ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

92 / 178
幕間: 結婚式準備3

少し場が和んだ空気のまま、アムロは姿勢を正した。

 

「……さて。相談に入る前に、聞いておきたいんだが。」

 

真剣な声にリタをはじめ皆がアムロに視線を向けた。

 

「リタは、ムラサメ博士についてどう思っている?

君がいた研究所は博士直属の場所ではなかったが――連邦で最も優秀な強化人間研究者は、やはりムラサメ博士だ。」

 

その言葉で、リタは(やっぱり博士の話か……)と薄々察しながらも、自然な口調で返した。

 

「博士に関しては恨んでいませんよ。

私のいた研究所で、子供たちを犠牲にしていたのは博士じゃなく、比べるのもおこがましいような連中でしたし。」

 

少しだけ言葉に棘が混じった。リタの記憶に浮かぶのは、自分の周囲で失われた命たち。

 

それでも、リタは続けた。

 

「さすがに恨んでたら――未来のためとはいえ助手なんてやりません。」

 

アムロはその答えに深く頷いた。

 

「そうか。良かった。」

 

ホッとした表情すら見せる。

 

リタは皆の顔を見回し、続けた。

 

「皆さんもそうでしょ?

あの人はあくまで“ジオンのニュータイプに勝つため”に研究してた。最速で成果を出そうとしてたから、実験体を無駄にはしなかった。

だから博士が直接“殺した”って人は少ないんじゃないですか?」

 

ゼロが静かに頷いた。

 

「確かにな。死んだのは――他の研究者の担当ばかりだったな。」

 

淡々と語るその言葉に、重さがこもっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの言葉に軽く頷き返したアムロは、一呼吸置いて皆に視線を向けた。

 

「……それで、本題に入る。」

 

場が静まる。

 

「俺は――」とアムロは少し迷いながら言葉を選んだ。

 

「俺は、ムラサメ博士を……結婚式に招待したい。

それも、ただの出席者じゃない。妻のバージンロードを歩いてもらいたいんだ。」

 

思わぬ言葉にリタが目を見開く。

 

アムロは続ける。

 

「だが……博士に直接言っても多分、断られると思う。

それにシイコも、博士をもう憎んではいないが――呼べるほどにはなっていない。

どうすればいいと思う?」

 

一瞬、場の空気が重くなった。

 

リタが唇を噛んで、少し難しそうな顔をする。

 

「……博士を結婚式に……ですか。」

 

ぽつりと呟いたその声には、慎重な迷いが滲んでいた。

 

考え込むリタの姿に、ゼロも腕を組んで真剣に思案を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

リタは深く考え込んでいた。

 

アムロさんは恩人だ。強化人間を作り道具として扱うのをヤザンさんと共に止めてくれた。

未来で自分とミシェルが犠牲になり、1人ヨナを残すことになる運命。

その未来を変えてくれると約束してくれたのがこの人だった。

 

……だからこそ、力になりたい。

 

だが「ムラサメ博士を式に呼ぶ」というのは、簡単な話じゃない。

ましてバージンロードまで――それは式の象徴とも言える役割だ。

 

だからこそ、どうしてアムロさんがここまで強く願うのか、まずは聞きたかった。

 

リタは顔を上げて、静かに尋ねた。

 

「……そもそもアムロさん。

なぜ博士をそこまで呼びたいんです?

バージンロードまで歩いてほしいって、それ相当な想いですよ。

ただシイコさんの父親、ってだけでそこまですることですか?

シイコさん本人も口に出して望んで無いですし、博士も断りそうですし。」

 

問いかけに、アムロは僅かに肩を震わせた。

 

「それは……」

 

言葉に詰まる。

 

ニュータイプの感覚で、リタは察した。

アムロの中にまだ自分でも整理のついていない感情があることに。

目に見えないその揺れが、リタに痛いほど伝わってきた。

 

アムロはしばらく沈黙した後、息を吸い込み、ようやく言葉を紡ぐ。

 

「……そうか。俺は――」

 

「“真っ当に”大事に思い合っているあの親子に、幸せを見てほしいんだ。

家族ってものがきちんと家族である形を……“あの人たち”に見てほしい。

そういう場を作りたい……それだけだと思う。」

 

その言葉に、リタはゼロ、フォウ、ドゥーと視線を交わす。

皆、“あの人たち”が誰を指すのか察しながらも、そこに至る感情の背景までは読み切れていない。

 

アムロはそんな空気を感じて、少し苦笑した。

 

「……話すよ。ただ、その前に……」

 

視線をドゥーに向けた。

 

「ドゥー、ちょっと話しづらい内容になる。ハロに耳を塞いでもらってもいいか?」

 

その言葉にドゥーはキョトンとした顔をしたが、すぐに首を傾げて言った。

 

「それって――いわゆる不倫とか?」

 

部屋の空気が凍りついた。

 

ゼロ、フォウ、リタ、そしてアムロまでが驚いた表情を浮かべた。

 

「えっ……!」

 

ドゥーはふくれっ面になって言い返す。

 

「そりゃ僕はこの中で一番年下だし、小さいけどテレビくらい見るよ。

僕だけ仲間はずれってイヤだよ?」

 

アムロは少し唇を引き結び、深い息を吐いた。

 

「……わかった。話すよ。

もうその件は“終わって”いる。

だから、今なら話せる。だがこれは――ここだけの話にしてくれ。」

 

全員が静かに頷いた。

アムロは目を閉じ、一瞬だけ表情を引き締めて、言葉を紡ごうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロが静かに話し終えた。

母カマリアの裏切りとも言える所業を――静かに、しかし一切感情を込めずに。

 

部屋の空気は沈黙に包まれた。

皆、返す言葉を慎重に選んでいた。

 

先に口を開いたのはリタだった。

顔を僅かに歪めながら、ため息まじりに言う。

 

「……つまりテムレイさんのおかげで、

その人は食うに困らなかったんですね。

それでいて――」

 

フォウが続きを引き取った。

声に微かな怒りを滲ませながら言う。

 

「なのに、まだ小さかった頃のアムロさんを育児放棄して

地球に残った。

地球に住めたのは、テムレイさんの妻だから地球居住権が貰えたのに――」

 

ゼロが顔を伏せ、息を吐く。

 

「……それで地球に残った理由は、

愛人と一緒にいたかったから?

アムロさんとテムさんが地球に降りているのに、

確かに姿を見ないとは思いましたが。」

 

ドゥーは膝に抱えていたハロをギュッと抱き寄せ、口を開いた。

 

「……病気で亡くなって……」

最後まで言えず、俯いてしまう。

 

アムロはそんなドゥーを一瞥したあと、静かに言った。

 

「まあ――所業だけ聞けば、分かるさ。

……“病気で亡くなって良かった”かもしれない。

俺と父さんは、今や連邦の柱だ。そのうちマスコミが嗅ぎつけていたかもしれないからな。」

 

ゼロがわずかに皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

「最高のスキャンダルになったでしょうね。

でも仮になったとしても、

出版社はゴップさんに叩き潰されていたでしょうけど。」

 

フォウは肩をすくめ、しかし真っ直ぐな目でアムロを見た。

 

「……それに、アムロ。

テムさんとあなたの成果は、母親が不倫していたくらいじゃ揺るがない。

誰が何を言っても、それは変わらないよ。」

 

リタが小さく首を振った。

その目は冷ややかだった。

 

「……でも、母親はいいサンドバッグにはされてたでしょうね。

世間の娯楽のはけ口に。だからこそ――死んだことで救われたのかもしれません。」

 

アムロはその言葉に、ただ静かに頷いた。

 

「……そうだな。」

 

その表情にはもう、悲しみも怒りもなかった。

ただ――静かな諦めと、一つの決意が滲んでいるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リタたちは顔を見合わせた。

言葉は交わさずとも、皆が同じ決意を抱いていた。

 

――絶対に、アムロさんにシイコさんとムラサメ博士の“幸せ”を見せてやる。

その強い想いが、静かに場の空気を染めていく。

 

まずリタが意を決して声を上げた。

 

「では――作戦会議から始めましょう。

まずはムラサメ博士から。どうやって式に呼びますか?」

 

ゼロがすっと手を上げ、口元に薄い笑みを浮かべて言った。

 

「考えたんですが……いっそ“罰”ということで脅迫しませんか?」

 

アムロが少し眉を上げた。

「脅迫……?」

 

ゼロは慌てて手を振る。

 

「もちろん、シイコさんを脅すのはダメです。最悪です。

でも――“自罰的”で“贖罪”に生きているムラサメ博士なら、こっちの方が効くと思います。」

 

アムロは腕を組んで考え込んだ。

「……罰か。」

 

ゼロは頷く。

 

「はい。呼んでしまえばこちらのものです。

あの博士は娘が大事で仕方ないんだから、

一度娘のウエディングドレス姿を見たら……もうイチコロで号泣ですよ。

あとは流れでヴァージンロードを歩かせましょう。」

 

ドゥーがハロを抱えながらにやりと笑う。

 

「お〜容赦ないね〜。」

 

フォウが頷き、力強く言い切った。

 

「要らないからね、“情け”とか“遠慮”なんて。

すべては、2人の“幸せ”のため。

それを“大恩人”アムロに見せるためさ。

そのためなら――全てが正義だ!」

 

「ですです!」

とリタも拳を握って続けた。

 

「罰としては、こう言いましょう。

“強化人間になった子は孤児だ。

だから周りに馬鹿にされないために“ムラサメ”の名を使っている。

それはただの識別番号のおまけじゃなくて――

博士の“子供”のようなものだ”、って。

 

今の博士はサイコミュ関連の権威です。連邦でも充分な高官。

そんな博士が、自分の名を持つ子たちに頼まれたのに娘の結婚式だけ断ったらどうなるでしょう?

“強化人間はただの道具”って世間に見られる。

娘と“同等の扱い”を、ちゃんと見せてもらいましょう。」

 

その場に静かな熱が広がった。

 

アムロはそれを見て、ゆっくりと目を閉じ、そして苦笑を浮かべた。

 

「……君たち、ほんと頼もしいな。」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。