ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ムラサメ研究所技術研究区画・深部。
人の出入りが厳しく制限されたその一角のラボでは、静かに熱を帯びた作業が進んでいた。
ムラサメ博士の眼差しは、コアユニットを組み込んだ特殊な金属フレームのサンプルに注がれている。
その隣では、リタ・ベルナルが透明なホログラフパネルに映る未来の技術資料を慎重に確認していた。
そしてもう一人、アルレット・アルマージュが隣接するコンソールに向かい、サイコフレームのファンネルとの同調性試験データをチェックしていた。
彼女はテム・レイの研究室から呼ばれた特別協力者として、今やこのチームに欠かせない存在となっていた。
「……順調ですね、博士。」
リタがそっと声をかけた。
「おかげさまでな。君の……未来の知識がなければ、ここまで詰められはしなかっただろう。」
ムラサメ博士はかすかに微笑む。
だがその眼差しはすぐにまた鋭さを取り戻した。
「ジオンの動きがきな臭くなっている。」
低い声で呟く。
リタは頷いた。
「はい。私も感じます……『オメガ・サイコミュ』、正式に完成したそうです。 アルファ型サイコミュの後継。ジオンがあれを投入するのは時間の問題でしょう。」
「……やはり、か。」
ムラサメ博士は苦い表情を浮かべた。
「さらに悪いことに、ゼクノヴァの情報も入っている。」
リタが言葉を継ぐ。
「事故ではなく……兵器として、意図的に投入してくる可能性が高まっていると。」
しばし沈黙が流れる。
やがて博士は大きく息を吐いた。
「……そうなれば、従来のバイオセンサーでは、おそらく対抗は難しい。
人の意思と機械を繋ぐだけでは足りない。“場”そのものを動かす力が必要になる。」
その時、黙ってデータを確認していたアルレットが口を開いた。
「……サイコフレームが完成すれば、それが可能になります。
特にファンネルやビット系武装の制御は段違いになる。現状、ここまで滑らかに人の意志と武器が繋がるシステムは他に存在しません。」
アルレットは手元のデータをリタと博士に向けて表示させる。
微弱な精神波を機体全体に拡張する新たな同調モデルだった。
「極小の量をコクピット周辺に配置するだけでも、ビット系統武器のパフォーマンスの増大、機体の反応速度の圧倒的向上。」
アルレットの声は静かだったが確信に満ちていた。
「だが……さらに進めたものがある。」
ムラサメ博士は視線をリタとアルレットに向けた。
「フル・サイコフレーム。 モビルスーツ全体をサイコフレーム構造にする。
理論上は……戦場そのものを意志の場に変える。
敵意と破壊の波動にすら抗うことができる。
いずれは機体をパーツ単位まで分解することすら可能だ。
それは……神に等しい力と呼ばれてもおかしくない。」
リタは静かに目を閉じた。自分が生贄の器になるはずだったシステム。
だが、これを使うのがアムロ・レイなら――。
「これが……もし間に合えば、ゼクノヴァに対する唯一のカウンターになる。」
ムラサメ博士は言い切った。
「絶対に間に合わせましょう。」
リタの声は凛としていた。
「未来を変えるために、私はここにいるんですから。」
アルレットも静かに頷いた。
「私も。ゼクノヴァの“事故”は知っています。……ジオンがあれを兵器として使うのを許すわけにはいかない。」
「……頼もしいな。」
博士はほっと微笑むと、再びモニターに向き直った。
「……さあ、急ごう。時間が足りない。
だが……君たちとなら、やれる。」
その言葉にリタも、アルレットも、力強く頷いた。
サイコフレームの仮組みデータが、次々と新たな光を灯していく――
未来を賭けた最後の技術の希望が、今まさに形になろうとしていた。
ジャブロー特別実験区画。
白い光が閃き、宙を舞う6枚のフィン・ファンネルが一斉に軌道を描いた。
そこから放たれた光線は、模擬標的を正確に貫き、瞬く間に演習空間を染めていく。
コクピットの中、アムロは汗を拭いながら微細なスロットル操作と念動のチューニングを繰り返していた。
全てのファンネルが自分の思考と一体化し、“もう1つの手足”のように動く感覚が確かにあった。
やがてテストは終了のアラートを鳴らし、ファンネルは静かに母機に戻る。
モニターに映るテム・レイ博士の顔はどこか誇らしげだった。
「どうだ?アムロ。お前の意見を聞いて特注で作ったファンネルの使い心地は?」
アムロは息を整え、モニターに微笑を向けた。
「……すごいな。流石は親父だ。操作系も、追従性も完璧だ。」
「当然だ。」
テム・レイは軽く顎を引いて応える。その声にほんの少しだけ、父親としての嬉しさが滲んでいた。
アムロはファンネルを静かに見上げながら言葉を続けた。
「だが……これを使うなら、いよいよ次のガンダムの完成が待ち遠しいな。アレックスも親父のアップデートで十分戦えてはいるけど……もう"次”を求めてしまう。」
「……時間がかかってすまんな。」
一瞬、父の顔に技術者としての苦みが走った。
だがすぐにその表情は決意に変わる。
「だが、それももうすぐだ。ムラサメ博士がとうとうリタの言っていた“未来”に作られたサイコミュの最終系、サイコフレームを近々完成させる。
それを搭載する。しかも今回は全てのフレームをサイコフレームとする。」
アムロの眉がわずかに上がる。
それが何を意味するかは彼が誰より理解していた。
テム・レイは言葉を重ねた。
「全てのサイコ・マシンを、過去に置き去りにする機体になる予定だ。
お前が思い、意志を向けた先に、この機体はどこまでもついてきてくれる。
……そんな相棒を用意してやるよ。」
アムロは拳を握り締めた。
胸の内に、新たな力への渇望と使命感が静かに灯るのを感じていた。
「……親父、その時が来たら……俺が、この手で未来を切り拓いてみせるよ。」
力強い声が、研究区画に静かに響いた。