ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: 結婚式

ジャブローの特設式場は、柔らかな光に包まれていた。

戦争の爪痕がなお残る世界にあって、今日は確かに「祝福」の日だった。

 

正面のバージンロードに、静かに姿を見せたのは――シイコ・ムラサメと、彼女の父・ムラサメ博士。

ぎこちなさはあった。博士の顔はいつになく強ばっていたし、シイコも最初は少し俯いていた。

それでも歩を進めるうちに――父と娘の表情は、次第に柔らかさを帯びていった。

 

そんなふたりの姿を、アムロ・レイはまっすぐに迎えていた。

視線に揺らぎはなかった。

シイコがバージンロードを歩むその姿を――アムロは、心から嬉しそうに見つめていた。

 

(――これでよかったんだ。)

 

そんな静かな想いが、彼の胸に確かにあった。

 

 

式の途中、スピーチの時間になり、カイ・シデンが壇上に呼ばれた。

マイクの前に立ったカイは、ニヤリと一度だけ口角を上げてから語り出した。

 

「いや〜、まさかアムロがね。こんなでけぇ舞台で主役張るとは、サイド7の頃は思わなかったぜ。」

 

既に場内の一部では笑いが漏れる。

 

「それでさぁ。俺ら、若かったんだ。アムロもハヤトも俺も。何をトチ狂ったか……。連邦軍の基地に、重機で突っ込んだことがあったんだよなぁ。」

 

「……!」

 

ざわりと場内が揺れた。

一般のゲストや、低階級の兵士たちは爆笑する。

だが――前方席の高階級軍人たちの中には、ピクリ、と頬を引きつらせる者も少なくなかった。

(ガンダム開発絡みのサイド7事情は……公にされてない。だが今更取り繕う場でもない、か……)

そんな思惑が、彼らの表情に滲んでいた。

 

カイはその空気すら面白がっていたのか、さらに軽妙に続けた。

 

「俺は今でも言うけどな、あの時があったから今がある!だろ?な、アムロ!」

 

カイが目配せを送る。

アムロは苦笑しつつ、そっと頷いた。

 

 

 

 

 

壇上のカイはひとしきり「重機突入事件」で会場を湧かせたあと、ニヤリとさらに話題を変えた。

 

「でな、みんな。知ってるか?今のアムロはなぁ――ま、そりゃあ 連邦トップエース さ。

でも昔のアムロは、想像できねぇくらい根暗だったんだぜ?」

 

会場がザワ……と静かになる。

新たなネタの匂いに、皆が耳を傾けた。

 

「飯はな?お隣さんが運ばなきゃ食わない。放っときゃ一日中部屋に引きこもってんだ。

ハマった機械には徹夜?当たり前だ。朝になっても『あと5分……』つって半日そのままってな。」

 

前列に座っていたセイラ・マスやミライも思わず吹き出した。

 

「でな、今思えばさすが 天才テム・レイ の息子ってとこもあってよ。

15歳の頃には――聞いて驚け――市販のハロを改造して手足をつけたんだぜ?」

 

ざわざわ……と小さな驚きの声が広がる。

 

「それだけじゃねえ。さらに脳波測って健康も診てくれるハロにしてやがった!

……で、そいつに『一家に一台!アムロ製ハロ!』とか言って売り込もうとしてたんだよな、なぁ?」

 

カイがアムロの方を指さすと、アムロは顔を赤らめつつ苦笑していた。

 

ここで待ってましたとばかりにハヤトが叫ぶ。

 

「連邦のトップエースをそんなに酷使できるわけないでしょ! それ今やったら一大スキャンダルだよ!」

 

会場がドッと湧いた。

続いてリュウが腕を組んで低くうなった。

 

「だいたいそんなハロが正式採用されてたら、今頃ジャブローの連中はみんな『健康チェックはハロ頼り』になってだらけきってんぞ。……いや、それはちょっと便利か?」

 

「便利とか言わないでくださいよリュウさん!」

 

ハヤトがすかさず突っ込んで、また会場から笑いが起きた。

 

壇上のカイは得意げにマイクを握り直した。

 

「ま、そんな根暗な機械オタク坊やが――いまやここで堂々と奥さん迎えてんだぜ?

なぁ、人生ってわからねぇもんだろ?」

 

そう言ってニヤリとアムロに視線を送った。

会場は大きな拍手と笑いに包まれた。

 

壇上を降りるカイの背中に向けて――アムロは苦笑しつつも、目にほんのわずかに涙を滲ませていた。

 

(……こういう時に、昔の俺のことも……覚えててくれるんだな、お前たちは。)

 

 

 

そんな光景を見守るテム・レイは――涙をこらえきれていなかった。

ハンカチで目頭を押さえながら、ひたすら息子の門出を見つめている。

 

「……うっ……アムロ……。」

 

その肩をそっと支える手があった。アルレットだ。

 

「テム博士、まだ始まったばかりですよ。……これからですよ、おふたりは。」

 

その言葉に、テム・レイはかすかに頷いた。

 

「……そうだな……そうだな……。」

 

 

一方、その様子を遠目に見ていたフォウは、思わず隣のカミーユの方を見ていた。

シイコとアムロの姿に、胸の奥に淡い憧れが芽生えていたのだ。

 

(……いつか私も……カミーユと……。)

 

そう思いながらちらりと視線を送ると、カミーユは顔を真っ赤にして小さく呟いた。

 

「……そうだね。」

 

それ以上、互いに言葉を交わすことはなかったが――二人の間に、静かな想いが確かに通じていた。

 

 

食事の時間に入り、場は和やかに盛り上がっていた。

ヤザンは静かにチキンを頬張っていた。

その姿にアルレットが近寄る。

 

「幸せそうなふたりですね。……あんな結婚、私もできたらって思っちゃいます。ヤザンさんはどうなんです?弟子のリタは、かっこいい彼氏がいるみたいですけど。」

 

そう言って、こっそりヨナの方を視線で示す。

 

ヤザンはにやりともせず、淡々と答えた。

 

「俺が……いい旦那になれるとでも?俺は死ぬまで戦場さ。」

 

アルレットはじとーっとヤザンを見つめた。

(……これ落とすなら既成事実しかないんじゃない?いや、無理だ。酒に酔わせたって、私が5人どころか10人いても薙ぎ倒されるわよ。)

 

そんな内心の声を押し殺しつつ、彼女は静かにグラスを傾けた。

 

 

一方、ゼロはドゥーと談笑していた。

ドゥーがぽつりと漏らす。

 

「……あんなふうになれたら良いよね。」

 

ゼロはその言葉に小さく首を傾げた。

 

「……あんなふう?」

 

ドゥーは少しはにかみながら続ける。

 

「愛する人と、あんな風に堂々と皆の前で一緒に笑える関係って……すごく素敵だと思った。」

 

ゼロは一瞬考え、それから柔らかく笑った。

 

「……それなら俺も目指してみるかな。お前もな、ドゥー。」

 

「うん、頑張る。」

 

二人はそのままグラスを合わせた。

乾いた音が、温かな空気の中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

披露宴のざわめきの中、ひときわ目立たぬ一角。

ゴップとブレックス、連邦の古参将官ふたりは並んでグラスを傾けていた。

 

「……二人の結婚は、本当にめでたいものですな。」

 

ブレックスが目を細めて言った。

視線は穏やかに壇上の新郎新婦に向けられている。

 

「そうだな。」

ゴップも軽くうなずく――が、次の瞬間、ふっと視線を周囲に流したブレックスの眉がわずかに寄った。

 

「……しかし。」

 

「ん?」

グラスを傾けたまま、ゴップが片眉を上げる。

 

「……この式、連邦の各分野の主力が集まりすぎていますな。」

ブレックスの低い声には、経験ゆえの警戒心が滲んでいた。

「軍部はもちろん、政務官僚、科学技術局の主要面々まで……。ここにテロでも仕掛けられたらと思うと……ぞっとします。」

 

ゴップはわずかに笑みを浮かべた。

 

「問題ない。」

静かに一言。

「警備は――不死身の第四小隊 だ。」

 

その名にブレックスの目がわずかに見開かれる。

 

「……それはまた、贅沢な警備を。」

 

「ふっ。」

ゴップの口元がわずかに緩んだ。

「隊長のバニング大尉は、アムロたちに恩を感じていたからな。こういう時は頼みやすいのだ。」

 

「なるほど。」

ブレックスはグラスを掲げた。

「それなら安心ですな。」

 

その頃、会場の外――ジャブロー地下の警備セクターでは、不死身の第四小隊のネモが警戒態勢に入っていた。

 

コックピット内、モンシアは端末に表示されるセンサー状況を見つめつつ、ぶつぶつと呟く。

 

「……ったく、なんで俺様がこんな警備任務なんぞ……。」

 

ぼやきながらも、視線は真剣そのもの。センサーの感度調整まで細かく確認しているあたり、口と本心は別のようだ。

 

通信回線からバニングの声が飛ぶ。

 

《文句言うな、モンシア。……お前、アムロ達が模擬戦で付き合ってくれた時、嫉妬で無茶な攻め方してただろうが。その恩返しぐらいはしてもバチは当たらん。》

 

「チッ……隊長、そういうの記憶力良すぎなんだよ……。」

 

ベイトが苦笑しつつ同調した。

 

「……ですね。模擬戦で手加減してもらった側ですから、こうして恩返しできる機会はありがたいですよ。」

 

アデルが穏やかに言葉を継ぐ。

 

「……確かに。俺達が普段、アムロさんやヤザン教官と正面から張れるわけでもないですし。警備くらいはしっかりやりましょう。」

 

バニングが短く《その意気だ。万一、誰かが馬鹿な真似をするなら……俺たちで叩き潰すだけだ。》

 

第四小隊のネモ4機は静かに周囲を包囲しながら、鋭敏なセンサーで外部からの不穏な兆候を探っていた。

 

今夜――この連邦の未来が詰まった会場を、絶対に守り抜くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

披露宴も中盤を迎え、賑やかな祝辞と笑い声が飛び交っていた。

そんな中、フラウ・ボウは一人、グラスを手にしながら新郎新婦の姿をそっと見つめていた。

 

――やっぱり、お似合いだなぁ……。

 

白のドレスに身を包み、父と歩いたヴァージンロードを凛とした顔で進んだシイコ。

それを誰よりも優しい目で迎えたアムロの姿が、フラウの胸に温かく残っている。

 

ほんの少しだけ、胸の奥に痛みが走った。

だが、それはもう懐かしい痛みだ。

昔、確かにアムロに恋をしていた。

でも――今のアムロの隣にいるべき人は、自分じゃない。

 

むしろ、初恋を諦めて良かった、とさえ思えた。

今のアムロは、昔のままじゃない。

そして隣にいるシイコさんは、そんなアムロを本当に支えていける人だと、見ていて分かる。

 

ふっと微笑み、意を決して新郎新婦のテーブルへ向かった。

 

「アムロ、おめでとう。」

 

少しだけ潤んだ目で、でも凛とした声でそう伝える。

 

アムロは穏やかに微笑み返す。

 

「ありがとう、フラウ。」

 

フラウはそのまま隣のシイコに視線を向け、ほんの少しだけお茶目な調子で言った。

 

「シイコさん、今はアムロはすっかりしっかり者になってると思いますけどね。……しばらくしたら昔の本性が出て、ちょっとだらけるかもしれませんから――その時は、しばいてあげちゃっていいと思いますよ。」

 

シイコは思わず吹き出した。

だが、その瞬間――フラウの言葉の裏にあるものを感じ取った。

(……かつてアムロに想いを寄せてたんだな。それでも、こうして区切りをつけて、祝福してくれてるんだ……。)

 

シイコの胸にじんわりと暖かさが広がった。

自然と微笑んで、そっと手を差し出す。

 

「ありがとう、フラウさん。……良ければ、連絡先を交換しましょ。なんでも力になるわ。貴女のそういう心の強さ、すごく素敵だと思うから。」

 

一瞬きょとんとした後、フラウは柔らかく頷いた。

 

「うん。私でよければ。……仲良くしてね、シイコさん。」

 

ふたりは自然と笑い合いながら、グラスを軽く合わせた。

そのさりげない音が、これから先の新しい関係の始まりを告げているようだった。

 

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