だが、
キッカは笑わなかった。
むしろ、
押し込めていた感情が限界に達したように、
机へ身を乗り出す。
「だから違うんです!」
塩野がわずかに目を見開く。
「あの人は、
そんな“完成された英雄”じゃない!」
激情。
だがそこには、
怒りだけではない、
切実さがあった。
「世間が勝手に作ったイメージが、
本当の“あの人”を消してるんです!」
呼吸が乱れる。
それでも、
キッカは止まらなかった。
「私の養母は、
サイド7であの人の隣に住んでました!」
「小さい頃から、
ずっとあの人を知ってた!」
「ホワイトベースjrの人たちだって、
みんな顔見知りです!」
そして、
彼女は拳を握り締める。
「私は……
本当のアムロ・レイを書きたいんです!」
テレビの中では、
“英雄”が笑っていた。
けれどキッカには、
その笑顔が、
どうしても嘘に見えて仕方なかった。
連邦とジオンとの2度目の戦争は、星2号作戦で幕を閉じた。
人類の歴史上、
類を見ない規模の勝利によって終結した。
一年戦争で敗北した連邦は、
ザビ家を“人類種そのものの敵”と定義し、
数年という短期間で、
常識外れの軍備再建を成し遂げた。
識者たちは後年、
必ずこう口にする。
――これほどの力を用意できたのなら、
なぜ一年戦争で敗北したのか、と。
その問いに答えられる民間の人間はいない。
そして知っているものは"彼ら"が必要以上の名声を欲していないことを知っているので黙している。
ただ確かなのは、
“敗北”を知った瞬間から、
連邦は次の戦争のために、
狂気じみた速度で牙を研ぎ続けていたという事実だけだった。
そして、
その戦争は終わった。
サイド3では、
新たなる代表として
アルテイシア・ソム・ダイクン が立ち、
地球連邦との融和を宣言した。
人々は夢見た。
ようやく、
終わるのだと。
宇宙移民と地球。
連邦とジオン。
憎しみと報復の時代が。
誰もが、
新しい未来を語っていた。
――ただ一人を除いて。
英雄。
白き悪魔。
連邦最強のニュータイプ。
アムロ・レイ。
彼は戦後も、
宇宙に散ったザビ派残党を追い続けていた。
逃亡した将校。
潜伏した支持者。
地下に潜った残党組織。
その全てを、
徹底的に殲滅した。
まるで、
宇宙から“ザビ”という概念そのものを
消し去ろうとするかのように。
やがて、
宇宙からザビ家を讃える声は消えた。
誰も口にしなくなった。
口にした者は、
死んだからだ。
……それでも、
彼は止まらなかった。
戦いの傍ら、
彼は後進の育成に力を注いだ。
若いパイロットたちは皆、
後年になって同じ言葉を口にする。
「あの頃は理解できなかった。
だが今ならわかる」
「あの人は、
自分がいなくなった後の連邦の損失を、
少しでも減らそうとしていたんだ」
鬼のような教導だった。
だが、
そこには焦燥があった。
まるで、
自分が長くは残れないと、
最初から知っていたかのような。
その一方で彼は、
息子と過ごす時間を何より大切にしていた。
穏やかな時間だった。
少なくとも、
周囲にはそう見えていた。
親しい仲間たちは、
そう信じたかった。
最愛の妻――“彼女”を奪われた痛みを抱えながらも、
彼は前へ進もうとしているのだと。
未来を見て、
歩こうとしているのだと。
……誰も気づかなかった。
彼の中で何一つ風化していない亡き"彼女"への思いを。
月面都市フォン・ブラウンを発ったシャトルは、
ゆっくりと地球圏へ降下を始めていた。
窓の向こう。
漆黒の宇宙に浮かぶ青い星が、
少しずつ大きくなっていく。
機内には静かな振動音だけが満ちていた。
乗客たちの多くは眠っている。
あるいは端末を眺め、
退屈な移動時間をやり過ごしていた。
そんな中、
キッカ・コバヤシ は、
窓際の席でイヤホンを耳に押し込み、
ぼんやりと地球を眺めていた。
(私がアムロさんの小説を書ければ、
塩野さんは企画を上に回してくれる)
口約束だ。
そんなもの、
信用するほど子供ではない。
(でも別にいい)
細い指が、
膝の上のタブレットを握り締める。
(最悪、
ミリーに泣きつけばいい)
(出版社の弱みでも何でも突いて、
無理矢理通してやる)
そこまで考えて、
自分でも少し笑いそうになった。
昔の自分なら、
こんなことは考えなかった。
だが、
“あの人”を追ううちに理解した。
綺麗事だけでは、何も成せない。
自分は何も捨てずに何かを変えられる"特別"な存在ではないのだから。
ジャブローに避難してから特別な人達を、多く見て培われたキッカの人生観だった。
齢19にしては達観し過ぎているとよく言われるが、それほどまでに彼女の近くにいた人たちは鮮烈だった。
イヤホンの向こうで、
軽快なジングル音が流れる。
『――本日の特集は、
“連邦再興の英雄”
アムロ・レイ の軌跡です!』
キッカは小さくため息をついた。
またこれか。
最近はどの局も同じだった。
消えた英雄。
白き悪魔。
連邦を救った救世主。
どれも間違いではない。
だが、
どれも“本当”ではない。
『彼の存在なくして、
連邦軍が第二次対ジオン戦争に勝利することは
不可能だったでしょうね』
知識人らしい初老の男が、
得意げに語る。
『いや、
私はむしろ一年戦争当時、
彼が最初から前線に立っていれば、
連邦が敗北することはなかったと考えています』
『ですが当時の彼は十五歳ですよ?
いくら英雄とはいえ、
まだ一人の少年で――』
『おや、
ご存知ない?』
識者は勝ち誇ったように笑った。
『サイド7襲撃後、
避難中、サラミス内で行われた
シミュレーター記録を』
『最初からトップエース級のスコアを叩き出していた、
という有名な逸話ですよ』
そこで、
キッカの眉がぴくりと動く。
先程まで、
少しだけ見直しかけていた。
アムロのことを見誤っているアナウンサーを嗜めてくれた識者を、他とは違うのかと少し期待したのだ。
だが結局、
この男も同じだった。
(この人も、
結局“英雄アムロ”しか知らない)
直接話したこともない。
本当の彼を見たこともない。
(アムロさんだって、
最初からトップエースだったわけじゃない)
あの人が、
異常なスコアを叩き出すようになったのは――
「(サラミスでルナツーを出てから……)」
「だよね?」
不意に、
横から内心に応えるような声がした。
「全く。
誇張改竄なんでもありの
ドキュメンタリーにはうんざりするよね〜」
「っ!?」
キッカは飛び上がりそうになった。
イヤホンを引きちぎる勢いで外し、
反射的に隣を見る。
「――――」
思わず、
名前を呼びかける。
だが、
その瞬間。
隣に座る"茶髪に黒のメッシュが混じる"髪を持つ少年が、
素早く人差し指を唇へ当てた。
「しー」
いたずらっぽく笑う。
「名前呼ぶなら、
こっちでね」
そう言って、
彼は懐から軍用IDカードを取り出した。
表示された顔写真。
認識番号。
そして名前。
そこに記されていたのは、
キッカの知る本名ではなかった。
「……レイ・ムラサメ」
「そっ」
少年は肩をすくめる。
「呼ぶならそっちでお願い」
「何でそんな名前名乗ってるの?」
「別にいいじゃん」
軽い口調。
だが、
その奥にわずかな硬さがあるのを、
キッカは感じ取った。
「母さんの旧姓だし。
昔の地球じゃ、
姓の順番なんて国ごとに違ったらしいし?」
何でもない風を装っている。
だがキッカは知っている。
目の前の少年が、
英雄である父が消えた後、
母方の祖父に身元引受を求めたことを。
そしてその流れで、
自分の名前まで変えてしまったことを。
少年は笑う。
「ドゥー姉ちゃんとか、
フォウ姐さんの弟っぽくていいでしょ?」
その軽さが、
逆に痛々しかった。
キッカは思わず、
窓の外へ目を逸らす。
青い地球が、
ゆっくりと近づいていた。
というわけで、キッカと自称レイ・ムラサメの2人の取材記を時間があるときに書いていくつもりです。
長々と闇落ちアムロ世界線の終戦を書くより数年後のキャラ達の姿の方がモチベーション沸くので何卒お許しを。
レイ・ムラサメ君は当然強化人間でも何でもありません。孫に甘い祖父に身元引き受けを頼んでおいて紙をすり替えて姓を変えさせて、本来の姓を名前に持ってきたレイ夫妻の子供です。