ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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好きなキャラを軸にすると筆が進む進む。というわけでアルレット2です。まだ続きます。
シャアがアルレットを保護してないのでジオン(というかシャア個人)への恩義なんて無いうえに使い捨てられたので諦観が強いです。


幕間: アルレット・アルマージュ 2

尋問室の扉が開き、ヤザン・ゲーブルが一歩、室内へと足を踏み入れた。中は簡素な造りで、照明もわざとらしいほど直線的に差し込んでいる。

 その中央、金属製の椅子に手錠をかけられた少女――アルレット・アルマージュが静かに座っていた。

 

 ヤザンは眉をひとつひそめたまま、足音も荒く室内を横切る。

 

 「……お前か? 俺を尋問官に希望した物好きは」

 

 低く投げかけられた言葉に、アルレットは穏やかな口調で応じた。

 

 「そうだよ」

 

 まるで雑談でも始めるかのような気楽な声だった。だがヤザンの目には、逆にその気安さが引っかかった。

 

 「俺は尋問なんて知らん。しかも捕虜交換の話がいつ来るかもわからん。やり方なんぞ知らん俺が相手じゃ、手荒な方法になるかもな」

 

 壁にもたれかかり、腕を組んで睨みつける。

 

 「せっかく拾った命だ。無駄にはしたくないだろ。しばらく大人しくしてりゃ、無事にジオンに帰れるんだからよ」

 

 アルレットは一瞬だけヤザンを見上げた。観察するような視線だったが、敵意も恐怖もない。

 

 「命が惜しいなら、なおさら――尋問のやり方なんて知らない人の方が、良いんじゃないかな」

 

 その口調はあくまで優しく、それでいてどこか達観しているようでもあった。

 (多分この人、尋問なんて面倒でやりたくないんだろうなぁ)

 心の中でそう呟きながら、アルレットはそっと微笑んだ。

 

 「……あん?」

 

 ヤザンが目を細める。挑発的というよりは、不可解なものを見る目つきだった。

 

 「――多分ね。ジオンに帰ったら私は『人体実験の生き証人』として、邪魔で仕方ない存在だと思うんだ」

 

 空気がわずかに張り詰める。

 

 「だからきっと、『連邦の尋問のふりをした拷問で死んだ』ことにされるんじゃないかな」

 

 淡々としたその物言いに、作り物の脅えも演技もなかった。ただ静かな推論だけがそこにあった。

 ヤザンはその言葉を飲み込みながら、目の前の少女に、ほんのわずかに興味を抱き始めていた。

 

 

 

 

 

尋問室の沈黙を破るように、ヤザンが壁を離れて一歩、アルレットに近づく。

 

 「――何の話だ、それは。どんな実験をされたってんだ。ジオンの中じゃ、赤い彗星が戦果を上げまくった結果、ニュータイプ能力者様は宝石の原石みたいなもんじゃないのか?」

 

 その声には、これまでのような皮肉や威圧は含まれていなかった。

 代わりに、わずかな苛立ちと好奇心――そして、何より“本気の問い”が込められていた。

 

 アルレットは視線を落としたまま、小さく息をついた。

 

 「……私は、フラナガン機関にいたの」

 

 ヤザンの表情がわずかに動く。ジオン軍においてニュータイプ研究の中枢機関とされるその名前は、パイロットである彼にも耳慣れたものだった。

 

 「コードは“Ⅶ(セブン)”。でも、他の子たちみたいに……ビットを動かすことはできなかった。サイコミュには“適応できない”ニュータイプだったんだって」

 

 言葉は淡々としているが、どこか過去を眺めるような遠い口調だった。

 

 「だから“代わりに”ね。感覚と神経を繋げる実験、脳波を誘導する訓練、薬物投与、皮膚の再生実験――いろんなことを“試された”」

 

 ヤザンは眉をひそめた。表面上は無表情を保っていたが、内心には確かな嫌悪が湧いていた。

 

 「……それで、いらなくなったらポイ、か」

 

 「うん。ちょうどサイコミュ搭載型の赤いガンダムが結果を出してた頃だったから、私は“処分対象”に回された。誰かに処分させるのは嫌だったんだろうね。戦場に出して“敵に倒された”ことにした方が都合がいい。フラナガン博士はそういう人」

 

 最後の言葉にだけ、ほんのわずかに憎しみが混じっていた。

 

 沈黙が再び落ちる。

 ヤザンはその中で、何かを図るようにしばし彼女の表情を見ていた。

 

 「……なるほどな」

 

 そう言った彼の声は低く、そして今度は妙に落ち着いていた。

 

 「だとすると――」

 

 ヤザンはゆっくりと片手を挙げ、背後の扉のパネルを軽く叩いた。鍵のような音が響く。

 

 「話の続きを聞いてやる。俺の尋問が“手荒”にならないかどうかは、お前の話の面白さ次第だ」

 

 そして、再び鋭い眼差しで彼女を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤザンは腕を組みながら、アルレットの話を黙って聞いていた。

 

 「……つまり、サイコミュは扱えなかったが、何か別の感覚でモビルスーツに関わる“異能”は持っていた……ってことか?」

 

 アルレットは目を細める。

 「さあ、どうだろうね。フラナガン博士は“使えない”って言った。私自身にもよくわからない。サイコミュを感じるってより、機体そのものの“癖”や“流れ”がわかるような気がするだけ」

 

 ヤザンは鼻を鳴らした。

 「戦場に出されたときも、それでゲルググを動かしてたってわけか。腕は大したことなかったが、動きの端々に妙な“馴染み方”は感じたな」

 

 「馴染んでるだけで勝てなきゃ意味ないけどね。私、あなた相手に何もできなかったし」

 

 「まぁな」ヤザンはニヤリと笑った。「俺を止められる奴なんて、今の戦場にはそういねぇよ」

 

 そう言ってからヤザンは表情を引き締めた。

 

 「だが……面白い女だ、お前は。ただ生かされてるだけの捕虜って感じじゃねえ。何か、何かしら“力”を隠してるように思えてな」

 

 アルレットは小さく肩をすくめた。

 

 「さあ? 私がどんなふうに使えるのか、それを知るのが尋問ってやつでしょ?」

 

 ヤザンは鼻を鳴らし、椅子を軽く蹴って立ち上がる。

 

 「……よし、今日はここまでだ。質問は山ほどあるが、答える気がないって顔でもなさそうだ。俺の“尋問”も、少しは続ける価値がありそうだな」

 

 そう言って、ヤザンは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

尋問室の隣、マジックミラー越しに室内の様子が見える観察室。

 ヤザンが扉をくぐると、そこには腕を組んだヘンケン艦長が苛立ちを隠さずに立っていた。

 

 「ジオンは……何ということを……!」

 

 ヤザンは腕を組みながらも、肩をすくめて艦長の横に並ぶ。

 

 「さて困ったな、艦長。あいつは相当な“厄ネタ”だ。あのまま連邦に送れば、実験の詳細を知るために使い潰されるだろうし、かといってジオンに返せば……こっちが“処分”に協力したってことで責任押しつけられるのがオチだ」

 

 ヘンケンは唇を噛みしめ、視線をミラー越しのアルレットに向ける。

 

 「……我々が見つけた“真実の証人”かもしれんな。なのに……扱いを一歩でも間違えれば“ただの犠牲者”になる」

 

 ヤザンはあくまで冷静な口調で応じる。

 

 「なら、あいつをどうするか。艦長の采配にかかってますよ?」

 

 その声には軽い皮肉も混じっていたが、どこか、これまでの任務とは違うものに直面したような“静かな戦意”も感じられた。

 

 

 

 

静まり返った観察室に、ヘンケン艦長の溜息が低く響いた。

 

 「……軍人としての任を果たすなら、彼女のことは報告書にありのまま書けばいい。実験に利用され、ジオンに見捨てられた少女……今後の対応は軍本部が判断する」

 

 ヘンケンはマジックミラー越しに、静かに佇むアルレットの姿を見つめながら、言葉を噛みしめるように続けた。

 

 「だが、それをやったら……彼女は、そう遠くない未来に“犠牲者”になる。連邦もジオンも、自分たちの不都合な真実を証言されるのは望まない。何らかの形で“処理”される……俺にはわかる」

 

 ヤザンは艦長の横で黙っていたが、口を挟むタイミングを見計らっていた。

 

 「返すって選択肢もない。ジオンに送り返せば、彼女の命は向こうの上層部の都合で始末されるだろう。もしくは何も言えないまま、ただ“失踪扱い”だ」

 

 ヘンケンは苦い表情で、唇を強く結んだ。

 

 

 「彼女を生かすには……どうすればいい?」

 

 自問するようなその声に、ヤザンが肩をすくめた。

 

 「簡単な話じゃありませんよ、艦長。あいつは生き証人だ。自分の意思がどうであれ、存在そのものが火薬庫みたいなもんだ。だが――」

 

 ヤザンは目を細めてミラー越しのアルレットを見やった。

 

 「うまく扱えば、“使える”」

 

 ヘンケンがヤザンを見る。軍人としての冷徹な戦術眼と、個人としての思慮の間で揺れるその視線に、ヤザンはあえて表情を崩さず答えた。

 

 「もちろん、利用するって意味だけじゃない。あいつ自身、ジオンに帰りたくないと思ってる。ここに留めることで、あいつ自身を守るって道もある」

 

 ヘンケンは静かに頷いた。

 

「……そうだな、彼女を生かすことで得られる利もあるはずだ」

 

独り言のように呟いた言葉は、明確な意図を伴っていた。

あの少女――アルレットはジオンの人体実験の被験者であり、生き証人だ。その存在は戦争の裏で行われてきた非人道的行為の実態を証明する何よりの資料になる。

 

「戦争が終わったあと、ああいった被害者を二度と出さないためには……証言が必要だ。もし彼女が保護を条件に話す気があるなら、それは大きな意味を持つ」

 

ヤザンが少し驚いたようにヘンケンを見たが、艦長の顔にはすでに決意が浮かんでいた。

 

「まずは、ブレックス准将に話を通してみるしかないな」

 

「准将に、ですか……?」

 

「ああ。あの人なら、彼女を政治的に“利用する”だけでなく、“守る”道をも模索してくれるだろう」

 

ヘンケンは少し間を置き、静かに続けた。

 

「それに、軍の高官でありながら財政界に友人の多い……“あの人”にも話を通す必要がある。上層部に睨まれて潰されないためにも、な」

 

“あの人”という曖昧な表現にヤザンは言葉を返さなかったが、誰のことかは察していた。

政治と軍務の両面で動ける数少ない人物――この件が単なる戦術レベルでは済まないと理解するには、それで十分だった。

 

ヘンケンは背筋を正すように立ち上がると、短く言った。

 

「彼女の命が、未来を変える鍵になるかもしれん。その可能性を、俺たちが潰すわけにはいかない」

 

ヤザンも立ち上がり、軽く頷く。

 

「俺も……しばらく様子を見てみますよ。あいつ、ただの捕虜じゃなさそうだ」

 

マジックミラー越しに、再びアルレットの姿を見やったヤザンの視線には、わずかながらも興味と警戒が入り混じっていた。

 

 

 

ヘンケンは作戦報告とは別に、一本の特別通信を打ち始めていた。

宛先は地球連邦軍本部、ブレックス・フォーラ准将――現場の信頼も厚く、政治的な橋渡しもできる数少ない上官だった。

 

やがて通信が繋がり、画面にブレックスの姿が現れる。

 

「どうした、ヘンケン。報告書はもう上がっているはずだが?」

 

「申し訳ありません、准将。別件です。捕虜の件で……極めて慎重な判断が求められる案件です」

 

ヘンケンは、アルレットの素性を簡潔に伝えた。彼女がフラナガン機関による人体実験の被検体であり、生きている証人であること。

ジオンに返せば、口封じのために処分されるのはほぼ確実であり、かといって連邦の通常手続きで処理すれば、彼女はただの交換要員として扱われてしまう。

 

「……ジオンの闇を暴けるかもしれん、というわけか」

 

「はい。彼女の保護と引き換えに、証言を得ることができれば、戦後の責任追及に大きな意味を持ちます」

 

ブレックスは短く黙し、思案した。

 

「……私だけでは判断がつかん。政治的な根回しも要る。……ゴップ大将に話を通そう。幸い、私はあの人ともパイプがある」

 

「ご迷惑をおかけします」

 

「責任は私が持つ。君はその捕虜の身柄を、正式な保護下に置けるように動いてくれ。報告は“後回し”だ」

 

「……助かります、准将」

 

ブレックスの通信が切れると、ヘンケンは深く息を吐いた。

すぐに答えは出ないだろう。それでも、最善の筋には乗せられた――そう信じたかった。

 

 

 

 

 

ブレックス・フォーラ准将は、一つ息を整えてから通信室に足を踏み入れた。回線の先は地球連邦軍の高官、ゴップ大将。軍政にも通じ、議会や財界との太いパイプを持つ、ある意味で「軍で最も現実的な男」だった。

 

通信が接続されると、穏やかながらも重みを帯びたゴップの声がスピーカー越しに響いた。

 

「……重要な案件だな。生きた実験体で、証言能力があると。確かにそれが表に出れば、ジオンの戦後責任を問う強力な材料になる」

 

画面越しのゴップは顎に手を当てて続けた。

 

「もし連邦が勝てば、ジオンに違法研究をさせない“楔”になる。フラナガン機関のような施設に“可能性がある”というだけで、ジオンの抗議を無視して査察を行える大義名分になるだろう。……勝てれば、な」

 

「……連邦が負けると?」

 

ブレックスの問いに、ゴップは眉をひそめて答えた。

 

「君も分かっているはずだ。技術部の一部は、ガンダムが盗まれたからジオンに差をつけられたと、本気で信じている。責任を押しつける形で、ガンダムの設計者であり、アムロ・レイの父でもあるテム・レイを“檻”に入れてしまった。……最高の頭脳を、だ」

 

「それは、確かに……」ヘンケンが口を挟む。「不合理ではありますが」

 

ゴップはため息まじりに応じた。

 

「私は私の職務を全うしてきた。前線の兵士が飢えないように、武器がなくて戦えないなんてことがないように、補給線と物資輸送の維持を最優先してきた。それが現場の命を守る最前線だと、私は信じている」

 

一拍置き、ゴップの声が低くなる。

 

「……だが、その“届けた”モビルスーツが、あれではな。ジオンがゲルググを作り、さらに進化させている間に、我々はガンダムの遺産で埋めた差を、軽キャノン――あんな出来損ないで埋めようとしている。しかも、それを前線に押しつけた」

 

ブレックスも苦い顔を隠せなかった。ゴップは机に手を置いた。

 

「だが、まだ手はある。君の言う捕虜――アルレットという少女。彼女が“証人”として機能するならば、それはこの戦争の“次”を決める武器になる。……そのために、我々がやるべきことは、ただ一つだ」

 

「――生かす、ということですね」

 

「そうだ。現場は任せる。安全確保のための書類は私が手配する。……その代わり、彼女に何かあったら、君と彼の責任になるぞ、ブレックス」

 

「承知しております、大将」

 

通信が切れると同時に、ブレックスは長く深いため息を吐いた。

 

彼女を守るための“道”は通った。

だが、それは同時に“守り切る”責任も背負うことを意味していた。

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