ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
宇宙の静寂を切り裂くように、二機のモビルスーツが向かい合う。
ひとつは純白の意志――Hi-νガンダム。
もうひとつは歪んだ理想の象徴――リボーンズガンダム。
通信が開く。リボンズ・アルマークの滑らかな声が空間に流れた。
「君の存在は、とても興味深いよ。アムロ・レイ。人類最強のニュータイプにして、今は誰よりも深い闇に堕ちた男」
アムロの声は、静かだった。
「俺がここに来たのは、お前を罰するためじゃない。世界を変えるためだ。シイコが死なずに済む世界を、どんな歪みを代償にしても作る。それだけだ」
「それは傲慢だね、アムロ。だがわかるよ、僕には。人を導くには、神の座に登るしかない。君もその域に近づいている。ならば…君は僕と共に歩むべきだ」
アムロの目が鋭く細められる。
「共に? お前の下につけと?」
「違う。君も“神”になれということだ。僕は人類を導く存在、救世主なんだよ。神と言ってもいい。君もそうなれる」
言葉の余韻が宇宙に溶ける間もなく、アムロは静かに呟いた。
「……神・・・か。神が導いたというには、死にすぎた。人が、人を殺す道具を渡しただけだ」
「人類には方向が必要だ。それが“犠牲”を伴うのは、当然のことだよ」
「犠牲、ね」
Hi-νガンダムが動いた。青白い残光を宇宙に引いて、一直線にリボーンズへと迫る。
その加速は、もはや人が操っているとは思えない。いや、だからこそ――人の意志がそこに宿っていることが、はっきりと伝わる。
リボンズもまた、反応する。後方へ跳躍しながら腕のバスターライフルを構え、狙撃――。
だが、そこにアムロの“殺意”が走った。
ビームを回避しつつファンネルを展開。七方向から同時に放たれるビームの網を、リボーンズガンダムはぎりぎりで抜けるが――その動きに、焦りが混じっていた。
「君は本当に違うな……あの時、アクシズを押し返した英雄とは、まるで別人だ」
「俺は“押し返す”気はない。ただ“断ち切る”。この世界を、過去を、運命を」
リボンズは口元を歪めた。
「それではただの破壊者だ、アムロ・レイ! 君が神にならぬなら、僕が君を裁く!」
リボーンズガンダムが変形し、攻撃態勢に入る。粒子を帯びた推進力が爆発的に広がり、二機は衝突した。
一撃ごとに宇宙の闇が光を弾き、爆ぜる。
Hi-νガンダムのファンネルがまるでアムロの神経の延長のように舞い、リボンズの射撃を封じ、動きを断ち、理想を抉る。
「お前は違う。救世主なんかじゃない。ただの“選別された人間”。自分を上に置いた独裁者だ!」
「なら君は――死んだ女の幻影に縋るだけの亡霊だ!」
二機は再びぶつかり合い、火花のようなビームと光の交錯の中、Hi-νガンダムが懐へ飛び込んだ。
ビームサーベルが、リボンズの防御を切り裂く。
「お前に、未来は見えていない」
アムロの声が響く。
「だからお前は、ここで終わるんだ」
一閃。
白い閃光が深紅のガンダムを切り裂き、爆炎が虚無に咲いた。
リボンズ・アルマークの“神”としての理想は、宇宙の深淵に沈んでいった。
Hi-νガンダムは、無言で漂う宇宙を見下ろしていた。
その眼差しは哀しみを含んでいる――けれども、確かな覚悟もまた宿っていた。
爆散したリボーンズガンダムの残骸が、ゆっくりと無重力に漂っていく。
Hi-νガンダムの機体はわずかに焦げ跡を刻みながらも、その白と青の装甲は確かに存在感を保っていた。
コックピットでアムロ・レイは静かに目を閉じ、そしてひとつ息を吐く。
リボンズとの戦いが終わった。しかし、それは“道の途中”にすぎない。
彼は通信ログとGNドライヴの残骸を確認しながら、ふと口を開いた。
「ありがとう、リボンズ。お前が作ったGNドライヴ……そして盗んだ、ツインドライヴの技術は——とても役に立つ」
その声に、誰も答える者はいない。だが、確かにそれは“感謝”だった。
「GN粒子による領域支配、それは一種の空間制御技術だ。サイコフレームと融合させれば……境界を越えられる。シイコが死ななかった世界へも、もしかすれば——」
モニターには、GNドライヴがゆっくりと回転を止める様子が映っている。
その静止はまるで、“神の夢”が終わったことを告げる鐘のようだった。
「お前が“神”になろうとしたなら、俺は“人”のまま抗ってやる。過去に、運命に、そして……世界に」
彼の眼には、わずかに迷いが混じっていた。それでも、前を見ていた。
Hi-νガンダムは反転し、リボンズが持ち込んだ技術の全てを回収しながら、次の戦場へと向かっていく。
その背に積まれたのは希望か、狂気か、それとも——
静かな宇宙に、白い残光が流れていった。
【宇宙の黄昏にて:アムロ vs クルーゼ】
コロニーの残骸が静かに漂う宙域。かつて戦火に焼かれたこの場所は、今や静寂と死の空間だった。
だが、そこにふたつの閃光が交錯する。
ひとつは黒と青の輝きを纏う、Hi-νガンダム。そのパイロットは、深く静かな怒りを身にまとった男——アムロ・レイ。
もうひとつは、不気味なまでに静かな黄金色を放つモビルスーツ、プロヴィデンスガンダム。そこに座すは、顔の奥に憎しみと虚無を宿す男——ラウ・ル・クルーゼ。
「やはり君が来たか、アムロ・レイ。ニュータイプの亡霊——いや、“神になろうとした者”よ」
アムロは静かにHi-νの操縦桿を握り締めた。
「君がラウ・ル・クルーゼか。…人類の終焉を望んだ者だと聞いている。だが残念だったな。俺は、まだ終わらせない」
クルーゼは笑う。嗤うように、諦めを含んだように。
「傲慢だな、君は。ニュータイプの可能性を信じ、自分だけが過去をやり直せると思っている。歴史の因果すら、君は捻じ曲げようとしている」
「過去は変えられない。だが……シイコが死んだ未来だけは、俺の手で潰す。全てを敵に回してでも、俺は選び直す」
クルーゼの口元が歪む。
「愛する者の死を、神の力で覆すか……君はかつての私と同じだ、アムロ・レイ。私が怒りと絶望に染まり世界を呪ったように、君もまたその先へ進んだ。だが——」
その声が冷たく低く響く。
「違うのは、私は神を否定し、君は神になろうとしていることだ」
アムロの瞳が鋭く細まる。
「そんなに人類が嫌いなら、なぜその命を最後まで燃やそうとする?君もまた、何かを救いたかったんじゃないのか?」
「……救う価値のない世界だった。それだけだ」
そして、戦火が開かれた。
プロヴィデンスのドラグーンが放たれ、宇宙空間を赤い死の軌道が舞う。Hi-νガンダムはそれを光の残像とともに躱し、ビームサーベルを抜く。
「君は過去の亡霊を見ている!だが俺は——未来を見ている!」
アムロの声と共にHi-νが加速。サーベルとビームが交錯し、空間が光の檻と化す。
その中で、クルーゼは微笑みを浮かべたまま言う。
「見せてみろ。神になろうとした男の力を——」
【宇宙の黄昏にて:アムロ vs クルーゼ/後編】
プロヴィデンスのドラグーンが四方八方からビームを放つ。Hi-νガンダムは光の線をすり抜けるように回避し、フル・サイコフレームの共振により、未来の動きを読み取るかのように次の一撃を先取りしていく。
「やはり君は化け物だな、アムロ・レイ。君の動きは予測を拒絶する。未来すら殺すつもりか?」
クルーゼの呟きと同時に、プロヴィデンスの背部が大きく開き、全ドラグーンが展開。空間がまるで銃殺刑の場と化す。
しかし。
アムロのHi-νガンダムがまるで空間そのものと同化するように突き進む。
「読めている、クルーゼ!サイコフレームはただの技術じゃない——これは、命が命を喰らって進化した“呪い”だ!」
バズーカから放たれた一撃がプロヴィデンスのシールドを吹き飛ばす。
「そして君の言う通り、俺は人間じゃない。俺はもう、戦うことしかできない——この歪んだ宇宙を正すために!」
クルーゼが僅かに焦る。彼の予測と制圧戦術を、アムロは力と速度、そして“意志”で超えてくる。
「君の戦いは憎しみに囚われた復讐ではない……!」
「違うな」
アムロの瞳が、深く冷たい光を放つ。
「これは祈りだ。俺の世界で、無惨に死んだ彼女への、唯一の償いだ。歴史がどれだけ俺を否定しようと、構わない」
Hi-νガンダムがドラグーンの網を突破し、クルーゼのプロヴィデンスに接近する。
その刹那、アムロは息を吐いた。
「帰れ、ラウ・ル・クルーゼ。お前の理屈も、哀しみも、全部終わった。俺が終わらせる」
ビームサーベルが閃く。
プロヴィデンスの腹部装甲が裂け、クルーゼの視界が揺れる。
「——傲慢だな、君は……だが、その傲慢さに、世界はいつか報いを与えるだろう」
「それでもいい。俺は……あの光を、もう一度見るために戦う」
Hi-νのサーベルが最後の一閃を放つ。
静寂のなか、プロヴィデンスの核が爆ぜ、閃光が宇宙を照らした。
アムロは何も言わずに背を向ける。
振り返らない。もう、何も。
彼が見ているのは——あの日、手の中から零れた命の光だけだった。