ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ジャブローの静かな午後。
特別に借り受けた一室のテーブルの上には、式場のパンフレットや日程表、招待客リストの案がずらりと並んでいた。
アムロはその中から一枚を取り上げ、斜め向かいに座るシイコを見た。
「……ムラサメ博士に、バージンロードをお願いしようと思う」
その言葉に、シイコは一瞬だけ目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。
「いらないわ。今の時代、父親がいない人なんて山ほどいるんだから」
その口ぶりに棘はなかった。
シイコはゼロの影響もあってムラサメ博士の過去を理解していた。
だが、それでも父親と呼びたいとは思っていなかった。
アムロは、それ以上は押さずに引き下がった。
(……でも、何とか呼べる形を探しておきたいな)
その考えは胸の奥に仕舞い込み、タイミングを見て仲間に相談するつもりだった。
ふと、シイコが優しい口調で尋ねた。
「……お母さんを呼べないの、残念だね。数ヶ月前に亡くなったんでしょう?」
アムロは小さく頷いた。
「……そうだね」
それだけを返した。
しかし、その言葉の裏で――胸の奥では冷たい影が揺れていた。
(死んでくれて嬉しいなんて、そんなことは思わない。
……でも――涙は流せなかった)
母が亡くなったという報せが届いたとき、アムロは父・テムと相談し、葬式は母の暮らしていた地で向こう側の"母と親しい人間"に任せた。
その日程には軍務を重ねて入れ、正当な理由を作って自ら欠席した。
なぜなら――母は父のおかげで金に困ることなく地球で暮らしていながら、その生活の中で愛人を作っていた。
それを知ったとき、彼の中で「母」は既に――終わっていたのだ。
それでも、それを今この場でシイコに言う気はなかった。
彼はただ静かに微笑んで、次のパンフレットへと視線を移した。
シイコもまたそれ以上は聞かなかった。
2人の間に、静かな時間が流れていた。
テム・レイの研究室。その奥のひとつ、セキュリティロックがかけられた小さな会議室の中。
この時間帯、外部への音は遮断され、会話が外に漏れる心配はない。
アムロ・レイは、テーブルの端に静かに腰を下ろしていた。
ゼロ・ムラサメ、フォウ・ムラサメ、ドゥー・ムラサメ——その名にムラサメの姓を持つ者たちが、順に席についていく。
ドゥーは椅子に深く座りながら、膝の上のハロを抱えつつ、ストローでジュースを飲んでいる。
「相談って何ですか? アムロさん」
ゼロが腕を組み、訝しげな顔で切り出した。
「結婚式の相談なんてされても、僕らじゃ力になれないと思いますけど。当日、力仕事がいるって言うなら僕はやりますけど」
その横でフォウが、ふっと意味ありげに笑った。
「だったら君だけでドゥーは呼ばないと思うけど」
その目はどこか、見透かすように柔らかく光っている。
彼女は、薄々理由を察しているようだった。
アムロはゆっくりと目を閉じ、一拍の間を置いた。
「……君たちを結婚式に招待する方が、むしろ僕にとっては優先度が高いと思ってる。だから本音を言って欲しいんだ」
彼は静かに息を吐いた。
「……ムラサメ博士が式の会場にいたら……嫌かな?」
ゼロとドゥーは、一瞬目を見交わした。
その意図に、ようやく納得したようにそれぞれの肩の力が少し抜ける。
フォウは「やっぱりね」と言いたげに、微かな微笑みを見せた。
「それは」
ゼロが慎重な口調で問い返す。
「ムラサメ博士を……呼びたいってことですか?」
アムロは頷いた。
「ああ」
言葉を選びながら、真っ直ぐに彼らの目を見据える。
「……ムラサメ博士は、やったことに問題はある。それは間違いない。
でも、シイコにとっては、たったひとりの父親だ」
その声に嘘はなかった。
「……けれど、博士のやったことが無かったことになるわけでもない。
だから君たちに、正直に話を聞いておきたいんだ。今、君たちは……博士のことをどう思ってる?」
室内に、一瞬の静けさが落ちた。
アムロの問いは、ただの確認ではなかった。
本当に、彼らの心情を理解した上で行動したいという意志が、その声には滲んでいた。
ゼロは一度、隣のフォウとドゥーに視線を投げかけた。
お互いの顔色を確認するように、ほんのわずかな間が流れる。
「……じゃあ、僕から」
静かに、だがはっきりとした声でゼロは口を開いた。
「僕としては、別にいてくれても構いませんよ」
アムロを真っ直ぐに見据える。
「前にも言った通り、以前の連邦の状況じゃ孤児でも何でも使って準備しなきゃいけなかったでしょうし。
あの人が、笑いながら実験する悪の研究者だったわけじゃない。僕にとって憎んでいる人じゃありません」
それを聞いたフォウが、ふっと鼻で笑った。
「ふ〜ん。博士のお気に入りだったゼロは、そうなんだ」
どこか拗ねたような声音だが、突き放すものではなかった。
ゼロは肩を竦めて返す。
「そりゃね。というか、今はあの人に命じた連邦の上層部がバカだったって思うよ。
強化人間作るくらいなら、テム・レイ博士にアレックスでも作ってもらって、アムロさんを前線に出せばよかったんだよ」
「僕たちの価値、なくなりそう〜」
ドゥーが、机に突っ伏してハロをつつきながらぼやく。
【イタイゾ! ドゥー!】
ハロがカタカタと反応した。
ゼロが苦笑しながらフォウに目を向ける。
「フォウは違うの?」
フォウは小さく息をつき、少しだけ視線を落とした。
「私は……複雑かな・・」
小さな声だったが、よく通る声音だった。
「あの人がゼロに向けてた熱意の三割でも私に向けて、他の研究者任せで放置なんてしなかったら……
私は記憶を失わなかったかもしれないから」
アムロはその言葉に胸が詰まった。
(……そうだよな)
内心で呟く。フォウの笑顔の裏にそんな痛みがあることを、今さらながら噛み締めた。
けれど、フォウはふっと顔を上げ、微笑んだ。
「でもまあ、憎んではいないよ。強化人間になったからこそカミーユに会えた。一緒に戦えてもいるし。
失った記憶は戻らないけど……これから楽しい思い出を作ろうって、カミーユとも話してる。
ゼロの言う通り、命令した上層部が悪いってことも、今はちゃんとわかってる」
「……ありがとう」
アムロは深く頷き、静かに礼を述べた。
その視線が自然とドゥーに向けられる。
ゼロもフォウも同じく目を向けた。
ハロを抱き直したまま、ドゥーはコトンと頭を上げた。
「僕は別に無いかな」
首をかしげるようにして、あっさりと続けた。
「僕はフォウと違って記憶なくしたわけじゃないし、そもそも望んで実験してもらいたかったしね。僕は」
3人の内心にふと浮かぶ。
(……そういや、そうだった)
この子は——自分から「真のニュータイプ」になるために、強化人間になる道を選んだのだと。
その想いの純粋さと危うさを、ゼロもフォウも知っている。
アムロも静かにその答えを受け止めていた。
「何というか……もっと、こう、博士への負の言葉が出るんじゃないかと思ってたんだがな」
アムロは率直な感想を口にした。思っていたよりもずっと穏やかな空気に、拍子抜けしたようでもあった。
「いや〜」
ゼロが苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「アムロさんやヤザンさんと出会う前なら、それはもう酷い言葉が出たと思いますよ? 罵詈雑言のオンパレードだったでしょうね」
「確かに」
フォウがくすっと笑いながら頷いた。
「あの頃のゼロはやばかったね。
部屋に入ってくるだけで空気がピリピリしてたもん。隣に座っただけで殺気で体調崩しそうだった」
「そうなの?」
と、ドゥーが首をかしげた。
この場にいる中で「あの頃のゼロ」を知らない、唯一の存在だった。
ハロを抱えたまま純粋な瞳で尋ねる。
「どんなだったの?」
アムロは苦笑しながら思い返す。
「どんな……か。そうだな、この世の全てを憎んでいるような感じだったよ。
初めてやった模擬戦でも、模擬戦なのに完全に“殺意”が乗ってた。
正直……止めた方がいいかと思ったくらいだ」
「お〜」
フォウが肩を揺らして笑う。
「連邦最強のニュータイプ相手に凄いことするね」
ゼロは頬をかきつつ、バツが悪そうに笑った。
「あれはほんとに……我ながらやりすぎだったと思ってますよ。あの頃は、どこにも怒りをぶつけられなかったから……」
言いながら視線を一瞬だけフォウやドゥー、そしてアムロに向けた。
今は、こうして話せる仲間がいる。怒りを抱え込まなくて済む場所がある。
それが、何よりの変化だった。
☆9評価ありがとうございます! 爆死の達人さん TAI GATSさん erojiさん ゲンスケさん Amfさん
カマリアさんもフランクリンと同じで愛人は作ったけど、きっかけを作ってまた再スタートさせようかとも思ったのですが、小説版逆襲のシャアを読んでその気も失せました。アムロが自分の体質が両親のどちらにも似てないことに傷付いてるのを見てさらにカマリアの評価が落ちました。まさかの托卵疑惑まであるのかよと。
なのでフェードアウトしてもらいました。あの人が結婚式の招待受けるとは思えないし、受けたとしてどんな顔で出るのかちょっと想像できないので。