ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
アムロは静かに深呼吸をひとつ置いてから、シイコに向き直る。
「……さっきの話の続きになるんだけど、改めて大事なことを話したい。」
アムロの声は落ち着いていたが、その奥にはいつになく強い意思がこもっていた。
「俺は――母さんのことがあるから、余計に思うんだ。」
シイコの目がわずかに見開かれた。アムロが母の話を切り出すとは、少し意外だったのだ。
「今はもう亡くなってるから話せる。母さんは……父さんのおかげで地球に住めて、金に困らずに暮らせていた。
でもその上で、愛人を作ってた。俺と父さんがサイド7に上がった時も、自分は地球に残った。理由は……その愛人と一緒にいたかったからだ。」
言葉は淡々としていたが、アムロの拳は膝の上でわずかに震えていた。
それを隠そうともせず、ただ真っすぐにシイコを見つめて続けた。
「俺は……母さんが亡くなっても涙が出なかった。正せなかった。向き合うこともできなかった。
だから――シイコ、君にはそうなってほしくないんだ。」
シイコは黙って耳を傾けていた。アムロの言葉の重さを、しっかりと受け止めているようだった。
「ムラサメ博士は、やり方に問題はあったかもしれない。強化人間を作るという道を選んだ。でもそれは連邦の上層部の命令だった。
博士がやらなければ、もっと多くの犠牲が出ていたかもしれない。
それに、あの人が君のことを愛してるのは間違いない。ずっと背負ってきた罪を感じながら、それでも君の父親でいようとしている。」
アムロは一拍置き、さらに踏み込む。
「君が博士を完全に許せなくても構わない。憎んでもいい。でも……俺は知ってる。君は博士のことを憎からず思っている。
その思いを、大事にしてほしい。母の所業を正せずに終わって、涙も流せなかった俺と違って……君にはきっと、その先の幸せの形を作れるはずだ。」
そこまで言ってアムロは息を吐き、真摯な目でシイコを見つめた。
「俺は君と博士の幸せな形を、見たいんだ。君がウェディングドレスを着て、バージンロードを歩いていく姿を。
その隣に、博士がいて……お互いにきちんと向き合っている姿を、俺は見たい。」
静かな部屋の中に、アムロの言葉が深く響いた。
シイコは目を伏せ、膝の上で手をぎゅっと握ったまま、しばらく動かなかった――。
アムロの言葉が静かに終わったあと、しばし室内に沈黙が落ちた。
シイコは視線を落としたまま、じっと考えていた。
膝の上の指先がそっと絡められたり、解かれたりする。
やがてふっと小さく息を吐いて顔を上げた。
その目は潤んでいたが、迷いは少しずつ晴れてきたようだった。
「……アムロ、ありがとう。正直、父のことは……ずっと整理がついてなかったんだ。
カマリアさんのことも聞いて、いろんな気持ちがごちゃごちゃになって……でもね。」
シイコはそこで言葉を区切り、ゆっくり言った。
「ゼロやドゥー、フォウ……彼らを見ていると、わかるの。
昔はともかく、今の父は、本当に変わっているって。彼らの表情が教えてくれるんだよ。」
その瞳は、今や柔らかい光をたたえていた。
「博士としての責任もある。でも……父親としての気持ちも、ちゃんと持っている。
私が思っていたより、ずっと……変わってたんだなって。
……だったら、私ももう一歩、歩み寄ってみるべきなのかもしれない。」
軽く笑みを浮かべて続けた。
「バージンロード……歩いてもらおうかな。
ゼロたちの顔を見ていると、きっと父もそれを望んでくれているんだろうって、そんなふうに思えるから。」
ふっと目を細めたシイコの横顔は、どこか晴れやかだった。
「でも、式の最中に泣き出したりしたら……その時はちょっとだけ怒るかも。」
それを聞いたアムロは穏やかに微笑んだ。
「わかった。きっと博士にもちゃんと伝えておくよ。」
2人の間に流れていた影は、ほんの少し、光に溶けていったようだった。
「……わたしはいいけどさ。」
シイコはふと顔を上げ、アムロに問いかけた。
「……あの父親は、本当に来るの?」
アムロは穏やかにうなずいた。
「ああ。来てくれる。……それに、ヴァージンロードも歩いてくれるって言ってくれたよ。」
その言葉に、シイコの目が丸くなる。
「……式に出るだけならまだしも、そこまで了承させたの!?」
少し信じられないという顔でアムロを見つめた。
しかしアムロは静かに微笑んでいるだけだった。
シイコはしばらく考え込むように視線を伏せた後、ふっと視線を戻す。
「ねぇ、アムロ。正直に言って。……ブレーンは誰?」
一瞬アムロが目を瞬かせた。
聡いな、と内心で感嘆しつつも、諦めたように口を開く。
「ゼロ達に相談したよ。さすがに俺ひとりの考えじゃ……あの博士をその気にさせるのは難しいと思ったからな。」
「ふふん……やっぱりね。」
シイコはどこか満足げに微笑むと、少しだけからかうように続けた。
「じゃあ、私の説得にも作戦立てた?」
アムロは即座に首を横に振る。
「そこはノータッチだ。君はそういうの嫌だろ?だから……俺の本心だけを伝えたよ。」
その言葉にシイコは再び微笑んだ。
「正解。」
柔らかな声でそう言い、すっとアムロの手を取った。
「それなら……ちゃんと届いたよ。」
【翌日 テムレイ博士の研究室 雑談スペース】
アムロがゼロ達のいるテム・レイ研究室の一室に入ってくる。
……そのすぐ後ろに、シイコの姿も見えた。
「……ん?アムロさんだけじゃなく、シイコさんも!?」
ゼロが思わず身を乗り出す。フォウやリタも顔を見合わせ、全員にわずかな緊張が走る。
(これは……説得、失敗して怒鳴り込みに来たんじゃ……)
ゼロ達の間に不穏な空気が流れかけたその時。
「応援、ありがとう。」
シイコが微笑んだ。
「おかげで私は、ヴァージンロードをあの人と歩くことになったよ。」
「おおっ……」
ゼロ達は一斉に安堵の息をつく。
「それは何より……」とゼロ。
「よかったぁ〜」とドゥーがほっとしてハロをぎゅっと抱きしめた。
フォウも「上手くいったんだね」と素直に喜んでいる。
だがシイコは続けた。
「――それはそれとして、リタとフォウは、結婚式が終わってしばらくしたらシミュレーターで特訓だからね。機体はアレックス同士。公平でしょ?」
「えぇぇ!?」
リタとフォウが同時に声を上げた。
「そんな……お二人の幸せを邪魔しちゃ悪いですし……」とリタが言い訳気味に笑う。
「そうそう、それにメインはゼロだから。相手ならゼロがするよ」とフォウがあっさり裏切り宣言。
「おい!仲間を売るな!」
ゼロが思わず叫んだ。
シイコはにっこり。
「ゼロには私、勝てないし。だからゼロにはぴったりな相手が、シミュレーターで相手してくれるよ。」
ゼロ達は瞬時に悟った。
ゼロを倒せる相手――そんな存在は、連邦全体でも片手で足りるほどしかいない。
そしてシイコは今や、その頂点の相手に永久フリーパスで何でも頼める立場になっている。
ゼロは苦笑しつつ、アムロに向き直った。
「そんな……嘘でしょアムロさん。俺、頑張ったんですよ?おふたりのために……」
アムロは申し訳なさそうに肩をすくめた。
「すまん、ゼロ。俺達にとって君達は恩人になった。だからこそ君達に、これから先、死んでほしくない。
それゆえの――愛の鞭と思ってくれ。カミーユに教えたりしてるうちに、君がさらに強くなるための方法も色々浮かんできたんだ。」
その決意のこもった目を見て、ゼロも観念したように苦笑した。
「分かりましたよ!俺だってまだまだ死ぬわけにはいきませんからね!胸を借りますよ、アムロさん!」
部屋に和やかな笑いが広がった――次なる鍛錬を覚悟しつつも、皆の心はひとつになっていた。
タルルさん誤字報告ありがとうございます。