ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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なんか深夜テンションがリタを始めカイ達にも伝染してる。でもしょうがない。ニュータイプは感染するって言ってたから!深夜テンションも感染しただけってことで!
それに原作のリタが過ごせなかった青春を過ごして欲しかったんです。(原作のニュータイプ研究所は立場的に潰れるんじゃなくて、被験者を救い出した後物理的に潰れれば良かったんじゃないかな?)

カイ達がだいぶ熱血度が高くて、リタにはマチュみたいなガンダムでの戦いにムキになるみたいな要素が混ざってます。


幕間: リタ・ベルナルの日常

ジャブロー内部にある軍関係者向けの喫茶店は、ミーティングと休息の狭間にあるような空間だった。極秘事項以外なら多少の雑談も許容される、いわば中庭のような扱いの店内に、若いパイロットたちの声がこだましていた。

 

「じゃあ、俺はブラジル風カレーにしとこうかな」

ゼロがメニューをテーブルに戻し、店員に軽く手を上げた。

 

「私は紅茶とチーズケーキで」

リタはメモを取りながら笑顔を浮かべて注文。

 

「チーズケーキいいな……」ドゥーが指先を顎にあてて悩んだ末、「じゃあ僕はパフェで!」と満面の笑みで被せてくる。

 

「お前それ、飯じゃなくてデザートだぞ」とゼロが呆れた顔をする。

 

「私はホットサンドでいいかな」

フォウが手早く注文を済ませると、最後にカミーユが「じゃあ……ナポリタンとミルクティーで」とやや遠慮がちに言った。

 

それぞれが水を手にして一息ついた頃、ゼロが少し身を乗り出して言った。

 

「そういえば……アムロさんから聞いたけど、ヤザンさんに教官やってもらってアレックス乗ってるんだって? 大丈夫か?」

 

「うん。大丈夫だよ」

リタは柔らかく笑った。「シミュレーターだし、体の負荷は抑えてくれてるから」

 

「抑えめ……?」

カミーユが眉を寄せて首をかしげる。

 

フォウが説明を引き取った。「アレックスって、普通に軍務こなしてる兵士でもg耐性が足りなくて乗れないくらいの機体なの。ニュータイプ用って言ってもね、ただ精神力が高いだけじゃダメなんだよ」

 

「へぇ……確かに機体に乗ってるときって、思ったより体が揺さぶられるなって感じはしたけど」

 

カミーユがそう言いながら考え込むと、ドゥーがついに机に突っ伏した。

 

「……これだから、ニュータイプ様はさ……。僕らが薬とか手術とかでやっと得る力を、天然で持ってるんだから」

 

ジト目になって、やや恨めしげにカミーユを見上げる。

 

「いやいや、俺もそこまで特別ってわけじゃ……」とカミーユが返そうとすると、ゼロが横から軽く口を挟んだ。

 

「いや、そこはちゃんと認めとけ。カミーユ、お前のは“中でもかなり高い”ってやつだ。俺らが比較対象にするの間違ってんだよ」

 

「……やっぱり、そうなのか」

カミーユはやや気まずそうに眉尻を下げた。

 

「僕も真のニュータイプになれたらなぁ……」

ドゥーはパフェを思案しながら、半ば冗談混じりに呟く。

 

「その冗談、他では言わないでね」

フォウがストローを指先でくるくる回しながら、小さく釘を刺した。

 

「わかってるって」

ドゥーが舌を出して笑う頃、店員が注文を運んできた。温かい食事の香りがテーブルを包み込み、戦場ではないひとときの空気が、そこにだけ広がっていた。

 

 

 

 

 

 

ジャブロー内部の訓練区画。午後の陽光が薄暗いシミュレーター室にも差し込むような錯覚を覚える中、ネモとアレックスの1対1模擬戦が今日も静かに始まっていた。

 

形式は変わらず――アレックス1機に対して、ハヤト、カイ、リュウがそれぞれ3回ずつ挑む。

 

午前中の任務を終えてすぐの身体にムチを打ち、3人は慎重に操作に入った。

 

最初に出たのはハヤトだった。昨日の勝利が脳裏に焼き付いている。相手の動きのクセも、いくつかは把握できているはずだった。

 

だが――

 

「うわっ……!」

開始数秒。重心を崩すように機体が翻り、アレックスの踏み込み一撃で戦闘不能判定。

 

「……っ、くそ……」

 

その後もカイが、リュウが、それぞれ挑むが結果は芳しくない。カイは鋭い間合いで翻弄され、リュウも防御一辺倒になって形勢を崩す。

 

それでもリュウは、三戦目でわずかに踏みとどまった。相手のモーションにフェイントを重ね、地形を利用しての誘導。そして――

 

「落ちろッ!!」

 

ネモのサーベルがアレックスのシールドを破壊し、そのまま肩を断ち、トドメの一閃が決まる。

 

「よっしゃあ……!」

 

ただ、それがこの日唯一の勝利だった。

 

 

夕刻。訓練を終えたハヤト、カイ、リュウの3人は、脱力したように廊下を歩いていた。

 

「くそ……昨日より、強くなってる……」

ハヤトが悔しげに唇を噛む。

 

「おいおい、あれじゃあ本気で才能ってやつの壁を感じるな……」

カイが乾いた笑みを浮かべながら言う。

 

「でも、あいつ……」

リュウがふと、沈黙の中で言葉を継ぐ。「戦うごとに、変わってきてる。……いや、進化してるって言った方がいいな」

 

ハヤトも、カイも何も言えずに、ただその言葉をかみ締めて歩いた。

 

 

その頃。ヤザンはすでに別棟のシミュレーター室へ向かっていた。リタ・ベルナルが一人、肩を落として端末のモニタを確認していた。

 

「どうだった?」

ヤザンが声をかける。予想が的中したことを知っている目だった。

 

リタは、ふぅと一息ついて振り返る。

 

「……なんていうか、怖いです」

彼女は正直に吐露した。「あの人たち、すごく強いと思います。私より遥かに訓練も積んでるし、動きにも無駄がない。でも……でも、戦えば戦うほど、私の中に“勝ち方”が見えてくる。昨日より今日の自分が強いって、分かるんです」

 

「それが……ニュータイプの中でも“上澄み”の力だよ」

ヤザンはあくまで静かに言った。「オールドタイプが数ヶ月かけて手に入れる技量を、ほんの数日で塗り替えてくる。……そいつらは本物さ」

 

リタはふとジト目でヤザンを睨んだ。

 

「……でも、ヤザンさん。アムロさんにたまに勝ってるし、ゼロさんにも6:4で勝ち越してるんですよね?」

 

「たりめえだ」

ヤザンは鼻で笑った。「ニュータイプだろうが関係ねえ。ビームサーベルで斬られたら、人間は死ぬ。それだけの話よ」

 

言葉は乱暴だったが、そこには明確な“現実”があった。

 

そしてその現実を、リタは確かに心の奥で理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

ジャブロー基地の中にあるショッピングモールは、今日も静かな賑わいを見せていた。軍需物資や技術資料だけでなく、娯楽や日用品、食堂などが並ぶこの場所は、兵士たちの数少ない息抜きの場でもある。

 

そんな中、ハヤト・コバヤシは手ぶらでモールの廊下を歩いていた。特に買いたいものがあったわけでもない。ただ、訓練のない休日に部屋でじっとしていられなかった。

 

「……おや?」

 

角を曲がった先、目線の先に同じく手ぶらのリュウ・ホセイの姿があった。気まずそうに視線を合わせ、互いに「なんとなく来た」ことを悟る。

 

「……来ちまうよな、こういう時は」

「そうですね……気分転換、ですかね」

 

とりあえず、と2人で進んでいくと――今度はベンチスペースの向こうからカイ・シデンがやってきた。何か文庫本でも探していたのか、手には薄い冊子を持っている。

 

「あれ? お前らも来てんの? なんかズルくない?」

 

「そっちこそ」

「似たようなもんだろ」

 

3人は、目配せ一つでベンチに腰を落とした。

 

飲み物の自販機もあるが、誰も買おうとはしない。なんとなく気怠い空気が漂う中で、沈黙を破ったのはハヤトだった。

 

「……アレックス、強くなりましたね」

 

その一言に、リュウがうなずいた。

 

「だな。初日は、俺たち三人とも全勝してたってのにな。今じゃ、勝てる気がしねえ」

 

「数日で追い抜かれたな……」

カイも苦笑を混ぜて言う。「昨日なんて、リュウしか勝てなかっただろ? あとはボロ負け」

 

3人同時に、ため息をついた。

 

「……お前らも、分かってると思うけど」

リュウが真面目な表情で口を開く。「相手、ニュータイプだな。こっちが攻撃を仕掛ける“前”に避けてる。反応じゃねえ。“予測”だ。最初に勝てたのは、モビルスーツに慣れてなかっただけだろ」

 

「ニュータイプねぇ……」

カイは天井を仰ぐ。「才能だけは違うのよ、ほんと。俺らは数ヶ月訓練してやっとネモが扱えてるのに、数日で追い抜かれるって」

 

「……だからって」

ハヤトが、拳を膝の上で握りしめるように言った。「負けてばっかじゃイヤなんです! 教官はアムロにも勝ったことがあるし、ゼロさんには六対四で勝ち越してるって聞きました。僕らだって、やれるはずです!」

 

「言いたい気持ちはわかるけどな」

カイは肩をすくめた。「昨日のは……正直、ショックだったぞ?」

 

「でもよく考えてみろ」

リュウがぽつりと呟くように言う。「あそこまで結果がついたら、普通は相手変えるよな? 俺たちより強いやつに。……でも、変えなかった。月曜からも俺たちとやれってことは、“勝ち方を考えろ”ってことなんじゃねえのか?」

 

カイが眉をひそめる。「勝ち方ねぇ……。でも教官、連携を叩き込んでくれたけど、一対一じゃ連携もなにも」

 

「――それですよ!」

 

ハヤトが立ち上がるように言葉を強めた。

 

「連携です! 教官は、僕らに“強いやつと一対一で戦え”なんて言ってない! 月曜からは、三人でやらせてもらいましょう!」

 

「おいおい、三対一ってアリなのか?」

 

「アリです! 相手が急成長するなら、僕らも“勝てる策”を考えるべきなんです。相手も多数を相手に勝つ方法を考えることになる。アムロなんて、この間ネモ15機を一人で倒したって聞きました! 僕らは、そんな相手と戦う訓練にもなる。……そして、相手はアムロに近づく訓練になる。どっちも、得するはずです!」

 

カイとリュウは顔を見合わせ、やれやれというように息をついた。

 

「……ほんと、お前は燃えてるな」

 

「……ま、でも、ハヤトの言うとおりかもな。俺もこのまま引き下がるのは癪だ」

 

「じゃあ、月曜は――連携訓練だ!」

 

3人は、ベンチに並んだまま拳を軽く突き合わせる。ニュータイプに対して、オールドタイプが叩き上げで挑む準備が、いま整いつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

月曜の朝――。

訓練開始の集合場所に、いつもより明らかな決意を持った足取りで現れたハヤト、リュウ、カイの三人は、訓練指揮官ヤザン・ゲーブルの前に並び、声を揃えた。

 

「教官、今日の模擬戦、三対一でやらせてください!」

 

ヤザンは目を細め、口角を上げると、腕を組んだままゆっくりと問い返した。

 

「ほ〜ぅ? 金曜はリュウの一勝以外は全敗だったな。もう一対一じゃ意味ねえってか?」

 

ハヤトが一歩前へ踏み出し、声を張る。

 

「はい。一対一にこだわるのは、やめます。……悔しいけど、才能の違いはよくわかりました。けどこのまま負けっぱなしなんて、絶対イヤです!」

 

リュウがそれに続くように言った。

 

「戦場で敵にニュータイプがいたから負けていい――なんて、教官は一度だって言ってませんでしたよね。なら俺たちは、どうやったら勝てるかを考えるだけです」

 

カイも、いつもの皮肉を押し殺し、真面目な声で言った。

 

「教官が口酸っぱく言ってたこと、忘れてませんよ。“常に味方と敵の位置を把握しろ”、“連携を忘れるな”――あれは、こういうときのためだろ?」

 

その言葉に、ヤザンは唇の端を吊り上げ、にやりと笑った。

 

「……いいじゃねえか。三人でいってこい。ちょうど金曜、あいつは言ってたんだ。“自分の力が怖い”ってな。そんな大言壮語、俺に勝ってから言えって思ったが……今回はお前らに譲ってやる」

 

ヤザンの目が細められる。

 

「へし折ってこい。お前たちの手で、あいつの鼻っ柱をな!」

 

「はいっ!」

 

三人の声が訓練場に響いた。

 

――その頃。

 

リタ・ベルナルは、別室のシミュレータールームで身支度を整えながら、不満げに呟いていた。

 

「……また同じ相手? もう、向こうだって疲れるでしょ。いくら“ムチを与えるって言っても、さすがに与えすぎじゃない?」

 

週末を挟んで気持ちも切り替えてきたはずだったが、コンソールの表示が変わった瞬間、背筋が凍る。

 

表示された敵アイコンは、三機。

 

「はい? 三人!? ちょっと聞いてないんですけど!?」

 

シミュレーターが始動する。

 

第一戦。

リタは集中しようとするも、三機の連携が想像以上だった。まるで挟撃されるかのように機体の死角を突かれ、動く間もなく――撃墜。

 

「うそ……これ、ヤザンさんの仕込みでしょ……!」

 

第二戦。

警戒を強めて出撃。だが連携された三機の巧妙な分断戦術に、リタは有効なダメージを一つも与えられぬまま撤退を余儀なくされる。

 

「くぅっ、もう……本気でやってこれ!? 私、鍛えてないだけで本気で雑魚扱いされてる!?」

 

第三戦――

 

リタはスタートのカウントダウンを聞きながら、やけになったように叫ぶ。

 

「やっぱりヤザンさん、教え子が可愛いだけでしょーっ!」

 

しかし叫びも虚しく、再び連携と地形活用によってあっという間に包囲され、無力化される。

 

撃墜――。

 

モニターに映った、ネモ三機の整然とした陣形が、容赦ない現実を突きつけていた。

 

シミュレーターが停止し、静まり返る室内。

 

リタは、コンソールに額を乗せながらぼそりと呟いた。

 

「……これで、“本気出してない”って言ったら泣くからな、ヤザンさん」

 

負けた悔しさと、連携に見せられた感動と、教官への文句が綯い交ぜになった気持ちが、胸の中をぐるぐる回っていた。

 

――だが彼女はまだ知らない。

この連携戦を通じて、自分自身にも新たな戦い方が芽生えようとしていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練終了のブザーが鳴り、シミュレーターから出てきたハヤト、リュウ、カイの3人を、腕を組んだヤザンが真正面から出迎えた。

 

「……よくやった! お前たち!」

 

その言葉に、三人は目を見開いた。

カイが呆然と呟く。「……褒めた……」

リュウもぽかんとした顔でハヤトの肩を軽く叩きながら、「マジで褒められた……」

そしてハヤトはガッツポーズを取りながら声を弾ませた。

 

「やった! ついに認められた!」

 

だが――そのわずか数秒後、ヤザンの目元に笑みが浮かぶと、空気は一変する。

 

「――だがまだだ!」

 

背筋が伸びる音が聞こえるほど、三人は一斉に姿勢を正した。

 

「期間はまだ1週間以上ある。模擬戦日は変わらず一日三回。そしてな――その間にたった1日でも、2敗してみろ。どうなると思う?」

 

一拍の沈黙。

 

「……ジャブロー中のトイレ掃除をやらせる!!」

 

「「「ええええええええっ!?!?」」」

 

三人の絶望の叫びが、壁という壁を震わせる。

カイは頭を抱え、リュウは膝に手をつき、ハヤトはその場に崩れ落ちそうになりながら叫んだ。

 

「よりによってジャブロー中!? 多すぎますって!」

 

「悲鳴をあげてる暇なんてあるか!」

 

ヤザンの怒号が空気を裂いた。

 

「お前らの軍務スケジュールは、今日からしばらく軽めに調整されてる。――だからこそ! さっさと今の戦闘結果を見直して連携を磨け! 相手の弱点を探し出せ! いいか、ニュータイプに挑むってのはな、己を鍛えるだけじゃなくて、相手を理解し、乗り越えることなんだよ!」

 

三人はもはや目を逸らさず、全力で返事をした。

 

「「「はいっ!!!」」」

 

ハヤトが叫ぶように言った。

 

「ヤザン教官! 今日の反省点を教えてください!」

 

「いいだろう! 徹底的に叩き込んでやる!!」

 

ヤザンの目が、戦場そのもののように燃えた。

 

――そんな熱気に満ちた訓練場の隅、ドアの影からジト目で覗いている少女がいた。

 

リタ・ベルナル。

 

手にした端末を操作しながら、ため息まじりにボソリと漏らす。

 

「……ヤザンさん、私の時は“ニュータイプの残酷さを教えるため”とか言って、あの人たちの踏み台にしたのに……いざ褒めるとなったら、めちゃくちゃ熱血じゃないですか……理不尽すぎます……」

 

そのまま手早くメールを打ち込み始めた。

誰に送るかはもう決まっている。

 

 

件名:精神的損害について

 

ヤザンさんに今日も虐められました。

あの人たち(ハヤトたち)にはご褒美付きで鍛えてるくせに、私の時だけムチオンリーってどういうことですか。

 

ご飯で癒やされたいです。今日の18時ごろ、例の喫茶店でどうですか?

 

リタより

 

宛先:ゼロ、ドゥー、フォウ、カミーユ、ヨナ

 

送信ボタンをタップしてから、リタはひとつ深く息を吐いた。

 

――今夜の慰労会だけは、ちゃんと“癒し”になりますように、と祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャブロー基地内の許可区画――軍属も避難民も出入り自由な喫茶店の入り口が、バンッと勢いよく開いた。

 

「リタ! 一体何があったんだ! “ヤザンさんに虐められた”って――!」

 

ゼロが声を張りながら駆け込んでくる。続いて、ドゥー、フォウ、カミーユも心配そうな顔で続く。

 

だが、次の瞬間。

四人は思わず動きを止めた。

 

喫茶店の中央、少し人目を引く窓際のテーブル。そこには、顔をほんのり赤くした少年が硬直しながら座っており――

 

「はい、あーん」

 

リタ・ベルナルが、小さなフォークでケーキを差し出していた。

 

あーんと口を開けるのを恥ずかしそうにためらいながらも、それを受け取るのは、彼女の幼馴染――ヨナ・バシュタだった。

 

ゼロは一瞬の沈黙の後、真顔になってつぶやいた。

 

「……帰っていいか?」

 

その場にいた全員が目を逸らす中、リタが慌てて立ち上がる。

 

「だ、ダメ! 違うの! これは! その!」

 

彼女の必死な制止に、ゼロたちも目を合わせながらため息混じりに席に着いた。

 

フォウが視線をヨナに向ける。「その人が、リタの幼馴染のヨナ?」

 

ヨナは背筋を伸ばし、真面目に頷く。

 

「はい。ヨナ・バシュタです。今日はリタに突然呼ばれて……なぜかこんな状況に……」

 

その言葉に、ゼロが口の端を引きつらせながらも、「まあ、いいや。自己紹介しとくか」と肩をすくめる。

 

「ゼロ・ムラサメ。まあ、前に少し会ってるけどな」

 

「ドゥー・ムラサメです。よろしくね〜」と、にこやかに手を振るドゥー。

 

「フォウ・ムラサメ。……面倒ごとじゃなきゃいいけど」

 

「カミーユ・ビダンです。今日はその……急なことで、すみません」

 

ヨナは恐縮しながらも一人ずつに丁寧に頭を下げる。全員が軽く会釈を返したところで、ゼロが本題に切り込んだ。

 

「で、リタ。ヤザンさんに“虐められた”って何があった?」

 

そこからが早かった。リタは椅子の背に身を預け、両手を広げながら訴えるように声を上げた。

 

「そう! 金曜の模擬戦、私8勝1敗だったじゃない!? だから今日も同じ相手かと思ってたら――始めたらいきなり3対1!」

 

「えっ……」とフォウとドゥーが同時に声を漏らす。

 

「しかも! ろくにダメージも与えられずボコボコにされて、終わった後はヤザンさん、愛弟子たちに超楽しそうに“いいぞいいぞ”って反省会やってるの! なんで私だけ踏み台扱いなの!? “愛弟子大好きかよ!”ってツッコミたくなるでしょ!? あれ絶対可愛い可愛いって思って鍛えてる!」

 

リタは空気を震わせるような勢いでまくし立て、最後には机に突っ伏すように身を預けた。

 

ゼロはコーヒーを一口すすってから、ぽつりと呟く。

 

「……まぁ、否定はできないな」

 

「ひどくない!? もう今日、“リタが踏み台”ってTシャツでも配られてたのかってレベルなんだけど!」

 

フォウは吹き出しそうになるのを堪えながら、「あんた、なんだかんだ言って元気じゃない」と肩をすくめた。

 

「……そりゃあ、みんなが来てくれたからね」

 

照れくさそうに言って、リタはまた小さくヨナの隣に戻る。その笑みは、さっきまでの憤りとは別の意味で熱を帯びていた。

 

こうして――ヤザンの“飴とムチ”のムチを思いっきり味わったリタの一日が、少しずつ穏やかなものへと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヤザンさんの言いたいことも、まあわかるよ」

 

カップを傾けながら、ゼロが少し肩をすくめるように言った。

 

「リタは才能がある。だからこそ、“過程”をすっ飛ばして強くなった。その分、経験の積み重ねがないんだ。だから、いざ三対一みたいな“応用”をされると、対応できない」

 

「そりゃあ……そうだけどさ」

 

リタは口をとがらせて、頬杖をついたまま応える。自覚はある。けれど納得はしきれない。彼女の目に、未だに納得できていない火花のような何かが宿っていた。

 

「すぐ強くなったらダメなの?」と、ドゥーが素朴な疑問を口にする。大きめのマグカップを抱えたまま、首をかしげるように。

 

「ダメじゃない。でも、“戦場”は才能だけで生き残れる場所じゃない」

 

ゼロはフォークを置いて、視線を真っ直ぐリタに向けた。

 

「フェイントを“見た回数”が少ないから、連携された時にどれが本物かわからなくなる。地形を使った戦いの癖もない。連携の罠を読めない。反応速度はあるけど、その“速さ”を活かすパターンを知らないんだ。他にも……まあ、色々ある」

 

フォウが口元を指で押さえながら、ふっと小さく笑う。

 

「ふ〜ん。ニュータイプって、いいことばかりってわけでもないんだね」

 

カミーユが苦笑いを浮かべた。

 

「正直言って、日常でこんな力あっても……嫌なことの方が多いよ。笑顔の相手が、腹の底で何を考えてるか見えたりする。“どす黒い感情”とか、見たくなくても感じちゃうからさ」

 

「……それはそれで、大変そうだね」

 

フォウが眉をひそめ、カミーユを見つめ返す。

 

だが、ゼロが軽く咳払いをして会話の流れを切った。

 

「ニュータイプトークは、そっちでやってくれ。今はリタ、お前の模擬戦の話だ」

 

リタが身を起こし、真剣な目になる。ゼロの瞳が、また別の戦場を思い出すように静かに光っていた。

 

「お前の模擬戦相手は、カイ、ハヤト、リュウの三人だな。話を聞く限り――残りの模擬戦期間で、勝つのは厳しい」

 

「な、なんで!? 一対一なら勝ったじゃん!」

 

「その“一対一”に、こだわりすぎなんだよ。戦場で一対一なんて都合よく成立しない。むしろ、多対一、あるいは多対多の方が普通だ」

 

「それは……」

 

リタは唇を引き結ぶ。否定できない。模擬戦の記憶が鮮明に浮かんでくる。

 

「それに、相手の三人は“軽キャノン”時代から訓練してる。ネモに乗ってからはヤザンの直伝でみっちり鍛えられてる。志願兵とはいえ、実力ならかなり高い。普通にやっても苦戦する相手だよ」

 

「でも、それって私が弱いってこと……?」

 

「違う。むしろ逆だ。お前が“異常”に強いから、今みたいな三対一をやらされてる。けどな……そんな状況で勝てるのって、僕とアムロとヤザン、それにあと何人か――本当に、両手で数えられるくらいだ」

 

「……勝てないじゃん!」

 

リタが身を乗り出す。悔しさが滲み出た声に、ゼロは淡々と、しかし優しい目で言った。

 

「だから、“勝てないなりに学べ”ってことさ。お前がニュータイプだってバレたら、敵に囲まれるのは当たり前なんだ。“あいつは危険だ”って、真っ先に狙われる」

 

フォウが頷く。「前線に出るなら、そんな場面は必ずある」

 

リタは一瞬だけ瞳を伏せた。

 

だが、その肩が、わずかに震える。

 

「……うん。わかってる。わかってるんだけど……悔しいんだよ、やっぱり」

 

「悔しいって気持ちは、次の強さになる。そう教えたのは、ヤザンさんだったな」

 

ゼロが笑みを浮かべ、カップを持ち上げる。

 

「それでも続けるなら、俺たちは応援するよ。なあ、みんな」

 

「もちろん」

 

「当然」

 

「頑張って、リタ」

 

「俺にできることなんて少ないけど応援するよリタ」

 

ドゥー、フォウ、カミーユ、ヨナが順に声を重ねる。リタは、ようやく、照れくさそうに小さく頷いた。

 

「うん……ありがとう。がんばるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうにか、やり切った〜……」

 

最後の模擬戦が終わると同時に、カイ・シデンがネモのコックピットから転がるように出てきて、そのまま格納庫の床に座り込んだ。額には汗が浮かび、息を荒くしながら手をついている。

 

「はあ……はあ……最後の二日間はヤバかったですよね……」

 

同じく息を切らせながら、ハヤト・コバヤシが格納庫の壁に背を預けて座り込む。

 

「だな……」

 

リュウ・ホセイも重たそうに腰を下ろす。声には達成感と、張りつめていた緊張が抜けたあとの疲労が混ざっていた。

 

「負けはしなかったが、2人落とされてもおかしくなかった戦いばかりだった……」

 

「まったくさ。教官の“最後2日で2人以上落とされたらジャブローじゅうのトイレ掃除”って宣言、マジで命令書でも出すんじゃないかって怖かったぜ」

 

「冗談とかじゃなかったですよね、あれ。絶対本気で命じてきますよ。しかも一筆書かせたうえで」

 

「ほんとにな……」

 

3人が顔を見合わせてうなだれると、格納庫の扉が開く音がした。

 

重たいブーツ音が響く。ヤザン・ゲーブルが、腕を組んでゆっくりと歩いてくる。その後ろには、長い金髪を揺らした少女――リタ・ベルナルがいた。

 

「お疲れだな。お前ら」

 

ヤザンの一言に、3人は立ち上がりかけて、リタの姿に目を見張った。

 

「……まさか、その娘が……?」

 

「そうだ」ヤザンは口角をわずかに上げた。「お前らと、この2週間ずっと戦ってたアレックスのパイロットだ」

 

少女は一歩前に出て、軽く頭を下げる。

 

「リタ・ベルナルです。2週間……ありがとうございました」

 

「え……えぇぇぇぇ!?」

 

3人の叫びが、格納庫中に響いた。

 

「こんな可愛い子が!?」

 

「信じられねぇ……」

 

「おいおい……マジかよ……」

 

口々に驚きと困惑と、若干の敗北感を呟く3人に、リタは悪戯っぽく微笑む。

 

「というか、トイレ掃除って冗談じゃなかったんですか? 最終日の3人の気合い、凄かったですよ? もう、別人かと思いました」

 

「いや、リタさん……」とハヤトが疲れた顔で肩を落とす。「こっちは命がけでしたから……」

 

「教官がジャブローのトイレの場所の地図を用意させてた時には、びっしりと冷や汗が出たよ」

 

リュウも頷きながら、心底からの安堵を洩らした。

 

「もうしばらく、模擬戦は見たくねぇ……」

 

その言葉に、ヤザンはニヤリと笑いながら言った。

 

「甘ぇな。お前らの戦いは、まだ始まったばかりだ」

 

リタの小さな笑い声が、格納庫の静けさに混じって響いた。

 




70-90 さん誤字報告ありがとうございます

ジョニーはイングリッドを取りましたが、読者様方ならキシリア様とイングリッドどっちを取ります?

  • 紫おばさん
  • キシリア様
  • イングリッド
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