ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ドゥー・ムラサメ7 ドゥー、模擬戦に向けて

出撃前夜、静かな影

 

模擬戦に備え、ジャブローの地下整備ブロックでは、サイコガンダムのチェックが夜を徹して進められていた。

巨大なフレームの中で、感応装置と神経接続の調整が行われ、最終データが読み込まれていく。

 

その通路の脇、簡易な待機スペースで、ドゥー・ムラサメはぼんやりと整備室の光を眺めていた。

やや離れた壁に凭れていたフォウ・ムラサメが、軽く声をかける。

 

「……相手、ゼロに決まったんだってね?」

 

「うん」

 

ドゥーは短く答えると、視線を落とす。

 

「向こうからすれば、“最強”のアムロ・レイを使いたかったはずなのに。……なんでかな?」

 

その問いに、フォウは小さく鼻を鳴らすように笑った。

 

「そりゃあ“アピール”でしょ。

向こうは“強化人間を道具として扱わない”って言ってる陣営だもの。

あんたが同じ強化人間であるゼロ・ムラサメを指名したら――ニュータイプのアムロを出すなんて、さすがに躊躇するでしょ?」

 

ドゥーは「なるほど」とつぶやくが、すぐに首を傾げた。

 

「……それなら、ヤザンって人が来たんじゃない? あの人なら“強化人間じゃない”し」

 

フォウは壁から背を離し、足を組み直した。

 

「無理だよ。ヤザンのアレックス、半壊中。

アプサラスだっけ? 地上のジオン残党が使ってきた“空飛ぶモビルアーマー”。

メガ粒子砲をマルチロックで撃ってくる奴――あれを一対一で落としたのが、あのヤザンって男」

 

ドゥーが目を見開く。

 

「一対一で……?」

 

「うん、しかも近接でビームサーベルで叩き斬ったらしいよ。

おまけに機体は半壊でも本人はピンピンしてるんだから、手に負えない」

 

フォウは天井を見上げ、少しだけ息を吐いた。

 

「……アムロ・レイはわかるの。ニュータイプなら、強くて当然。

あたしたちは、ああなりたくて“作られてる”んだから。

ゼロ・ムラサメも理解できる。ムラサメ研究所の最高傑作。

あの彼が、人間としての扱いを受けて、人としての強さを身につけた。……納得できる」

 

彼女の目は、わずかに沈んでいた。

 

「でもさ。ヤザンは?

ニュータイプでも、強化人間でもない。

……なのに、あの強さ。

なんなの、あの人は」

 

それは、心からの疑問だった。

羨望でもあり、畏怖でもあった。

 

ドゥーはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「でも、怖いと思うからこそ……僕は、戦いたいと思えるんだ」

 

フォウは、やや驚いたようにドゥーを見た。

 

「ゼロと?」

 

「うん。彼は“人間”として強くなった。

なら、僕は“パーツ”として、それを超える。

……そのために、ここまで来たから」

 

フォウは目を細め、少しだけ笑った。

 

「そっか……じゃあ、あなたはあなたなりの“正解”を探しにいくのね。

だったら、止めはしないよ。

……ただし、死なないでよ。あんたに死なれたら、私たちまで無能だと思われる」

 

ドゥーは、ふっと笑った。

仄かに、でも確かな意思がその瞳の奥に宿っていた。

 

「負けないよ。僕は“真のニュータイプ”になるんだから」

 

 

 

 

 

「……“真のニュータイプ”か……」

 

フォウ・ムラサメは、小さくつぶやくように言った。

 

ドゥーはその声に気づかず、ただ黙々と整備の進むサイコガンダムを見つめている。

まるで、その巨体と心をひとつにする準備を、心の奥で重ねているようだった。

 

(――この娘は、気づいてないのかな)

 

フォウは、目を伏せる。

 

(“真のニュータイプ”を目指すなら、何を持ってしても――“アムロ・レイ”と戦うべきだってことに)

 

ニュータイプ。

連邦の象徴。

すべての強化人間が「そこに届くため」に作られた存在。

 

(あいつに勝てれば、それだけでいい。余計な過程なんていらない。

それだけで、自分が“真のニュータイプ”だって証明できるのに――)

 

だが、目の前の白い少女の目には――その象徴すら映っていない。

 

(……この娘の目に映ってるのは、アムロでもヤザンでもない。

“ゼロ・ムラサメ”だけだ)

 

それは、フォウ自身が思い出して苦くなるほどの、まっすぐな視線だった。

 

(……私が焚きつけた面もある。研究所の連中がゼロを超えろって言ってるのもある。

でも――あのとき、私が“ゼロと戦えば”って言わなかったら、

この娘は“アムロと戦いたい”って言ってたのかな?)

 

フォウは、そんな“もしも”を考えてみたが――それもすぐに打ち消す。

 

(いや、無理かもね。

今のこの娘には、“アムロ・レイ”じゃない。

“ゼロ・ムラサメ”こそが、自分にとっての目指すべき「山」なんだ)

 

そして――フォウは、静かに目を閉じた。

 

(その意味を、この娘は模擬戦の中で気づく。

気づいて、それでも進むなら、それでいい)

 

もう、あたしにできることなんて、残ってない。

 

せめて――

 

(せいぜい、応援してやることぐらいだよ。

あたしの失敗も、迷いも、全部あんたに託すよ。

……せめて、壊れずに帰ってきて)

 

フォウは、隣のドゥーの肩をそっと叩いた。

 

「行ってきなよ、“真のニュータイプ”さん。

――勝ち負けより、帰ってくることの方が大事なんだからね」

 

ドゥーはそれに、ゆっくりと頷いた。

 

「……うん。ありがとう、フォウ」

 

二人の視線が交わったとき――

そこには、まだ答えを知らない者と、答えを探し疲れた者。

そんな二人だけに通じる、微かな共感の光があった。

 

模擬戦の時は、すぐそこまで来ている。

 

 

 

 

 

模擬戦、開戦前

 

重たいハッチが、地下基地の発艦ゲートから開かれていく。

 

格納庫の奥。

黒く、異形の巨体――サイコガンダムのコックピットへ、ドゥー・ムラサメが静かに歩みを進める。

 

その背後から、声がかかった。

 

「――行ってらっしゃい、“真のニュータイプさん”」

 

フォウの声だった。

肩越しに振り返ると、彼女は壁にもたれながら、手を軽く振っていた。

 

「帰ってくるまでが模擬戦なんだからね。絶対よ。」

 

ドゥーは、わずかに頷く。

その目は、ただまっすぐ前だけを見据えていた。

 

(――ゼロ・ムラサメ)

 

頭の中に浮かぶのは、あの男の戦闘記録。

機体を“乗りこなす”のではなく、“一体化”しているような動き。

強化人間であることに縛られず、“人”としてアムロやヤザンと渡り合いながら――進化し続ける姿。

 

(どうして……)

 

(僕じゃなくて、“あなただった”の?)

 

かつて。

ドゥーに施されるはずだった実験は、中止になった。

「必要ない」「今後は治療を優先する方針に変わった」

そう研究者たちは言った。

 

だが、それは――

 

(ゼロが“人間として成果を上げた”せいだった)

 

自分と同じ強化人間。

なのに彼は「人間扱い」を勝ち取り、模擬戦の中でさらに強くなっていった。

 

(――僕は……)

 

(あなたに、すべてを奪われた気がしていた)

 

そして、同時に――

 

(あなたのようになりたかった)

 

そんな自分の矛盾に、ドゥーはまだ気づいていなかった。

 

 

 

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