ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
場の空気は一転して戦略会議の様相を帯びていた。
テーブルの中央に置かれたハロさえ、静かにその場の熱を感じているようだった。
アムロは皆を見回し、静かに口を開いた。
「……ありがとう。君たちがいてくれて本当に心強い。」
その一言に、ゼロが軽く肩をすくめた。
「何言ってるんです、僕たちにとってもアムロさんは恩人ですから。
これぐらい当然ですよ。」
フォウもにっと笑う。
「それにさ、こういうのはチーム戦なんだよ。1人で悩むもんじゃない。
今日は全力で博士の背中押してやろうじゃん。」
ドゥーはハロをぎゅっと抱きしめ、
「博士、泣いちゃうかな……」
と少しわくわくした顔をしていた。
アムロは笑い、
「じゃあ詰めるぞ。博士が断れない形に持っていこう。
スピーチをどう誘導するかも考えておきたい。」
ゼロが頷く。
「まずは“ムラサメの名を持つ子供たち”の話を最初に出しましょう。
博士の功績は今や連邦の中でも重要なものです。
そして、我々が尊敬している姿勢もちゃんと伝える。
そこから“娘の式に出ないというのは矛盾する”と流れを作る。」
フォウが指を立てて補足する。
「あとは“シイコさんのため”というよりは“自分の責任として”
“娘の姿をきちんと見届けてほしい”って伝えるのが効果的かな。
感情より義務感に訴えた方が博士には効くと思う。」
リタはしっかり頷きながらメモを取り、
「なるほどなるほど……それで押して……最後に博士に“あなたが歩かなければ誰が歩くんです?”って詰めるんですね!」
ゼロが笑いながら、
「完璧だよ、リタ。それで行こう。」
全員の視線が自然とアムロに集まった。
アムロは少し息を整え、真剣な声で言った。
「……ありがとう、本当に。頼もしい仲間がいてくれて……心から感謝してる。」
そこへリタが勢いよく手を打った。
「じゃあ今から突撃しましょう!ムラサメ博士のところに!」
アムロは思わず驚いた顔になる。
「今から!? さすがに急では……」
だがリタは自信満々に微笑んだ。
「大丈夫です。ここに博士の助手がいることをお忘れですか?
今日の博士のスケジュールは把握してます。
多少ずれても問題ない内容ばかり。今なら話しかけても大丈夫です!」
フォウがふっと笑った。
「さすが助手さん。抜け目ないな。」
ゼロも立ち上がる。
「じゃあ行こう。アムロさん、覚悟はいいですか?」
アムロは小さく苦笑しながら頷いた。
「ああ。……頼むぞ、みんな。」
仲間たちは一致団結して扉へと向かった。
その歩みに迷いはなかった。
ムラサメ博士の研究室のドアが静かに開いた。
「博士、入りますよ」
助手として慣れた手つきでリタがカードキーを翳し、扉を開けて先陣を切る。
その後ろからアムロ、ゼロ、フォウ、ドゥーが揃って入ってきた。
部屋の奥ではムラサメ博士がホログラフの資料を睨んでいたが、ふと気配を感じて顔を上げた。
その目が驚きに見開かれる。
「……アムロ・レイ君? ゼロ、フォウ、ドゥー……そしてリタ。どうしたんだ、こんな大勢で。」
「ちょっと相談がありまして」
リタはにっこりと微笑みながら部屋の中央まで歩み寄る。
アムロが一歩前に出て、軽く会釈をした。
「突然すみません、博士。今日はひとつ……お願いに参りました。」
ムラサメ博士は首を傾げた。
「お願い……私に何ができる?」
アムロは少し呼吸を整えて切り出した。
「博士。近々、僕は結婚します。お相手は……シイコさんです。」
博士の肩がぴくりと動いた。
「……そうか。……そうか……それは……めでたいことだ」
だがその声はどこか沈んでいた。
アムロは続ける。
「それで、シイコさんのバージンロードを歩いていただけないでしょうか。父親として。」
博士の顔が一瞬凍り付いた。
「……私が? そんな……とんでもない。私にその資格などない。むしろ出席自体も辞退させてくれ。彼女は私を恨んでいる。私が行けば、むしろ式の雰囲気を壊してしまう……」
言い終える前に、リタが一歩踏み込んだ。
「博士、それは逃げです」
その声はいつもの柔らかさとは違う鋭さを帯びていた。
「今さら逃げないでください。私たち、ムラサメの名前に関わる子はあなたのことを見ています。あなたが“私たちを大事に思っている”と、外にも示して欲しいんです。ましてや自分の娘の晴れ舞台に、父親がいなかったらどう思われるか……」
ゼロも続く。
「博士。あなたがどんなにシイコさんに贖罪の気持ちを持っていようと、それはあなたの中の話です。でも、シイコさんがドレス姿でバージンロードを歩いて来てくれたら、きっとそれが彼女の新しい一歩になるはずなんです。その場にあなたがいなかったら……その機会すら与えられない。」
フォウが一歩進んで言葉を重ねた。
「そして私たちにとっても、博士が“ムラサメの名を持つ子”を大事にしていることを示す大事な場でもあるんです。あなたが娘さんの幸せを見届けなかったら、それは強化人間は“道具のままだ”と、世間に思わせることになる。」
ドゥーが両手でハロを抱え、少し震える声で言った。
「博士……僕も……お願いしたい。僕たちに……胸を張らせてほしい。」
部屋はしんと静まり返った。
ムラサメ博士は俯いたまま、両手をわずかに握り締めていた。
しばらくの沈黙ののち、震える声で呟いた。
「……お前たちが……そこまで言うのか。」
アムロは静かに言った。
「はい。これは“お願い”ですが……あなたにしか出来ない、大切な役目です。」
博士は肩を落とし、深い息を吐いた。
「……わかった。……出るよ。その……ヴァージンロードも……歩こう。娘が……それを望むかどうかはわからないが……私は……逃げない。」
その言葉に、リタは満面の笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、博士。」
ゼロもにっと笑い、フォウは小さく頷き、ドゥーはホッとした顔を見せた。
アムロは一歩進み、改めて深々と頭を下げた。
「博士、ありがとうございます。僕も……感謝します。」
こうして、“最初の壁”は突破された。
部屋の空気は少し和らぎ、皆の表情には静かな決意が浮かんでいた。
ムラサメ博士の説得を終え、一行は再びテム・レイの研究室の一室へと戻ってきた。
部屋の空気は少し弛緩していたが、まだ“次の壁”が残っている。
アムロが小さく息を吐いた。
「……さて。次は……シイコをどう説得するか、だな。」
それまで落ち着いていたリタが真剣な顔で手を上げる。
「シイコさんについてですが……こっちは下手に作戦立てない方がいいと思います。」
皆の目がリタに向けられる。
「シイコさん、そういう“ズルいの”嫌いだと思います。もしこっちが周囲を固めて誘導しようとしてるってわかったら……それこそ逆効果になる気がします。」
ゼロが腕を組んで頷いた。
「確かにな。ムラサメ博士の時は“罰”だって名目があったからまだ押せたけど……シイコさんに対しては正攻法しかないか。」
フォウが椅子の背にもたれて少し苦笑した。
「ってことはアムロの正面突破だね。真正面から話すしかない。」
ドゥーがストローでジュースをちゅっと啜りながら首を傾げる。
「泣き落としとか?」
その言葉にゼロが思わず吹き出した。
「ちょっと後でお前がどんなテレビ見てるか話せよ……でも、まあその通りだな。アムロさん。」
ゼロは姿勢を正してアムロを見た。
「アムロさんがシイコさんに、“なぜムラサメ博士と歩いて欲しいのか”を正面から伝えるのがいいと思います。下手に飾らず、本音で。」
フォウも頷いた。
「そうすれば、もしダメでも納得してくれるはずだし……何より一番大事なのは、2人がちゃんとわかり合うことだしね。」
アムロは静かに頷いた。
「……わかった。確かに、それが一番だな。……俺の本音、ちゃんと伝えてみるよ。」
その顔には、ムラサメ博士を説得した時とはまた違う、家族の未来に向き合う父としての覚悟が宿っていた。
アムロが部屋の扉を開けて中へ入ると、部屋の奥ではシイコがソファに座り、膝の上にメモ帳を広げたまま、手元の端末で何かを調べていた。
画面は結婚式関連の情報で埋まっているようだった。
「どうしたんだ?」
ジャケットを脱ぎながらアムロが声をかける。
「マチルダさんに結婚式のこと詳しく聞いたからさ。タメになる話、たくさん聞けたよ。本番の段取りに活かせるし、わからないことがあればすぐ聞ける先達がいるのっていいね。」
シイコは顔を上げ、少し楽しげに言う。
「……ああ。マチルダさんか。」
アムロは素直に頷いた。長い間の戦友でもあり、今や家庭を築いた先輩でもあるマチルダは頼りになる存在だ。
だがその瞬間、シイコがじとーっとした目でアムロを見つめてきた。
「……何かな?」
思わず問い返すアムロ。
「人妻はダメだよ?」
小さく、しかし妙に念を押すような声音だった。
「ぶっ……!」
吹き出しそうになるアムロ。「何でそうなる!?」
「だってアムロ、マチルダさんのこと好きでしょ?」
どこかからかうような、けれど本気でも気にしている様子だった。
「違う違う。そりゃあ綺麗な人だとは思ったけど、それで浮気なんてするわけないよ!」
両手を軽く上げて否定するアムロ。
けれどシイコは意地悪そうにさらに畳みかける。
「でもアムロが私と会ってなくて、マチルダさんにフィアンセがいるって知らなかったらどうなってた?」
言葉に詰まるアムロ。
そんな可能性上の話、と思いながらも――なぜか、そんな場面でマチルダを追いかけている自分の姿が妙に鮮明にイメージできてしまった。
だが、その想像を振り払うように深く息をつき、シイコをまっすぐ見つめる。
「……そんな俺も、もしかしたらいたかもしれない。でも――今の俺は違う。君だけだ。君を悲しませるようなことは絶対にしないよ。」
シイコは少し目を丸くし、それからぷいと顔をそむける。
「……もうすぐ結婚するっていうのに、そういうクサいこと言わない。」
そう言いながらも、耳までほんのりと赤く染まっていた。嬉しさは隠しきれないらしい。
アムロはその反応を見て、小さく微笑んだのだった。
そのまま少し間が空いた後、シイコはふと顔を戻してアムロを見る。
「……それで、アムロ。さっきから何か話したそうな顔してるけど、話があるんでしょ?」
アムロは軽く息をつき、真剣な表情になる。
「ああ。大事な話があるんだ。」
そう言って、アムロはシイコの目をまっすぐ見つめるのだった――。