ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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旧姓が何かわからないシイコさん。ならムラサメでも良いよね?


今日18時に次話予約投稿してありますのでそちらも良ければどうぞ。


幕間: シイコ1

戦艦の通路を、足音が二つ、軽やかに響いていた。軽キャノンのパイロット、シイコ・ムラサメと、その相棒であり通称マブ。今日も暗礁宙域で行われた迎撃戦で、彼女たちはゲルググを7機も撃破するという戦果を上げていた。

 

「今日の録画、映像処理に回してある。あなたのサポートがなきゃたぶん3機目で落とされてたわよ」

 

「言ってくれるじゃん、隊長。でも俺も言っとく。あの回避ルート選んだの、隊長だからな。こっちは死にそうだった」

 

そんな軽口を交わしながら、2人が映像解析室へ向かう途中、曲がり角の先で話し声が聞こえた。若い整備兵や訓練兵らしき数人が、廊下の壁に寄りかかって談笑している。

 

「シイコ隊長、今日もすげえ戦果出してたよな……軽キャノンでゲルググ7機って、マジ伝説級だよ」

 

「だなー。シミュでもあのマブ戦再現して挑んでみたけど、全然勝てねえの。こっちの弾、当たらないんだよ」

 

「でもさ、アムロには勝てないんじゃね? ジャブローでテストパイロットやってた“アムロ・レイ”。ニュータイプって話もあるし、何か……壁、感じない? あの人には」

 

「確かに。撃とうとした瞬間に避けられたり、こっちが回避した先にビームが飛んでたり……あれ、反則だよ。あれが“ニュータイプ”ってやつか?」

 

シイコは足を止めて、その声を聞いたまま眉をひそめた。

 

「……ニュータイプ、ね」

 

マブが彼女の表情を見て、気を遣うように言った。

 

「また、そういう話にあたったな。大丈夫か?」

 

「平気。慣れてる。……ただ、くだらないわよね。誰かの妄想か、プロパガンダに過ぎない。父さんなんか、未だに“ニュータイプに殺される”とか言って、強化人間の研究なんかしてる。……私のためだって、笑わせる」

 

その声には明確な怒りがこもっていた。

 

彼女は思い出していた。かつて軍の医療実験棟の裏手で、孤児から拾われた実験体の少女と会った日のことを。

 

彼女は静かに、そして儚げに笑っていた。

 

「ニュータイプって……本当にいたら、嬉しいと思う。誰かと心が通じ合うって、いいことだよ」

 

だがシイコは、それを“逃避”と受け取った。彼女のように実験台にされた存在が「そういう希望」にすがるしかなかったのだと。

 

 

 

 

 

雑談を続ける部下たちの部屋のテレビモニターには、他と明らかに動きの違う軽キャノンが映っていた。映像は訓練中のものらしく、滑らかで無駄のない動作に誰もが目を引かれた。

 

「あれがアムロ・レイ……? 連邦のニュータイプって噂の……」

 

自然とつぶやきが漏れる。だが、その名前を聞いたシイコの表情は冴えなかった。

 

彼女にとって「自分より強いパイロット」とは、せいぜいヤザン・ゲーブルくらいのものだった。彼とはマブ戦(模擬戦)で幾度か手合わせがあり、2対1であれば勝機もあると判断していた。

 

だが、アムロ・レイは違った。実戦経験もほとんどないはずのテストパイロット。それなのに──自分より上だと、周囲は口をそろえる。加えて「ニュータイプ」だという根拠の薄い噂までついて回る。

 

(……まだ顔も見てないのに)

 

そう思いながらも、モニターの中の軽やかな機体の挙動は、彼女の苛立ちを煽っていた。

 

最初に感じたアムロへの印象はあまり良いものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブロー、地球連邦軍基地内 午後

 

白い制服に身を包んだ中尉、シイコ・ムラサメは、コンクリートの廊下を早足で進んでいた。戦争は終わったはずだ。だが、彼女の胸に焼きついた憎しみは、時間とともに薄れるどころか、濃くなっていた。

 

「戦争は終わった。プロパガンダに過ぎないはずの“ニュータイプ”によって、私のマブは殺された」

 

心の中で何度も繰り返す言葉。そしてその“ニュータイプ”とは、敵の象徴だった赤い彗星。

ゼクノヴァの混乱と共に消息を絶った“赤いガンダム”とその搭乗者――憎しみの矛先は今や虚無に消えかけていた。

 

そんな中、すれ違ったパイロット姿の若い兵士たちが語る声が、彼女の足を止める。

 

「やっぱアムロすげーよ。あの人の言うこと聞いてネモ使ってみたら、今までと全然違うんだわ」

「だよな〜。“アレックスなら出来る”とか言ってた自分が恥ずかしくなるわ。……ネモ、全然使いこなせてなかったんだな、俺たち」

「アムロはまだシミュレーターで鍛錬中だろ。俺たちも足引っ張らないようにしないとな」

 

その名前に、シイコの目が鋭く細まる。

 

「――あなた達、待って」

 

兵士たちはぎょっとして振り返った。目の前の彼女の階級章に中尉の印。冷たい声と険しい目つき。

 

「アムロ・レイがいるシミュレーターはどこ?」

 

「は、はいっ!?……えっと、その、シミュレーターB-07室です! たしか、そっちの区画の!」

 

「……そう。ありがとう」

 

そのまま彼女は踵を返して歩き去る。部屋番号もろくに確認せずに答えてしまった若い兵士たちは、不安げに顔を見合わせた。

 

「やばくね? あの人って、戦争中にマブが“赤い彗星”に殺されたんじゃ……?」

「なんでだよ? アムロ関係ないじゃん」

「バカ! シイコ・ムラサメって言ったら、“ムラサメ研究所”の所長の娘で、親父大嫌いで、ニュータイプも強化人間も大嫌いって噂じゃん! なんでわざわざアムロのところ行くんだよ……」

 

兵士たちの会話は後ろに遠ざかり、やがて基地の騒がしさにかき消されていった。だがシイコの耳には、アムロの名だけがずっと響いていた。

 

“ニュータイプ”――それが人を殺し、戦争を動かすというなら、その真実をこの目で確かめてやる。

 

そして彼女は、アムロ・レイという名前に、その全てを問う覚悟で、扉の向こうへと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュミレーター内のモニターが赤く点滅し、アムロ・レイはアレックスの仮想機体を操りながら、高速機動からの射撃訓練を繰り返していた。追加装甲を排除し、バイオセンサーに反応する微細な挙動に集中するその姿は、かつての“白い悪魔”の名を彷彿とさせるものだった。

 

「……まだ足りない。もっと早く反応できるはずだ」

 

焦燥ではない。だが、執念にも似た探求心が、彼を動かしていた。先日の模擬戦、モンシア相手に時間をかけすぎたことが、今なお彼の中に小さな棘となって残っていた。

 

その時だった。

 

「アムロ!アムロ!もう予定の昼食の時間ダゾ!」

 

システムの外で、甲高い声が響いた。丸くて緑の小さなロボット――ハロが、訓練区画のドアの前で跳ねていた。

 

「もうそんな時間か……」とアムロは微かに息を吐いて、操作レバーを戻し、シュミレーターを終了させる。汗を拭いながらドアに向かうと、タイミングを測ったかのように自動扉が開き、そこに一人の女性が立っていた。

 

色白で引き締まった体躯。長めの黒髪を後ろに束ね、眼差しは鋭いながらもどこか冷静さを湛えている。軍服の階級章と、その雰囲気からただ者でないことが即座に伝わってきた。

 

「あなたがアムロ・レイ中尉よね?」

 

「はい、そうですが。あなたは?」

 

「私はシイコ・ムラサメ。あなたと同じMSパイロットよ」

 

一拍置いて、アムロの目に見覚えが灯った。

 

「シイコ・ムラサメさん……!撃墜ランキングで、ヤザンさんに次ぐ第2位の!」

 

「大したことないわ」シイコはそっけなく答える。「パイロット達の噂じゃ、あなたが前線に出てなかったから、私は“お飾りの2位”になれただけだって。……そんなの気にしてないけど」

 

アムロは少し困ったように笑った。「そんなことはないと思いますけど。現場に出て結果を出すのは、それだけで立派なことです」

 

「……外野の声はいいの。それより、今から昼食?ご一緒してもいい?」

 

少し意外そうな顔をして、アムロは頷いた。「もちろん。……どうぞ」

 

シイコは軽く微笑んで、アムロの隣に並んだ。

 

互いの距離はまだ近くも遠くもない。だが、確かに一歩、何かが動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブロー基地内の食堂。午後の訓練が終わり、ほとんどの人が昼食を食べ終え、まばらな時間帯。

 

シイコ・ムラサメが彼の向かいに腰を下ろした。彼女の表情は柔らかいが、どこか気を張っているようにも見える。

 

アムロが何気なく口を開いた。

 

「ムラサメ中尉は――」

 

その瞬間、シイコのスプーンが小さく音を立ててトレイにぶつかった。

 

「――“ムラサメ中尉”は、やめて。私のことは、シイコさんかシイコ中尉って呼んで」

 

その語気の強さに、アムロは一瞬言葉を失う。まるでその名前に何か鋭利な刃物のような感情が貼りついているかのようだった。

 

「……はい? わ、分かりました」

 

(ムラサメ中尉って言った途端、急に強い感情が……。呼ばれたくないのか? 何かがある?)

 

気まずさを紛らわすように、シイコがアムロの隣に置かれていた機体――ハロに目を向けた。

 

「そのハロ。市販のとは、ずいぶん違うのね。手足が出てくるなんて……しかも、さっき“体温低下を感知しました”って。あんな機能、市販品にはないはずよね?」

 

「まあ……はい」

 

アムロは少し頬をかきながら、目を伏せて苦笑する。

 

「あれは僕が改造したんです。もともとの初代ハロは、幼馴染の女の子にあげたので……それを聞いた父が、改めて僕に渡してきた機体で」

 

シイコは眉を上げる。

 

「ハロを? わざわざ?」

 

「ええ、まあ。僕がシミュレーターに夢中で食事を抜いてるのがバレたみたいで……そのハロには健康管理機能が追加されてました」

 

「へぇ。親子で……仲良いのね」

 

その言葉に、アムロはスプーンを動かす手を一瞬止めた。

 

「……どうなんでしょう。父なりに気を遣ってくれてるんだとは思いますけど」

 

シイコはそれ以上何も言わず、ただ静かにスープを啜った。ふと、彼女の視線が遠くを見つめているように見えたのは、アムロの気のせいだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

彼女はじっとこちらを見ていた。まるで観察するように、あるいは、何かを探しているように。

 

(この人は……なんだろう。何かを憎んでいるような……虚無を感じる。兵士によくいる“復讐をやり遂げた”って感じでもないし、諦めたとは少し違う)

 

彼女が口を開いた。

 

「あなたの噂は前線にも流れてきてたわ。テストパイロットだけなのに別格の強さ。凡人には壁さえ感じるって」

 

アムロは肩をすくめ、苦笑気味に返した。

 

「そりゃあ、多少はできるつもりですが」

 

シイコは一歩近づいて、続ける。

 

「そして、何より――連邦最強のニュータイプって噂。あれ、ホント?」

 

「ニュータイプがジオン・ズム・ダイクンの言うようなものかは知らない。でも、先読みができて、勘がいいとは思ってます。……僕が戦うことで、同じような人たちの希望になれたらって、そうも思ってる」

 

一瞬だけシイコの瞳が揺れた。が、すぐに無表情に戻り、吐き捨てるように言った。

 

「ふぅん。そう」

 

(“ニュータイプ”って言葉に、強い……負の感情? 彼女はニュータイプを、憎んでる?)

 

沈黙の後、シイコはぽつりと呟いた。

 

「わたし、ニュータイプなんて信じてないの。あんなの、ジオンのプロパガンダに過ぎない。そんなものに怯えて、強化人間を作ってた父も――嫌い」

 

アムロは言葉を失いかけたが、静かに彼女を見返す。

 

その瞳には怒りでも悲しみでもなく、ただ、壊れそうな透明な拒絶が宿っていた。

 

アムロは口を開きかけて、しかし、言葉を飲み込んだ。

 

彼女が本当に言いたいことは、まだ、別の場所にある。

 

それが分かるだけの「勘」が、今の彼にはあった。

 




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