ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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5月17日23:16後半少し追記


幕間: 不死身の第四小隊・模擬戦後

シーン:模擬戦ブリーフィングルーム/戦闘記録再生モニター前

 

天井に設置された複数のモニターが、さきほどの模擬戦を映し出している。戦闘後の疲労をわずかに残しながらも、3人のパイロットとテム・レイはそれぞれの席に腰掛け、戦況の講評に移っていた。

 

テム・レイは、いつものように静かに再生映像を見つめている。

 

アムロが軽く頷きながら言った。

 

「……あのネモM型、感情をぶつけてきてましたね。攻撃が雑になってた」

 

再生映像では、モンシアのネモM型が果敢にヤザン機へと突っ込むが、アレックスの機動に翻弄されて振り回されていた。

 

ヤザンが腕を組みながら苦笑する。

 

「ありゃあアレックスに乗れなかったことを僻んでたんだ。目に見えてたぜ。機体性能で負けたと思い込んでる奴は、たいていそうなる」

 

ゼロ・ムラサメが冷静に補足する。

 

「ですが、機体の限界ギリギリまで使ってはいました。感情的だったとはいえ、操縦そのものは理詰めで研ぎ澄まされていた。……ただ、こちらに届くかというと、それは別の話です」

 

テムがわずかに頷く。

 

「量産機と専用機の差は否めない。だが、実戦でネモM型に乗る者は多い。あの機体で、どこまでアレックスに肉薄できるかは、非常に貴重なデータだ。むしろあの乱れこそが、開発側にとってはありがたい」

 

ヤザンが口の端を上げる。

 

「だが、あれじゃあ隊をまとめる器じゃねえ。あいつ、隊長のバニングにも反発してたろ」

 

アムロは少し表情を緩める。

 

「でも……バニング大尉は部下をうまく立てていた。彼自身は、納得してる顔でしたよ。あの人は……部下の鬱屈を潰さないように、あえて咎めなかった」

 

ゼロが静かに言葉を添える。

 

「だからこそ、彼らの隊は“壊れない”んでしょうね。どんなに感情的になっても、破綻しない形で動ける」

 

テムは少し感心したように口を開く。

 

「なるほど。……君たちはそれぞれ、戦場だけでなく“人”を見ている。技術者としては喜ばしい。使い手の考え方を反映できる余地が、まだアレックスにはある」

 

ヤザンが肩をすくめる。

 

「まあ、いくらでもフィードバックしてやるさ。もっとキレのいい機動ができるなら、いくらでも付き合う」

 

アムロが静かにモニターの自分の機体を見つめる。

 

「テム博士、アレックスは……すごい機体ですよ。でも、使い手が未熟なら“妬み”の対象にしかならない。あのネモM型の反応は、それを象徴してました」

 

テムは黙って頷いた。

ゼロ・ムラサメが最後に、どこか誇らしげに言った。

 

「でも、勝ったのは“技術”じゃない。“意志”です。僕ら3人が、それぞれの立場で勝とうとした。……それが、この結果を生んだ」

 

静かに、そして熱を孕んだ言葉だった。

 

テム・レイはゆっくりと席を立ち、3人を見渡す。

 

「よくやった。……そして、まだまだ進める。諸君の力と、私の技術があればな」

 

3人のパイロットは軽く頷いた。

 

アレックスと、そのパイロットたちは、確かに“戦場の主役”になりつつあった。

 

 

 

 

 

バニングの感謝

 

模擬戦の講評が終わり、ブリーフィングルームの空気が和らぎ始めた頃、部屋の扉が開いて、サウス・バニングが入ってきた。軍服の襟を正しながら、3人のパイロットに向かって直立し、軽く頭を下げた。

 

「……今日はありがとう。あのネモM型の限界を、あれほど明確に示してくれたのは、君たちのおかげだ」

 

アムロは柔らかく首を振った。

 

「バニング大尉。モンシア中尉は全力を尽くしました。……僕たちも油断したらやられると感じた」

 

ヤザンが腕を組んで言う。

 

「こっちにだって、危ない瞬間はあったさ。……だがあいつ、自分の限界を認めるまで、少し時間がかかりそうだな」

 

ゼロも、ふっと息を吐く。

 

「でも、ああいうのが一番前線で生き残るのかもしれません。打たれても、立ち直る芯がある」

 

バニングはわずかに目を細め、静かに答えた。

 

「……あいつは、まだ未熟だ。だが、俺の部下だ。成長を信じて、あえてぶつけた。君たちに礼を言いたかったのは、ただ勝ったからじゃない。……“突き放しすぎなかった”ことだ」

 

アムロは、少しだけ微笑む。

 

「勝った者には責任がありますから」

 

バニングもまた、目を伏せながら微笑んだ。

 

「ありがとう。……次にあいつと会う時は、もう少しまともになってるはずだ。そう信じたい」

 

 

 

 

 

モンシアの葛藤

 

模擬戦後、シャワーを浴びたモンシアは、一人きりのロッカールームで黙り込んでいた。タオルを首にかけたまま、ベンチに腰を下ろして、壁の時計を眺める。

 

アレックスに乗ったアムロは、明らかに“上”だった。操作、判断、速度、すべてにおいて。

 

分かっていた。

だが、それでも自分は喰らいついていた。

……そのはずだった。

 

「……クソッ」

 

独り言のように吐き出し、拳でロッカーを軽く叩く。

 

(ネモM型が悪いんじゃねえ。アレックスがずるいわけでもない。問題は……俺か)

 

悔しさよりも、どこか虚しさの方が勝っていた。

 

ただの嫉妬だったのか。

あの“青い機体”に乗れない劣等感だったのか。

それとも、ただ“テム・レイの息子”というブランドへの反発だったのか。

 

自分でも、分からなくなっていた。

 

その時、ロッカーの扉に何かが貼られているのを見つけた。

それは、バニングが貼ったと思しき手書きのメモだった。

 

「負けるな。ぶつかるのは悪いことじゃない。だが、次は乗り越えてみせろ。」

 

モンシアは、しばらくそれを見つめ、タオルで額の汗をぬぐう。

 

そして小さくつぶやいた。

 

「……まだ、終わっちゃいねえよな」

 

 

 

 

モンシアの再起 〜「俺のやり方で、もう一度」〜

 

戦闘訓練の翌日、演習空域の隅で一機のネモM型が、無人の標的機に対して連続した射撃・機動訓練を行っていた。

その操縦桿を握るのは、ベルナルド・モンシア。

顔に浮かぶのは怒りでも焦りでもなく、静かな集中。

 

「……動きを読まれてんじゃ、意味がねえ」

 

アムロやヤザンと交えた模擬戦を脳内で何度も再生し、“勝てなかった原因”を自分なりに分析し続けていた。

 

それは、単なるスペックの差だけではなかった。

 

アレックスを駆るアムロの読み、ゼロ・ムラサメの正確無比な間合い、そしてヤザン・ゲーブルの肉弾戦の如き突撃……

どれも、ただ性能で補えるものではない。

 

だからこそ、モンシアは自分の機体の癖を知り尽くすところから始めた。

 

右肩の関節サーボの戻り速度、左脚の推進剤消費傾向、バックパックの冷却サイクルのクセ。

現場に出てから得られた感覚を、徹底的に鍛え直す。

 

その時、通信が入った。

 

「……おい、ベルナルド。お前、また一人で撃ってんのか」

 

声の主は、チャップ・アデルだった。バニングの後押しで、ネモM型の再調整と実地データの再収集を行っていた。

 

「お前こそ、昼休みの癖に仕事してんじゃねぇよ」

 

「ったく、お前がムキになるとこっちもほっとけねぇんだよ。……で、もう一回やるのか? 模擬戦」

 

「もちろんだ。俺は負けっぱなしじゃ終わらねえ。次は……絶対、食らいついてやる

 

 

 

 

 

 

 

不死身の第4小隊、再び ―そして「挑戦者」の姿へ

 

数日後。別の訓練空域で行われた、再度の模擬戦。

 

サウス・バニングの号令のもと、不死身の第4小隊が連携訓練に臨む。

チャップ・アデルの狙撃が的確に敵機の脚部を封じ、アルファ・A・ベイトの重装砲撃が戦線を切り開く。

その中を抜けて前進するのは――再び立ち上がった、モンシアのネモM型。

 

「まだだ、こいつはまだ動ける! アレックスじゃなくても、やれるってとこ見せてやる!」

 

モンシアの動きは、かつての粗さが消え、鋭くなっていた。

機体の癖を掴んだ上でのスライド射撃、跳躍からの斜線回避、仲間との連携も意識されている。

 

バニングが、小さくうなずく。

 

「……やるな。成長してるぞ、モンシア」

 

モンシアが吠えるように返す。

 

「当たり前でしょ、大尉! 俺は、負けっぱなしのままじゃ終われねぇんだ!」

 

その声に、ベイトが笑う。

 

「全くだ。お前がしおらしくなると、逆に不安になるわ!」

 

チャップも軽口を叩く。

 

「でもな、次は一人で特攻すんなよ。俺たちは“第4小隊”だ。忘れんな」

 

モンシアは言葉なく頷いた。

 

彼らの姿は、「不死身」と揶揄された過去の武勇伝ではなく、

今まさに挑戦し続ける”現役”の戦士たちの姿になっていた。

 

不死身の第4小隊は、再び本部の注目を集め始めていた。

ただのベテラン部隊ではなく、次世代の標準戦力を担う機体を運用し、進化し続ける熟練兵たち。

フランクリン派の技術士官たちは、モンシアらの訓練データを見て、こう評した。

 

「確かにアレックスには敵わない。だが、量産機の限界はまだ先にある」

 

その姿を見ていたテム・レイもまた、わずかに目を細め、こう呟いた。

 

「……見せてみろ。君たちが“勝利の礎”となれるかどうかを」

 

 

 

モンシア、再びアムロに挑む 〜「俺が前に出る」〜

 

次の模擬戦は、ネモM型とアレックスの1対1形式で行われた。

訓練申請を出したのは――ベルナルド・モンシア本人だった。

 

「前回は、実力差で負けた。あれは、あんたが凄かっただけだ。……でも今回は違う。今の俺を、試してほしい」

 

対するアムロ・レイは、ほんのわずかに驚いたような表情を浮かべるが、すぐに微笑んだ。

 

「いいですよ。あなたが”戦う意味”を見つけたのなら――僕も全力でいきます」

 

戦闘開始。

 

アムロのアレックスが一瞬で射線を読んで動き出す。だが、前回と違い、モンシアのネモM型はその動きについてきていた。

重力のかかる模擬フィールドの中、ブースト噴射のタイミングと熱管理が絶妙だった。

 

「読まれてるって、分かってるさ。けど、だからこそ……避けきってみせる!」

 

アムロがわずかに表情を変える。

以前のモンシアなら、焦って突っ込んできた。だが今は、冷静に間合いを維持しつつ、ネモの性能を限界まで引き出していた。

 

「……すごい。正面からじゃ決められない……!」

 

3分経過。5分経過。

 

最終的にはアムロの一手が上回り、ネモM型はサプレッション・フィールドに沈黙した。

 

だが、アムロはコクピットで呟いた。

 

「これは……もう、訓練じゃ通じないな。あの人、現場で命を張ってる」

 

通信が開く。

 

「負けはしたが……今のは、ただの力負けじゃない。やれることはやった。……それだけは、誇らせてもらう」

 

「ええ。誇っていい。あなたは、今……強かったですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ネモの強化案、技術者たちの議論 〜「現場の声を拾え」〜

 

技術本部第2ブロック会議室。白を基調とした無機質な空間に、複数のホログラムが戦闘ログと機体挙動のグラフを浮かび上がらせていた。

 

その中央に立つのは、テム・レイ。無言で映像を見つめるその背に、誰も軽々しく言葉を投げかける者はいない。ただ、そのそばには、今や彼の右腕と見なされる技術者たち――フランクリン・ビタン、ヒルダ・ビタン、アルレット・アルマージュ――が並んでいた。

 

「……見事な制御だったな。特にモンシア中尉のネモM型。熱制御を最適化し、運動性の限界ギリギリまで引き出している」

テムが静かに言うと、ホログラムに残されたブーストの出力推移が赤から黄色へと遷移する。

 

「でも、それって逆に言えば、“もう限界が近い”ってことよね」

 

ヒルダが指で一箇所を示す。熱暴走ギリギリで推移する冷却ライン。彼女の専門は素材工学だ。そこには冷静な判断があった。

 

「……ガンダリウムγの効果は出てるわね。フレームの熱伝導効率も、応力分散も悪くない。けど、それでも限界が見えてきてる。モンシア中尉のネモM型は出力上昇にフレームが追いついてないわ。今の構造設計じゃ、ガンダリウムγのポテンシャルを活かしきれていない」

 

重苦しい沈黙のなか、彼女はひと息おいて言葉を継ぐ。

 

「つまり――再構成が必要よ。構造そのものを、ガンダリウムγ前提の設計に切り替えるべき。今は旧式設計にγを無理に流し込んでる感じ。……もっと根本から、この素材の使い方を見直すべきだと思うの」

 

テム・レイがゆっくりと頷いた。

 

「同意する。ムーバブルフレームの導入によって稼働域は拡大しつつあるが、素材特性を活かすにはフレームそのものを素材起点で設計し直すべき段階に来ている。現行のR型構想――ネモR型は、そのための試金石となるだろう」

 

「つまり、これからのネモはアレックスと同じ方向へ向かうということだな」と、フランクリン・ビタンが言葉を挟んだ。「ムーバブルフレームを中核に据えた高出力・高機動機体。それに対応した操縦系の再教育も必要になる」

 

「既に教官候補の選定は始まっているわ」とアルレットが補足した。「各部隊へ操作教育を担うテストパイロットの派遣計画も進んでる。反応性が上がる分、旧来のマニュアルとは全く別物になるわ」

 

「つまり、兵も機体も“次”に備えなければならんということだ」と、フランクリンが腕を組みながら小さく呟いた。「ネモの“量産機”という看板はもう、ただの肩書きでしかなくなるかもしれん」

 

その言葉に、部屋にいる全員が黙してうなずいた。

 

技術は進化し、素材は変わり、思想さえ塗り替えられる。

 

そして、それを牽引するのは、かつて敵同士だった者たちでさえ今や同じ目標に向かって机を囲んでいる事実だった。

 

 

 

 

 

 

ジャブロー地下技術本部の一室。壁一面にモビルスーツの設計図と稼働データがホログラムで映し出される静かな会議室に、テム・レイとアムロ・レイ、ヤザン・ゲーブル、ゼロ・ムラサメの4人が顔を揃えていた。

 

テムはデータに目を通しながら、手元の端末を操作し、ネモの新型骨格構造の解析図を拡大する。

 

「……ムーバブルフレームとガンダリウムγの導入によって、ネモは“ネモR型”として再構成されることになった。出力、反応速度、整備性すべてが一段階、いや二段階上がる。ただし――問題は操作性の変化だ」

 

アムロが頷く。

 

「従来のネモとは全く別物の挙動になりますね。アレックスの初期型にも似ている。神経を直に焼かれるような加速がある」

 

ゼロも苦笑交じりに言葉を継いだ。

 

「俺でも最初は戸惑いましたよ。細かい慣性の取り方が違う。意識が追いつかない」

 

テムは深く頷いた。

 

「だから――現場の部隊には、教官を派遣することになった。各拠点に、ネモR型の反応に適応できる人間を送り、直接指導してもらう。これを怠れば、機体性能が逆にパイロットの命を奪うことになりかねん」

 

彼は視線をヤザンに向けた。

 

「ヤザン、お前に行ってもらえないか。南米の基地を皮切りに、地上部隊数か所を回ってくれ。お前ならネモR型の特性も、現場の言葉も両方分かっている」

 

ヤザンはテム・レイの言葉を聞いてから、少し間を置いて答えた。

 

「教官を派遣するってのは、まあ、理解できる。ネモR型は旧来のフレーム構造とは操作性が違うし、ガンダリウムγの応答性にも慣れが要る。だが、その程度で対応できるのか? 今の地球はジオン本軍こそいねぇが、残党や自称ジオン軍が廃棄機体でそこらじゅうで暴れてる。まともな訓練ができる状況じゃないぜ」

 

アムロが頷く。

 

「訓練と実戦が地続きになってる。教官には、理屈だけじゃなく、現場で即対応できる経験が必要です」

 

ヤザンはわずかに口元を歪めた。

 

「俺に教官役を頼むとはな……。お堅い軍の方針にゃ合わねえと思ってたが、テム・レイの頼みなら仕方ねえ。行ってやるさ」

 

アムロが笑う。

 

「人をぶん殴って教える教官なんて、そうそういないですからね。現場の士気も上がるでしょう」

 

ゼロは真顔で言う。

 

「……俺も、ヤザンさんにシミュレーターで殴られました」

 

「おう、それでNT反応を引き出せたんだろうが」

 

部屋に小さな笑いが漏れた。だがその裏に、戦争の先を見据える切実な意思が感じられる。

 

テムは静かにうなずく。

 

「ネモR型は、アレックスとともに次の戦力の柱になる。だが、兵が乗りこなせなければただの鉄くずだ。お前たちが現場に知恵を還元してくれれば、俺は次の開発に集中できる」

 

アムロはその言葉にわずかに微笑を浮かべた。

 

「わかりました。俺も調整データをまとめて送ります。どの部隊がネモR型のポテンシャルを引き出せるか、楽しみですね」

 

ゼロも小さく頷いた。

 

「兵器が強ければ勝てるわけじゃない。でも、信じられるものが強ければ、人は戦える。俺たちがその証明をすればいいんです」

 

 

 

 

テム・レイはホログラムの回転映像を操作しながら、ゆっくりと語った。

 

「……各基地にR型が配備される前に、パイロットに操作の違いを叩き込む教官部隊を先行投入する。その編成が、いま急務だ」

 

壁にもたれて腕を組んでいたヤザンが口を開いた。

 

「で、俺以外の教官役は誰が決まってる?」

 

テムは軽く眉を上げてヤザンを見る。

 

「教官として務まる人材はいるにはいるが、どこか決め手に欠ける。癖が強すぎたり、データに強くても現場経験が乏しかったりな。正直に言えば……ぴたりとハマる人間はいない」

 

ヤザンは小さく笑い、ふっと息を吐く。

 

「じゃあ、俺から提案させてもらうぜ。――不死身の第4小隊。あいつらに教官をやらせろ」

 

アムロが顔を上げた。

 

「彼らが?」

 

ヤザンは頷いた。

 

「ネモM型の戦力テストで、モンシアは暴れたが、あれは本音だ。パイロットが機体に何を求めてるか、あいつはわかってる。ベイトは神経質だが、データを拾う力はある。アデルは調整と整備のフィードバックが得意。バニングは……まぁ、教官上がりだ。隊としての信頼も厚い」

 

ゼロが同意するように口を開いた。

 

「教官適性って、単に腕が立つだけじゃダメですからね。伝え方、信頼の築き方、タイミングの読み方……そういう“教える技術”を現場で知ってる人間が必要なんです。彼らなら拾えますよ、“現場の声”」

 

テムはしばらく黙り、ホログラムに第4小隊の戦歴とパーソナルデータを表示させた。

画面に浮かび上がるバニングの履歴とモンシアの成績変化に、彼は小さく唸る。

 

「モンシアは……以前は評価が難しかったが、アムロとの模擬戦以降、変化が見られる。バニングの下での再起も評価に値するな」

 

アムロは静かに頷いた。

 

「ネモR型はただ速いだけじゃない。反応性が上がった分、繊細さも増した。ミスは即、被弾や墜機につながる。現場でそれを経験し、言葉にできる人間――必要です。……彼らなら、伝えられると思います」

 

テムはヤザンに視線を送る。

 

「任せても問題はないと?」

 

「問題があったら俺が叩き直してやる。――連中の癖も、伸びしろも、全部把握してる。任せろよ

 

テムはうなずいた。

 

「わかった。……正式に“第4小隊”を指導教官任務に推薦しよう。ただし、バニングはすでに教官資格と実績がある。残りの3名――モンシア、ベイト、アデルには、まずジャブローで2週間、一般兵への訓練任務に就いてもらう」

 

アムロが目を細める。

 

「……テスト運用ですね」

 

「そうだ。ヤザン、お前とバニングには、その訓練内容と指導方法を添削してもらう。教官としての資質も、同時に育てる」

 

ヤザンがニヤリと笑った。

 

「了解だ。……“不死身”の名に恥じねぇようにな」

 

 

 

ネモR型の再配備が始まり、最初の訓練地として選ばれたのはジャブローだった。気候は安定し、地下施設も充実している。何より、かつて一年戦争で重要拠点だったその場所は、象徴的な意味合いも大きかった。

 

不死身の第4小隊のうち、バニングを除く3人――モンシア、ベイト、アデルが教官役として2週間の派遣任務に就いた。

 

訓練初日から、彼らは熱心に訓練兵に向き合った。だが、内容は決して順風満帆とはいかなかった。

 

「そこだ! 右旋回のタイミングが遅い! 機体の反応速度に意識を追いつかせろ!」

 

「おいお前、整備が雑すぎる! R型は従来機と違って関節系に癖があるんだ!」

 

「教科書通りの動きで戦場は生き残れねぇぞ! 現場感覚を叩き込んでやる!」

 

それぞれが個性全開で訓練に臨むものの、受講者たちはどこか戸惑い気味だった。やる気はある。だが、「伝え方」に統一感がないのだ。

 

二週間の区切りで行われた総括の場、ヤザンとバニングが訓練の記録映像を見ながら添削に乗り出した。

 

ヤザンは腕を組みながら鼻で笑った。

 

「まあ、悪くねぇ。だがな、三人三様すぎる。モンシアは感情で押し通すし、アデルは細かすぎて相手の顔色見てねぇ。ベイトは正確だが距離感が冷たい」

 

バニングも頷いた。

 

「言葉の選び方が雑なんです。兵士たちに伝わっていない。現場経験の豊富さは伝わってるけど、指導経験の差が出たな」

 

その夜、ヤザンはアムロとゼロを呼び、言った。

 

「アムロ、お前はかつてベテラン兵にネモの扱いを的確に教えてたな。だが、訓練兵は違う。相手は“これからの戦い”を知らねえ連中だ。教える内容も、言葉の選び方も変えねぇと伝わらねえぞ」

 

アムロは少し驚いたように目を見開いたが、すぐにうなずいた。

 

「……確かに。機体の性能だけでなく、心の準備も教えなきゃ意味がないか」

 

ヤザンは続いてゼロへ向き直る。

 

「ゼロ、お前には別の役割がある。――元強化人間の代表としてのな」

 

ゼロの表情がわずかに固まる。

 

「代表……ですか」

 

「お前が連邦に受け入れられ、今じゃ現場の希望になりつつある。アルレットと多少状況は違えど、ジオンから逃げてくる強化人間も今後はいるだろう。治療も、再出発も、全ての道がゼロの背中にかかってる」

 

「責任重大だな」

 

ヤザンはにやりと笑った。

 

「だからこそ、背負ってみろよ。お前ならできる。見せてやれ、“強化人間でも人間だ”ってな」

 

ゼロは無言のまま炎を見つめた。だが、その瞳には確かに静かな決意が宿りつつあった。

 

 

 

 

 

 

【南米・密林地帯】

モンシア中尉は汗を拭いながら訓練フィールドのモニターを見つめていた。彼の指示に従い、アジス・アジバがネモR型を駆る。

「アジス、甘い!」モンシアが短く叱る。

「敵が近づく前にカバーを確保しろ。ネモRの機動力は確かだが、油断すると一瞬で狙われるぞ」

アジスはすぐに機体を横に滑らせ、木陰に隠れる。

「その調子だ。だがな、密林の中は一瞬の判断が命取り。見えない敵を常に警戒しろ。背後を忘れるな」

彼の声は厳しいが、そこには信頼が滲んでいた。

実弾演習では、アジスに敵襲を模した模擬攻撃が激しく襲いかかる。

「弾切れだ! リロードは早く! 俺が援護する!」モンシアが支援を叫ぶ。

彼は冷静に状況を把握しながらアジスのミスをフォローし、即座に的確な改善点を指摘していった。

 

 

【オセアニア・沿岸基地】

ベイトは書類を片手にチャック・キースの前に立つ。

「君の操縦は丁寧すぎる。だが、ネモRは細かな振動や挙動の変化を見逃すな。ここが戦闘の勝敗を分けるんだ」

キースは眉をひそめてうなずく。

もう一方の訓練兵、コウ・ウラキを無線で叱咤する。

「コウ、甘い! その程度で敵を止められると思うなよ。もっと自分の機体を使いこなせ!」

実戦を想定した急襲訓練では、コウは敵影を追い詰められず追撃をかわされる。

「見切られてるぞ、もっと速く、もっと大胆に動け! そうしなきゃ一生勝てない」

アデルは鋭く指摘し、戦闘中の無駄な動きを取り除く練習を繰り返させていた。

 

 

【アフリカ・砂漠地帯】

チャップ・アデルが、エマ・シーンの周囲を歩き回る。

「エマ、君の判断は悪くないが、砂塵で視界が悪い時こそ冷静に状況を把握しろ」

「了解です、中尉!」エマは歯を食いしばりながら応える。

砂嵐を想定した視界制限訓練では、機体のセンサーと自分の感覚を頼りに動く必要がある。

エマは何度も視界の遮断に焦りかけたが、アデルは落ち着いた口調で冷静に指示を与え続けた。

「焦るな。ネモRはこんな環境でも高い安定性を持ってる。慌てずに状況を整理しろ」

エマは何度も挑戦を繰り返し、ようやく砂嵐の中で敵陣を切り抜けられるようになった。

 

 

 

 

 

ジャブロー 模擬戦訓練場

 

地響きのような駆動音が訓練区画に鳴り響く。

アレックスのフレームが鋭く跳ね、照準を滑らせて目標に突き刺さる。

 

アムロはモーションを終えると、静かにモニターを見つめながらつぶやいた。

 

「……モンシアを倒すのに、5分かかった。俺の読みも、間合いも、詰めが甘かったってことか」

 

訓練データの再生では、モンシアが決して逃げるだけでなく、時間を稼ぎつつカウンターを狙っていた様子が映っていた。

そのモンシアの奮闘に敬意を払うように、アムロは表情を引き締める。

 

「もっと速く、もっと確実に。命の取り合いなら5分もあれば充分死ぬ」

 

背後でその様子を見ていた教官任務の移動でジャブローで一時滞在していたヤザンが、ふっと煙草の火をもみ消しながら内心で呟いた。

 

(……バイオセンサーが馴染んだ今のアレックスじゃあ、モンシアが3分持つかどうかも怪しいな。あいつ、帰ってきてこの映像見たら、ちょっと凹むかもな)

 

ゼロが隣で腕を組みながら言葉を漏らす。

 

「すごいですね……アムロさん。ニュータイプ能力がなくても、強い人ってヤザンさんだけじゃなかったんですね。僕も、アレックスの力に頼らずにもっと使いこなさないと」

 

アムロは軽く振り返り、ゼロに視線を向けた。

 

「アレックスの力も大事だが、それを使う“人間”が鍛えられていなければ意味がない。お前だってそうだ、ゼロ。バイオセンサーは、パイロットの意志に応えるんだ」

 

ゼロは小さく頷き、拳を握る。

 

「はい。もっと、上に行きます」

 

ヤザンは無言のままそのやり取りを見つめながら、頭の中でモンシアの顔を思い浮かべた。

 

(……お前の5分は、アムロをここまで動かした。悪くない教官仕事だよ、モンシア)

 

 

 

 

 




☆9評価ありがとうございます 大希さん グルッペン閣下さん

☆8評価ありがとうございます RayStingerさん

☆7評価ありがとうございます ナイトーテンマさん
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