ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ドゥー・ムラサメ6 ゼロの当時の思いとシイコの変化

それでも、歩く者

 

「――恨んでないの?」

 

シイコ・ムラサメが投げた問いは、乾いた空気に沈んだまま、答えを待っていた。

 

その声には、“娘である自分もまたそうなのかもしれない”という、わずかな痛みが滲んでいた。

 

ゼロは、ほんの少し視線を落とし、それからゆっくりと顔を上げた。

 

「……最初は、恨んでいました」

 

静かに、だが明確に語り出す。

 

「コロニーを落としたジオンへの憎しみは……もちろん大きかった。

でも、自分を実験体にしたムラサメ博士を、恨まないわけがなかった」

 

その目に、微かな揺らぎがあった。

 

「でも……アムロさんやヤザンさんと出会って、少しずつ、世界が広がったんです。

彼らと模擬戦を繰り返して、言葉を交わして、自分を“人間”として見てくれる人たちがいると知って……」

 

ゼロの言葉は、決して博士を許したいから言っているのではない。

それでも、自分が得た「人としての扱い」が、かつて自分を作った者にも、ある種の「心」があったのではと信じたくなるような――そんな変化だった。

 

「……何より、ムラサメ博士には“苦しみ”がありました。

僕たちを実験体として扱いながらも、ドゥーのような、明らかに施術に耐えられなそうな子供には手を出せなかった。

……そういう“良識”が、彼には残っていたんです」

 

その言葉に、シイコの表情が一変する。目が鋭くなり、少しだけ声に冷気が混ざった。

 

「人を強化人間にする碌でなしの“気持ち”が、理解できるって言うの?」

 

ゼロはそれに、正面から頷いて答えた。

 

「はい。理解できます」

 

その一言に、空気がまた変わった。

 

「……だって、“あの頃の連邦には、アムロさんがいなかった”んですよ」

 

その名に、アムロがわずかに目を見開く。

 

「……?」

 

ゼロは静かに、しかし力を込めて言葉を続ける。

 

「陰で“強いテストパイロット”がいるって囁かれてたけど、

ジオンのトップエースさえ瞬殺できるような“希望”があるなんて、誰も知らなかった。

見えるところに、いなかったんです。アムロ・レイは」

 

「……」

 

「それに、一年戦争中、テムレイさんも開発の中心にはいなかった。

現場の主力は――軽キャノンのカスタム機。今のネモに比べたら、とてもじゃないけど“勝てる気がしない”機体でした」

 

シイコは何かを言いかけて、しかし言葉が続かない。

 

「それは……」

 

「味方にアムロさんがいなくて、

MSの設計思想にテムレイさんが関わってなくて、

与えられたのは軽キャノンのカスタム――

それで赤い彗星に勝てるって思える人間がいたら、俺も会ってみたいですよ」

 

場が静まり返る。

 

ゼロの語りには怒りはなく、ただ淡々とした現実があった。

その現実に生きた者たちが何を選び、何を信じて、何を失っていったのか――

ゼロは、それを今の視点からようやく理解しようとしていた。

 

アムロは、それを黙って聞いていた。

シイコの隣で、目を伏せながら、胸の内でそっと呟いた。

 

(……聞けば聞くほど、一年戦争中の連邦の状況は酷すぎるな)

 

それでも、その状況の中で希望を託され、戦い、そして今に繋がる人々がいた。

 

それが――今、この場に立っているゼロ・ムラサメなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

赦しではなく、歩み

 

少しだけ間が空いた。ゼロはその沈黙を埋めるように、言葉を続けた。

 

「……そんな、連邦の最悪な状況の中で――

ムラサメ博士は、“自分の娘”がパイロットとして、敵のニュータイプにいつ殺されるかわからない立場にいたんです」

 

その声には、怒りではなく、静かな理解があった。

 

「上層部からは、“ジオンのニュータイプに勝てる兵を用意しろ”と迫られ、

でも同時に、“テムレイには頼るな”とまで言われていた。

……そんな中で、放っておいたら死んでた孤児たちを“素材”として使う――それが許されるとは思わないけど、仕方なかった面もあると思いますよ」

 

彼はアムロとシイコをまっすぐに見て言った。

 

「――僕たちの気持ちは別にして、です」

 

一瞬、空気がぴたりと止まったように感じられた。

 

それでもゼロは続ける。

 

「だから、今は恨んでいません。

……あの人、バイオセンサーの調整やその次の開発でもう本当にめちゃくちゃ忙しいのに、

強化人間の治療には、今も研究職員の中で一番動いてるんです」

 

アムロが小さく驚いたように眉を上げる。

 

ゼロは照れくさそうに視線を泳がせ、それから――ちら、とアムロとシイコに目をやった。

 

「それに……まあ」

 

少し照れたように笑い、言葉を濁す。

 

「……尊敬できる仲間と、そのお相手の父親を、ずっと恨み続けるのも……

さすがにどうかと思うんで」

 

その瞬間、シイコの顔がぱっと赤くなった。

 

「……」

 

彼女は口を真一文字に結び、ぎゅっと腕を組んだまま、しばらくゼロの方を見ずにいたが――

やがて、ぽつりと呟いた。

 

「……理解はしたよ」

 

そして、続けた。

 

「でも、納得なんてしてない。

――“あの研究所の“医者さん”は、死ぬまで……いや、死んだ後も、

自分が作った“可哀想な被害者”も、“可哀想じゃない被害者”も、

両方のために働き続ければいいの」

 

その言葉には、痛烈な怒りと、それに隠れた――情のようなものが混ざっていた。

 

アムロは、シイコのその言葉を静かに聞きながら、ふと気づいた。

 

(……“研究所の所長さん”じゃないんだ)

 

彼女が、そう呼んでいた父親のことを。

今――「研究所の“医者さん”」と呼んだ。

 

それはまだ、赦しではない。

けれど――彼女の心が、ほんの少し揺れた証だった。

 

アムロは、心の奥に小さな灯がともるのを感じた。

 

(……ニュータイプじゃなくても、わかるさ。

あれは、きっと“変化”ってやつなんだ)

 

彼は、ふっと微笑みを浮かべた。

 

 

 

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