ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ふたりの試運転
青白い照明に包まれた地下テストベイ――
そこには、かつてバスク・オムが暴走の末に残した“負の遺産”が、まったく異なる姿で再生していた。
「サイコガンダムMk-II K型――起動、問題なし。動力系統、安定しています」
モニター越しに報告する技術士官の声に、フォウ・ムラサメはコックピットで静かに呼吸を整えた。
搭乗しているのは、かつてドゥー・ムラサメが搭乗した初代サイコガンダムを再設計した、“強化人間仕様”のK型。巨体を制御するための出力は維持しつつ、肉体への負荷を軽減するバイオフィードバック系が強化され、精神的な負担は最小限に抑えられていた。
「――フォウ、こっちは準備OKだ」
通信回線越しに届いた声は、もうひとつのサイコガンダムから。
カミーユ・ビダンが搭乗する、“ニュータイプ仕様”のN型だ。こちらはビット兵装をメインとし、機体そのものの重量行動は抑制。代わりに、サイコミュの拡張を受け入れる構造と、ビット制御の安定化装置が搭載されている。
カミーユの周囲には、すでに複数のビットが浮かんでいた。
「動きの予測演算、システムがやってくれる分、あんまり動かないのはちょっと退屈かもな……」
そう呟くカミーユの声には、余裕があった。
だが傍で見ていたブレックスとムラサメ博士は、息を詰めてそれぞれのモニターを見つめていた。
「――あの年齢で、ここまでビットを自在に動かせるとはな」
「まさにアムロの後継足り得る存在だ。いや、それ以上かもしれん」
カミーユの周囲のビットが、まるで意思を持つかのように空中で舞い、狙撃演算を自律的に補完しながら仮想目標に命中させていく。
その鮮やかさに、見守る整備班の間にもどよめきが走る。
一方で――
「そっちはどう、フォウ?」
「こっちは“動かすほう”が本番だよ。あんたの相手じゃないけど、こっちだって悪くないってところを見せる」
フォウのK型が、重力の中で自重を支えながら滑らかに前進する。外部駆動系の補助を受けず、パイロットの身体動作と意志に連動してMSが動く様は、まさしく“人が巨人を着る”感覚だった。
「凄いな……フォウの動き、まるで人間みたいだ」
モニター越しに見ていたゼロが、思わず漏らす。
ドゥーは隣でハロを抱きながら、どこか誇らしげな目をしていた。
「うん。あの機体、私のだったんだよ。でも、今のフォウの方が似合ってる気がする」
再設計されたK型は、もはやかつての“強化人間用の拘束具”ではない。
意志を持つ者が、自分の足で歩くための器だった。
「――ビット、フォーメーションC。投影開始」
N型の上空を巡っていたビットが一斉に起動し、カミーユの意識に同調するように動く。
「これは……! まるで全方向から、別の機体が同時に操縦されているような……!」
戦闘シミュレーターに映る仮想敵が次々に撃墜される様を見て、テストルーム内の空気が変わる。
「……これがサイコミュ兵装の、力か」
そう呟いたムラサメ博士の言葉に、ゴップが静かに頷いた。
⸻
テスト後のフォウとカミーユ
テスト終了後の格納庫。
メンテナンスが行われる二機を前に、フォウが先に口を開く。
「……動きすぎて、ちょっと足がだるい」
「こっちは座ってるだけだったよ。ほんと、楽すぎて逆に不安になるくらい」
フォウがわずかに笑って、言う。
「じゃあ、補い合えるかな? あたしが動いて、あんたが撃って」
「――ああ。いいマブになれそうだ」
それは、かつてのニュータイプと強化人間の関係では考えられなかった“並び立つ”言葉だった。
並んで歩く、その先へ
訓練終わりの格納庫の外、整備員たちがサイコガンダムMk-IIの点検を始める傍ら――
カミーユとフォウは、冷却ファンの風が吹き抜ける廊下を歩いていた。
「――サイコガンダムのビットは、使ってて面白いよ。命令しなくても動いてくれるっていうか……こっちの気持ちを先読みしてくる。楽だし、楽しい」
カミーユが、軽く両手を頭の後ろに組みながら口にする。
フォウは隣で、ちらりと彼の顔を覗き見た。
「ふーん。じゃあ、私と同じ機体は嫌ってこと?」
流し目のように目を細めるその視線に、カミーユは反射的に慌てた。
「ち、違うって! いや、そういう意味じゃなくて!」
両手を振りながら必死に否定する。
「……ただ、前にテムレイさんが言ってただろ。俺のスコアをアムロ・レイが超えたって」
歩みを緩めたカミーユの声には、どこか言い淀むような苦味があった。
「そりゃさ、ゲストのガキが1位だったら周りがザワつくだろ? ジェリドの時みたいに、やっかみだの何だの面倒になるのは分かってる。だから、アムロ・レイが記録を抜いたって言われても、納得はできるんだ。……でも」
足を止め、備え付けのモニターに目を向けるカミーユ。
そこに映っていたのは、訓練施設のシミュレーターランキング。
1位:アムロ・レイ
2位:ゼロ・ムラサメ
3位:ヤザン・ゲーブル
4位:ゲスト
「おかしいだろ!? ゼロさんもヤザンさんも、まだあのシミュレーターやってなかったんだろ! 一回で俺抜かれてるんだけど!?そもそもこのままだと、俺の順位どこまで落ちるんだ……?」
拳を握りしめながら、唇を噛む。
フォウはそんなカミーユの背中を、静かに見つめていた。
やがて――
「……あの3人はね、連邦の“トップエース”なんだよ。アムロ・レイ、ゼロ・ムラサメ、ヤザン・ゲーブル。連邦全体で、あれ以上はいないの」
「……分かってるさ。でも俺だって……」
「でもね、今の時点で全パイロットの3割くらいは、あのシミュレーターを試してるんだって。そんな中でカミーユは、現役パイロットを含めて4位にいる。十分、すごいことだと思うよ?」
フォウの声は、怒りでも慰めでもなく――ただ、まっすぐな実感だった。
「ねぇ、カミーユ。私たちは比べられるためにいるんじゃないよ。一緒に、前に進むためにいるんだよ」
カミーユはその言葉に、はっとして彼女を見る。
「あたしは、フォウ・ムラサメ。誰かの代わりでも、番号でもない。
あんたも、カミーユ・ビダン。誰かの順位を気にして終わる子じゃないって、私は思う」
「……フォウ」
どこか肩の力が抜けたように、カミーユが息を吐く。
「……そうだな。ありがとう、フォウ」
「どういたしまして」
そう言って、フォウはくるりと踵を返して歩き出す。
その後ろ姿に、カミーユは小さく笑いながら言葉を重ねた。
「……でも、やっぱりアレックスにも乗ってみたい」
「ふふっ、そっちの本音は正直だね」
フォウの笑い声が、格納庫の鉄骨の中に軽やかに響いた。
ビッド・その先へ
試験場の空は澄み、視界は抜群。
テストエリアの中央に立つのは、サイコガンダムMk-II N型。
――アムロ・レイの搭乗による、初のビット運用テストが始まった。
その起動から展開まで、すべてが滑らかで、まるで意思を持っているかのように自然。
ビットは空間を縦横無尽に飛翔し、同時展開したダミー目標の全てを一瞬で正確に撃ち抜いた。
「っ……!」
制御台で見ていたムラサメ博士が、無意識に声を漏らす。
「……カミーユ君のビット操作が頂点かと思ったが、やはりそれ以上がいたな。さすがアムロ・レイだ」
彼の声には畏敬が滲んでいた。
まさしく「動かしている」のではなく、「反応している」。
それがビットから感じられる、生きたような反応だった。
すぐ横では、ゼロ・ムラサメの搭乗するK型機が、追ってビット操作のテストを開始した。
K型――フォウやドゥーと同じ、強化人間仕様のサイコガンダムMk-II。
ゼロのビットもまた、制御精度の高い洗練された動きを見せていた。
「……なかなかのものだな」
テムレイが感嘆しつつ、記録を取りながら呟く。
「アムロやカミーユほどではないが、フォウよりも安定している。
あれはやはり、実戦経験の蓄積による練度の差か?」
「かもしれませんね」
アルレット・アルマージが小さく頷いた。
テストを見守る中――ドゥー・ムラサメが前のめりで叫んだ。
「わたしも、あのマークIIのビット使ってみたいな〜!」
彼女の膝の上では、ハロがピコピコと首を振りながら、
「ドゥーのビッド! ミターイ!」
と、元気に喋っていた。
ムラサメ博士はその様子に苦笑しつつ、首を横に振った。
「まだ駄目だ。最低でもあと2、3年は待て。……体の成長が追いつかねば、負荷が大きすぎる」
「え〜っ」
「ただ、技術は進んでいる。ビットだけのテストであれば、機体に乗らずにできる形式も模索中だ。リタ・ベルナルのように、感応の強さだけでテストできるようになれば、お前もいずれ――」
「ほんと!?」
「“いずれ”だ。今は治療に専念して、同窓会視察もちゃんとやりなさい」
「むー……」
そのやりとりに周囲が笑みを漏らす中――
テムレイがふと、アルレットへと目を向けた。
「そういえば、アルレット。君はかつてフラナガン機関にいたな。あそこで見たニュータイプのビット運用は、どれほどのものだった?」
問いに、アルレットは真顔で答えた。
「……くれぐれも“あれ”をニュータイプの平均として見ないでください。
アムロさんも、カミーユ君も、常識外れです。彼らを基準にしては、後続の若いニュータイプが病みます」
「ふむ」
「ビットの扱いにも個人差があります。
私のように、まったく使えない者もいれば――赤い彗星のように、初搭乗で使いこなす人もいます。
でも、彼の使っていたビットですら、今日のアムロさんやカミーユ君のような異常性はなかった。
あれは本当に、“特別”なんですよ」
その言葉に一同はうなずく。
だからこそ、我々は備えなければならない――。
「……とはいえ」
ムラサメ博士が視線をサイコガンダムへと戻す。
「ジオンの技術も、確実に進歩しているはずだ。
我々も慢心せず、技術を“先”へと進めていかねばな」
その言葉に、隣で記録を整理していたテムレイが反応する。
「そうだな。……とはいえサイコガンダムは、あの大きさとジェネレーター出力のおかげで安定しているが、アムロとゼロの両名は“実戦での使用は嫌だ”とまで言っているよ」
「えっ!? あそこまでビットを使いこなせるのに、ですか?」
アルレットが目を丸くして振り向いた。
テムレイは肩をすくめながら答える。
「理由は単純だ。“iフィールド”があるとはいえ、内側に入られたら意味がない。
それにあれだけ巨大な図体じゃ動きも限られる。
“だったら普通のMSサイズでビットが使えればいいだろう”――アムロの言葉だよ」」
アルレットの内心に、静かな戦慄が走った。
(……あのビットをくぐってアムロさんに肉薄できる人なんているの?)
けれど、アムロやゼロにとっては、それが現実の脅威として“ありうる”のだ。
「MSサイズへの搭載か……」
ムラサメ博士が小さく頷いた。
「進めてはいる。今回はあくまで“サイコガンダムの再利用”という前提と、
“搭乗者に万が一にも負担をかけない”ことに専念して設計したから、あの巨体になった」
「だが、既に蓄積データはある。次は安全性を確保したままMSサイズに詰め込む。
“サイコ・アレックス”や“強化ネモ”に向けた応用設計も同時に進めているよ」
「……ゼクノヴァみたいにだけはならないように頼むぞ」
テムレイの声音には、珍しく冷たい感情が混ざっていた。
「パイロットの意思かどうかわからない現象を強制するようなシステム――
息子が乗る機体に搭載される可能性があるとなれば、冗談抜きで看過できん」
「もちろんだ。我々はジオンとは違う。十分なテストを積む。
“使えるようになるまで使わない”、それが原則だ」
三人は静かにうなずき合った。
未来に進むべき技術とは、兵器の強さではない。
人を殺すものを、人を守る形に変えること。
その理念が、サイコガンダムの“第2の人生”を支えていた。
そしてその直後――
「すみません、入っても……?」
と、背後の扉が控えめにノックされる。入ってきたのは、アムロ・レイだった。
その姿にテムレイが笑顔を向けながら言う。
「おお、話が早いな。ちょうどお前と話したかったところだ」
ムラサメ博士とアルレットも、軽く立ち上がり、彼を迎える。
「じゃあ……次は“伝説のエース”と“次世代の希望”の、対面だな」
テムレイの言葉に、ムラサメ博士とアルレットも微笑みを浮かべた。