ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
近頃のヘンケン・ベッケナーは、心に小さな棘のようなものを抱えたまま日々を送っていた。
(……あの時、彼女を守るためとはいえ、存在しない捕虜として記録を改ざんし、監視付きの身にした。正しかったのか? いや、あれしか方法はなかった……)
決断には悔いはないつもりだったが、自由を失わせたのではないか、という悔いが抜けきらない。
そんなある日。
軍食堂でトレーに乗った昼食を選んでいたヘンケンの背後から、ぶっきらぼうな声が響いた。
「艦長、少し時間もらいますぜ」
ヤザン・ゲーブルだった。
「人目がある場所で話すようなことじゃない」と言いたげな目でヘンケンを見やり、目線で隅の無人の部屋へと促す。ヤザンについていくと、彼は戸を閉めて、ぽつりと報告した。
「アルレット、正式にテム・レイ技術主任の下についた。あいつ、素材の良し悪しが直感でわかる……ニュータイプ的な感応だな。今じゃ、アレックスの次世代機の素材選別に携わってる。『この素材なら誰かを守れる機体が作れる』って、本人も結構張り切ってる」
言い終えると、ヤザンは煙草もないのに指で口元をこする仕草をしながら、ちらりとヘンケンの反応をうかがった。
ヘンケンの顔が、安堵の色を帯びた。
「……そうか。監視下からは?」
「ああ、もう外れてる。身分は“技術部研究補佐”。補助員という形だが、完全に実務に関わってる。守られてはいるが、縛られてはいねえ」
ヘンケンは目を細め、小さく頷いた。
「……よかった。ほんとうに……よかったよ」
手にしていた軍帽を脱ぎ、胸元に抱えた。軍人としての義務と、人間としての思い。その両方が交差していた日々が、ようやく終わった気がした。
「ヤザン」
「はい?」
「……彼女が“尋問官にあなたを希望した”と聞いた時は驚いたが……間違ってなかったようだな。お前が担当で、ほんとうによかった」
ヤザンは軽く片眉を上げ、「そう言われると、照れますね」と肩をすくめた。そのくせ、どこか満更でもない顔をしていた。
「まあ、あいつの目は節穴じゃなかったってことです。なにせ、俺を選んだんですからね」
ヘンケンは吹き出し、久々に心から笑った。
アルレット・アルマージュは、今、初めて“自分の居場所”というものを実感していた。
連邦軍技術本部の実験施設。その片隅の素材分析室で、彼女は日々、無数の部材と向き合っていた。
目に見える数値だけでは判別できない「癖」。金属のわずかな反応、衝撃の伝達の仕方。自分でも説明できない直感で、素材の良し悪しがわかる。ジオンでは異常とされたこの感覚を、今の職場では“戦術的価値”と認めてくれている。
(……こんな仕事がしたかった。誰かを、守るための力を。戦いじゃなくて)
アレックスの次期開発機。その装甲材や内部骨格の素材選別に関わることで、ようやくこの能力が「人を救う」形に結びつき始めている実感があった。
ふと、休憩のために食堂へ向かおうとしたその時だった。
ヤザン・ゲーブルが早足で廊下を歩いていく。行き先は知っていた。そこには、かつて自分を保護という名目で“捕虜”とし、しかし誰よりも人として扱ってくれた男がいる。
ヘンケン・ベッケナー艦長。
(ヤザンさん……伝えてくれるのね)
言葉にせずとも、わかる。あの人は自分のことをずっと気にしていた。監視付きの処置は、自分の安全を最優先にしたからこそ。恨んではいない。むしろ、あの時保護されなければ――今ここにはいなかった。
(だからこそ、私は……この力を、正しく使わないと)
アルレットは、自分の手帳を胸元に抱いた。そこには彼女が選び抜いた素材の番号がずらりと書き込まれている。
それは、誰かが乗る機体を守るための選択だった。
(私を守ってくれたあの人が、心から笑えるように。戦場に出る人が少しでも生きて帰れるように)
廊下の窓から見える空は、やわらかく澄んでいた。もう、“存在しない捕虜”ではない。自分は今、この空の下で――誰かのために、ここにいる。
廊下の角を曲がると、向こうに懐かしい背中が見えた。
あのとき、自分に「捕虜」として番号を与えながらも、まともな食事と寝床を保証してくれた艦長。誰も信用しなかった中で、最初に「一人の人間」として扱ってくれた人。
足が止まりそうになる。けれど、今の自分なら――
「ヘンケン艦長」
呼びかけた声に、彼がゆっくりと振り返った。
その顔には驚きと、そしてほんのわずかに安心した色が浮かんだ。
「……アルレットか。無事だったんだな」
短い言葉だった。でも、その言葉には、言葉以上のものが詰まっていた。
「はい。あのとき守ってくださって、ありがとうございました」
「……いや。俺は君を守るつもりで、結果として“捕虜”という扱いにしてしまった。あのまま誰の目にも触れず消えていったら、どうしていただろうと思うと、今でも時々……胸が痛むよ」
彼女は首を振った。
「違います。あのとき艦長がしてくれたことが、私の命をつないでくれたんです。だから今、私は……“この力”を使って、誰かを守る機体を作る仕事をしています」
「聞いたよ。ヤザンからな」
ヘンケンは少しだけ肩の力を抜いて笑った。
「彼が言ってた。“あの娘、自分の能力が誰かの盾になることを、本当に嬉しそうに話してた”ってな」
アルレットは恥ずかしそうに笑った。ほんの少し、頬が赤らんでいた。
「まだまだですけど、でも……ようやく、自分の力を使える場所をもらえた気がします」
「そうか」
ヘンケンの眼差しは、あの日と変わらず、どこまでもまっすぐだった。あのとき、誰も信じなかった“存在しない捕虜”を信じてくれた人の目だ。
彼女は、姿勢を正して深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございました。あのとき、艦長がいてくれてよかった」
「……礼を言うのは、俺のほうかもしれんな。君が、まだ前を向いて生きている。それだけで、救われる気がする」
短い会話だった。けれど、そこにあったのは、確かな“信頼”だった。
別れ際、ヘンケンがふと振り返って言った。
「――尋問官にヤザンを希望したのも、正解だったな」
アルレットは驚いて、目を見開いた。そして――すぐに、頷いた。
「はい。あの人も、ちゃんと人を見てくれる人でしたから」
その言葉に、ヘンケンもまた頷き返した。
かつて“番号”だった少女は、今や“名前”を持ち、力を持ち、それを人のために使っている。
この戦争が終わったとしても――彼女の歩みは、止まらない。
テム・レイ研究室。地球連邦軍内でも特異な存在とされるこの部署は、最先端のMS(モビルスーツ)技術を開発し、時に既存の概念を覆すような成果を残す場所である。
その中心に立つのは、アムロ・レイの父にして、ガンダム開発の技術責任者でもあるテム・レイ。そして今、その横で黙々と解析機に向かう若き女性研究員の姿があった。
アルレット・アルマージュ――かつてジオンの研究施設で“不要”とされた少女は、今や地球連邦の最深部で、戦場に立つ者たちの盾を作ろうとしていた。
「……これはイカれてるな」
彼女の隣でぼやいたのは、テム・レイだった。だがその口調にあるのは、呆れではなく、明確な称賛だった。
「この素材、従来の複合装甲と比べてナノ粒子の配置が異常に均一だ。どうやってこの均質化を見抜いた?」
「触った時の振動の違いです。通常の素材は細かい粒子の配置で波形に乱れが出るんですけど、これは波が均一に返ってきました。たぶん、圧縮成型の温度がわずかに違うんだと思います」
テム・レイは一瞬だけ黙り込んだ後、苦笑交じりにため息をついた。
「君がいるおかげで、開発スピードが三倍になった。冗談じゃなく、この感覚、私にもアムロにもない。“素材が語りかけてくる”というのは、まさにこういうことか」
アルレットははにかんで笑った。
あの日、自分の能力を“戦いにしか使えない力”ではなく、“守るための力”として認められたこと。それが今、日々の糧になっている。
試作品の装甲片を手に取りながら、ふと彼女は口を開いた。
「この素材で、推進系を冷却できれば……アレックスの後継機の排熱効率、さらに上げられるかもしれません」
アムロやヤザンが搭乗している試作機「アレックス」の次に続く機体。その開発に、彼女は中心人物として参加していた。機体の名称はまだ未定。設計図にはただ「A-Next」とだけ仮称が記されている。
だが、その骨格を支える構造材、すなわちガンダリウムγの基礎は、間違いなくアルレット自身の手によって導き出されたものだった。彼女の素材に対する直感はテム・レイが驚嘆するほどの精度を誇り、微細な結晶構造や応力分散性、加工耐性に至るまで「感じ取れる」ことができた。
「私は知識でサポートする。だが、ガンダリウムγは君の成果だよ、アルレット君」
テム・レイはそう口にした。かつては独りで、正しさだけを武器に軍上層部と戦っていた男の声に、今は他者への敬意が宿っている。アルレットはそれを素直に嬉しく思っていた。
彼は、開発がひと段落した段階でガンダリウムγの構造と製造技術を技術部全体に公開しようとしていた。
「私の部下としてではなく、1人の技術者として、君が認められるべきだ」
それがテムの願いだった。
しかし、アルレットにはためらいがあった。
「公表するのはいいです。でも……せめて次の機体が完成してからではダメでしょうか?」
アルレットは恐れていた。自分たちが築いたこの成果を、利用されることなく、正当に評価してもらえるのか。いまだ技術部の中には、テム・レイを正式に頂点に置くことに反発する“派閥”が残っていたのだ。
この後から背景で書いた(テムレイに逆らえるものがいない)に続いていく形で書いてます。
ガンダム エコール・デュ・シエル 天空の学校を知ってる人います?
-
gジェネEでアスナだけ知ってる。
-
漫画もgジェネEでも知ってる。
-
読んだことない。
-
読むのをやめた。