ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ゴップは机越しに手を組み、目を細めて言った。
「さて……普通なら、カミーユ君。君にはしばらく“独房”に泊まってもらうところなんだがね」
カミーユの眉がわずかに動く。
「……それとも、“告げ口”は嫌でも、“権力に泣きつく”のは平気かな? 君の父親、フランクリン君に頼んで“もみ消して”もらって帰るかね?」
カミーユはわずかに顔をしかめたが――
「……泊まればいいんですね? 何日ですか?」
「カミーユ!」
ヒルダが思わず声を上げる。
しかしカミーユは真っすぐゴップを見据えたままだ。
「俺、自分のやったことの責任は自分で取ります。……だから、さっさと言ってください。
着替えがいるなら、取りに戻ってもいいですか? お袋に頼めばいいんでしょうか?」
ゴップは少し目を丸くして――ため息を吐いた。
「……短絡的すぎないか? フランクリン君、君も若い頃はこうだったのか?」
「本当に……申し訳ありません……」
フランクリンはうなだれた。
「いや、責任感があるのは結構なことだ。だが他にも道はあると言っているのだよ、カミーユ君」
ゴップの視線が、真正面からカミーユに突き刺さる。
「君のシミュレーターでのスコアは見た。あれは――実に類まれな数値だった。
その才能を軍に“貢献”という形で使ってもらえるならば、今回の暴行事件を帳消しにしてもいいと私は考えている」
「……テストパイロットってことですか? あの、アレックスってやつの?」
ここで、テム・レイが口を挟んだ。
「その案もあったのだがな……」
彼は椅子にもたれ、隣のアムロに目をやりながら続けた。
「君のスコアはそれほど高い。隣にいるアムロ中尉にやらせるまでは、君がトップのままだったよ。
だが――暴行事件を起こした者にアレックスを与えるわけにはいかん。あれは連邦の象徴みたいなものだからな」
「代わりに――」
テムは目を細め、テーブルに置かれた端末を軽くタップする。
「今、我々はニュータイプ専用のビット兵器を搭載したサイコミュ系機体……サイコガンダムの“再設計型”のテストパイロットを探している」
「ビット兵器……?」
「ビットのテスト自体なら、“出来る娘”はいるのだが……」
ここでテムは、ムラサメ博士の所にいるリタ・ベルナルを思い浮かべるも、目の前の少年を見つめる。
「彼女はまだ年齢や身体能力の面から、再設計されたサイコガンダム本体のテストまでは難しい。
だが――君は年齢こそ低いが、よく鍛えられている。空手だったな?」
テムはニヤリと笑って、
「現役の軍人を殴り飛ばす腕があるとは、聞いていなかったがね」
その言葉に、カミーユの口元が少しだけ緩んだ。だが――
「……つまり俺に、そのサイコミュ搭載機のテストパイロットをやれってことですか?」
テムレイとゴップは、静かに頷いた。
「君にしかできない役割だと、私は思っているよ」
「サイコガンダム……」
ふと、目を横にやる。
フォウ・ムラサメが、静かに彼を見つめていた。
強い意思の宿ったまなざしで。
「さっきフォウが……“テストパイロット”だって言ってましたね」
彼女と同じ立場に自分が置かれようとしていることを理解した上で、カミーユは口を開く。
「それに……僕にも乗れと?」
ゴップがゆっくりと頷いた。
「――そういう“道もある”という話だよ。
ただし、他に選びたい道があるのなら、それも聞こう。
君は軍人ではない。これは命令ではなく、あくまで“提案”だ」
数秒、カミーユは目を閉じていた。
だが次の瞬間、瞳に確かな光を宿して言った。
「……やります」
その一言に、室内の空気が一変した。
ヒルダが息を飲み、フランクリンが一瞬目を伏せ、
フォウはカミーユをまっすぐ見つめ、そして――
わずかに微笑んだ。
部屋を出て、白い廊下を数歩進んだところで、ドゥーがカミーユを見上げて言った。
「じゃあサイコガンダムには、フォウと君が乗るんだね」
小柄な体にハロを抱えたまま、ドゥー・ムラサメは首をかしげるようにしてカミーユを見つめていた。
「そうみたいだね……君はドゥー・ムラサメだよね?」
カミーユはフォウから名前を聞いたのを思い出しながら、戸惑った表情を浮かべた。
「ずいぶん小さいけど……君は、どういう立場なの?」
その言葉に、ドゥーは悪びれた様子もなくぺたりと腰を下ろしながら、ぬいぐるみのようなハロを抱き直した。
「前のサイコガンダムのパイロットだよ。今は治療中」
「君が!? あの巨大なMSの!?」
カミーユが思わず声を上げる。
さっきの会議室で話していた大人たちの顔が脳裏をよぎった。
「じゃあ……さっきの人たちって、もしかして――」
(めちゃくちゃヤバいやつらなのでは……?)
そんな警戒心が、カミーユの表情にうっすらと浮かぶ。
「待て待て、誤解を招く言い方するな」
ゼロが慌てて両手を広げて遮った。
「まるでサイコガンダムにドゥーみたいな子どもを乗せた“連邦の大悪党”みたいに聞こえるぞ!」
「そう?」
と、ドゥーが小首をかしげると、ハロがタイミングよく口を開いた。
「ソウ、キコエタゾ! ドゥー!」
その調子でカタカナ発音を強調するハロに、ゼロが苦笑を漏らす。
「……お前、ナチュラルに火に油を注ぐなぁ……」
「逆だよ。逆」
フォウが静かに、けれども力強く言った。
「さっきの人たちは、私たち“強化人間”を、道具じゃなくて“人間”として扱いたい人たちなんだ。だから、私たちを治療してくれようとしてる」
フォウは、カミーユのまっすぐな視線を受け止めるように続ける。
「むしろ悪いのは、私たちの方なの。あの人たちが“自由に生きていい”って言ってくれてたのに、勝手にそれを諦めて、バスクの甘い言葉に乗っかって、嘘ついて……自分からまた実験体にされる施設に戻ってきちゃったんだから」
その目には、ほんの少しだけ、自嘲とも後悔とも取れる色が浮かんでいた。
その言葉を聞いて、カミーユは黙り込んだ。
――何も知らなかった。
そう、彼は思った。
この場所で、何が起きて、誰が何を選び、どんな痛みを背負ってきたのか。
ただ「サイコガンダムのテストパイロットになれ」と言われて、首を縦に振った自分の無知が、少しだけ恥ずかしくなる。
「……フォウ」
カミーユは、静かに名を呼んだ。
フォウはふっと微笑んだ。
「何?」
「……ううん。呼んでみただけ」
フォウが小さく笑うと、それにつられてゼロとドゥーも緊張を解いたように笑った。
会議室の空気がひと息ついたように、静まり返った。
ゴップがゆったりと背もたれに身を預けながら、重々しく口を開いた。
「さて……ひと段落、かな?」
テーブルを囲む面々が、それぞれ小さく頷く。
その中で、ムラサメ博士が控えめにフランクリン夫妻へと視線を向け、問いかけた。
「……ですな。フランクリン技師、ヒルダ技師。ああいう流れになったが、問題ないかな? 2人かご子息が望むなら、“ビッド適性は無かった”ということで、記録を曖昧にし、家に戻すという選択肢も――あるにはあるが」
その言葉に、フランクリンは一度息を整え、静かに首を横に振った。
「いえ。それは不要です。あれ以上の処置はなかったと思います。皆様には……本当に感謝しております」
ヒルダもまた、傍らで深く頭を下げる。
だが、その頭を上げぬうちに、テムレイが軽く笑いながら言葉を挟んだ。
「感謝する必要はないさ。お互いの目的のための手段が、たまたま最適に噛み合っただけだ。……それにしても、君の息子、なかなか格好良かったよ」
「えっ?」と夫婦が同時に首を傾げる。
「今日会ったばかりの女性を侮辱されたからって、軍人に正面から殴りかかるとはね。あれはなかなかできる芸当じゃない。根性があるよ、カミーユ君は」
そこまでは、よかった。
だが――
(……いや、あの子は)
(普通に、自分の名前を馬鹿にされただけで殴りかかりかねない)
ビダン夫妻の心中に浮かんだ、似たような冷や汗混じりの予感を、口に出す者はいなかった。
ただひとつ、確かなことがあった。
――カミーユ・ビダンは、間違いなく“変化”の渦の中に飛び込んだのだ。
原作カミーユならビダン夫妻の内心通りなんですが、それだと書いててキツいので改変してあります。カミーユっぽさを残しつつ主人公度を上げることで味方に自然と入れるようにしてます。
この陣営はただ名前を馬鹿にしただけで殴りかかるような少年に腕がいいからってサイコガンダムを任せたりしないので。