ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ドゥー・ムラサメ5 ゴップ達とアムロ、シイコ、ゼロとの通信

通達とすれ違い

 

地球・ジオン残党掃討作戦拠点

 

周囲は通信機器の低い駆動音と、断続的に届く戦況報告でざわついていたが、アムロとシイコのいる一角は奇妙な静けさに包まれていた。

 

その時、コンソールの通知ランプが点灯した。

 

「……父さんたちから通信?」

 

アムロがディスプレイに目を向けると、「テム・レイより通達:通信応答依頼」という文字列が浮かび上がっていた。

 

「来たか」

 

アムロは口の端を引き締める。

少し前、ゴップ派の上層部――テム・レイやブレックス、ゴップらから内々に知らされていたのだ。

 

「ドゥー・ムラサメという少女が、模擬戦の対戦相手として君を希望するかもしれない」

 

強化人間。その名は、あの“ムラサメ研究所”の記憶と不可分に結びついている。

アムロはそれを、彼女――シイコ・ムラサメの前では口にしたくないと思っていた。

 

だが――

 

「……ドゥー・ムラサメ、ねぇ」

 

隣でメンテナンス報告に目を通していたシイコが、何気ない風を装いながら呟いた。

 

アムロの心臓が一瞬跳ねた。

 

(しまった……! シイコさんがいる時にムラサメ博士周りの話題は出したくなかったのに……)

 

気まずさを覚えたアムロが何かを言おうとする前に、シイコが淡く笑って口を開いた。

 

「別に気にしなくていいよ。ドゥー・ムラサメ。あの研究所の“所長さん”の被害者でしょ?」

 

“所長さん”――

その言い方に、どこか突き放すような響きがあった。

 

アムロは苦い表情で首を横に振る。

 

「……いや、あの娘に関してはムラサメ博士だけが悪いわけじゃない。

あの研究所にいた全員――連邦全体の責任なんだ」

 

だが、シイコはそれには応じず、今度は少し皮肉めいた調子で言った。

 

「で、その尻拭いをアムロがするの? 模擬戦で、倒すんだっけ?」

 

アムロは言葉に詰まった。

だが、逃げるような態度は取りたくなかった。

 

「……親父たちの想定通りに行ったら、可能性としては、そうなりますけど」

 

静かに、けれどはっきりと答えた。

 

コンソールの通信ボタンが淡く点滅している。

向こうには、テム・レイと、その後ろに立つ彼らの“意図”がある。

 

そして、それを受ける彼の言葉の先には――

いつか、“あの少女”が立つことになると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

通信の向こうで

 

連邦本部・ゴップの執務室と、地球戦線を結ぶ長距離通信が確立された。

 

二つのホログラムが映し出される。一つ目はゼロムラサメ、2つ目はアムロ・レイの顔。そして彼の後方には、腕を組んだまま控える少女――シイコ・ムラサメの姿もあった。

 

一方、ゴップ側の部屋ではブレックス、ムラサメ博士、テム・レイ、そしてヤザンが揃っていた。

通信が繋がった直後、一瞬だけ視線が交錯する。

 

ムラサメ博士は目を伏せ、うつむきがちだった。

向こうにシイコがいる――それが、彼の口をさらに重くしていた。

 

本来なら、この通信で「ドゥー・ムラサメ」に関する説明を音頭取りとして話すべきはムラサメ博士だった。

だが、その様子では明らかに無理だと察したブレックスが、緩やかに口を開いた。

 

「……アムロ、ゼロ。模擬戦の件についてだ」

 

ブレックスは簡潔に、バスク・オムが提案した模擬戦の意図、そしてそこに送り出される候補がドゥー・ムラサメであることを説明していった。

 

そして――

 

「……そして、彼女が対戦相手に希望したのは――アムロ・レイ君ではなく、ゼロ・ムラサメ君だ」

 

部屋の空気が一変した。

 

「え……?」

 

アムロが驚きに目を見開いた。

その隣で、シイコも少しだけ視線を鋭くした。

 

ゼロもまた、明らかに動揺していた。

 

(……アムロさんじゃなく、僕?)

 

ゼロは強く息を吐いた。そして、ほんの一瞬だけ逡巡した後――口を開いた。

 

「――僕が、やります!」

 

その言葉に、通信の向こう、アムロが驚いたように彼を見る。

 

「ゼロ……」

 

ゼロは続けた。

 

「……僕も、最初はアムロさんがやるべきだと思っていました。

ドゥー・ムラサメが“強化人間”なら、戦闘中に感応が起きる可能性がある。

そうなっても揺るがずに勝てるのは、ニュータイプであるアムロさんしかいない。だから、僕は黙っていた」

 

一度拳を握りしめ、少し声が震える。

 

「でも――それがずっと、喉に骨が刺さったみたいに引っかかってたんです」

 

「……?」

 

ブレックスが視線を向ける。

 

「相手が強化人間なら、同じ“強化人間”である僕が戦うべきなんじゃないかって。

それが、強化人間が“人間として認められる”原因になった僕の責任なんじゃないかって。」

 

ゼロの目に、決意の光が宿る。

 

「でも……ドゥー本人が、僕を指名してきたんです。

なら、もう我慢する必要はない。逃げる理由も、ない」

 

沈黙が落ちる中、ブレックスが眉をひそめる。

 

「……だがな、ゼロ。君の腕なら勝機はある。

だが、問題は感応だ。強化人間同士が戦うとき、それがどう出るかは誰にも予測できない。

制御を失えば、誰かが壊れることだって――」

 

「それでもです!」

 

ゼロは遮るように言った。

 

「バスク・オムなら、絶対にアムロ・レイを倒すことで自分の派閥を正当化し、“連邦の中心”になりたかったはずです。

それでも僕を指名してきた。――それは、ドゥー・ムラサメが“声に出せなかった叫び”を、何らかの形で伝えたってことです」

 

「だから、僕は……その叫びに応えたいんです」

 

その言葉に、室内の全員が静かになった。

 

テム・レイが腕を組み、じっとゼロの顔を見つめていた。

ムラサメ博士は、わずかに俯きながら、唇を噛み締めていた。

 

そしてゴップが、ゆっくりと椅子を軋ませて立ち上がる。

 

「……わかった。正式な決定はまだだが、君の意志は確かに受け取った。

我々はそれを“人間の声”として扱う。判断の参考とさせてもらおう」

 

ゼロは短く、しかし強く頷いた。

 

ホログラムは、互いの覚悟を映したまま、徐々に薄れていく。

 

 

 

 

 

 

 

ゴップ達との通信が終わった後の一室。

機材の音もほとんど聞こえない、静かな個人ブース。

そこに、アムロとゼロの2人の通信のみが残っていた。

 

アムロがふと視線を外し、わずかに肩を落とした。

 

「……ゼロ。お前があの場で即答してくれて、頼もしかったよ」

 

「……はい」

 

「でもな」

 

アムロは目を細めて、ゼロの顔をまっすぐに見つめる。

 

「一人で背負うことはないんだぞ。ドゥー・ムラサメだけじゃない。強化人間の問題は、俺たち全員で背負うべき問題だ。

……彼ら、彼女たちが“人間として扱われる”よう働きかけたのは、俺とヤザンさんで――それを受け入れてくれたのが、ゴップさん達だ。」

 

ゼロは、強く唇を噛み、そして穏やかに頷いた。

 

「……はい。

本当に……それは、嬉しかったです。

俺一人じゃ、何もできなかった。もしかしたら、あのまま脱走して、ジオンに亡命してたかもしれない。

あの頃は、どこにも居場所がなかった」

 

ゼロは両手を膝の上で握りしめ、ゆっくり言葉を続けた。

 

「でも……それでも、俺が背負いたいんです。

ヤザンさんが言ってくれたんです――『お前が強化人間の代表だ』って。

それが、嬉しくて……俺にしかできないことがあるなら、って思ったんです」

 

アムロは何も言わず、ただ黙って頷いた。

 

ゼロは続ける。

 

「……テムレイ博士も、あのアレックスを“象徴”として調整した。

ニュータイプの象徴としてアムロさん。

オールドタイプの象徴としてヤザンさん。

そして、強化人間の象徴として俺。」

 

少しだけ、ゼロの表情が曇る。

 

「その象徴として――俺には責任がある。

“連邦は、強化人間を道具として扱わない”。

でも、ドゥー・ムラサメは……自分の意思で、治療を拒否してる。

たとえバスクに唆されたとしても、それは事実で……俺は、それがなぜなのかを知りたいんです」

 

一拍の沈黙のあと、アムロが静かに口を開いた。

 

「――なら、お前が勝たなきゃいけない」

 

ゼロが目を上げる。

 

アムロの声は、淡々としていたが、その奥に硬い決意が宿っていた。

 

「この戦いで“負けても頑張ったね”なんて、誰も言ってくれない。

負けても世界は変わらない。だが、バスクの勢いは確実に増す。それは……許しちゃいけない」

 

ゼロの表情が引き締まる。

 

「――負けませんよ。

……サイコガンダムに乗ったドゥーよりもっと怖い人に、模擬戦で毎度ボコボコにされてますから」

 

アムロは一瞬きょとんとした後、苦笑した。

 

「それは……俺のことか?」

 

ゼロは笑って頷いた。

 

「はい、もちろんです」

 

そのやりとりを、少し離れた壁際で見ていたシイコが、ふっと息をついて口を開いた。

 

「……最初は、思ってたんだよ」

 

二人が彼女に視線を向ける。

 

「あの研究所の“所長さん”の被害者に、被害者を救わせるのかな、って」

 

アムロもゼロも、少しだけ身を固くする。

 

だが、シイコは続けた。

 

「でも違うんだね。君は、“可哀想な被害者”じゃない。

……この分だと、ドゥーって娘も、そうかもしれない」

 

その言葉の最後に、わずかに震えた色があった。

 

 

――「恨んでないの?」。

そう聞いた彼女の声には、“娘である自分もまたそうなのかもしれない”という想いが、わずかに滲んでいた。

 

 

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