ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ジャブローの特設式場は、柔らかな光に包まれていた。
戦争の爪痕がなお残る世界にあって、今日は確かに「祝福」の日だった。
正面のバージンロードに、静かに姿を見せたのは――シイコ・ムラサメと、彼女の父・ムラサメ博士。
ぎこちなさはあった。博士の顔はいつになく強ばっていたし、シイコも最初は少し俯いていた。
それでも歩を進めるうちに――父と娘の表情は、次第に柔らかさを帯びていった。
そんなふたりの姿を、アムロ・レイはまっすぐに迎えていた。
視線に揺らぎはなかった。
シイコがバージンロードを歩むその姿を――アムロは、心から嬉しそうに見つめていた。
(――これでよかったんだ。)
そんな静かな想いが、彼の胸に確かにあった。
*
式の途中、スピーチの時間になり、カイ・シデンが壇上に呼ばれた。
マイクの前に立ったカイは、ニヤリと一度だけ口角を上げてから語り出した。
「いや〜、まさかアムロがね。こんなでけぇ舞台で主役張るとは、サイド7の頃は思わなかったぜ。」
既に場内の一部では笑いが漏れる。
「それでさぁ。俺ら、若かったんだ。アムロもハヤトも俺も。何をトチ狂ったか……。連邦軍の基地に、重機で突っ込んだことがあったんだよなぁ。」
「……!」
ざわりと場内が揺れた。
一般のゲストや、低階級の兵士たちは爆笑する。
だが――前方席の高階級軍人たちの中には、ピクリ、と頬を引きつらせる者も少なくなかった。
(ガンダム開発絡みのサイド7事情は……公にされてない。だが今更取り繕う場でもない、か……)
そんな思惑が、彼らの表情に滲んでいた。
カイはその空気すら面白がっていたのか、さらに軽妙に続けた。
「俺は今でも言うけどな、あの時があったから今がある!だろ?な、アムロ!」
カイが目配せを送る。
アムロは苦笑しつつ、そっと頷いた。
壇上のカイはひとしきり「重機突入事件」で会場を湧かせたあと、ニヤリとさらに話題を変えた。
「でな、みんな。知ってるか?今のアムロはなぁ――ま、そりゃあ 連邦トップエース さ。
でも昔のアムロは、想像できねぇくらい根暗だったんだぜ?」
会場がザワ……と静かになる。
新たなネタの匂いに、皆が耳を傾けた。
「飯はな?お隣さんが運ばなきゃ食わない。放っときゃ一日中部屋に引きこもってんだ。
ハマった機械には徹夜?当たり前だ。朝になっても『あと5分……』つって半日そのままってな。」
前列に座っていたセイラ・マスやミライも思わず吹き出した。
「でな、今思えばさすが 天才テム・レイ の息子ってとこもあってよ。
15歳の頃には――聞いて驚け――市販のハロを改造して手足をつけたんだぜ?」
ざわざわ……と小さな驚きの声が広がる。
「それだけじゃねえ。さらに脳波測って健康も診てくれるハロにしてやがった!
……で、そいつに『一家に一台!アムロ製ハロ!』とか言って売り込もうとしてたんだよな、なぁ?」
カイがアムロの方を指さすと、アムロは顔を赤らめつつ苦笑していた。
ここで待ってましたとばかりにハヤトが叫ぶ。
「連邦のトップエースをそんなに酷使できるわけないでしょ! それ今やったら一大スキャンダルだよ!」
会場がドッと湧いた。
続いてリュウが腕を組んで低くうなった。
「だいたいそんなハロが正式採用されてたら、今頃ジャブローの連中はみんな『健康チェックはハロ頼り』になってだらけきってんぞ。……いや、それはちょっと便利か?」
「便利とか言わないでくださいよリュウさん!」
ハヤトがすかさず突っ込んで、また会場から笑いが起きた。
壇上のカイは得意げにマイクを握り直した。
「ま、そんな根暗な機械オタク坊やが――いまやここで堂々と奥さん迎えてんだぜ?
なぁ、人生ってわからねぇもんだろ?」
そう言ってニヤリとアムロに視線を送った。
会場は大きな拍手と笑いに包まれた。
壇上を降りるカイの背中に向けて――アムロは苦笑しつつも、目にほんのわずかに涙を滲ませていた。
(……こういう時に、昔の俺のことも……覚えててくれるんだな、お前たちは。)
*
そんな光景を見守るテム・レイは――涙をこらえきれていなかった。
ハンカチで目頭を押さえながら、ひたすら息子の門出を見つめている。
「……うっ……アムロ……。」
その肩をそっと支える手があった。アルレットだ。
「テム博士、まだ始まったばかりですよ。……これからですよ、おふたりは。」
その言葉に、テム・レイはかすかに頷いた。
「……そうだな……そうだな……。」
*
一方、その様子を遠目に見ていたフォウは、思わず隣のカミーユの方を見ていた。
シイコとアムロの姿に、胸の奥に淡い憧れが芽生えていたのだ。
(……いつか私も……カミーユと……。)
そう思いながらちらりと視線を送ると、カミーユは顔を真っ赤にして小さく呟いた。
「……そうだね。」
それ以上、互いに言葉を交わすことはなかったが――二人の間に、静かな想いが確かに通じていた。
*
食事の時間に入り、場は和やかに盛り上がっていた。
ヤザンは静かにチキンを頬張っていた。
その姿にアルレットが近寄る。
「幸せそうなふたりですね。……あんな結婚、私もできたらって思っちゃいます。ヤザンさんはどうなんです?弟子のリタは、かっこいい彼氏がいるみたいですけど。」
そう言って、こっそりヨナの方を視線で示す。
ヤザンはにやりともせず、淡々と答えた。
「俺が……いい旦那になれるとでも?俺は死ぬまで戦場さ。」
アルレットはじとーっとヤザンを見つめた。
(……これ落とすなら既成事実しかないんじゃない?いや、無理だ。酒に酔わせたって、私が5人どころか10人いても薙ぎ倒されるわよ。)
そんな内心の声を押し殺しつつ、彼女は静かにグラスを傾けた。
*
一方、ゼロはドゥーと談笑していた。
ドゥーがぽつりと漏らす。
「……あんなふうになれたら良いよね。」
ゼロはその言葉に小さく首を傾げた。
「……あんなふう?」
ドゥーは少しはにかみながら続ける。
「愛する人と、あんな風に堂々と皆の前で一緒に笑える関係って……すごく素敵だと思った。」
ゼロは一瞬考え、それから柔らかく笑った。
「……それなら俺も目指してみるかな。お前もな、ドゥー。」
「うん、頑張る。」
二人はそのままグラスを合わせた。
乾いた音が、温かな空気の中に響いた。
披露宴のざわめきの中、ひときわ目立たぬ一角。
ゴップとブレックス、連邦の古参将官ふたりは並んでグラスを傾けていた。
「……二人の結婚は、本当にめでたいものですな。」
ブレックスが目を細めて言った。
視線は穏やかに壇上の新郎新婦に向けられている。
「そうだな。」
ゴップも軽くうなずく――が、次の瞬間、ふっと視線を周囲に流したブレックスの眉がわずかに寄った。
「……しかし。」
「ん?」
グラスを傾けたまま、ゴップが片眉を上げる。
「……この式、連邦の各分野の主力が集まりすぎていますな。」
ブレックスの低い声には、経験ゆえの警戒心が滲んでいた。
「軍部はもちろん、政務官僚、科学技術局の主要面々まで……。ここにテロでも仕掛けられたらと思うと……ぞっとします。」
ゴップはわずかに笑みを浮かべた。
「問題ない。」
静かに一言。
「警備は――不死身の第四小隊 だ。」
その名にブレックスの目がわずかに見開かれる。
「……それはまた、贅沢な警備を。」
「ふっ。」
ゴップの口元がわずかに緩んだ。
「隊長のバニング大尉は、アムロたちに恩を感じていたからな。こういう時は頼みやすいのだ。」
「なるほど。」
ブレックスはグラスを掲げた。
「それなら安心ですな。」
その頃、会場の外――ジャブロー地下の警備セクターでは、不死身の第四小隊のネモが警戒態勢に入っていた。
コックピット内、モンシアは端末に表示されるセンサー状況を見つめつつ、ぶつぶつと呟く。
「……ったく、なんで俺様がこんな警備任務なんぞ……。」
ぼやきながらも、視線は真剣そのもの。センサーの感度調整まで細かく確認しているあたり、口と本心は別のようだ。
通信回線からバニングの声が飛ぶ。
《文句言うな、モンシア。……お前、アムロ達が模擬戦で付き合ってくれた時、嫉妬で無茶な攻め方してただろうが。その恩返しぐらいはしてもバチは当たらん。》
「チッ……隊長、そういうの記憶力良すぎなんだよ……。」
ベイトが苦笑しつつ同調した。
「……ですね。模擬戦で手加減してもらった側ですから、こうして恩返しできる機会はありがたいですよ。」
アデルが穏やかに言葉を継ぐ。
「……確かに。俺達が普段、アムロさんやヤザン教官と正面から張れるわけでもないですし。警備くらいはしっかりやりましょう。」
バニングが短く《その意気だ。万一、誰かが馬鹿な真似をするなら……俺たちで叩き潰すだけだ。》
第四小隊のネモ4機は静かに周囲を包囲しながら、鋭敏なセンサーで外部からの不穏な兆候を探っていた。
今夜――この連邦の未来が詰まった会場を、絶対に守り抜くために。
披露宴も中盤を迎え、賑やかな祝辞と笑い声が飛び交っていた。
そんな中、フラウ・ボウは一人、グラスを手にしながら新郎新婦の姿をそっと見つめていた。
――やっぱり、お似合いだなぁ……。
白のドレスに身を包み、父と歩いたヴァージンロードを凛とした顔で進んだシイコ。
それを誰よりも優しい目で迎えたアムロの姿が、フラウの胸に温かく残っている。
ほんの少しだけ、胸の奥に痛みが走った。
だが、それはもう懐かしい痛みだ。
昔、確かにアムロに恋をしていた。
でも――今のアムロの隣にいるべき人は、自分じゃない。
むしろ、初恋を諦めて良かった、とさえ思えた。
今のアムロは、昔のままじゃない。
そして隣にいるシイコさんは、そんなアムロを本当に支えていける人だと、見ていて分かる。
ふっと微笑み、意を決して新郎新婦のテーブルへ向かった。
「アムロ、おめでとう。」
少しだけ潤んだ目で、でも凛とした声でそう伝える。
アムロは穏やかに微笑み返す。
「ありがとう、フラウ。」
フラウはそのまま隣のシイコに視線を向け、ほんの少しだけお茶目な調子で言った。
「シイコさん、今はアムロはすっかりしっかり者になってると思いますけどね。……しばらくしたら昔の本性が出て、ちょっとだらけるかもしれませんから――その時は、しばいてあげちゃっていいと思いますよ。」
シイコは思わず吹き出した。
だが、その瞬間――フラウの言葉の裏にあるものを感じ取った。
(……かつてアムロに想いを寄せてたんだな。それでも、こうして区切りをつけて、祝福してくれてるんだ……。)
シイコの胸にじんわりと暖かさが広がった。
自然と微笑んで、そっと手を差し出す。
「ありがとう、フラウさん。……良ければ、連絡先を交換しましょ。なんでも力になるわ。貴女のそういう心の強さ、すごく素敵だと思うから。」
一瞬きょとんとした後、フラウは柔らかく頷いた。
「うん。私でよければ。……仲良くしてね、シイコさん。」
ふたりは自然と笑い合いながら、グラスを軽く合わせた。
そのさりげない音が、これから先の新しい関係の始まりを告げているようだった。