ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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前日譚:サイド7の志願兵達 ネモとアレックス

─── ジャブロー・新型モビルスーツ訓練場

 

終戦を迎えてしばらく。

かつてサイド7から避難してきた志願兵たちも、今はすっかり訓練に明け暮れる日々となっていた。

 

そんな中、ついに正式に配備が始まったのが――ネモだった。

 

カイ、ハヤト、リュウの三人は、訓練場に並んだ新型機を前に、息を呑んだ。

 

「……これが、ネモ……。」

ハヤトが目を見張る。

 

細身ながら洗練されたシルエット、関節部の滑らかな動作、そして標準装備のビームライフル。

 

軽キャノンで苦しんだ日々が一気に吹き飛ぶほど、完成度の高い量産機だった。

 

「……スゲェな、こりゃ……。」

カイも思わず感嘆の声を漏らす。

 

「これなら……!」

 

ハヤトの胸に、熱い思いが湧き上がった。

 

(このネモなら……もしかしたらアムロに――勝てなくても、善戦くらいはできるかもしれない!)

 

――そう、思った矢先。

 

カイが肩越しに言った。

 

「甘ぇ甘ぇ。」

「軽キャノンの時でも、あいつとは差があったろ?

俺たちの機体が良くなっても、向こうだってネモなんだからよ。」

 

だが――リュウがそこで首を振った。

 

「いや、アムロはネモじゃない。」

 

「……え?」

カイとハヤトが同時に振り向く。

 

「ネモは、ある高性能機の量産型だ。

その元の機体――“アレックス”が、アムロの乗る専用機さ。」

 

「……また、差を付けられたのか……。」

ハヤトは肩を落としかけたが、すぐに顔を上げた。

 

「でも……ネモなら前より戦えますよ!

差は、縮まってきてます……きっと!」

 

その言葉にカイが苦笑した。

リュウは静かに見守る。

 

───

 

その時、訓練場のアナウンスが響いた。

 

《これよりアレックス模擬戦デモンストレーション開始。》

 

「……ちょうどいい、見ていこうぜ。」

カイが促し、三人は観覧ブースへ向かった。

 

───

 

やがて、一機の青と白のモビルスーツが滑るように訓練場へ姿を現した。

 

アレックス――RX-78NT-1。

 

テム・レイが檻から戻り、設計した連邦の切り札とも言うべき新型機だった。

 

模擬戦が始まった。

 

――圧倒的だった。

 

スラスターの噴き出しとともに、異次元の加速。

正確無比な射撃、柔軟な近接戦闘。

 

「……こ、こりゃ……。」

カイが声を失う。

 

「……!」

ハヤトは目を見開き、言葉を飲み込んだ。

 

軽キャノン時代――確かに差はあった。

だが、いつかは追いつけるかもしれない――そう思えていた。

 

今、目の前に映るのは――そんな希望さえ打ち砕く、圧倒的な存在感。

 

射撃、格闘、機動――すべてが別次元だった。

 

《模擬戦、終了。》

 

静寂が戻った訓練場で、ハヤトがかすれた声を漏らした。

 

「……あれが……アムロ……?」

 

彼の瞳には、畏怖にも似た驚きが宿っていた。

 

もう、追いつけるかもしれない――そんな次元の話ではなかった。

 

ただ、圧倒され、見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

訓練場のモニターが暗転し、場内は静けさを取り戻していた。

 

その場に立ち尽くしていたカイ、ハヤト、リュウの三人は、誰からともなく休憩室へと移動していた。

 

缶コーヒーを手に取り、ようやくひと息ついた頃だった。

 

「……なあ。」

リュウがぽつりと切り出した。

 

「さっきの……すげぇよな、あれ。」

 

「はい……。」

ハヤトはうつむき加減に頷いた。

 

「……ってか、あれがアムロだったなんてな。」

カイも腕を組んで唸るように言う。

 

その時だった。

リュウがふと缶を机に置き、真顔になる。

 

「……さっき先輩たちに聞いた話なんだがな。」

 

二人は顔を上げ、耳を傾けた。

 

「俺たち、軽キャノンにはいらついてたろ?

100の力のうち、50くらいしか出せねえ感じだった。

ネモになって、ようやく“100”が全部出せるようになったんだ。」

 

カイが頷く。

「そりゃそうだ。軽キャノンの時は腕も鈍った気がしてたぜ。」

 

「でもな――アムロは違ったんだ。」

リュウの声が低くなる。

 

「奴さんはな、500ある力のうち、たった50くらいしか出せてなかったんだとさ。」

 

「は……?」

ハヤトが目を見開く。

 

「それだけの枷を付けられてたってことだ。

んで、今――アレックスって機体なら、その“500”全部、出せるんだとよ。」

 

一瞬、沈黙が落ちた。

 

(……500……。)

 

ハヤトは拳を握りしめた。

 

「……僕も、今は無理でも……いつかアレックスに乗りたい。」

 

その言葉に、カイが肩をすくめて笑う。

 

「ま、俺だっていつかは乗ってみたいな。

どうせなら、夢はデカくいかねえとな。」

 

三人の間に、少し明るい空気が戻る。

 

だが――。

 

彼らはまだ、見えていなかった。

 

テム・レイの作った“ネモ”は、実は彼らの力を十分に支えてくれる器だった。

 

だが彼らはそれを知らず、“もっと上の機体”に憧れを抱いていた。

 

その見誤りが正されるのは――数ヵ月後のことになる。

 

皮肉なことに、彼らが「いつか乗りたい」と語っていたアレックスのパイロット、ヤザン・ゲーブルが、教官として彼らの前に現れた時だ。

 

――その時、彼らは知ることになる。

ネモこそが、自分たちが"選ばれた者"と戦うのに相応しい機体だということを。

 

そして――自分たち自身もまた、鍛え上げられていくのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッディ大尉&マチルダ中尉の結婚式/フラウ視点・恋の終わり

 

 

ジャブロー内の講堂ホール。

華やかな装飾と、珍しく朗らかな空気が満ちていた。

 

ウッディ大尉とマチルダ中尉の結婚式。

 

サイド7組も揃って招待されていた。

 

フラウ・ボゥは、受付を済ませながら内心でそっと息を吐いた。

 

(アムロ、いるかな……。)

 

胸の奥にわずかな迷いを抱えつつ、ホール内に進む。

 

ふと、空いている席が目に入り――アムロの隣だった。

 

気付けば、自然にそこに腰を下ろしていた。

 

「やあ、フラウ。」

アムロが柔らかな声で挨拶する。

 

「うん。おめでたいよね、この式。」

フラウも微笑んで返す。

 

アムロは、周囲の祝福の空気に自然に馴染んでいた。

笑顔も自然で――その姿に、フラウはほんの少し胸を締めつけられた。

 

(……遠くなったな、本当に。)

 

それでも、話がしたかった。

 

やがて食事と雑談の時間になる。

 

フラウはふとアムロに顔を向けた。

 

「アムロ。」

 

「ん?」

 

「……マチルダさんって、アムロの好みのタイプでしょ?

……普通だなって思って。」

 

アムロは一瞬、目を丸くした。

 

「ちょ、ちょっと――人の結婚式で何言うんだよ……。」

小声で慌てるように言う。

 

フラウは少し得意げに微笑んだ。

 

「聞こえるように言ってないでしょ?

……昔のアムロなら、恋してたんじゃない?」

 

アムロは苦笑しつつ、少しだけ視線をそらした。

 

「……尊敬はしてるよ。でも、恋なんてしないさ。」

 

そう言いつつ――ほんの一瞬。

 

遠くの席に座るシイコの姿に視線が流れた。

 

それは一瞬のことだったが、フラウの胸はかすかに痛んだ。

 

(……あ。)

 

気付いてしまった。

 

(アムロは――シイコさんが好きなんだ。

……そして、シイコさんも。)

 

それ以上は、もう言えなかった。

 

少し後、外でのイベントに移った時。

 

ふと目に入った。

アムロとシイコが話している。

 

二人の間に流れる空気。

交わされる視線。

 

(ああ――やっぱり。)

 

フラウはその場に立ち尽くした。

 

(……これで、ちゃんと終われる。

私の“アムロ”は、もう過去のものだ。)

 

ほんのわずか微笑んだ。

 

(……さようなら、アムロ。

私は――次に進まなきゃ。)

 

目の奥がほんの少し熱くなったが、それでも誇り高く背筋を伸ばしていた。

 

今はそれが、自分にできる精一杯の強さだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッディ大尉とマチルダ中尉の結婚式が終わったあと。

会場を出た人々は、少しずつ解散していった。

 

ホールの外、昼下がりの光が柔らかく差し込むジャブローの中庭。

咲き始めた花壇のそばに、ぽつんとフラウ・ボゥが腰掛けていた。

 

膝の上には開きかけのメモ帳が置かれているが、ページはめくられることなく、視線は遠くを彷徨っている。

 

――アレックスで模擬戦を行うアムロ。

その映像はすでに連邦内で繰り返し流され、“ニュータイプの象徴”として讃えられている。

 

希望の象徴。

 

――そして、もう自分の届かない場所にいる人。

 

「……アムロ……。」

 

つい、小さく声が漏れていた。

 

(ほんの少し前までは、一緒に笑ってたのに。

一緒に食事をして、からかったり、怒ったりしていたのに……。)

 

今は周囲の誰もがアムロに敬意を向け、

彼自身も少し遠い表情を見せるようになっていた。

 

(……私、もうあの人の隣にはいられないんだな。)

 

胸がきゅっと締めつけられた。

 

その時。

 

「……フラウ。」

 

控えめな声がかかる。

 

顔を上げると、ハヤト・コバヤシが困ったような顔で立っていた。

 

「ここにいたんだ。みんな探してたよ。」

 

「あ……ごめん、ちょっと……。」

 

言い訳にもならない言葉が口をついた。

 

ハヤトは少しだけ躊躇ったが、そのまま隣に腰掛ける。

 

しばらく沈黙が流れた。

 

そして。

 

「……マチルダさん、綺麗だったな。」

 

ハヤトがふっと笑って言った。

 

フラウもかすかに笑みを浮かべる。

 

「うん……すごく綺麗だった。ウッディ大尉も幸せそうだったし。」

 

優しい雑談。

でもその声には、少しだけ翳りが混じっていた。

 

ハヤトは感じ取っていた。

 

それでも今は、押し付けがましい慰めではなく、

ただフラウの気持ちを受け止めることが大事だとわかっていた。

 

少し間を置いて。

 

「……アムロ、すごいよな。

今日の式でも、自然に周りに馴染んでて。」

 

フラウはふっと小さく微笑んだ。

 

「うん……すごすぎるくらい。

……もう、私……アムロの背中、見えないなって……思ったの。」

 

そっと目を伏せる。

 

ほんの僅か、肩が震えていた。

 

ハヤトは拳を握りかけたが、すぐに力を抜いた。

 

(……ここで抱きしめたりしたら、卑怯だ。

そんなふうに“近くの存在”になるのは違う。)

 

だから、言葉を選ぶ。

 

「……それでもさ。

アムロがどこまで行っても――フラウが“あの頃”のことを覚えててやるだけでも、きっと意味があると思うよ。」

 

フラウは驚いたように顔を上げてハヤトを見る。

 

「……ハヤト……。」

 

「無理に忘れたり、急に前に進まなくてもいいよ。

俺は……ずっと、フラウの味方だからさ。」

 

その言葉はとても優しかった。

 

フラウの目に、ほんの少し涙が滲んだ。

 

「……ありがとう。」

 

言葉にならない想いを込めて、それだけを返す。

 

ハヤトは微笑んで、それ以上は何も言わずにそっと背にもたれた。

 

フラウは、そんなハヤトの隣で、

(……ありがとう、ハヤト……。)と胸の中で静かに呟いた。

 

その瞬間――

 

(……さようなら、アムロ。

私の初恋。)

 

完全に、恋に区切りをつけた自分を感じていた。

 

春の終わりのような暖かさと切なさが、

そっと二人の間に漂っていた。

 

 

 

 

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